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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
森羅の國編
71/98

71、アンニュイ×エキゾチック

 ワルサーは信じがたい気持ちで黒マジョさんの黒い毛を見る。

 黒マジョさんはあらゆる魔法を無効化にする。

 ワルサーの魔法までもが無効化された。

 それはこの黒マジョさんが生まれ持った体質なのかも知れない。

 この体質のお陰で黒マジョさんはこの魔法に満ち溢れた世界でも『全ての魔法を弾く』事で朽ちる事無く生き残る事が出来たのではないだろうか。


「…おい、魔法の使い方を教えてやる。自分自身に魔法を使う事が出来るか試せ」


 ワカッタ


 ワルサーは魔法陣を出現させて見せる。

 ワルサーが出した黄金の繊細の透かし彫りの魔法陣はウーターニャが出した物とは比較にならない程大きい。


「この大量の髪を何とかしろ。まずは魔法陣の出現を願え。魔法の使用をイサナに禁じられているからこれ以上の手本は見せてやる事は出来ない。魔法陣が出たら髪を短く整える事を願って指を下段、中段、上段の順で鳴らすんだ。魔力を世界に返還するイメージを持て」


 戸惑う様子が見られたが、黒マジョさんは魔法陣を出そうとする。

 暫しの沈黙の後、空間が歪むように捻れたかと思うと辺り一帯に広がる黒い魔法陣が出現する。


「黒!?」


 見たことのない魔法陣の色にワルサーは驚愕する。

 黒い魔法陣は飢えた獣のように地表を走り、ワルサーが出した黄金の魔法陣を捕らえると飲み込んでしまった。

 ワルサーは急ぎ魔法の獲得の中止を指示しようとしたが、魔法の獲得に向けて染み出る黒マジョさんの魔力が膨大でワルサーでさえ身動きが取れない。

 黒マジョさんは指を鳴らそうとしたらしいが音は鳴らず、3度指を擦る小さな音だけが聴こえた。

 更にもう1度指を鳴らそうとしたらしい音が聴こえると黒い毛が収縮し始める。

 ()ろう事か黒い魔法陣は黒マジョさんの魔力ではなく、他者であるワルサーの魔力を吸い上げ始めた。

 更に悪い事にワルサーが常時発動させている魔法が解けていく。

 錯視魔法が解けて右半身は元の持ち主(イサナ)の姿に戻り、ワルサーの姿に合わせて再現させていた衣服もイサナのスカートへと変わり、整髪魔法が解けて短髪に見せていた左半身の髪は膝下迄に伸びる。


「な…!?」


 黒髪が短く整えられていく事で黒マジョさんの髪が絡め取っていた巨木や巨石が放され、落下して土煙と轟音が辺りを包む。

 その中でワルサーはイサナの体と自分の体を繋ぐ魔法が解かれるのだけは必死に阻止する。

 左半身に常時纏っている防護魔法が外れ、黒マジョさんの髪から解き放たれた木々が土(つぶて)を弾いて猿面で覆われていないワルサーの下頬を傷付けた。


「ふっ…ざけるな…!」


 黒マジョさんの魔法獲得の為の魔力の吸い上げは停止し、(やが)て澄んできた視界の中に現れ出たのはワルサーの推測した通り『人間』の姿であった。

 すらりと背の高い一糸も纏わぬ男性。

 黒い髪はワルサーと同じ(スタイル)

 ワルサーは頬を伝う血を拭い、黒マジョさんを睨み付ける。


巫山戯(ふざけ)るな。俺は髪を短く整えろと言ったんだ。何故俺の魔力を奪ってまで態々(わざわざ)模倣魔法を獲得し、男の姿をとった。そんな姿でイサナの前に現れる事は許さん。女になれ」


 オンナシッテル デモミタコトナイ


「…手本が必要なのか」


 はぁとワルサーは溜め息を吐き、自分が羽織っていた(はず)のローブを脱ごうとして女性(イサナ)の体になってしまった右半身に気が付いた。

 魔法の使用を禁じられているとは言え、つい先程引き剥がされたばかりの魔法はまだワルサーの付近を漂い名残を留めている。

 であればこの魔法の名残を掻き集めて再度己の身に纏わせてもペナルティーは無いだろうと判断し、ワルサーは錯視魔法を掛け直す。

 左右共に男の体になったワルサーは改めてローブを脱ぎ、くるくると丸めるように畳むと「これを着ていろ」と黒マジョさんに投げ渡した。

 ローブは空気抵抗を受け宙で広がっていき、黒マジョさんの顔面に柔らかくぶつかって地に落ちた。

 黒マジョさんはで不思議そうにワルサーの顔と地面に落ちたローブを交互に見て、恐る恐る伸びきった爪の先でローブを摘み上げると、ローブから水蒸気のような煙が立ち上った。

 錯視魔法で()るように見せていたローブが消されてしまったのだ。


「髪の毛先だけでは無く、爪先にも魔法を消す力が有るのか…。仕方がない。魔法で作られていないイサナの服を与えてやるから隠すべき物を隠せ」


 ワルサーは衣服をイサナの服に戻して、レーススカートの上に巻き付けてあった巻きスカートを剥ぎ取って改めて黒マジョさんへ投げ渡す。

 そう言われても扱いが分からないらしく、黒マジョさんは巻きスカートを少し持ち上げて首を傾げる。


「…何だ?服の概念も無いのか…世話が焼ける」


 ワルサーはちらりと黒マジョさんの人差し指に浮かぶ年齢を盗み見てから巻きスカートを取り上げると黒マジョさんに着せてやる。

 けれどワルサーの目的は衣服を纏わせ裸体を隠す事なので黒マジョさんの胸から臀部(でんぶ)にかけて両腕も巻き込んで簀巻(すま)きのようにスカートを巻き付けてしまった為、窮屈なのか、黒マジョさんは僅かに眉間に皺を寄せる。


()のベルトもやる。裸は見せるものじゃない」


 どの口がそれを言うんだとツッコミを入れる人間は残念ながらこの場に居ない。

 下半身が見えぬように改めて巻きスカートを前身頃できつく重ね合わせると、ワルサーは腰骨の付近で黒マジョさんの腕ごとぎりぎりと強くベルト絞めてしまう。

 そしてワルサーは自分より背が高い黒マジョさんの頬を片手で掴んで顔を繁々と見詰める。

 銀と見間違う薄い青を含んだ銀灰(ぎんかい)色の美しい肌。

 意思の強そうなやや太めの眉。

 濃くて長い睫毛。

 僅かに垂れた魅惑的な瞳の形。

 僅かにだけ鼻筋が膨らんだ妖艶な鷲鼻。

 淡い朱を帯びた唇。

 それが筋肉質な肉体の上に付いている。


「お前…絶対に女になれよ」


 黒マジョさんは素直にこくりと頷く。

 ワルサーは空を仰ぎ見る。


「ちょうど良い見本がやって来たぞ」


 轟音を立てて登場したのはウーターニャ。

 続いてマリルド、いすず、ナスポクが舞い降りる。


「ちょっとウーターニャ!?今めっちゃ木を倒しまくったよね!?自然を破壊したら出國の星が貰えんくなるとよ!?」

「ウーターニャは天使なんだから平気だろ?出國の星なんか無くても國境は越えれるさ」

「あ、そっか」


 登場するなり騒がしいいすずとマリルドの2人。

 ウーターニャは自分の身を心配してくれたいすずの声は聴こえない様子で翼を消すと黒マジョさんとワルサーに歩み寄る。


「何…この美しい2人は…」


 黒髪の美形男性の顔を片手で掴むワルサーを見て、ウーターニャは神に感謝を捧げるように両の手を組み合わせて歓喜の声を震わせる。


「うははは。ウーターニャさすがだな。ワタ達の事は声を聴くまで分からなかったってのに、ワルサーだったら猿面着けていても分かるもんなんだな」

「愛やねぇ」

「…は?ワルサー!?あれはイサナじゃねぇのかよ!?」


 ナスポクが信じられないとワルサーを指を差すのも無理もない。

 ワルサーと呼ばれた人物は17日前に別れた時のイサナとは異なり、真珠色の髪色をしている。

 けれど目の前の人物はイサナと同じ衣服を(まと)、マリルド達と同じ土産物の奇っ怪な青い猿面だって着けている。

 何より白衣の美少女天使が探していたのはイサナだった筈だ。

 混乱するナスポクだったが、誰も彼を構ってはくれない。


「見ろ、これが女だ。手本にしろ」


 ワルサーは黒マジョさんの頬を掴んでウーターニャへ顔を向けさせる。

 黒マジョさんはじっとウーターニャを観察し、その特徴を覚える。


「え、何なのかしら…?」


 ワルサーとはタイプが異なるエキゾチックな美形男子に見詰められ、ウーターニャは不覚にも頬を染める。


「髪型もウーターニャを真似ろ。指を鳴らし、先程獲得した模倣魔法を使え」


 黒マジョさんはこくりと頷くと、音を鳴らせぬながらも指を弾き、肉体を女性へ転換させる。

 短かった黒髪がウーターニャの髪の長さと同じ腰上の長さに迄伸びた。

 四肢は丸みを帯びてウエストは細く(くび)れ、腰が張る。

 ワルサーが黒マジョさんに巻き付けていたスカートは上部を留めてはいなかった為、胸元が(めく)れてしまい、乳房が覗き見えたものだからナスポクが喜ぶ。


「見、ん、なっつの」


 即座にマリルドが鉛の入った靴でナスポクの鳩尾(みぞおみ)に蹴りを入れナスポクの意識を飛ばす。

 回し蹴りをした勢いのままマリルドは黒マジョさんから背を向けると、いすずも慌ててそれに(なら)う。


「えと…ところでその人ってもしかしてだけれど…」


 顔を真っ赤にするいすずは気不味(きまず)いながらもワルサーに話し掛ける。


「…あぁ。此奴(こいつ)が黒マジョさんだ。お前と友達に成りたいらしいぞ」


 え!?といすずは振り返る。


「わっ!いすずダメ!」


 巻きスカートから(あふ)れ見えるたわわな胸元を木の枝で縫い止めて隠してやろうとした際に黒マジョさんの両腕もベルトで締め付けられている事に気付いたウーターニャが衣服を着せ直す為に黒マジョさんから巻きスカートを脱がせてしまっていた為、慌ててウーターニャが黒マジョさんの前に立ち、壁になってやる。


「あ、ごめん!」


 再び黒マジョさんから背を向けたいすずだったが、心の中は疑心暗鬼になっていた。

 このような美女が自分に興味を持つ筈がないし、なんらかの罠をワルサーが仕掛けてきているに違いない、そう思っていた。

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