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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
森羅の國編
69/98

69、火・水・雷・闇・地・時・無

 幻獣の内、神獣と呼ばれる程強い魔力を持つ獣は7種。


 火獣(かじゅう)水獣(すいじゅう)雷獣(らいじゅう)闇獣(あんじゅう)地獣(ちじゅう)時獣(じじゅう)無獣(ぶじゅう)


 これらの獣は世界の理を越え、人を害する事を許されているとさえ云われる。

 どうやら自然災害と同じ扱いになっているらしい。

 この内、地、時、無の神獣はその名は知られているが、姿は伝承されておらず謎に包まれており、存生(ぞんじょう)し得ているかどうかも不明。

 一方、火、水、雷の神獣は複製魔法で産み出したコピーが複数体存在する。

 神獣をコピーするには大量の魔力を捧げて強化した複製魔法が必要である為、今も尚、希少な存在に変わりないのだがこの3種のコピー体はペットとして飼育する人間も居り、一般民衆に向けて公開されてる場が設けられる事も有るため容貌は多くの人に認知されている。

 そして闇獣ことドラゴンであるが、ドラゴンはこの魔法に溢れた世界に数多く存在する。

 しかしそれらのドラゴンと闇獣は同じドラゴンであって全くの別の生き物だ。

 闇獣と違い、その他のドラゴンは全て『夢幻の國』で産み出された幻想である

 想像し、創造した人間が亡くなると同時に幻想はこの世界から消え失せる。

 しかし闇獣は幻想ではない。

 繁殖し、子孫を残す。

 その番に選ばれるのが稀人なのだ。



「うはははは!いすずと一緒に居たらいつか本物のドラゴンに会えるかもしれないとは思ってたけどマジか!黒マジョさんの正体がドラゴンだったらウケるわ」


 珍しいものと動物を好むマリルドはドラゴンに際会(さいかい)する可能性が生まれた事を喜ぶ。

 私はてるの助くんを呼び出し、取り出してもらった大槍を振るって風の絨毯を出す。

 私はその上にいすずをそっと寝かせてやる。


「いや、ウケないよ。もしも黒マジョさんが闇獣ならいすずが嫁に盗られちゃうかもしれないんだよ」

『仮に黒マジョさんが闇獣でなくともいずれ稀人は闇の獣に(めと)られる運命です。何を焦る必要があるのですか』

「今はダメ!私はまだいすずと遊んでいたいの!」

『なんと幼稚で馬鹿げた理由…』


 ワルサーが呆れるを通り越して感心しているが私は本気でそう思っている。

 私は森に向かい、指をびしりと突き付ける。


「ちょっと黒マジョさん!貴方がどなたか知りませんけどいすずは渡さないからね!いきなり奪うだなんてダメったらダメ!まずはお友達から始めなさい!私の眼鏡にすら(かな)いもしない内にいすずに手出ししようだなんて100万年早いわ!とはいえそっちにも譲れない理由があるんだろうし、そこんところちょっと話し合おう!」

「は?イサナ何言ってんの?」


 大声を出し過ぎた私は肩で息をすることになったのだが、やがて呼吸が落ち着くと私は我に返る。

 横目でマリルドを見ると唐突に怒りのスイッチを入れて黒マジョさんに喧嘩を売った私に引いている。

 気まずさで汗が流れ出る私の右肩をマリルドがぽんと叩く。


「焦んなよ。まだ闇獣と決まった訳じゃねーだろ?」


 そしてマリルドはいすずが眠る風の絨毯に飛び乗り、そのまま急上昇する。

 直角に飛び上がったせいで滑り落ちかけたいすずの首元と脚の間の両方にマリルドは足を差し入れ、いすずの落下を防止する。


「確認しよーぜ。なぁ、黒マジョさん!いすずが欲しければワタの前に姿を現せよ!!」

「え…マリルド!?」

『この場にいる2人が2人共が浅知恵とは悲惨ですね。2人して挑発してどうするのです』


 私とマリルドのどちらの挑発に乗ったのかは分からないけれど、1度姿を消していた黒い毛が森の中から飛び出してくる。


「ちっげーよ、本体出せよ!」


 キレるマリルドを余所に黒い毛は私に向かって一直線に突き進む。

 私は身を屈ませて、小石の浜の上に置いていた大槍を手にすると大槍を垂直に振るう。

 そして生まれた風の絨毯を盾にしようとしたのだが、黒い毛の束は僅かに勢いを削いだだけで難なく私の目前に辿り着いた。

 私は身を屈めて左半身、特に左の顔を両腕で庇い、右の身で黒い毛の攻撃を受け止めようとした。

 しかし左腕が思った通りに動かない。

 ワルサーが左腕の主導権を取り返し、左腕1本で大槍を構えようとしたのだ。

 しかし重たい大槍は私の右腕無くして振るうことなど出来るわけがない。

 捕らえられる覚悟を決める。

 しかし何も起こらない。

 思わず閉じてしまっていた瞳を右側だけ開けると目の前で黒い毛が(うごめ)き収縮する。


「…イ・イ・ヨ?」

『良いよ?何が良いのですか?』


 途切れ途切れに口にした私の言葉をワルサーが聞き返す。


「いや、私が言ったんじゃなくて…」


 私は左の顔を覆っていた腕を離して左の目にも()()を見せてやる。


『…これは…黒マジョさんの毛、ですよね…』


 黒い毛は次々に形を変え、文字を作る。


 イイヨ コッチニオイデ ハナシヲシヨウ


「おいでって言われた」

『行ってはいけません』

「マリルドは…見えないね。あの人どこまで高く飛び上がったの」

『知りませんよ。イサナも退避するべきです』


 黒い毛は更に文字を(かたど)る。


 トモダチニナロウ


「…友達になりたいの?」


 ウン


『イサナ!会話をしてはいけません!何が起きるか…!』


 黒い毛は私と大槍を捕らえる。

 私の頭から爪先まで全てを包み込み、森の中に引き寄せた。


『イサナの(うつ)け者』

「ふんまへん」


 毛で頬を締め付けられ、私は謝罪の言葉をきちんと口にすることが出来ない。


 その頃、上空を流れる冷たい空気に冷やされてようやく目を覚ましたいすずは叫んでいた。


「イッ、イサナー!!!」

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