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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
森羅の國編
67/98

67、合流

 マリルドが居る筈の地点付近に黒マジョさんが居る事は私はワルサーから知らされていたので動じないが、その情報をいすずには伝えていなかった為いすずが慌てふためく。


「えぇ!?マリルドの近くに黒マジョさんがおると!?」

「つうか捕まってた」

「捕まってた!?」

「もう逃げたから大丈夫だよ。いすずたちは今どこにいんの?」

「えぇ!?本当に大丈夫と!?」

「私達は元いた北の地点から真北に移動して今は海の上にいるよ」

「ふーん。ナノノとモウとついでにナスポクがどうなったか知ってる?」

「ナスポクは分からないや。モウもナノノもナスポクとは連絡を取ってないみたいでさ。ナノノは…」


 私達はナノノ、モウの現状を伝える。

 先にナノノの事を伝え、続けてモウの事を伝えている最中にマリルドの声と共に聴こえていたごうと唸る風の音が、水音に変わる。


「…ん?」


 私の疑問の声と同時にマリルドも同じ声を発した。


 マリルドは視界の中でコバエのように飛び回る小さな影が遥か彼方(かなた)の上空に()る風の絨毯である事に気付いたのだ。

 しかしその風の絨毯の飛び方はぎこちなく、旋回が下手くそだ。


「うはは!おっさん黒マジョさんにビビってこんな所にまで逃げて来てら。何あのダセぇ飛び方」

「…え?」

「逃げ足は速いんだな。ワタより先に北の海に着いてるとは悔しいな」

「北の海って…マリルド、それ多分私達だよ!」

「は?」


 ヘプタグラム城の隠し棚(シークレットシェルフ)にフリケルが持っていた物と同型の大槍を見付けた私達は風の絨毯を生み出して北の浜から約27海里、つまりは50㎞離れた海上に避難していたのだ。

 マリルドは私たちが乗る風の絨毯を見付けたのだろう。


「え、待って。私達は凄い沖の方に避難しとるとよね?何でマリルドから私達が見えとると?」

「何でって…そりゃ近くまで来てるからな」

「まさかだけど…マリルドって今、海の上を走ってないよね…?」

「なはははは!いくらなんてもそんなこと」


 笑って私の発言を否定するいすずに私は指を差し示して水平線の先を見るように促す。


「何あれ…爆煙…!?」

「たぶんあれ、マリルドが水を蹴って舞い上がらせている水しぶきじゃないかな…」

「あぁ。もうイサナ達からもワタの姿が見えるんだ」


 いや、マリルドの姿は確認出来ていない。

 凄まじい勢いで水面を蹴り付け、表面張力に負ける前に踏み切る事で後方に蹴り出されて舞い上がる海水飛沫は(さなが)らウォータージェット。

 力強い推進力を生む凄まじい海水の噴射だけは遠い沖に居る私達からも目視出来るのだ。

 信じられない気持ちで海水の噴出を見ているとやがてマリルドの姿か見えてくる。

 私達が乗る風の絨毯に向かって飛び上がったマリルドだったが風の絨毯はすいっとマリルドを(かわ)してしまう。

 風の絨毯に乗れなかったマリルドは着水するも体勢を直ぐ様整えて、勢いよく水面を駆け続けて文句を言う。


「うはははは!ちょっと何でじっとしてねぇんだよ!()けるなや!」

「あはははは!避けたんじゃないよ。空中停止(ホバリンク)の方法が分からないからこうやってグルグル飛び回るしかないんだよ。車の運転免許でも取っていたらもう少し上手に操縦できたのかもしれないけど私は免許を取りに行ってないし」


 フリケルが操縦していた様子を軽く観察していたので風の絨毯の操縦は体重移動で行うことは分かっていた。

 重心を変えて方向を定めるのだが、これが中々難しい。

 右に緩やかに旋回し続けたいのに油断すると途中でくるりと180度回転してしまい、進行方向が真逆になってしまったりするのだ。

 マリルドは突然進行方向を変える風の絨毯を後方から追いかけては追い越してしまうを繰り返している。


「なぁ、何で風の絨毯をイサナ達が使ってんの?」

「ふふふ」


 マリルドからの問いに私はてるの助くんを召喚する。

 そしててるの助くんに出して貰ったのは大槍。


「ババーン!何故か分からないけど、ヘプタグラム城の中にフリケルさんが使う大槍と同型の大槍がござんした」

「ヘプタグラム城には魔法に関するあらゆるものが納められているって本当やったとよ!すごくない!?」

「まぁ問題もそこそこあって、取扱い説明書がないから使い方がよく分からないんだよね。止まり方も消し方もまだわかんない」

「は?」


 ずっと空を旋回し続ける私達を見上げて追い掛けていたマリルドが呆れる。


「え、そうやったと!?嘘やろ!?」

「止まれなくったって、飛び降りればいいんだから大丈夫だよ。5、6m程度の高さからならいすずを担いでも問題なく着地できるよ。たぶん」

「はぁー!?たぶんー!?」


 私は高度を何とか下げてマリルドの近くで大槍を振るい、風の絨毯をもう1つ生み出す。

 接近し過ぎてしまったせいで危うく大槍がマリルドに当たるところだったが、マリルドは身を反らせそれを難なく(かわ)してみせる。

 何も言わずともマリルドは私の意向を汲み取り、生み出されたばかりの風の絨毯に飛び乗り私と平行して飛行する。


「え、マリルド風の絨毯の操縦めっちゃ上手い!わたあっちに乗りたい!」

「えー。いすずと一緒だとスピード出せねぇからヤダ。速すぎるだなんだっていすずは文句を言うだろ」

「ひどくない!?」

「あはははは!いすず諦めて。私はいすずと離れたくないしさ」

「え…どういう意味?」


 いすずは頬を赤く染めて照れる。

 私はそんないすずの頭を撫でる。


「いすずと一緒にいる限り黒マジョさんに眠らされる心配はないからね」

「どゆこと?」

「マリルド2手に別れよう!黒マジョさんはいすずを目指してやって来てるみたい。私はいすずを連れて黒マジョさんを引き付けておくからその間に黒マジョさんからいすずに捧げる魔法石を預かってくれる?」

「嘘やろ!?わたが狙われとると!?」

「いすずを目指してるってことはあれって動物なのか?誰かが魔法で作り出したモンスターじゃねぇんだな。うはは、あんなでけぇ動物って一体何なんだろなぁ」

「毛が生えてないんやったら怪獣とかモンスターの方が断然マシ!モジャモジャの毛は気持ち悪い!」


 いすずが恐怖を感じる要因は魔力を抱える体毛にある為、そんな事を言う。


「うはは、残念だったないすず。黒マジョさんは黒い毛の塊だよ」

「ぎゃー!嘘やろ!」

「この目で見たから間違いねぇよ。大丈夫だって。今は毛に大木が何本も絡まってしまってて歩くのすんげぇ遅いから。ワタがぱっと黒マジョさんから魔法石を預かって追い払ってやるよ」

「やだ、イケメン」

「それなんだけどさ、魔法石を預かるのはギリギリまで待ってくれないかな?黒マジョさんが住んでいた北海の孤島までいすずを餌に誘導して、黒マジョさんが島に上陸してからマリルドに魔法石を預かって貰いたいんだ」

「はぁー!?『餌』って酷くない!?イサナの鬼!」

「うそぉ。マリルドがイケメンで、私は鬼なの?」


 私は振り返っていすずにおどけて見せる。

 でもこれは冗談半分であり、本気半分の言葉だったりする。

 マリルドには悪いけど、私が男になったらマリルドとよりずっといい男になられると思うんだけどな。


『…イサナは男になるつもりはないはずでは?』


 ないよ。

 男になるつもりはないけど、男だったら楽に生きれたかもしれないなとは常に思ってるよ。

 ワルサーみたいな自分と同じ顔のイケメンの存在を知ってしまったから尚更ね。


『イサナは美しいですよ。ただ女性としての魅力を引き出すセンスが壊滅的なだけです』


 ワルサーの指摘に私は笑う。

 歯に衣着せないワルサーの言葉が心地いい。

 最初の頃の甘いだけの言い回しをするワルサーより、今の口の悪いワルサーの方がずっと魅力的に感じる。

 そう思うのはワルサーが自然体で居てくれるようになったからかもしれない。

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