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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
森羅の國編
66/98

66、吸収

 2度も眠らされていた事を知らされたフリケルは大槍を構え周囲を警戒する。


「近くにいるってどういうことだ」

「逆に何で気付かねーのか教えろよ。おっさんまだ寝てんのかよ」


 マリルドが濡れたまま髪を掻き上げ、Tシャツの裾を固く絞ると良く引き締まりくっきりと割れた腹筋が覗き見える。

 フリケルは周囲の気配を探るが何も感じない。

 しかし、みしみしと木が(きし)む音がマリルドの耳には聴こえていた。

 軋む木々は地の中で絡み合う根で粘り強く耐えていたが、やがて幹をへし折られ引摺り倒される。

 巨木が倒れた音はフリケルの耳にも届く。


「森を破壊してるのか!?」


 マリルドは小さく頷き肯定する。

 フリケルは大槍を振るって風の絨毯を生み出す。


「君は逃げろ!」

「はぁ!?逃げろっつわれても」

「皆に連絡し、この2日で何が起きたのか調べてくれ!黒マジョさんは吾が引き受ける!」

「えー、約束の魔力はどうなんだよー」

「君はこの状況でよくそんなに落ち着いていられるな。わかった、前金として半分やるよ」


 早くくれと差し出されたマリルドの手をフリケルはぱあん!と力一杯強く叩く。

 だと言うのにマリルドは動じずニヤリと笑んでいる。

 手が触れた瞬間にフリケルの髪は半分の長さになり縮れ髪を結んでいた紐が(ほど)け落ちる。

 マリルドの真っ直ぐな髪はフリケルの髪が短くなった分だけ長くなった。


「どーも。あ、そうだ。おっさん、あの毛に捕まっても(あらが)うなよ。眠らされるトリガーは黒マジョさんを傷付けることにあるみてぇだからな」

「わかった」


 フリケルが風の絨毯に乗り上昇すると1㎞と離れていない森から土煙が上げ、巨大な何かがゆっくりと進む様子が見てとれた。

 

「あれが…黒マジョさん…こんなにデカイ図体だったのか。…悪いがこの地から立ち去って貰うぞ」


 瞳を鋭く燃やし、フリケルは黒マジョさんの元へ進む。

 黒い毛は絡め取った何本もの大木のせいで歩みが遅い。

 1歩進む度に黒マジョさんは木々に行く手を遮られては行く手を阻む巨木を根本から引き抜き、それが敵わなければ伐倒(ばっとう)する。

 倒した木は黒い毛に絡め取られ、先に進む度に黒マジョさんは更に容積を増していく。

 フリケルは黒マジョさんが進む先へと降り立った。

 そして対面する。


「貴方様が居るべきはこの地ではない!元いた島へこの吾がお送りします!!」


 フリケルは争う意思はない事を表す為に大槍を地に突き刺して両手を広げて見せる。

 黒マジョさんは蠢かせていた黒い毛を止め、フリケルに向き合った。

 一瞬の静止の後、黒い毛は動きを揃えてフリケルに向かって一斉に襲い掛かる。


「貴方様ほどの魔力の持ち主ならば人語を理解できるはずだ!吾は貴方様の敵ではない!」


 視界を全て真っ黒に変えてしまう程に長く多い黒い毛はフリケルの目前でぴたりと動きを止めた。

 沈黙の後、迷いを見せながらも黒い毛はゆっくりと割れていく。


「吾は貴方様の力になりたい!」


 駄目押しでフリケルがこの言葉を口にすると、割れ進めた黒い毛は薄暗いトンネルを作った。

 その最深部にて黒マジョさんがその本体を明らかにしている。

 フリケルは話が通じたと解釈して黒い毛が作る真っ暗なトンネルへと足を踏み入れ、黒マジョさん本体へ向かってゆっくりと近寄る。

 しかし警戒は解かない。

 両の手を挙げ敵意がない事を示し続けてじっくりと時間を要して影になって判別しづらかった本体が見える地点にまで近付いた。

 そしてフリケルは黒マジョさんが二足で立っている事に気付く。

 黒い毛で包み覆われた体の上にある頭部。

 それを見てフリケルは言葉を失くす。

 黒マジョさんは動きを止めたフリケルに数本の毛を伸ばし、その毛先でフリケルの頬を撫でた。

 するとフリケルは急に全身の力が抜け、その場に崩れ落ちてしまう。

 獣化魔法は解け、フリケルは人の姿に変わってしまった。

 地に伏しながらもフリケルは数回言葉を交わそうと試みた。

 しかし黒マジョさんはじっとフリケルを見詰めるだけで何も答えず、抵抗出来ないフリケルを黒い毛で絡め取り、自身の肉体と共に(うね)る体毛の中に取り込んでしまう。

 黒マジョさんは再び黒い巨大な毛の塊に成り、蜿蜒(えんえん)と毛を動かし再び密林の中を進み出した。


『黒マジョさんは半径50㎞圏内にいる生き物全てを眠らせる』


 この情報を鵜呑みしていた私達は、いや、フリケルの仲間達もがフリケルと連絡が取れない事に彼はまた眠らされてるのだろうと判断を下してしまう。

 誰も助けに向かわない。

 フリケルは(うごめ)く黒マジョさんの大量の毛の中で1人、命が尽きる覚悟を決める。




 フリケルと別れたマリルドは小指の爪が光っている事に漸よくやく気付く。

 小指の爪に息を吹き掛け通話を受けるといすずの大きな声が森に響く。


「マリルド!」

「おー、ごめんな。寝てたみたいだわ」

「2日寝とったとよ!」

「うん、知ってる」

「フリケルさんと一緒なんだよね?」

「いや?」

「え?」

「おっさんは1人で黒マジョさんを取っ捕まえに行ったわ」

「ってことはマリルドは今1人なの?どこ辺りに居るの?」

「どの辺りって…黒マジョさんの近くかな。黒マジョさんマジすげーよ。この森のデッケー木を薙ぎ倒しながら歩いてんだもん。ありゃモンスターの類いだな」


 マリルドは黒マジョさんの現在位置を把握する為に近くにある巨木の枝を飛び移って木の天辺てっぺんへと登り詰め、黒マジョさんが木々を薙ぎ倒して進んだ事で出来た道とその果てにある巨大な黒い塊を確認した。


 この段階でフリケルに連絡を取っていれば、私達はフリケルに眠らされた以外の何かが起きていた事に気付けたかもしれない。

 マリルドもフリケルも黒マジョさんの直ぐ傍に居ると言うのに、マリルドとは問題なく連絡が取れ、フリケルとは連絡が取れなかったのならば其れは『黒マジョさんは半径50㎞圏内にいる生き物全てを眠らせる』と云う通説とは異なる事態が発生している事になるのだから。

 けれど私達はこの瞬間に連絡を取らなかったし、フリケルの危機に気付く事もなかった。

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