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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
森羅の國編
65/98

65、シークレットシェルフ

 ナノノはゴジャに連れられて遊戯の國へと1人向かった。

 そしてモウとの連絡手段を絶ったナノノに心の安寧が訪れた…等と言い切れる程、問題は簡単なものではない。

 モウとの連絡を断つと決めたならば、完全に縁を断つのであれば…モウを恋慕うナスポクとも同様に…。

 しかし私達はナスポクの魔法石を棄てろとは言わなかった。

 ナノノが自分の意思で判断しなければならない道を残してしまった。


『イサナはこれで良かったのかとずっと自問自答し続けるつもりですか?』

「どうかな」

『今すぐ記憶を消しましょうか?人生訓めいた事を垂れてしまったと恥ずかしくなっているのでしょう?』

「あはは!ほんと恥ずかしいよ。でも記憶を消されるのは困るな。ナノノとモウと仲良くすると約束したからね。悶々と自己嫌悪をし続ける事にするよ」

『本当に…イサナは早く俺の他の全てを見切ってくれれば良いのに』


 私はワルサーの希望を聞き入れる事はなく、私はモウに連絡取る。

 案の定、愚痴と八つ当りを盛大に受ける事になったのだが、いすずと2人で居るお陰で苦になるどころかモウの罵声を笑って受け流す余裕が今の私にはある。

 愚痴を溢す割にはモウは意外にも逞しく、瘋癲(ふうてん)の國に入り込んでしまった他の旅行客を捕まえて自分の代わりに働かせようと既に画策しているらしい。


「代理労働が可能な事は既に実験済みよ。試しに他人を私の代わりに働かせてみたら視界の端に見える忌々しい私の所定労働時間が減ったもの。20分働かせたのに1分しか減らなかったけど確かに減ったわ。1/20になるだなんて酷いと思わない?でもアタシは諦めないわ。この1時間ちょっとで3人の崇拝者を捕まえたの。アタシが女の姿になった途端、向こうから声を掛けて来たのよ。元男の旅行者って女に飢えてるからクソチョロいのよね。美貌の國で唯一のコンプレックスを治した甲斐があるわ。アタシの唯一のコンプレックスって何か気になるでしょ?ンフフ、チクビの色がねイマイチだったのよ。あー、でも元男だけ捕まえても足りないでしょうし、明日は男の姿になってアタシの代わりに労働する人間を捕まえようかしら」

「ねぇ…崇拝者って捕まえるものだっけ?」

「1/20になるなら自分で働いた方が早そうやない?」

「見てなさい。アタシは1ヶ月でこの國から脱してやるわ!」


 そう高らかにモウは宣言し、通話を切る。

 私といすずはモウの(たくま)しさと(したた)かさに吹き出してしまう。

 連日続いていたヒステリーも鳴りを潜めている事から、どうやらモウは今の状況を楽しんでいるようにも見受けられた。


瘋癲(ふうてん)の國の國民でない者が旅行者に労働させるだなんて信じられない』

「ダメなことなの?」

『前例が無いだけで問題は無さそうですが…。呆れた事にあの者は労働寄生の決断に何の躊躇(ためら)いもないようですし、瘋癲(ふうてん)の國から出ずこのままあの國に(きょ)を構えるかもしれませんね』

「えー、そんなことあるかなぁ」

『賭けますか?』

「何を?」

『恋心を。オレが勝ったらイサナはオレに恋して下さい』

「誰が()るか、Void Bet(賭け不成立)だわ」


 左目に見える鏡越しのワルサーの綺麗な澄まし顔をサンドイッチして変顔にしてやろうと伸ばした私の両手が空を泳ぐ。

 いすずが急に空を掴むような動きをした私を不思議がる。


「イサナ急にどうしたと?」

「あ…そっか…。ワルサーが目の前に居るわけじゃないんだったね。急に変な動きしちゃった。驚かせてごめん」


 長く一緒に居るせいで、触れることが出来ると錯覚してしまったようだ。

 行き場をなくした腕が恥ずかしい。


『初めて…イサナがオレに触れようとしてくれましたね』

「え、何?違うよ!?」

『嬉しいです。オレもイサナに触れようと腕を伸ばしたことが何度もありますよ』


 いや、それ触れようとする動機が私とは絶対違うよね。

 けれど…今更だけど一緒に居るのに触れないって変な感じだね。

 こんなに長く一緒に居るのに。




 私はいすずと共にマリルドとフリケルが目覚める時を待ち続けた。

 2人が目覚めたら合流して共に黒マジョさんがやって来るのをこの浜辺で待ち構えよう。

 そう思っていた。


 けれど2人との通話が途絶えてから26時間が過ぎてもマリルドとフリケルに通話が繋がることはなかった。


「あら?私、時間を間違えてたかな?」

『いいえ。獣人らとの連絡が途絶えたのは昨日の13時50分28秒。今から26時間10分前の出来事です』

「そっか。…まだ寝てるのかなぁ」

『まだ寝ているのではなく、また寝たんですよ』

「また…寝た…?」

「え!?マリルドたちまた眠らされたと!?」

「ってワルサーが言ってる。黒マジョさんの捕捉にはマリルドの脚力に頼るつもりでいたのに…」

「イサナ、捕捉って何?なんで急にそんなに黒マジョさん探しに意欲的になっとると?」

「…あは」


 私は思わず笑って誤魔化す。

 黒マジョさんが残り22時間足らずでこの場にやって来ると言うことをいすずに伝えるべきかどうか判断がつかない。

 黒マジョさんといすずの接触を私1人で防ぐことは可能なのだろうか。

 いすずが黒マジョさんの魔力に当てられてまた倒れてしまう危険性がぐっと高くなってしまった事は確かだ。

 思案する私をいすずは物言いたげな目で見ていたが、それ以上追及することはなかった。




「イサナ、この部屋はなぁに?」


 私はヘプタグラム城の1階層に書斎にいすずと訪れていた。

 いすずは顔を真上にして見上げなければならない程高い本棚を口をぽかんと開けて見回している。


「ん?ここは私の体とワルサーの体が半分入れ替わっちゃった現場だよ。魔王がいた部屋でもあるね」

「えぇ!?」


 いすずは反射的に物陰に隠れようとしたのか、部屋の中央に鎮座する飴色のキドニーデスク(角の無い机)の影に身を滑り込ませる。

 慌て過ぎていすずは机の引出しの凝った意匠の引手におでこをぶつけていた。

 私はそんないすずを笑いながら部屋を見渡す。

 私は私の横でゆらゆらと身を揺らすてるの助くんに声を掛ける。


「このお城の中にあるものって歴代城主達の遺物なんだよね?森羅の國の中で使用しても出國の星の取消しをされない便利な魔法道具ってないかな?」

『そんな漠然(ばくぜん)とした指示では家付き虫は動きませんよ。可哀想に、曖昧なイサナの注文にてるの助が困惑しているではないですか』


 てるの助くんは私の言葉を理解しようとティッシュでできた体をぎゅうっと縮めて考え込んでいる。


「ご、ごめん!無茶言ったね」


 私はてるの助くんを(てのひら)にそっと乗せて指先で頭を撫でる。

 やっぱり魔法に頼ることは出来ないのか…と諦めて溜め息を吐く。

 この部屋を出ようかといすずに声を掛けると、いすずは机の影から目から上だけ頭を出して私を手招きしている。


「どうしたの?」


 いすずの側に行くと、いすずは机を指差す。

 いすずが獅子の頭の形をした机の引手に額をぶつけた際に壊してしまったようだと言うのだ。


「どこ?」

「どうしよう!?」


 私はいすずが額を強打したと言う向かい合った2頭の獅子が丸カンを咥えている立体的な意匠の引手に触れる。

 輪になった丸カンに指を掛けて引出しの出し入れをする分には特に問題無さそうではあったが、他の引出しの金具より右側の獅子が僅かに金具の内部に引っ込んでいるように見える。

 押し潰したわけではなさそうなので、押しボタンのように押し込めるように出来ていた物にいすずが頭をぶつけた事で斜めに力が加わり、金具の内部で一部が引っ掛かってしまい、内部にめり込んだ状態から戻らなくなってしまっただけではないだろうか。

 獅子型の装飾部を少しだけ持ち上げるようにしてズレを直すと、2頭の獅子型の装飾部を最後まで押し込んでみる。

 かちっと音が鳴り、僅かな振動を指先に感じる。

 よし、直った、そう感じた瞬間に机がぱっと消えてしまった。

 机のみならず、室内にある本棚以外の家具が全て消えてしまう。


「おお?」


 部屋の壁3面に備え付けられた高く大きな本棚が回転し始める。

 本棚の回転に巻き込まれそうになり、私は慌てていすずを担いで本棚のない入り口の扉がある方へと退避した。

 本棚が全て裏返えり終えると静かになった部屋の中を埃がきらきらと煌めいて舞う。

 裏返った本棚の背面には書物ではなく、有りとあらゆる武器がずらりと並んでいた。

 隠されていた多くの武器に気圧(けお)されているといすずがその中の1つを指差す。


「ねぇ、イサナ。あれって…」

「…いすずナイス」


 私はいすずが見付けたそれを見て目を輝かせた。

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