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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
森羅の國編
63/98

63、厄介な三角関係

 どうやらモウは通話相手が私であることに気付いていないらしい。

 いつものヒステリックな声を出しているものの、恐ろしい目にでも遭ったのか呼吸は浅く、泣いている様子だ。

 ワルサーが黒マジョさんはモウを排除しに行ったと推測していたが、この様子だと黒マジョさんはモウに接触したと見ていいだろう。

 黒い毛と言うのが黒マジョさんの正体なのだろうか。


「聴こえる?私はイサナだよ。大丈夫、黒い毛はモウの近くにはいないよ。モウは今、どこにいるのかわかる?」


 いすずが私の言葉に笑いを堪える。

 私が「モウの近くにはいないよ」という言葉の後に小声で「たぶん」と付け加えていた事が面白いらしい。


「分からない…どこかの街の中にいるわ」

「そっか。近くに人は居る?」

「…えぇ!居るわ!ねぇ、待って!ここはどこなの!?助けてほしいの…!ねぇ、そこの人…!……!」

「…あら?」

「どうしたと?」

「通話を切られちゃった。怪我の有無とか、黒い毛についてもうちょっと確認したかったんだけどな。まぁ、通話で私とやり取りするより、生身の人間に助けてもらった方が安心だよね。モウの無事は確認できたし、ひとまずヨシとしよう。いすずの方はどう?ナノノとはまだ連絡取れない?」

「うん…。まだ目覚めとらんとかいな…」

「連絡し続けよっか。フリケルさんが魔法発動時により黒マジョさんの近くに居た人から先に目が覚めるって言ってたし、モウは黒マジョさんのすぐ近くに居たから目が覚めたのが早かったんだと思うよ。ナノノとモウは50㎞離れた場所に居た筈だから目が覚めるまでもう少しタイムラグがあるんじゃないかな」


 その後私達2人は只管(ひたすら)ナノノに連絡を取り続けた。

 通話魔法は中々ナノノに繋がる手応えを見せず、弾き続けた小指は地味な痛みを生じさせる。

 そしてモウの無事を確認をしてから29分後、ようやくナノノからの応答があった。


「繋がった!ナノノおはー」

「…え…?…おは…?」

「ありがとう、そしておめでとう。黒マジョさんにナノノとモウが眠らされた事で出國の星GET出来ましたよー」

「ナノノ、目の前に知らない人が居ると思うけどその人は安全な人やけん安心してね。黒マジョさんに眠らされたナノノを保護してくれた人とよ」

「…え…?…え…?…このタヌキみたいなのがそうなの…?」

「たぶんそうかな?というわけでその人に通話を代わって貰える?聞きたいことがあるんだ」


 恐らく私達からの連絡を待っていたのであろうフリケルの仲間は直ぐ様ナノノから通話を代わり受ける。

 少し掠れた年配女性の様な声の持ち主は女性と男性の口調が入り混じる。


「代わったわ。(わた)はゴジャ。それから吾は狸じゃなくて穴熊型、間違えないで頂きたい。フリケルからの連絡が途絶えて23時間が経過する。貴方たち、何か情報を持っていない?」

「フリケルさんと一緒に行動していた私たちの友人1人とも連絡が途絶えています」

「マリルドって子のことね。フリケルが協力を仰ぐと言っていた」

「そうです。マリルドが配置されていた西北西の地点から南東に配置されたモウの保護に向かい始めた直後に通話が途切れました。あと1時間も経てばナノノと同様に目覚めると思うのですが…」

「分かった。この子を遊戯の國への國境まで送り届けたら吾もフリケルの支援に向かおう」

「黒マジョさんはまだ発見できていないんですか?」

「悪いわね…」

「そうですか」

「貴方が黒マジョさんの居場所を探し当てたっていうイサナだね?気にしなくていい。今回現れた黒マジョさんは神出鬼没でな。どんなに予測を立てても誰も黒マジョさんの居場所に(かす)りもしなかった。あなたのお陰で吾達は北海に向けて黒マジョさんを追いやる策を進める事が出来た。いずれ貴方達にも吾達が打ち鳴らす太鼓の音が聴こえるだろう」


 フリケルの仲間らはワルサーが予測した黒マジョさんの現在位置を完全に信用していない訳ではなかったようだ。

 黒マジョさんの居場所を探し当てる事が出来ない彼らは南の遊戯の國の國境から和太鼓を持った(たた)き手と甲高(かんだか)()が出る笛の奏者らで構成された鼓笛隊を東西に1列に並ばせ、黒マジョさんが苦手とする大きな音を打ち鳴らし、2年以上の歳月を要してでも地道に北海へ黒マジョさんを追いやるローラー計画を立て、既に行動を開始していた。

 それがモウとナノノが眠らされた事で1800㎞以上も鼓笛隊を一気に北上させることが可能になったと言う。

 黒マジョさんが移動する事で入れ違いになる危険性を考慮しても現在地から鼓笛隊を1000㎞は北上させても問題はない。

 計画より1年分早く北へ黒マジョさんを追いやる事が可能になったのだ。


 …さてどうしよう。

 私達の元に黒マジョさんが向かって来ている可能性はかなり高い。

 この北海寄りの位置にまで鼓笛隊をやって来させておけば丁寧に事を進めても1ヶ月以内にケリが付くだろう。

 ゴジャにこの地に黒マジョさんがやって来る事を伝えるべきかと思ったが、いすずが稀人であることを他人に明かす事が良案だとは思えない。

 ゴジャが悪人だとは思わないが、1度漏らした情報は何処の誰にまで流れ出るか分からない。

 物欲の國で魔法石を売る様子を見ていすずが稀人だという事を感づいたマリルドはいすずが稀人である事を他言するつもりはないようだが、だからと言って私はマリルドの事を心から信用している訳ではない。

 何処かで情報がぽろりと漏れ出てしまう事もあるだろう。

 悪どい人間に知られてしまうと値が付く動物の魔法石を横取りする為にいすずが連れ去られる危険性がある。

 小柄で非力ないすずならば、袋に詰めて誰にでも簡単に誘拐することが出来てしまうことだろう。

 私が足りない頭をフル回転させているとナノノが不安そうに口を開く。


「…モウはどこ…?…ナノノを置いて…先に遊戯の國に行っちゃったのかな…?」

「あぁ、モウは」

「…それとも黒マジョさんが…殺してくれたのかな…?」

「おっとっとー?穏やかじゃない言葉が飛び出たね」


 ナノノの言葉の物騒さに驚いて私はモウの無事を伝え損ねてしまう。

 私が次の句を紡ぐのにもたついている間にゴシャが1日前にフリケルが決めていた段取りをナノノに伝え始めた。


「そちらの子はナスポクと言う名の子を回収した吾の仲間が既に保護している筈よ」

『愚人が。西北西ポイントに居た獣人が眠らされたんだ。元男も眠らされている可能性を何故考えない』

「あ…」


 ワルサーの言葉に私は思わず声を漏らす。

 ナスポクの存在をすっかり忘れていた。


「ナノノ、ゴジャさん。1時間後にナスポクに確認を取って貰えるかな?もしかしたらナスポクもナスポクの救出に向かった方もフリケルさんと同時間に眠らされているかもしれないです」

「…ナスポク…!」


 ワルサーの指摘を伝えるとナノノは問答無用で私達との通話を切ってしまった。

 ナスポクのことが心配になったのだろうか。

 けれどナノノとナスポクの2人が親しかったようには見えなかったが…。

 暫くの間を置いてナノノから連絡があったのだが、その声の主はナノノではなくゴジャであった。


「ナスポクらとは連絡は付かなかったわ。もう一人の子、モウって子とは連絡が付いたけれど…ナノノ(この子)モウ(あの子)の関係は一体何なんだ?恋敵か?」

「ん?恋敵?」


 思いもしないゴジャの言葉に私の頭にハテナマークが幾つも浮かぶ。

 するとナノノが小さな声でぼそりと補足してくれる。


「…ナノノは…今はもうナスポクのことは好きじゃない…小さい頃からずっと好きだったけど…もうどうでもいい…」


 え?

 ナスポクが好き!?


『悪趣味ですね』


 うん、そうだね…。

 いやいやいやいや今のナシ。

 ん?

 でもナスポクはモウにご執心だよね。

 好きだったのは前の話だとは言え…それって三角関係ってやつじゃないの?

 そう思ったのは私だけじゃなかったようで、ゴシャがほら、やっぱり恋愛絡みのトラブルだと自分の憶測が当たった事を喜ぶ。


「モウとナノノの2人の仲が良いようには見えなかったけどナノノたちってそんなややこしい関係だったんだね…」


 一緒に居ても楽しくない人間と共に旅する気持ちがの微塵も理解出来ず、私は首を横に傾げる。

 するといすずが私にそっと耳打ちしてくれた。


「ナノノは元々ナスポクと2人で旅をしていたんだよ。だけど途中でモウと再会しちゃって一緒に旅をするようになっちゃったってナノノが言ってたよ」

「へぇ」

「でもね、美貌の國でナスポクが今の顔に変えてしまってからナノノはナスポクのことが好きじゃなくなったんだって」

「え、ナスポクって美貌の國で顔を変えてたの?」

「うん、モウの好みを全て詰め込んだらしいけど…本人が具体的なイメージを持ってなかったせいで中途半端な顔になったってナノノが言ってたよ」

「…中途半端な顔って…」

「わたがそう思ってる訳じゃないよ!ナノノがそう言ってたの!」


 慌てていすずが否定する。

 ナノノの毒舌は好きだった人に対しても容赦ないなぁ。

 ナノノの終わった恋を知らされた所で私が持つ感想はそんな程度のものだったが、ゴジャは違ったらしく大きな溜め息を吐く。


「もうどうしたらいいの?この子、さっきの通話でモウ(あの子)に対して「死ね」って言ったんだぞ。今の状態でナノノ(この子)を森羅の國の外に出すわけにはいかない。この國では魔法を封じてやれるけれど、他國ではそうはいかない。モウ(あの子)に向けた殺意が実行されると世界の理が判断したらこの子は消失してしまうかもしれない…危なっかしくてこの子を國から送り出せないよ」

『確かに。激情は本人の理性が追い付くより先に行動を起こしますからね。感情をコントロール出来ずに世界の理に触れ、消えていった人間は多いです』


 わぁお。

 それはなんとも厄介な事態。

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