61、縛られ、弄られ
少しエロです。
右手首を強くを縛り付ける黒く細い長繊維を引き千切ろうとマリルドは力を込める。
しかし多少伸びはするものの、千切ることも振り解くことも出来なかった。
それどころかこの長繊維は力強くマリルドの身を宙に持ち上げ続けている。
「何の毛だこれ!誰だよ!」
一体何処から伸びてきた物なのかとマリルドは黒い毛の先を見る。
しかし、黒い毛は遠く離れた森の木々の中から伸びてきており果てが見えない。
マリルドは右太腿を引き上げて外腿に備えているホルダーへ左腕を伸ばし、ナイフを手に取る。
そして刃先を右手首と黒い毛の隙間に差し入れ、切り捨てた。
拘束を解いたマリルドは即座に着地体勢に入ったのだが、異変に気付く。
「…何かおかしい…」
「マリルド無事か!?待ってろ!」
フリケルは自身と共に絡め取られた大槍の角度を変え、引き下げると黒い毛に穂を当て切断しようとする。
「おっさんやめろ!」
先に着地したマリルドからの制止の声にフリケルは動きを止めたが、よく研ぎ澄まされた鋭い刃は黒い毛に触れただけで簡単に切り落としてしまった。
「どうしたマリルド」
「な…」
落下を開始するフリケルと、彼を見上げるマリルドは雨に打たれたかのように相手の身と自身の身がずぶ濡れになっている事に気付く。
マリルドの日本刀のように輝く鉛灰色の真っ直ぐな髪からぽたぽたと水が滴り落ちる。
水に濡れているのは2人だけではなく、フリケルの眼下に広がるジャングルの木々も水を浴びて潤い、高い空には逆さ虹が浮かび出ている。
着地した地は泥濘、フリケルは足を少しばかり滑らせる。
「何が起きたんだ…?」
「おっさん動くな。ワタ達2人共、2度眠らされてる」
「まさか…!」
「寝てる間に雨が降ったんだよ。ワタが毛を切断した直後にもおっさんを捕らえる毛が伸びてきている方角が変わってるのを見た。ワタ達が眠らされた間に相手が移動した証拠だ。あの時はまだ体は濡れてなかった。雨が降ったのはおっさんが毛を切った後だな。…おっさん。すぐ近くにまで来てるよ」
濡れた髪の水気を落とそうと頭を振るマリルドの言葉にフリケルは驚愕する。
時は遡る──。
マリルドとフリケルの2人が拘束された直後、私は通話が突然途絶えてしまった事に狼狽え、ベッドの上で1人動揺していた。
何度マリルドとフリケルに連絡を取り直そうとしても、応答がないどころか通話魔法が発動する気配すらない。
「ワルサー…どう思う?2人も眠らされたのかな?」
1人、また1人と消えて行く…というホラーのような展開に私の背筋には冷たいものが走る。
私は自分の身体を両腕で抱きしめるようにして、震えを抑え込んだ。
『怖いのですか?この俺が一緒だと言うのに』
「ホラー系は苦手なんだよ。トイレとお風呂が怖くなるもん。ワルサーの魔法の効果で今はどっちも必要ないけど…やっぱり苦手」
『…へぇ。ではもっと怖がらせてあげましょうか』
「なんで!?」
『イサナが怯え自身をハグをする事で、俺の左腕はイサナの身体を抱き締めて、イサナの右腕は俺の身体を抱き締める事になっています。…もう少し先まで事を進めましょう』
「ばか!」
私は慌てて両腕を広げてセルフハグを中断した。
しかし左腕の主導権を切られ、左腕だけが私の思いと異なる動きをする。
『イサナ、漸く2人きりになれたのですよ。何時も邪魔をするウーターニャは國外、稀人も今は城の1階層で呑気に熟睡している。通話魔法も途絶えた…』
「え…何?何を考えてるの?」
『…安心して喘いで下さい』
左腕だけでなく、首から下の身体の主導権が地球の身体へと入れ替えられる。
私が暴れ、身を捩ろうとどんなに足掻いても、じたばたと踠くのは地球の方の身体になってしまった。
私の意識がある叶球では左腕が私の右半身に優しく触れる。
叶球の身体は左腕が弄り易いようにスカートを捲ってやり、太腿を露にしてしまう。
「やだ!何するつもり!?」
『…これ邪魔ですね』
ぱちんとワルサーが指を鳴らすと叶球で私が身に付けていた革の上に銀を重ねた胸当てが外れて落ちる。
「あっ!」
身体にぴたりと沿う艶のある黒いトップスの下には何も身に着けていないので胸当てを外されると私の小さな胸の形も、その頂点が何処にあるのかも分かってしまう。
慌てて視線を胸から反らすと左腕は進む方向を変え、黒いトップスの裾の隙間に指を滑り込ませる。
素肌の上をゆっくりと滑らせるように触れる2本の指先の感触に私の体は跳ねるが、その反応を示すのは遠い地球にあるの身体の方だ。
「いや!」
『先に触れてきたのはイサナですよ』
「嫌がることはしないって約束してくれてたじゃない!」
『イサナに愛して貰えるのならばそうします。けれどイサナは隣人を愛しはするけれど、誰にも恋はしない。誰に対しても平等に深く興味を持つ事がないんです。イサナは人に優しくする癖に、親密になろうとする人を拒絶しますよね。だったら俺は一層の事、イサナから最も嫌われる人物にになりたい…』
ワルサーが動かす手の親指の腹が私の小さな乳房に触れる。
ワルサーの手は容赦なく這い進み、右の乳房の形が変わる程しっかりと持ち上げる。
『嫌悪でもいいから俺の指が這った感触を覚えていて下さい。身体が元に戻ったら俺達はもう2度と言葉を交わすことすら出来なくなるのですから』
「やっ…」
息が止まるような甘い声が漏れてしまう。
自分の声ではないようだ。
『どうしましたか?』
左目に見える鏡越しのワルサーが意地悪に微笑んでいる。
「…やってくれたね?」
『何がですか?俺は何もしていませんよ。イサナが勝手に俺の思考を読み取っただけです』
…そうなのだ。
私はワルサーの思考を読み取った。
『安心して喘いで下さい』という言葉から全てワルサーの妄想であり、現実に起きたことではない。
確かに左腕の主導権はワルサーに盗られてしまっているが、ワルサーは私の体に触れていないければ、私の着衣を乱してもいないし、私だって変な声は出していない。
『先程の愛らしい艶かな声は現実のイサナの声ですよ。ただの空想にあのような声を漏らすとは反応が良いようで素晴らしいですね』
「なっ…!」
羞恥で顔が赤くなる。
言い返したいのに何も言い返せない。
『イサナが読み取ったのは俺の願望です。けれど実行に移すつもりはありませんよ。…イサナがお気に召したのであれば別ですけど』
「気に入ってないです!」
『それは残念』
「んもう、マリルド達の危機って時に私は何をしてるんだろ…。ねぇワルサー、ここに留まるのは危険なのかな?どうするべきだと思う?」
『そうですね。何も気負うことなく深い眠りに落ちれば宜しいかと。後はイサナが寝ている間に俺が全てを片付けます』
「…え?助けてくれるの?優しい!」
『イサナ。そもそも北の孤島に長年住んでいた黒マジョさんが突然本土に上陸したのは何故だと思いますか?』
「全くわかりません」
『考える気もないというのは清々しいですね』
呆れながらもワルサーは優しく微笑む。
『稀人の気配を察知したからですよ」
いすずの気配を?




