6、髪には魔力が宿っている
「あのさ、ウーターニャちゃん」
私一人では到底解決策を出せそうにないのでウーターニャに相談する。
どうやら年下のようだけれどウーターニャは頼りになるんだもん。
「この体って今すぐ元に戻せる?」
何らかの衝撃を食えることが必要であると言うならばやぶさかではない。
例えばお湯をかけるとか、そういう方法で元の体に戻せないのだろうか。
「えっ、これって私になんとかできる程度のものなのかしら。すごく高度な魔法に見えるけれど。私は医療魔法以外は獲得していないのよ。日常魔法でさえ魔法石を買っているくらいだし。たぶんこれって魔王が使った魔法の影響でしょう?」
ウーターニャが悩み始めた。
『ウーターニャには手に負えないですよ。吾にだって解除できていないんですから』
くすくすとワルサーが補足してくれたが本当なのだろうか。
『本当ですよ。不甲斐無い事に魔王の反撃魔法を右側に浴びてしまったんです。咄嗟に利き手を庇って左半身を残し、抹消されそうになった体をなんとか異世界に繋ぎ止めた結果今の様な状態になりました。しかし…お陰でイサナに出逢えたんです。魔王には感謝ですね』
利き手?
この体は魔王と戦ったせい?
利き手?
だめだ。
ワルサーのナルシスト色ボケ発言を聞き流そうとすると、今は1番どうでも良さそうなことにばかり気が散ってしまう。
「…利き手を残したっていうことはワルサーって左利きなの?」
「そうよ、ワルサーは左利き」
答えてくれたのはワルサー自身よりワルサーに詳しいというウーターニャ。
「どうでもいいことなんだけどさ。私は右利きなんだよ。もしかして今の私は両利きになってるのかな?それはちょっと嬉しい」
両手が器用になったかどうかを試してみたくて両腕をブンブン振り回してしまう。
力が入りすぎてしまったのか体が右に傾いてしまい、慌てて踏み留まる。
なんだか心が小学生のようだ。
14歳のワルサーの体と繋がっているせいだろうか。
『吾はその様な幼稚なことは考えませんよ』
冷静なご意見が聞こえてくるが好奇心が勝る。
仕事道具の彫刻刀があれば分かりやすいのだけれど、何か他にないだろうか。
「試してみたいな。ハサミ、ハサミとかあるかな?」
とはいえハサミがこの部屋の中にあるのかどうかはわからない。
色々とおもしろそうなものはありそうだけれど、ハサミを探し出すのはなかなか大変そうだ。
どの辺りに文具がありそうか見当をつけていると、ふよふよ漂うティッシュのてるてる坊主が私の視界を遮るよう現れてきた。
てるてる坊主はくるくるとその身を高速回転させると私の目の前にハサミが出現する。
それも左利き用のハサミだ。
「持ってきてくれたの?」
突然の便利魔法に感動していると
「家付き虫は家の中の物を全て管理してくれるからね。家主が望めば家にあるものであれば何でも用意してくれるのよ」
と、ウーターニャが補足してくれる。
すごいな。
ありがたくお借りして左手でハサミを持ち、自分の前髪中央から右に向かってを1㎝程度切り落としていく。
切り落とした髪が床に落ちないように右手で確実に受け止める。
なるほど、確かにこの左手は利き手のようだ。
途中、ワルサーの髪の毛を1本だけ切ってしまった気がする。
ごめんよ。
でもワルサーの髪は鎖で押さえてあるのにそれをすり抜けて私のエリアに侵入してきたんだから、この髪の毛が悪いってことで許してほしい。
両利きになった感動を共有しようとウーターニャを見ると、何故か彼女は悲痛な面持ちになっている。
え、切りすぎたかな?
「か、髪の毛をハサミで!」
「えっと、落ち着いて。私はよく自分で前髪切るから鏡がなくてもうまくカットできる自信があったんだよ」
「しかも真珠の髪を!」
「真珠の髪?」
「ハサミ!」
「ん?」
ハサミが珍しいのだろうか。
そんなわけがない。
『ハサミで髪を切るだなんて大胆だな。ゾクゾクする。こんな感覚は初めてです。もっと色々してほしいです』
はい?
ワルサーがドMのような発言をし始めた。
「な、なんなの?そんなにひどいことしちゃったの?」
2人の様子にこちらも動揺してしまう。
ウーターニャは目に涙を溜めはじめた。
「髪の毛は魔力が蓄積されるものだからハサミで切っちゃダメ!魔法で短く見えるようにするものなのよ!」
「え?」
「髪は魔法で短く見せることはできても、長くすることは不可能なんだから!」
「ん?」
「売り買いだってされるものなんだから!ワルサーの髪なら1本でもすごい値段がつくわ。でも魔法陣を展開していないまま切ってしまったし、この髪には価値がないわ…」
なんですと?




