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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
森羅の國編
59/98

59、美女と獣人

 数百m程度の移動は許されている為、私達は浜に打ち上げられた石の中からこれぞと思える宝石を見つけようと浜を歩き回って時を過ごした。

 波が寄せると石と石がぶつかり、からころと音を立てる。

 浜辺には多様な鉱石が堆積しているのだが、流石に輝石は少数であるらしい。

 綺麗な石が見当たらないわけではないのだが、無数にある石の中から最も魅力的だと感じる石を選び出す必要があるのかと思うと拾い上げる事すら躊躇(ためら)ってしまう。


「黒マジョさんはいつ動きを見せるとかいな…。緊張で身が持たんかもしれん」

「どうだろねぇ…。動物は次々とそこの森に集まって来てるけどね。マリルドが海辺を譲ってくれて良かったよ。いすずに群がる毛の生えた四足歩行の動物は海には居ないもんね」


 人気のない浜辺に居座っていることもあり、魔法石を集めても1時間も経てば遠方から遅れてやって来た新たな動物達がいすずに魔法石を捧げる為に集結する。

 姿こそは見せないが、砂浜の先にある一番近くの茂みの中に潜んでいすずの様子を(うかが)っているのだ。

 幸か不幸か、森羅の國には人懐っこい犬や猫は生息していない。

 原種の動物の保護の為にも、人が家畜として生み出した亜種の持ち込みは固く禁じられているからだそうだ。

 その為に犬や猫は見当たらないが、その代わりに私が魔法石を預かりに森に入ると小型のユニコーンや、4本足を持つ燃えるように赤く輝く鳥といった珍妙な生き物が待ち構えていたりする。

 というか4本足の鳥って何なの…。

 八咫烏(ヤタガラス)でも3本足だったと思うんだけれど。

 手元には動物達から回収した無数の魔法石がある上に、前回の魔力耐性魔法獲得から1ヶ月経過したというのにいすずに魔力耐性魔法の増強をさせてやることが出来ていない。

 ここには…と言うより、この國には魔法石屋が存在しないため折角の魔法石も魔力に替えることが出来ないからだ。


 遠くで何か狐のようなものがこーんと鳴く声が聴こえる。

 きっと此方に向かっている最中の動物の鳴き声なのだろう。

 私はびくりと身を強張(こわ)らせるいすずの気を()らすために続けて声を掛ける。


「見て。いい感じの流木見付けたよ」

「あれ?イサナ、宝石探しはもう辞めたと?」

「あら?そういえば宝石探しに行ったはずだったね。気付いたら流木探しに夢中になってしまってた」


 配置に就いてから早5日──。


 宝石探しを諦めた訳ではないけれど、私達は時間の大半を呼び出した家の中で過ごすようになっていた。

 危険生物が生息しているジャングルに配置されたモウとナスポク、文明的な物が何1つない草原に配置されたナノノも恐らく私達と同じ様に家を呼び出して巣籠もり状態で過ごしている事だろう。

 マリルドだけは陽が出ている間はマングローブ林を探検して過ごしているようで今日は7m超えのワニを見付けたとか、マングローブでの潮の満ち引きは面白いなど嬉しそうに報告してくれる。

 私も出来れば付近を探検して過ごしたいのだけれど、1時間置きの定時連絡は(まと)まった睡眠を取らせてくれず、油断すると頭がぼうっとするようになってしまった。

 宝石を見付けられたら目が冴えるのではないかと思うのだが、そう簡単には見付からず、私は代わりに細く良く引き締まった流木を探し集めていたのだった。


「もうすぐ11時だよ。また定時連絡の時間やね。…流石(さすが)に億劫になってきたなぁ…」

「だねぇ。でも私達の分も声を大にして不満を口にしてくれる人がいるからストレスはそんなに溜まらずに済んでる気がしない?」

「なはは!あの怒り狂いっぷりは清々しいよね」

「とはいえそろそろ黒マジョさんさに動きがないとツラいよね」


 私達は光っていた小指の爪に息を吹き掛けると腕を出来る限り伸ばし、小指の爪を耳から遠ざけて、フリケルからの連絡を受信する。

 すると空気が揺れる程の大声量が届く。


「もおイヤー!!出國の星なんか要らない!!寝させてよ!!何なの何なの!?人権侵害よ!?熟睡出来ないってこんなにツラいだなんて知らなかった!気が狂いそうよ!!この世界の多くの人が育児を自分でせずに子供の國に託す理由が良ーく分かったわ!!授乳の為に起こされて居たら正気を保てなくなるからよ!!アタシ、育児だなんて絶対にしないし、生殖するのだってごめんだわ!!このアタシの遺伝子が世界に残らなくなるのよ!!それってこの世界から美が1つ減るってことよ!?あんたのせいよフリケル!あんたのことは一生!絶対に!赦さない!!」


 このヒステリーな(かす)れ声はモウのものだ。

 2日目の明け方から苛立ち始めたモウは昼夜問わず続く1時間置きのフリケルからの定時連絡に睡眠不足とストレスが積もりに積もってヒステリックになってしまっている。

 叫び続けるモウの声は枯れ、酒焼けでもしたかの様なハスキーボイスになってしまっている。

 5分程全力で喚き散らし続けたモウは力尽き、一方的に通話切ってしまう。

 嵐が去り、静かになったところで私達は立て続けに声を発する。


「…イサナいすず、起きてまーす」

「ワタもー」

「オレも」

「…ナノノも…起きてる…。モウの声ウザい…」

「全員起きてるな。報告事項や質問が有れば受け付けるぞ」


 このような形の点呼確認がいつもの流れになっている。

 1度気を利かせたフリケルが(わめ)き声を私達に聴かせなくて済むようにとモウ1人にだけ定時連絡を行い、その後に残りのメンバーに連絡したことがあったのだが虐めだ何だとナスポクがクレームをつけたのでこうして毎回モウのヒステリーに付き合うことになっている。

 まぁ、私といすずの2人はモウのヒステリーを活用していたりするので問題はないのだが。

 この空気を揺らす程の大声量はこの浜の側の森に集まる動物達を逃げ出させてくれる効果があるのだ。

 新規に集まり続ける動物達の元へ幾度も魔法石を回収しに行くというのも中々骨が折れる。

 充分以上に魔法石は集める事が出来たし、動物達からこれ以上魔法石を頂く必要は無い。

 その為、私達はモウの喚き声を森に向けて響かせて獣避けとして利用しているのだ。


「なぁ師匠、昨日の夜の話の件だけど縄の煮込みって」

「ナスポク、今は同時通話中だぞ。向上心があるのは良いことだが今は止めろ」

「…?何の話ですか?いつの間にナスポクはフリケルさんの弟子になったの?」


 突然の『師匠』呼びに私は疑問を呈する。

 縄ということはフリケルが使う捕縛魔法に関係する話なのだろうか。

 そう思って尋ねたのだが何故か気不味い雰囲気が流れる。


「変態。イサナとナノノにこんな話を聴かせんでよ!」

「イサナ、この話題には食いつかない方がいいよ」

「分からない振りしなくてもいいぜ。いすず、マリルド」

「いすず、何の話か分かるの?」


 私の質問にいすずは困ったように顔を赤くする。


「イサナは気にせんでいいとよ。イサナにはまだ早い」


 私にはまだ早い…これ、物欲の國でも言われたな。

 ということは何かしら卑猥な話ということか。

 何かを察した私の様子にいすずが慌てる。


「フ、フリケルさん!わたはフリケルさんの若い頃の失恋の話を詳しく聞きたいです!」

「ぶぁはは!失恋!?師匠、一体どんな変態女に失恋したんだよ」

「なんで相手の(ひと)が変態って決め付けるとよ!?」

「馬鹿野郎。吾がそっちの趣味に走ったのは失恋の後のことだよ。あの(ひと)は清い人だったよ」


 そっちの趣味が何なのか気にならない事もないけれど、多分知らない方がいい情報のような気がする。

 恋愛話が大好きないすずが目を輝かせ「それって何時(いつ)の話ですか?どんな(ひと)だったんですか?」と話を先に進めるように促す。

 話題を反らしたかったフリケルはいすずの期待に応えて過去の話を語り出す。


「吾の1つ歳上の(ひと)だったよ。吾が14歳の時にこの國で出逢った。若いのに自分の意思で他の國からこの國に移り住んできた珍しい子だったよ」

「顔はどうだった?」


 極度の面食いのナスポクが尋ねる。


「美しい人だったよ。かんらん石(ペリドット)の色宿したオリーブ色の髪に、濃くて長い睫毛の魅惑的な瞳をしていた」

「なるほど。おっぱいは?」

「黙れ茄子頭」

「オレは巨乳が好きなんだよ」

「…ナスポクマジキモい…」

「ほら、ナノノもキモいってさ」

「もうー!ナスポク邪魔せんでよ!それでフリケルさんが失恋したのは何歳の時なんですか?」

「なぁなぁ、おっさんはそん時から猪(ヅラ)だったの?好きになった人も猪?」

「マリルド…俺は疣猪(イボイノシシ)型だ。小型の猪と同じにするな。…いすず…この話はまだ続けなくちゃダメか?他の子供達はつまらないだろう。好きなタイミングでこの通話は切断して次に備えてていいぞ」


 フリケルは皆を気遣ったが、私達に黒マジョさん捜索を強いる(いか)つい獣人の一昔前のロマンスは芸能人のゴシップと同等であり、好奇心を掻き立てる。

 誰も通話を切らない事にフリケルは溜め息を吐くが話を続けてくれた。


「生まれ育った國が違うオリカは獣化魔法は取得していなかったよ。吾の家にあった古い猿面は獣化できない彼女が使っていた物だ。スタイルは…そうだな、うん…良かったよ」

「えーっ、それってBeauty(ビューティー) and(アンド) the() Beast(ビースト)やーん」


 いすずはフリケルとオリカの2人を美女と野獣に見立てて喜んでいる。

 一方私の方は照れた様に辿々(たどたど)しく昔の恋を語るフリケルに少しばかりきゅんきゅんしていた。


『イサナも恋の話が好きだったのですか?意外ですね』


 うーん…。

 友達の生々しい恋愛話を聞くのは苦手だけど…フリケルさんの話は過去の話だからか不思議と面白いよ。

 少女漫画もラブストーリー物の映画も大好きだし。


『…イサナは恋愛したいと思っていないのですね』


 自分が恋するだなんて想像つかないよ…。


『純情可憐なのか、朴念仁(ぼくねんじん)の偏屈なのか…』


 私は思わずあはは、と声を上げて笑ってしまい、しまったと口を押さえる。

 矢張(やはり)照れ臭くなってしまったのだろうか。

 フリケルは「もう全て昔の話だよ」と口を閉ざしてしまった。

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