57、白マジョさん
ワルサーの事を知っていると言い出した2人にマリルドが疑問を呈する。
「なんで2人がワルサーのこと知ってんだ?ワタ達の区域でお前の茄子頭なんか見た記憶ねぇけど」
「うっせぇブス」
「んはは。わー、すげぇ。茄子が喋ってら」
マリルドはナスポクに挑発を繰り返す。
面白がっているのか、本気で反りが合わないのか…一体どちらの方なのだろう。
「そりゃそうよ。アタシとナノノは6月入國者区域だし、ナスポクは8月入國者区域だもの」
「だよな。ワタ達は1月入國区域だもん」
「1月の白マジョさんとダイメ様の噂はこっちにも届いてたんだよ。『白マジョ』だなんて大層な名前を掲げやがって本当に鼻に付くぜ」
『俺はそんな名は掲げていない。他人の異名を捩った使い古しの名でこの俺を呼ぶな』
白マジョ?
ん?
マジョって魔女だよね?
ワルサーって女の子だった時代があるの?
『ありませんよ。古い時代に居たという原初の魔女の逸話から強大な魔力を持つ者は性別、種族を問わず『マジョさん』と呼ばれるものなのです。俺の髪は真珠色なのでそれを揶揄して『白マジョさん』と陰で呼ばれていました』
へぇー。
なるほどねぇ。
なんで誰も姿を見たことがないって言う黒マジョさんが『黒マジョさん』って呼ばれているのか気になっていたけどそういう理由だったんだ。
へぇー。
『それに…この國に居る黒マジョさんの魔力の強さは本物です。敵わぬ魔力の持ち主と対なる異名を持たされるのは恥辱でしかありません』
ワルサーが負けを認めるだなんて…。
私は事実を有りの儘に受け入れているワルサーに驚く。
ヘプタグラム初代城主であるドウコウに対しては負けを認めなかったと言うのに。
黒マジョさんってそんなにも魔力が強いのだろうか?
「聞けば白マジョは今は清楚巨乳天使ちゃんを侍らせているっつーじゃねーか。クソ、マジでどんだけ人生勝ち組なんだよ!清楚で巨乳でそのうえ天使を自由に出来るとかくっそエロ過ぎんだろぉ!」
両手の五指を忙しなく動かして見せながら叫ぶナスポクの言葉に私とマリルドといすずの3人は嫌悪を示す。
…改めてウーターニャをこの國に連れて来てなくて良かったと思った。
「その天使、絶対清楚なんかじゃないわよ。ビッチに決まってる。ワルサーは頂点の國のヘプタグラム城の城主になったって言うじゃない。あの憂いを帯びた美しい子が今は一國一城の主なのよ?その女、ワルサーにすり寄る為に天使になったに決まってるわ。ビッチね、絶対ビッチ。アタシの方がワルサーと並び立つのに相応しいし、その方が映えるに決まってるわ。彼は10歳で子供の國を出國しちゃったからアタシは情報共有魔法で見せてもらった子供の頃のワルサーしか知らないけど…見てよこの美しさ」
瞼に右手の中指の爪を当て、ゆっくりと開けたモウの瞳の中には誰か知らない人の瞳が映り、その中に幼い子供の姿が見える。
遠くから隠れ見た際の映像のようで瞳の中に見える人物は広い画角の端に小さくしか見えない。
どうやら学校で授業を受けている様子を外から観察したもののようだ。
焦点は一気に絞られ、幼いワルサーの顔を捕らえようとする。
けれども見えるのは横顔のみ。
このまま横顔を見させられるだけかと思っていたら、ワルサーの眉が僅かに歪むと次に瞳が動き、そしてゆっくりと顔が正面を向く。
そして映像は終わった。
恐らくワルサーを観察していた人物は、不躾な視線を向けていた事をワルサーに悟られて報いを受けることになったのだろう。
「ん?それ何人から経由してもらった映像?1人?めっちゃ鮮明だなぁ」
必要以上に顔を近付けるモウを遠ざけようとしていると、マリルドが間に割って入ってきた。
「アンタなんかに見せてない!見ないでよ!」
「確かに。マリルドから情報共有魔法で見せてもらったシロハさんの映像はいろんな人の目の形の中にあるから恐怖映像感があったけど、このワルサーの映像はまだ不思議映像の範囲だね」
「いーでしょ。ワルサーを隠れ見る事に成功したヤツを探しだしたの。1月入國区域の子達は皆ワルサーの記憶共有を封じられてるからこれはすっごく貴重情報なのよ」
悪びれる様子もなく盗撮された過去の情報共有魔法を自慢するモウ。
ナノノには自分の瞳が見られないようにしていることから、配置場所を代わってくれないと言ったナノノに対するモウの怒りはまだ消えていないことが分かる。
「え?記憶を封じれてるの?マリルドも?」
「知らなかったな。ワルサーの映像を共有しようと思ったことなんかねーもん」
『こんなものが出回っていたとは…この元女と共に燃やし』
「無許可での魔法の使用は自重してくれる約束でしょう?」
『…はい』
面白くなさそうに答えるワルサーを他所に私はモウの瞳に映っていた幼いワルサーを思い返す。
どうやら子供の頃から私とワルサーは同じ顔立ちをしていたらしい。
まぁ、髪色も違えば顔付きも大きく異なるのだけれど。
子供時代の私は写真を撮られていることがどういう事なのかが理解出来ておらず、どの写真でもぽやぁーと惚けた表情を見せていたが、盗撮された映像のワルサーは子供ながらに色気が漂い、知的さも感じさせる。
悔しいが美しい。
『イサナ、幼少気の俺に見惚れていましたね』
「うん…」
そんなわけないと否定したかったが、それでは嘘になる。
そう思った。
翌朝、朝食に涼しげな珍しい麺類を口にするナスポクのことをいすずが羨ましげにじっと見詰める。
「…食う?」
熱視線に気付いたナスポクが口に運びかけていた箸を止め、少しだけいすずに向けて差し出す。
「いや、いい」
いすずは慌てて自分で取り出した昆布入りのおにぎりを口に入れた。
私はおにぎりを頬張りすぎて頬がぱんぱんに膨らむいすずと、ほんとにいいのか?オレ食っちまうぞ?と確認するナスポクを交互に見る。
ナスポクはブスだ何だと難癖を付ける割りにはいすずに対しては少しだけ優しい気がする。
もしかしたらいつだって下らない事で笑い転げているいすずは虐めとは無縁だと感じ取れているのかも知れない。
『イサナも虐めなどしていないではないですか』
どうかな。
私はモウのことを何度か避けてしまったからね。
虐めをしていないとは言えないかな。
『それは俺に無遠慮な好意を寄せるあの下卑た元女から身を守る為でしょう?』
「知らない」
『…御意』
あ、その返事。
もうしないと思ってたのに。
ねぇ、何なのその言葉遣いって。
『イサナは天の邪鬼ですからね。本音を隠していることを承知しましたと言う意味ですよ』
「な、にそれ!」
隠していた思惑を見抜かれるというのはこんなに恥ずかしいものなのか。
全身が蒸気し熱くなる。
『…へぇ。イサナは優位性を奪われるとこうやって火照るのですね。可愛いな。…いつかイサナの体の自由を奪ってキスをしても?』
「だめ!ぜったいだめ!ばか!」
『言語が幼児退行していますよ』
「ばか!」
唐突に騒ぎ出した私にモウ達3人が冷ややかな目を向けていたが、私に取り繕う余裕はなかった。




