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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
森羅の國編
56/98

56、おたんこなす

 風の絨毯を操るフリケルが三角の猪耳を萎えさせて無気力に空を仰ぎ見る。


「…こんな人数の子供を俺の風の絨毯に乗せるのは初めてだ。遠足へ引率する教師のような気分になるな…」


 仲間を増やしたのはフリケル自身なのだがぼやくのも無理はない。

 侵入者の3人の内の2人は私とマリルドと同じ18歳、残りの1人はいすずと同じ17歳だったのだ。

 若い私達6人の尽きぬ元気と反比例するようにフリケルは疲れを見せているが、苛立ちを見せぬ点については立派だと思う。


 私より背の高い元男性であるナスポクは18歳。

 淡い(すみれ)色の短い髪は癖毛。

 成功の國に移り住むことを目指していると言う彼のミラーレンズのスポーツサングラスが妙に鼻に付く。


『イサナは基本的に男性が嫌いですね』

「嫌いって訳じゃないつもりだけど…」

『俺以外の男が嫌いと言うのは大変結構な事ですよ。いすずやマリルドが男性だったら共に過ごすことはなかったと言うことでしょう?』

「…まぁ…そうかも」

「やだ、なに独り言言ってんの?」


 ワルサーとの会話に割って入ってきた目鼻立ちのはっきりした小顔美人はモウという名の18歳。

 金属光沢を持つ薄黄色のショートカットの髪を持つこの子は美貌の國でほんの少しのコンプレックスを治して来たところだそうで、最終的には羨望の國へ移り住むことを目指していると言う。

 私達3人の容姿に点数を付けるかのような目で眺めていたこの子は何故か私とナスポク以外の者とは会話をしない。

 この子の事もなんとなく苦手だ。


「…そう?独り言言ってたかな」

「ふふふ!やだ、天然ぶったりして。ねぇ、あなた何でスカートなんか穿いてるの?その猿面外してちゃんと顔を見せてよ。その顔立ちなら男になった方がいいと思うわ。似合わない性別を選ぶだなんて変な人ね」


 …なんとなくじゃないな。

 苦手だ。


「ねー、ねー、さっきフリケルのことブタって言ったよね?めっちゃウケたっちゃけど!」


 いすずが話し掛けているのは17歳のナノノ。

 淡いピンクのストレートショートボブは細い猫っ毛。

 幼馴染みであるモウに旅に誘われて共に東に進んで来たのだそうだ。

 丸い眼鏡とか細く可愛い声から想像出来ない毒舌を持つ。


「…だって…ブタにしか見えない…」

「なはははは!」


 しかしその毒舌はいすずにとって新鮮で面白いものであるらしく、何かとナノノに話し掛けている。



 フリケル率いる私達一行の黒マジョさん捜索はワルサーが示した円の外周に等間隔に各員を配備する予定になっている。

 遊戯の國に抜けたいナスポク・モウ・ナノノの3人は東から南西に、美貌の國に抜けたい私・いすず・マリルドは北と西側に配備される。

 フリケルは各員を中心とした半径50㎞圏の外輪を風の絨毯で周回し、眠らされた者の配置場所から黒マジョさんの居場所を絞り込む算段でいる。

 各員の半径50㎞圏内には黒マジョさんが居るとワルサーが示した地点が入るように設定されている。

 6人5組が作る5つの輪はさながら色の三原色の図解のように中心地点で等間隔に重なり合う。

 1時間置きに各員に取られる定時連絡が途絶えればその者が配置された場所の半径50圏内に黒マジョさんが潜むことが判明する。

 もしも私達6人全員が同時に眠らされたのならば黒マジョさんは中心地点に居ることが確実になるのだ。

 黒マジョさんの所在地が発覚した後の対応は森羅の國のフリケルの仲間達で全て執り行うという事なので、誰かが眠らされた時点で私達は出國の星を獲得し晴れて解放される約束になっている。


「南東の地点にはアタシが就くわね」

「じゃあ、オレはその隣の南西の地点にするわ」


 モウとナスポクが即座に希望を出す。


「ナノノにはイサナといすずの隣を譲ってあげる。仲良くなったんでしょう?」

「…うん…」


 モウは如何にもナノノに気を遣って選択を行ったかのような口振りだが、南側に配備されれば遊戯の國へ徒歩移動する距離が短くて済むと分かっていて率先して配置場所を選んだのだろう。

 ナノノもモウの思惑は分かっているようで表情が暗い。


「え、わた達は北なんだよ。ナノノとわた達は隣ってことやん!もう暫く一緒におれるね!」


 嬉しそうに笑ういすずの素直さが眩しい。

 裏表のないいすずの言葉にナノノは照れ臭そうに眼鏡を触る。



 2日後。

 地平線の彼方に太陽が沈む頃、眼下を血脈のように何本もの支流を持つ大河が流れる地点へと辿り着くとがフリケルが私達に声を掛ける。


「モウお疲れ様。間も無く君の配備地点に着くぞ。何かあった時の為に大まかでいいから地形を頭に入れておけ。この付近は棚海(たなみ)を源流とする大河が作る世界随一の大湿地帯だ。ご覧の通りの密林の中に底無し沼と呼ばれる泥濘(ぬかるみ)が潜んでいるから下手に動き回ると遭難じゃ済まないぞ。あぁ、そうだ。ワニ等の猛獣も居るから気を付けろ」

「げ!こんな場所やだ!ナノノ変わってよ!」

「…え…」

「変更は吾が許さん。よし、今夜はここで1泊することにしよう。子供同士仲良く過ごすんだぞ」


 うわぁーお。

 モウとナノノがお互いに背を向け合うこんな剣呑な雰囲気の中、仲良くしろって言われてもなぁ…。

 ナノノに付いてもモウに付いても事を荒立ててしまいそうだし…暫くの間は日和(ひよ)ることにしちゃお。

 卑怯ですまんね。


『まさか。俺としては誰とも親しくしないで居て欲しいくらいですよ。まぁ…不可能だと解っていますがね』


 電車の長座席の背もたれに肘を付くワルサーははらりと顔にかかった長い前髪を溜め息(つい)でにふぅっと吹いた。


 いつものようにいすずとマリルドと共にヘプタグラム城にて夕食と談笑する時間を設ける為に家を呼ぼうとするとナスポクに声を掛けられる。


「お前らさぁ、モウのことハブんなよ」

「…うん?」

「お前ら全員女になるつもりでいるんだろ。モウに嫌がらせをする奴らはいつだって女になろうとしている奴だからな」

「嫌がらせ…?」


 苦手意識はあるものの、嫌がらせをした自覚がないので首を傾げてしまう。


「お前達みたいなブスって可愛い子を見るとすーぐ排除したがるよな。本当に醜いぜ」

『コイツ巫山戯(ふざけ)た事を…!』

「あはははは!」

「なんだよ、そんな(めん)で顔を隠しているってことは容姿に自信がない証拠だろうが」


 ワルサーが怒り心頭の様子だが、私はブスと断言されたことが何故だか可笑しくて堪らない。

 毎日のようにワルサーの賛辞を耳にしていたから新鮮に感じたのかもしれない。


「ごめん、笑ってしまって。ハブったつもりはないけどそう感じたなら悪かったね。だったら今夜は皆で外で夕食を摂ることにしよっか。ただし、モウとナノノの2人が喧嘩しちゃうようであればナスポクが責任もって仲裁をするんだよ」

「おぉ…」


 反論されるとでも思っていたのかナスポクは拍子抜けした様子を見せる。

 モウとナノノに声を掛けると2人共夕食を共にしてくれると承諾してくれた。

 夕食会をすることをフリケルに相談すると密林の上に風の絨毯を漂わせてくれ、そこで食事をすることを許して貰えた。

 火を起こす事は禁じられている為、闇に目を慣らすしかない。

 幸い、夜空には満月に満たないまでも互いの顔を認識する程度には困ることはない月が輝いてくれている。

 各々に空を掻いて食事を取り出し、私達3人は各々が取り出した食事を交換し合う。

 ナスポク達3人は魔法食のレパートリーを増やすことに興味がないらしく、私達が食事をシェアしている意味が分からないようだ。


「食べてみたい物があったらあげるよ」

「ナノノは誰のを食べてみたい?」


 私といすずの2人は口数の少ないナノノの事をついつい優先して構ってしまう。

 そんな私達のこと用心深く監視するナスポクの視線が痛い。


「…あんだよ」


 私達がモウに酷いことをしないか見張るナスポクにマリルドが突っ掛かっていく。


「いや…別に」

「別にじゃねーだろ、このおたんこなす」

「お前…それ、どういう意味か分かって使ってんのか?」

「わかってないと思うのか、この短小」


 マリルドの言葉にいすずが口にしていた食べ物を吹き出す。

 私はいすずの豪快なリアクションを笑いながら水を渡し、落ち着かせようとする。


「なっ…」

「だってそうだろ?成功の國を目指す男はみんなナニが小さいもんなんだからさ。美貌の國でも性器の不具合は治せないって言うし、権力を笠に着てコンプレックスを何とかしようって魂胆なんだろ?」

「やだー!そうだったの!?ナスポクめっちゃキモいんですけど!」


 容赦ないモウの言葉にナスポクが沈黙する。

 庇ってあげたつもりでいた美少女に侮辱されるとは思ってなかったろうな…。


「マリルド止めぃ。ナスポクごめんね」

「うるせぇ、お前がオレを庇うんじゃねぇよ。何だよお前。なんでスカートなんか穿いてやがるんだ」

「えぇー…。なぜに怒りの矛先を私に向けるの?」

「ムカつくんだよ、お前は口元がアイツに似てっからな」

「アイツって誰…?」

「あ、ナスポクも思ってた?イサナってワルサーに似てる気がするのよね!アタシあの人のアンニュイな顔めっちゃ好きぃ」


 モウの口から出たワルサーの名にまたしてもいすずが口にしていた水を吹き出す。


「んなははは!似てるっつーか、半分は本人やし」

「いすず」


 稚児(ややこ)しい事になりそうなので私はいすずにそれ以上は口にしないでと首を横に降って合図する。

 いすずは口を押さえ、それ以上の言葉は漏らさないようにしてくれた。

 幸いいすずの言葉を耳にしたのはナノノだけだったようである。


『言っておきますが俺はこんな下卑(げび)た元女も元男も知りませんよ』


 いや…この2人はマリルドと同世代なんだし、ナスポクとモウの2人とも子供の國で一緒に過ごしていた時期があるんじゃないかな。

 にしても猿面を着けているというのにワルサーと似ているだなんてよく分かったな。

 其方(そちら)の方に感心してしまう。

【ちょっぴり補足】


■『さながら光の三原色の図解のように』という表現について


分かりにくいですよね。

申し訳ありません。

『正円(まん丸な円)を5つ使用した不完全なベン図のように』という表現も考えましたが余計に分かりにくいと思い却下しました。

どう表現していいのか分からず4日を要しましたがこの体たらくです。

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