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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
森羅の國編
54/98

54、猿面

 干し肉を完食したマリルドが口を開く。


「…で?ワタの足の件はどうなった?自己治癒するまでこのままにするつもりか?」

「そうだった!」

「痛そうに見えんけん忘れとった!」

「いや、めちゃくちゃ痛ぇよ?」


 いや、本当に痛そうに見えないんだよ。

 今だって骨折という大怪我を忘れられた事を面白がっているように見える。


「そうだったな。君…」

「マリルド。そっちの黒髪がイサナで、天河石(アマゾナイト)の髪のチビがいすず」

「マリルド、この面を着けるといい。古い物だが生憎(あいにく)吾はこの面しか持ち合わせていない」


 フリケルが壁に飾られていた青く長い獣の毛の(かつら)と一体になった古い猿面を取り外す。

 私達が遊戯の國で購入した複製魔法で大量生産された猿面とは違い、フリケルの青い猿面は美しい杢目(もくめ)の上質な木材を手彫りして作られており、年季のせいか不思議な愛嬌がある。

 その猿面をフリケルは身動きの取れないマリルドの顔に被せてやる。


「なんで面なんか着けなきゃならねーんだ…ぶぇ!くっさ!」

「なははははは!」


 マリルドのリアクションと同時にいすずが吹き出す。


「…古いからな。多少の異臭は我慢しろ」

「外せよ!なんの嫌がらせだ!」

「獣の面を着けるのはピスルリ様の御加護を頂戴するためだ」

「ピスルリ様って…」

「私達が遊戯の國で乗ったあの恐怖のアトラクションの?」

「泣き虫モンキーライドな」


 私といすずとマリルドの3人は顔を見合わせる。

 その名は確か、遊戯の國の泣き虫モンキーライドのイメージキャラクターの名前の筈。

 私達が口にしたアトラクションの名前にフリケルが怪訝な顔をする。


「あの乗り物がまだ存在しているのか?かなり古い物だから正常に作動するとは思えないが…」

「はい?」

「んはは!じゃああの激しい動きって誤作動だったのか」

「わた達が生きてるのって奇跡じゃない!?」

「気の毒だったな。吾が遊戯の國へ使用中止と廃棄を申し伝えておくよ」

「あ、私達が乗った物はこの國の國境上で弾けて消えました」

「弾け…消えた…?そんなにまで劣化したものに君達よく乗ったな」

「え?弾けたのは天使が乗っていたせいじゃないんですか?」

「天使?何故原因が天使にあると思うんだ?」


 私の質問にフリケルが眉根を寄せる。


「森羅の國では無許可での魔法の使用は禁止されているから天使の入國も拒むって聞いたんですけど…」

「治癒魔法は許可されている。天使を拒む理由はない」

「えー…じゃあウーターニャちゃんも一緒に入國できた筈なんだ」

「でも一緒じゃなくて良かったんやない?黒マジョさん捜しに巻き込まれるとこやったんやもん」

「…確かに。迷惑を掛けずに済んでよかったね…」


 私といすずは何とか猿面を取り外そうと(もが)く蓑虫状態のマリルドを見る。


「あ。あの…私達、遊戯の國で猿面を購入したんですけどそちらを被るのではダメですか?」

「土産物の猿面を買ったのか?滅多に売れぬ物だと言うのに」

「え、そうなんですか?」

「いや、勿論土産物でも構わない。元々この國では猿面の着用を推奨している」

「それはピスルリ様の加護を受ける為ですか?」

「その通りだ。よし、家付き虫の召喚を許す。君、縄に縛られたままでも親指を弾くことはできるよな?」


 床に擦り付け(わず)かに面をずらすことに成功したマリルドは丸く鋭い瞳でフリケルを睨み付ける。

 返事はせぬままマリルドは縄の中で指を弾き、手の平サイズのアメリカンバイクに跨がるバイカー風スカルの置物に宿らせた家付き虫を呼び出した。


「あ、468だ!」

「わー、よんろくはちー。かわいいー」


 名前を教えて貰えたこともあり、愛着が生まれた私といすずはマリルドの家付き虫に手を振って歓迎する。


「猿面を」


 そうマリルドが頼むと468はバイクで宙を1周し、猿面を出現させると速やかに立ち去る。


「気のせいか468ってクールやない?」

「うん、今までは淡白な印象を持ってたけど名前の由来を知ったからなんかイケメンに見えてきたよね」

『なっ!あんな家付き虫にまでその様な言葉を掛けるとは…!次に出てきたら燃やします』

「ダメ」


 フリケルは猿面を拾い上げるとマリルドに着けていた古い面と交換してやる。


「君の面だと髪を隠せないな」

「ウィッグもあった方がいいんですか?」

「ピスルリ様が御加護を与えるのは人以外の生き物なんだよ。人と見抜かれたら治癒して貰えない。イサナといすずの2人はこの家で静かに待機していろ。マリルド、君は家の外に出て以降は吾が許可するまで声を発するなよ」

「…もし声を出してしまったら…?」

「ピスルリ様は治癒せず立ち去る」

「げ」

「マリルド、絶対に声を上げちゃいかんよ!?」

「ウィッグも貸してくれ!おっさんの加齢臭も我慢する!」

「…君には2度と貸さん」


 あ、フリケルが加齢臭って言葉に怒った。

 私はそっとフリケルの古い面の臭いを嗅ぐ。

 あー…確かにすっごく臭いけど、これは獣の毛が劣化した臭いだね。

 加齢臭ではないよ。


『ぐ…!臭いと分かっている物を何故嗅ぐのです!』

「あはは!ごめん。左の鼻の穴を押さえてから嗅ぐべきだったね」

「イサナ、シー」


 いすずが口に指を当てて静かにするように促してくる。

 フリケルはまた猪型に姿を変え、マリルドを担いでツリーハウスから出た。

 私といすずは窓からその様子を窺う。


 フリケルは幻海(まほろみ)の岸辺に向かうと湖面に舞い落ちた桜の花筏(はないかだ)が無数に集まる浅瀬にとぷん、とマリルドを横たえた。

 事前に説明もなく腰から下を水中に入れられたマリルドは声を上げそうになったが唇を噛みそれを堪える。

 フリケルが縄に手を添えるとマリルドを拘束していた縄は飛散して消失した。

 縄の下から現れたマリルドの両足には添え木がしてあった。

 そしてフリケルは幻海にマリルドを1人残してツリーハウスへ戻って来た。

 まだ何も起きていない様子に泣き出しそうな程心配するいすずの様子が可笑しくて吹き出しそうになる私の頭をフリケルがぱかんと(はた)く。


「でっ」

『こいつ…!』


 大丈夫だよ。

 今のは私が悪いもん。


『大丈夫ではありません。偶然右側を殴ったから良かったものの、左の俺の頭を殴る可能性もありましたよね?』


 あ、私のことを心配してくれた訳じゃないんだね。

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