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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
遊戯の國編
49/98

49、猫の肉球フレーバーミルクティー

 ウーターニャは空中で身を捻って遊戯の國の上空へと僅かに移動し翼を展開、マリルドは余裕の着地体勢に入る。

 隣を見ると乗り物(コースター)が弾けて消えたショックでいすずは白目を剥いて気絶してしまっていた。

 私は急ぎいすずを引き寄せていすずの頭を包み込むように抱きかかえる。

 いすずを庇うようにして先が鋭く尖った岩にぶつかろうとしている私に気付いたウーターニャが私達の下に滑り込むように飛来して、下方から翼で起こした強い風で私達の落下速度を和らげてくれた。

 そのお陰で私は体勢を整えて柔らかく着地することができた。

 着地と言ったが降り立ったのは地面ではなく、固く重い万年雪の上だ。

 私といすずが降り立った重みで近くに雪に覆われて隠れてたクレバスが深い穴の底に雪を落とす轟音と共に姿を現す。

 慌てていすずを抱いたまま後転し、クレバスから距離をとる。


「た、助かったよ。あり、ありがとう」


 空に向かって逆さに伸びる巨大な剣山か、または氷柱(つらら)かのように無数に連続してそそり立つ尖った岩柱の龍の(たてがみ)の間にふわりと着地したウーターニャに私は礼を言う。


「…お別れの前にケアが必要かしら?」


 私のお礼に対して掛けられたウーターニャの言葉はいすずにだけに向けたものではない。

 がたがたと声と足を震わせる私に対してでもあった。


「いや、こ、これはワルサーの体が怯えて…あ、あれ?み、右足も震えてる?」


 左足はワルサーの体だから震えるのは分かる。

 でも右足もだなんて…。

 私の体が怯えて…いる?

 まさか。


 龍の(たてがみ)を越えて1人先に森羅の國側に着地したマリルドが龍の鬣の隙間からがたがたと足を震わせる私を見て笑っている。

気を失ったいすずには気付(きつけ)魔法を、私には鎮静魔法をウーターニャに施して貰った。

 私の腕の中で気を失っていたいすずは目を覚ますと顔を真っ赤にし、転げ落ちるようにして私から離れる。


「うん、いすずはもう大丈夫ね。…イサナは…本当は高い所が苦手なんだと思うわ。高層ビル程度の高さならなんとか我慢できちゃうんでしょうけれど…私と空を飛ぶ時の高さには怯えていたでしょう?」

「いや、誰だってあの高さは怖いんじゃない?」

「平気な人はどんな高さだろうと関係なく平気なものよ。本当は怖いのに魔法にも頼らずに耐えてみせているんだからイサナって変わってるなって思っていたのよ」

「あー…。前に私のことを変人扱いしたのはそういうこと…?シスコンのことを言ってるのかと思ってたよ」

「私そんな酷いこと言ったかしら」

「魔法を使いたがらないイサナやいすずのことを変人って思うのは普通のことじゃね?」


 マリルドがニヤニヤと茶々を入れてくる。

 マリルドにだけはそんなこと言われたくないと反論しようとするとマリルドが「ん」と手にしていたペットボトルをぽーんと投げて寄越す。

 龍の(たてがみ)の隙間を上手くすり抜けて飛んでくるペットボトルを慌ててキャッチするとそれは丸くなって昼寝をする猫の形をしたペットボトルに入った温かいミルクティー。


「あ、かわいい。ありがとう」

「だろ?猫の肉球フレーバーのミルクティー。わりと旨いよ」


 そう言ってマリルドはいすずとウーターニャにも猫の肉球ミルクティーを投げて寄越している。

 気持ちを落ち着かせようとしてくれてるのかな。

 前に長いアメリカンドッグをくれたときも私がパニックを起こした後だった。

 この人(マリルド)ってこういう気遣いはスマートだよね。


「わぁ、可愛い。こんなミルクティーがあるのね。しらなかったわ」

「これは羨望の國で売ってたやつだから見た目がかわいいんだよな」

「は…?猫の肉球…?ねこ…」

「いや、人工的に作った猫の肉球をイメージした香りがするだけで本物の猫の肉球をドリップして作った飲みもんじゃねぇから安心しなよ」


 嫌悪感が顔に溢れ出ているいすずを見て皆で笑う。

 するといすずが手にしていたペットボトルがふわりと浮き、長いしっぽ部分にある飲み口の蓋が勢いよく外れ、いすずの口にペットボトルが押し込まれたかと思うと猫の肉球フレーバーのミルクティーが一気に流し込まれた。


「んぐぅ!!」

「ワルサー!」


 いつの間にか左半身の感覚を繋ぎ直していたワルサーが魔法を使っていすずに無理矢理ミルクティーを飲ませている。

 慌てていすずからペットボトルを引き離してやると、直ぐ様ウーターニャがいすずを介抱する。


「約束と違うじゃない!いすずには手を出さないって言ってたのに!」

『俺が約束したのは『手を下さない』です。今回俺が下したのは『天誅』なので約束は反故にしていません』

「屁理屈じゃん!」

「やだ、ワルサーったら。泣き虫モンキーライドが怖すぎてパニックを起こしちゃったのね。うふふ」

「ちげーと思うけど…」


 どうやったってワルサーの行動を良いように解釈するウーターニャにマリルドが冷静にツッコミを入れる。


『俺が左半身の感覚を遮断している隙にイサナに抱かれようとするとは悪辣(あくらつ)だ』

「悪辣なのはワルサーだよ…。いすずごめん」

「あー!びっくりした!でも味はおいしかったぁ。ポップコーンみたいな良い香りやったよ」


 口許に残るミルクティーをぺろりと舐めていすずは笑う。

 しかしミルクティーでずぶ濡れになっていて分かりにくいがその目には涙が見える。

 怖かったのに私に気を遣わせない為に無理して笑っているのだ。


「…てるの助くん、バスタオル貰っていい?」


 てるの助くんから受け取ったバスタオルでいすずを包む。


「イサナはいすずに甘いわね」


 バスタオルごといすずに清浄魔法を掛けてくれたウーターニャはぷくっと頬を膨らませて拗ねている。


「このカワイコちゃんは何を拗ねてるの?」


 私は笑ってほんの少しだけ私より背が低いウーターニャの頭を撫でてやる。


『そうですよ。イサナは稀人に甘い』


 左目にウーターニャの真似をして頬を膨らませるワルサーの姿が映ったが、無表情な上に私と同じ顔でそんなことをされても可愛いだなんて思えるはずがない。

 目の前にこのワルサーの憎たらしい膨れっ面があったなら頬を潰してやっていただろう。


「ワルサーはその顔はしない方がいいと思うよ」

『おかしいですね。世の女性は美形が茶目っ気を見せると大喜びすると言うのに』

「人の好みは人各々(それぞれ)なんだよ。ほら私とワルサーの『可愛い』も違うじゃない」


 ワルサーと会話する私を眺めてウーターニャが溜め息を吐く。


「私、嫉妬なんてしたことなかったのよ。なのに最近はイサナが私以外と親しくしてるのを見ると嫉妬しちゃうの。ねぇ、マリルド。私ってワルサーとイサナのどっちが好きなのかしら?」

「それ…ワタに聞いてんの?」

「そうよ」

「知らねーよ、んなややこしいこと」

「ねぇ、酷くない!?」


 素っ気ないマリルドの返答に恋愛ドラマが大好きないすずが噛み付く。


「いすずだって恋愛の事なんかわからねーだろ?」

「わかるよ!わたは好きな人おったし、失恋だってしたことあるもん!やけん女の子がイサナのことを好きになっちゃう気持ちはよくわかる!」

「え!?」

「ん?」


 突然のカミングアウトにウーターニャだけではなく私まで驚いてしまう。


「いや!わたは女の子になりたいんやし、イサナが男だったらって話だよ!?」

「やだ!それってワルサーのことが好きってことじゃない!?」

「いやいや!ワルサーのことは好きにならんよ!絶対に!」

『この俺を拒絶するとは何様のつもりだ』

「ワルサー怒っちゃダメだよ。いすずもウーターニャちゃんも多分それ、勘違いだよ。ワルサーがたまに使う色んな魔法を私の能力のように受け止めてしまっているんじゃないかな?本来の私は無力なシスコン女だよ」

「うはは!確かに!」


 同意して笑うマリルドとは対照的にいすずがしゅんとする。


「…でもイサナは親切だしカッコいいよ」

「あはは!ありがとう。…ここにいる皆が異性だったら誰と付き合いたいかを考えるのって面白いね。…私が男で、皆が女の子になったら…誰と付き合いたいかなぁ…。ウーターニャちゃんは可愛すぎて、好きになってしまうと私はストーカーに堕ちそうな気がするから自重したい、かな」

『あれだけ冷たく突き放されてもナギちゃんに執着し続けるイサナですからストーカーになる素質はありそうですね』


 凪ちゃん可哀想…でも私はまだ仲良し姉妹に戻ることを諦めない!と宣言し、私は残りの2人と付き合ってみたならばどうだろうかと想像をしてみる。


「うーん、マリルドは腕白(わんぱく)過ぎて落ち着かないし…」

「うはは!イサナには言われたくねぇわ」

「…なんかいすずと付き合うのが1番幸せな気がする」

「……!!」


 全員の視線が私に突き刺さる。


「いや、でも私は女だし。あり得ない話だから…あ!」

「ギーィヤー…!!!」


 いすずがワルサーに()って空高く飛ばされてしまった。


「もしもの話でいすずに酷いことしないでよ!」

『もしも?イサナが本気で望めば性転換は可能ですなんですよ?恋敵になる可能性を秘めた稀人は雲に閉じ込める必要があります』

「望まないっつーの!疑うのなら私は丸坊主にして魔力を全て削ぎ落としていいよ!てるの助くん!ハサミ!」


 私が左手の親指を弾くとてるの助くんが出現し、左利き用のハサミを取り出してくれる。


「約束する!私は私の望みを叶えるための魔法なんて獲得しない!」


 私は白い息を吐いてそのハサミを手にする。

 いや、しようとした。

 けれど左半身の主導権を切られてしまい、手を伸ばすことが出来なくなってしまう。


『…髪を切る必要はないです。イサナを信じます』


 ハサミはてるの助くんに返却されてしまう。

 その代わりにいすずを氷上に降ろして貰えた。

 直ぐ様ウーターニャがいすずを介抱してくれる。

 私は荒くなってしまっていた息を落ち着かせ、鷲掴みにしていた右側の髪の毛から手を離した。


『俺はイサナと違って何をしてでもイサナを手に入れるつもりでいますよ』

「…あんまり怖いこと言わないでよ」

『俺の愛は甘い狂気だと言うことをイサナが忘れなければ良いだけの話ですよ』

「……」


 こんなに混乱している場なのに暇を持て余して何やら美味しそうな魔法食を取り出して食べ始めたマリルドが憎い。

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