47、クールビューティー凪
ワルサーはこれ見よがしに並んで歩く凪ちゃんの姿を見せてくる。
こんなにじっくりと凪ちゃんの姿を見るのは何年ぶりだろう…。
避けられるようになってから姿を見かけても視認できるのは一瞬だけだったので凪ちゃんの成長した姿をこんなにちゃんと見るのは初めてだ。
2年前に私が家の階段を踏み外し、上段から落ちた際に一瞬だけ顔を覗かせてくれたのだが、大きな音の原因が私だと判ると凍てつくように冷たい視線だけを残して直ぐ様凪ちゃんは自室に引っ込んでしまった。
あの時も感じたのだが幼い頃の愛嬌たっぷりで剽軽だった凪ちゃんの面影が一切ない。
私のせいで人間不審になってしまい、表情が凍ってしまったのだろうか。
「うわぁ…母から聞いてはいたけど美人に成長してるね。マスクをしていても分かるよー。しかも私より背が高くなってる。成長期凄いなぁ。あは、凪ちゃんも吊目になったんだね。でも私と違って目が大きいなぁ。眼力があるねぇ。クールビューティー…というか氷の女王のようなド迫力だね。14歳とは思えない」
『そうですね。俺も驚きました。妹だと聞いていたのにイサナより断然落ち着きがあり、冷静で頭の回転も速い。どちらが年長者かわかりませんね』
「そうなのー。すごくしっかりした子なのー。1度決めたことは必ずやり通す、堅い意思を持った自慢の妹だよー」
『そのナギちゃんからイサナは随分と嫌われていたようですね。俺が初対面した際には沸き上がるイサナに対する嫌悪感をなんとか押し込めようと努力しているナギちゃんの思考が見えましたよ』
「…そう…なんだ…。テーマパークに誘ってくれたとは言え…私にまだ良い感情は持ってなかったんだね…」
『緊張は過去の負の感情を強く引き寄せますからね』
笑顔での再会なるだろうと自分に都合の良い期待していた事に気付かされる。
そんなはずないのに。
私はコロナが流行しているから凪ちゃんの大切なお友達の身代わりにテーマパークに誘ってもらえただけに過ぎないのだから。
嫌われていることを改めて突き付けられてしまい、心がバキバキに折れる。
ショックで口が留守になってしまい、歯磨き粉をだらだらと垂れ流してしまう。
『またしても汚ないことを…!』
「口から涙が出たんだよぅ」
「ねぇ、お姉ちゃん。今夜はお姉ちゃんの家に泊めて貰ってもいい?今日のアトラクションの感想を語りたいし、買ったグッズもお姉ちゃんと一緒に開封したい」
『ナギちゃんが呼んでいますのでこれで失礼します』
「ちょっちょっと!?」
ワルサーから左半身の感覚を遮断され地球の様子が分からなくなる。
「お、覚えてろー!!」
『俺はもう見抜きましたよ。イサナはなんだかんだで俺の体を故意に傷付けるようなことはしないですよね。馬鹿優しいですから』
「悪口ひどい!替わってよ!」
『お断りします』
地球の様子を見せて貰えなくなった私は今日のワルサーの記憶を読むことにする。
ワルサーは地球の時間を動かす前に私の顔に丁寧にメイクを施してくれており、久し振りに対面した凪ちゃんはその美しさに息を飲んでいた。
私が嫌っていた気怠げな雰囲気を生かしてたメイクは私をミステリアスに魅せ、穏やかな微笑みは凪ちゃんに程好い緊張感を与える。
「メイク…うまいな…」
そのあとのワルサーの行動も全てがスマートだった。
ワルサーは先ずはコロナ感染防止の為の防護魔法を世界全土の人類に与える。
…1日限定のようだったが。
凪ちゃんとの距離の取り方も上手く、凪ちゃんが求めるときにだけ手を差し伸べてやっていた。
食事の時間の相談も頃良いタイミングで空いているが食べ応えのある屋台の前を通り掛かるように調整し、指を差すだけで合意を得るという見事なやり口。
またワルサーは付近に居るテーマパークの熱心なファンである客の思考を借りてタイムスケジュールも無駄無く組み、凪ちゃんのお目当てであるグランドオープンしたばかりの美少女魔女っ子アニメのアトラクションには已む無くキャンセルする必要が出た客の乗車抽選券を幸運魔法の力で入手して、3度も乗れるようにしてあげていた。
凪ちゃんは事前に私とは会話しないと断言していたというのにワルサーのスマートさに魅せられたのか、2人の間にはごく僅かにではあるが言葉を交わしていた。
心地好いエスコートに凪ちゃんは私に対する印象を好転させてくれたようでお揃いの服を買ってお揃いコーデをしようと誘っていた。
頭に乗っていたキャラクターものの大きな帽子はその時に買ったものらしい。
「凪ちゃんとお揃い!?カップルコーデまでしちゃったの…!?」
羨ましい。
そして悔しい。
凪ちゃんは私が素敵な女性に成長したのだと思って喜んでくれている。
でも…凪ちゃんが好いてくれている私の中身は私ではない。
綺麗になって、聡明になって、頼もしくなって。
ワルサーのお陰で素敵になった私は凪ちゃんと仲良しの姉妹に戻れている。
なのに全く満たされない。
「誰かに憧れて、凪ちゃんが求める素敵な女性になれたとしても…凪ちゃんが好きなってくれるのが私自身でないのならなんの意味もないんだ…」
『…正解』
ワルサーが左半身の感覚を回復させる。
再び視ることができるようになった地球の様子。
魔法の力で車両を1つ増やし1両貸し切りにした電車にワルサーと凪ちゃんの2人は乗り込んでいたのだが、そこで地球の時間は再び止められていた。
車窓の景色は電車の速度に乗って流れようとする瞬間を切り取って静止しており、隣に座る凪ちゃんはテーマパークで撮った写真を見返す為にスマホをスワイプしている途中で固まっている。
『イサナにはイサナのままで居て下さい』
「凪ちゃんに嫌われたままでいろってこと?」
『そんなものは時間が解決しますよ。ナギちゃんの蟠りは時間が経過すれば解れます』
「それっていつ?」
『このペースならば最大で10年後…といった所でしょうか』
「最大で、かぁ」
『未来予知は3代目に禁術にされているので正確な時期は俺にも調べる術はないんです』
「3代目め!」
もしかしたら…ヘプタグラム城の初代城主であるドウコウならば禁術にされる以前に未来予知魔法を獲得しているかも知れない。
けれどドウコウに未来を予知して貰うようお願いするのだとしたらルールの希望でてるの助くんに保管して貰っている通話魔法石に手を出すしかない。
そんなことは出来ない。
それに…。
未来余地で凪ちゃんの気持ちの整理が着く日を知ってしまったら私は安心してしまってまた元の嘘つき人間に戻ってしまう気がする。
未来の自分以上に信用ならない人物はいない。
だから…先の事は分からないままでいい…よね。




