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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
遊戯の國編
46/98

46、奪われたテーマパークデート

 酒宴の街を一気に横断する為に汽車に乗り込んだ。

 そこまでは覚えている。

 しかし気が付いたら遊園の草原駅に到着していた。

 移動途中の記憶がさっぱりない。

 混乱する私にいすずが教えてくれる。

 酒宴の街に差し掛かるなり汽車の中にまで入ってきた酒の香りに、祖父に似てお酒に弱いらしい私は酔っ払ってしまったらしい。

 突然上機嫌になりクスクスと笑い出したかと思うと、睡眠不足も祟って、気を失うように眠ってしまったそうだ。

 意識が落ちてしまった叶球(ウィクト)の体にはワルサーが入り、終始マリルドといすずの2人を睨み付け威圧し、汽車での移動は非常に雰囲気が悪いものになっていたことも知らされる。


「この人、ワルサーのことを揶揄(からか)ったりするけん、汽車を爆破されるんやないかってずっとヒヤヒヤしたとよ!」

「大丈夫って。あの潔癖が乱痴気騒(らんちきさわ)ぎの酒宴の街中に身を置きたがるわけがねぇもん。汽車がぶっ壊される事はまずねぇよ」


 そう言うマリルドは私といすずの背後に回り込み、ワルサーの視界から抜け出して魔法での攻撃を避けているのだからしっかりしている。


『…このチビに雷撃を行いますので視認し照準を合わせて下さい』

「ダメ。そういう魔法の使い方は嫌よ。言葉で売られた喧嘩にはスマートな言葉で応戦して勝つ方が格好いいと思うよ」


 私にはできないことだけど、とは言わない。


『それがイサナの愛を獲得する条件なのでしたら精進します』

「好感は持てる、かな」

『その程度でしたらイサナ以外の者と対話する気は起きません』

「…じゃあ会話はしなくていいから、攻撃もしないでくれる?」

『イサナが他人と共に過ごしている間は約束は出来かねます』


 左目に見えるワルサーはそっぽを向いてしまう。


 私にぼっちになれと言いたいのだろうか。

 こんなに楽しい旅路を独りだけで過ごせと?

 私は(むし)ろメンバーを増やすつもりでいる。

 その為にも遊園の草原に到着した私達は敷地(エリア)内に入らないまま、駅の階段でまず最初に本気のじゃんけんを開始する。


「ちょっと待って!1回勝負!?3回勝負!?」

「1回に決まってるよ!」

「ねぇ、こういうことってじゃんけんで決めるものやなくない!?」

「せーの、じゃんけんぽん!!!」

「よし!」

「あ…」

「あり得んっちゃけど!?」


 私達がじゃんけんにこんなにも必死になっているのには理由がある。

 成功の國で別れたウーターニャを呼び出して何とか一緒に遊園の草原で一緒に遊べないものかと考え、それを実行しようとしているのだ。

 治癒を必要としない人間に尽くしてしまうとウーターニャは天使の資格を剥奪されてしまう。

 ならば治癒が必要な状態を作り出せば良いのだ。


「がーんばれ、がーんばれ」


 じゃんけんに敗北したいすずが涙目になりながら階段の7段目に向かう。

 故意に負傷する為に。


『イサナ達3人共狂ってる』

「軽い捻挫でいいからね」

「大怪我すんなよ」

「ユー」

「キャン」

「フラーイ!…って飛べるか!」


 いすずが憤慨している。

 まぁ…普通無理だよな。

 身が軽い私か、脚力お化けのマリルドであればまだしも、いすずに意図的に軽い怪我を負うだなんてことが出来るわけがない。

 日没後はウーターニャも自由時間に入ることだし、夜まで待つことにしようかと提案し直そうかとした時、いすずの代わりにマリルドが階段を飛び降りた。

 しかし魔法で向上されたマリルドの脚力は着地の際に階段下のタイル張りの床を踏み抜いてしまう。


「!」


 崩壊した床からマリルドが這い出る。

 割れたタイルが刺さってしまったらしい両足からは(おびただ)しい出血。


「マリルド!」

「ティッシュ!?こういうときはティッシュなの?」

「やべぇ、派手に怪我してしまった。どうして怪我したのかウーターニャに聞かれたらワタは何て答えたらいい?」

「は?」

「そこ?」


 しかしマリルドのお陰で私達はウーターニャを呼び出すことに成功する。

 同じ遊戯の國に待機してくれていたウーターニャは僅か5分で駆け付けれくれた。

 大きな傷を不審に思ったウーターニャに故意に負傷しようとしたことを見破られ、3人共しこたま叱られる結果になってしまったが。


「前以て連絡をくれればお休み取ることはできるのよ!?なんで…こんな…もう!おばか!」

「発案者は我らがブレーンのマリルドです」

「ちょ、イサナめ!」

「…マリルドをブレーンに据えた人は誰なの?」


 おっぱいを支えるように腕を組み、呆れ眼で私を見据えるウーターニャの問いにいすずとマリルドが同時に私を指差す。


「イサナが『マリルド天才』って絶賛してました」

「いすず!?」

「冗談のつもりだったのにイサナが乗っかってきたのからやってもいい事なんだと思ってしまいました」

「マリルド!?」

「この2人と一緒の時にイサナはふざけちゃダメなのよ!イサナは猛省なさい!」

「ごめんなさい!」

『叱られて当然ですよ。本気ではなかったとはいえ、冗談の度が過ぎています』

「ごめんだよー!」


 正座をさせられる本気の説教を食らってしまい心底凹む。


「でも誘おうとしてくれたことはすごく嬉しいわ。私はストイック過ぎるみたいで遊びに誘ってくれる人なんて今まで1人もいなかったもの」


 ウーターニャはとびきりの笑顔を見せたのだが、その瞳の端に涙が光る。


「…現実でこんなに可愛く泣く子を初めて見たわ…」

『イサナは鼻を真っ赤にして鼻水垂らしますからね』

「それが普通なんだよ」


 ウーターニャの可愛い涙に言葉を失う私といすずとマリルドの3人。

 そんな私達の耳に陽気なメロディが届く。



 泣き虫な男の子

 瑠璃色の男の子

 言葉を持たぬ子とお友達

 てんとう虫に、葉っぱに、お花

 魚に、龍に、それから赤ちゃん

 お困り事はあの子に言って

 僕らが助けに行くからね

 お水がなくなり守れぬ約束

 怒った神様全て燃やした

 あの子は泣いた

 わあわあ泣いた

 泣いて泣いて泣いていたら

 あの子の体は雲になったの

 さあさ、神様の火が戻らぬように

 泣き続けてよね、優しい泣き虫



 風に乗って聴こえるポップなメロディに反して非情な詞の不思議な歌にいすずが浮き足立つ。

 ウーターニャがいすずの手取り微笑む。


「行きましょうか」

「遊んでくれると!?」

「えぇ。今日はお休みしちゃうっ」

『遊ばなくていい。イサナに速やかに叶球(ウィクト)を横断するように言ってくれ』

「やだもーん。遊ぶもーん」



 絶叫系を中心に思い切り遊び倒しながら北上する。

 いすずの目と私が使っている左半身の五感を受け取ってしまうワルサーは30分程耐えていたが恐怖で失神しかけ、左半身の感覚の伝達を遮断してしまった。

 それは私の左半身の感覚にも影響し、地球の様子を窺い見ることができなくなってしまう。


「…地球の体に変なことしてないよね?」

『体調を万全に整えずしてイサナの期待に応える愛撫ができる自信はありません』

「…そんなもの1㎜も期待してない…」



 1つのアトラクションを翌日の楽しみに残して夜が更けるまで遊び倒した。

 家を呼び出し夕食を済ませ、いつも通り各々の部屋に別れ就寝支度をしていたのだが、左側の頭部に異変を感じる。


「…ん?」


 歯を磨く手の動きを止めて頭を押さえるのだが、この感触は地球の体が受けているものなので違和感の原因に触れることはできない。


「んんん?」


 左半身の感覚を繋ぎ直して貰えたらしく、左目に地球の様子が映る。

 左の視界に見えたのはキャラクター帽子を被ってご機嫌な凪ちゃんの姿。


「ちょっと…どういうこと!?」

『俺の身を絶叫系に乗せ回した上にイサナ達ばかりが楽しんでいるという現状は納得出来かねたので時間を動かし、イサナに化けて凪チャンとテーマパークに来てしまいました。今から帰宅します』

「…嘘でしょう!?」

『凪チャンも「お姉ちゃん今日は綺麗だね」「お姉ちゃん今日は凄く頼もしいね」と満足そうでしたよ』

「くっ!」

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