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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
遊戯の國編
44/98

44、ガール ミーツ プリンセス

 飛行魔法石をまた貰えることになったいすずはこれで筏でタールの池を越えなくていいと喜んだ。

 けれど飛行でタールの池の横断などさせるわけがない。

 私とマリルドは口を揃える。


「いや、筏で行くよなぁ?」

「うん、筏で行くよねぇ?」

「なんで!?」

『意味がわからない』

「よし、進むぞー」

「やだ降りる!」

「暴れんなって、じっとしてろ。落ちるぞ」


 ロープを挟んで私とマリルドは左右に別れ、中央にいすずを座らせると筏は進み出す。

 タールが吹き上がる間欠泉もマリルドの主導でタイミングを上手く(かわ)して無事に通過してみせるも、小刻みに体を震わせたいすずが文句を言う。


「ねぇ、気を付けてよ!?わたは化石になりたくない!」

「やめぃ。笑わせるなって」

『体を替わって下さい』

「やだ。私が自分で頑張るんだい」

『防護魔法をかけているとは言え、俺の身がこんな粘度の高い池に浸かるだなんて耐えれないです』

「汚れるで済んだらいいけどね。救助が間に合わなかった場合は次に地上に出れるのは化石になった後かもしれないもんね。まぁ、3人…ワルサーの左半身も含めた4人全員の骨が全て化石になる訳じゃないだろうし、4人で1人分未満の謎の生命体に復元されて展示される可能性も…」

「やだやだー!でもっ!その時はめっちゃカッコいいアルティメットモンスターに組み立ててよねー!」

「ぶっ!マジでやめろって!イサナもワルサーと喋んな。いすずは息だけしてろ。落ちるぞ」


 マリルドに叱られて私もいすずも声を出すことを我慢する。

 けれどそれが裏目に出た。

 笑いを堪えなければならないと思えば思うほど、その緊張感がいすずの笑いのツボを(くすぐ)る。

 そしてあと少しで岸に辿り着くという所で我慢は限界を迎え、笑いを爆発させた。

 マリルドが、だ。

 どうやら笑いを必死に堪えるいすずの様子が可笑しくなってしまったらしい。


「ぶは!!」

「嘘でしょ、なんでー!?」


 バランスをほぼ1人で取っていたマリルドが笑い崩れたことで、筏は大きく揺らぎ転覆する。

 足にいすずがしがみ付いてきたせいで身動きがとれないマリルドを尻目に私は2人を裏切って筏を蹴って陸地へと逃げ出す。


「ぎゃー死ぬー!!」

「…裏切ってめんご」

「何がめんごだ、つかタールめっちゃ気持ち悪っ!」


 粘り気の強い黒い池にぬったりと静かに沈み行く2人に言い訳をする。


「ほら、ワルサーを怒らせると後が怖いからさ」

『いい判断です、イサナ』

「…2人のせいだと、ね」


 そう言って私は自らタールの池に飛び込む。

 マリルドといすず2人の救助に向かう魔法で自動的に救助に向かう複数の金属製の触腕を飛び越えて2人の側に着水する。


「へへへ、タールで溺れるだなんて体験してみたいに決まってるよね。うーわ、あはは。ガムのお風呂みたいな感じで思ってた以上に不快だね」

「嘘やろ!?」

「自分から飛び込むなんて…イサナってマゾ気質?」

『チビはイサナのことが分かってない。イサナはエス気質だ。この俺を汚して笑うだなんて性癖が歪んでいます』

「違うし!ひどい言われよう!」


 金属製の触腕が触れると髪の毛から1㎜分の魔力を吸い取られる。

 引き摺り出されるように各々が救助されて行くもタールが尾を引き肌や衣服にへばり付く。


『…こんな(ごみ)のように程度の低い遊具で出國の星を手に入れる人間はイサナ達くらいだと思いますよ』

「え?」


 汚れのせいで見えないが汚れた顔を見せ合って大笑いする私達3人の薬指には既に出國の星が宿っているのだそうだ。


「ねぇ!この汚れどうしたらいいと!?」

「石鹸程度じゃ落ちなさそうだよね」

『この先に異物混入防止魔法の障壁が見えます。伽噺の花畑に入れば汚れは落ちますよ』


 タールの池を越えるとその先には花畑が広がっている。

 伽噺(とぎばなし)の花畑だ。


「私には何も見えない…。目に見えないはずの魔法の気配まで分かるなんてワルサーはすごいね」

『…まぁ、俺は世界最高峰の魔法使いですから。初代の時代には開発されていなかった魔法も俺は持っていますよ』

「あ、初代への対抗意識は消えてないんだね」

『いいえ、俺があんな者のことを気に留める訳がないです』


 自分から初代を引き合いに出してきたのに…と思いはするが口にはしない。

 ねたねたとしたタールを引き摺り歩き、恐る恐る指先だけ伽噺の花畑が始まる地に差し入れると手指に付着していたタールが霧散していく。

 思い切って花畑に踏み入ると体に付着していた汚れは全て浄化された。

 この伽噺の花畑にはこの世界で愛される様々な童話の世界観が魔法で再現されており、登場人物達がそこに生きているかのように動き回る。


「わぁ!なんか可愛いプリンセスがいるぅ。けどこの世界のお伽噺も童話も知らないからどんな話のプリンセスなのかわからないんだよなぁ。わかんないけどすっごいかわいいー」

『すみません、童話は履修していませんでした。このチビ共も童話には疎いようでこの2人の記憶にもあちらのプリンセスに該当する童話の情報はありません』

「いいよ、別に。可愛いんだから目が楽しいもん」

『可愛いですか?これが…?イサナの美しさは(いず)れ伝説になり、童話のプリンセス…いや美の女神(ヴィーナス)として語り継がれることになると言うのにこの程度のビジュアルを称えるとは理解出来ません』

「こんな男顔が愛されるわけないじゃん。男のワルサーならチヤホヤされるのかもしれないけど」

『利かん坊ですね。俺の運命のプリンセスは』

「…んん!?もしかして今私の左手にキスした!?」


 地球にある私の左手の甲に柔らかく温かい感触が触れた気がする。

 ワルサーの発言からしてキスされたと考えたのだが、ワルサーにキスを狙っていた思考履歴はない。


「…ごめん、勘違いだったかな」

『いえ、キスをしました。考えるより先に体が動くとはこういうことなのですね』


 私は口付けされた左手の甲を拭おうとするも地球の左手を動かすことはできず、叶球(ウィクト)の体のワルサーの左手の甲をスカートでゴシゴシと拭う。


『はは、イサナは可愛いな。そんなことをしても俺が捧げたキスは拭えませんよ』

「きぃー!」


 してやられた悔しさに顔を赤くし憤慨する私に童話の小さなプリンセスが近付いてくる。

 美しい花を一輪差し出してにこりと微笑む。


「…かわ…ゆい…」


 これでもかと言うほど白、ピンク、淡い紫の花をみっちりと詰め込んだ花冠を頭に乗せる半透明の(すみれ)色の髪の小さなプリンセスの姿は腹立たしい気持ちを一瞬で忘れさせてくれる程の愛らしさ。


 私は可愛い女の子に熱烈な憧れを持っている。


 もしも私が美少女になれたのならば私の可愛い可愛い妹の凪ちゃんに(かつ)てのように慕って貰えるようになると確信しているからだ。

 私が嘘ばかり教えていた事が発覚した事が凪ちゃんに嫌われる決定打になったことは間違いないのだが、それ以前から凪ちゃんの『お姉ちゃん大好き!』の気持ちが年々減少しているのを感じていた。

 (かつ)ては近所でも可愛いとそれなりに評判だった私が徐々に気怠げで陰気な顔立ちへと変貌してしまったことが大きく起因している。

 そのことを知ったのは親族の中でも断トツの顔の良さを誇る従姉妹の伊都(いと)ちゃんから今度結婚するという連絡を貰った去年のこと。

 楽しみだと目を輝かせて喜ぶ凪ちゃんに母が投げ掛けた「あなたはお姉ちゃんより伊都ちゃんのことが好きね」という残酷な事実の念押しに対し、凪ちゃんは「だって伊都ちゃんは綺麗で可愛いもん。お姉ちゃんは可愛くなくなったからあんまり…」と答えた。

 隣の部屋でその会話を盗み聞きしていた私は愕然とした。

 しかし納得もする。

 凪ちゃんは昔から美少女魔女っ子と童話の美しいプリンセスが大好きなのだ。

 そうか…。

 私が可愛い女の子になったら凪ちゃんは私を好いてくれる可能性が高いんだ。

 凪ちゃんとの冷えきった関係を修復する糸口が見付け、私の心には希望の光が灯った。

 しかし魔女っ子もプリンセスも目指すにしては非現実的過ぎる。

 その為私は現実に存在している、凪ちゃんが愛する女の子伊都ちゃんを目指すことにした。

 その伊都ちゃんが好んでいたのが清楚で上品な女子アナ系ファッションだったのだ。

 まぁ…どう足掻いても私にはこの系統の服は似合わない事は理解したので憧れは憧れのままになのだけれども。


 だというのに今…、童話のプリンセスが私に向かって微笑んでくれている。

 プリンセスから真っ直ぐに向けられる微笑みは自然と涙が滲み出る程の愛らしい。


『そんな安っぽいプリンセスのどこがそんなに良いのですか。虚像であれ、現実であれ、プリンセスだなんて者に魅力はないです。イサナはプリンセスと呼ばれる者共とは比べ物にならない程に価値がある最高の女性です』


 …現実?

 現実にもプリンセスが居るの?

 この世界では支配は禁忌の1つなんでしょう?

 だったら王様なんて存在しないんじゃ…。


『ウーターニャは世間一般からは『プリンセス』と呼ばれる者ですよ』

「…はい?」

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