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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
成功の國編
41/98

41、激うまゼリップル

 鬱蒼とした森の中。

 いすずの短くなったお下げが悄気(しょげ)返った犬の尻尾のように垂れている。


「疲れた?休む?」

「ぜぇー、はぁー、ぜぇー、はぁー…うん、休むー」


 運動神経抜群のマリルド、反射神経は悪いものの疲れ知らずで力持ちの私の2人はついついいすずを置いて行きがちになる。


 下手に成功の國の人間と接触してしまうと面倒ごとに巻き込まれると思われたのでソコラの屋敷を発ってからの2日間、交通機関は利用せずに龍の背の高原を少しだけ下った地点に作られた(ふる)くから細々と使われているという小さな街道を選んで遊戯の國へと移動し続けた。

 私は空を掻いて取り出したお茶をいすずに投げて渡したのだがいすずは受け取り損なう。

 私の真横にいたはずのマリルドが瞬時に移動してペットボトルが地に落ちる前に足先で受け止めて蹴り上げ、キャッチして改めていすずに差し出してくれる。


「ん」

「すごーい!なに今のめっちゃかっこ良くない!?」

「私もしたい、私もしたい」

「うるせぃ、早よ飲めやー。先に進むぞ」

「いすずが休んでる間にマリルドは動物探しに行ってきたら?」

「あ、そっか。んじゃ行ってきまーす」


 マリルドは意気揚々と飛び出す。

 最初はマリルドが歩みの遅い私達の移動に同行するのはいすずが稀人だという事に気付き、いすずに捧げられる魔法石を狙ってのことだと思っていた。

 警戒する私に気付いたマリルドは「ワタは髪が伸びるのは早い方だし、魔力には困ってないよ」と否定した。

 とはいえ、マリルドの髪が延びるペースは1日に1センチ程度とワルサーに比べると大きく劣る。

 マリルドの髪型に変化が見られないのは好奇心が旺盛で、特に食に貪欲なので珍しい食べ物を見掛けたら魔力を惜しまず購入し、直ぐに散財してしまう為なのそうなのだ。

 お陰でマリルドが取り出す魔法食はいつも珍しくて美味しいものばかり。

 日々の生活を楽しんでいるマリルドが私達の牛の歩みに合わせて共に進んでくれているのは単純に私達と一緒に居ると面白そうだと感じて貰えたからなのだろう。

 マリルドは動物が、特に犬が大好きであるらしく、いすずが気配を察知して騒ぐ度に嬉しそうに魔法石を受け取りに走り回ってくれる。


「ねぇ、見て。めっちゃこの子可愛くない!?」

「ギィヤァーーー!!ねこォーーーー!!」

「ホラー映画でしか聴かない叫び声だなぁ…」


 しかしマリルドに動物の対応を任せるとこうして時折可愛い犬猫をいすずの元に連れてきたりするのでいすずの疲労度が高いのだ。

 マリルドはいすずの反応を見て満足したのか腕の中の猫を撫でると、そっと地に降ろして猫を解放してやる。

 が、このマリルドの自分本意な行為にはきちんと説教をする必要がある。


「ダメだっつーの。顔が可愛いとかは関係なくて、いすずは動物の毛むくじゃらなところが苦手なんだから連れてきちゃダメなの。これからは魔法石の受け取りには私が向かおうかな」

「やだ。ワタが行く!」

「じゃあもう連れて来ないこと。…あーあ、マリルド傷だらけじゃない。猫もいすずを怖がらせることを嫌がってすごく暴れたんでしょう」

「痛くねぇもん」


 腕や顔を傷だらけにしてよく言う。

 病気がない世界だから動物に傷を負わされても何の心配もないのだろうけれど、この傷が痛くない訳がない。


「なぁ、この集めた魔法石はまた売んの?」

「うん、そうだね。いすずは何度も魔力耐性魔法を重ねなくちゃいけないからね」

「ねぇ…そもそもさぁ、なんで何の魔法も含まれていない動物なんかの魔法石に値段がつくと?」

「確かに。同じ種の動物を使役できるようになるのは神獣の魔法石だけだってウーターニャちゃんが言ってたもんね」

『…今更ながら疑問を感じたのですか』

「あははー。分からないことだらけだと疑問を感じないってあるあるだよね」

『動物の魔法石の使い方をお見せますよ。体を替わって貰えますか?』

「うん?教えてくれるの?ありがとう。ちょっとワルサーと替わるね」


 事前に宣言して体を交換したところ、いすずがワルサーを警戒してマリルドの陰に隠れてた。


「よぅ、ワルサー」

「その魔法石を渡せ」

「出てきて早々にカツアゲとか!…ごめんなさい!!」


 思わず口にしてしまった言葉にワルサーから冷たく睨み付けられていすずが震え上がる。

 ワルサーがマリルドから受け取った動物の魔法石は15個。

 ワルサーは整髪魔法を解き、今現在の本来の魔力を解放する。

 その髪は腰下にまで伸びていた。

 魔法陣を展開したかと思うと動物魔法石を魔法陣の中に放り込み、自身の髪を15本摘まむと1㎝ほど切り落とす。

 するとその髪は魔法陣に等間隔に貼り付いていた15の動物の魔法石に吸い込まれ、石の色と形が変わった。


「真珠みたい…」


 私が漏らした感嘆にワルサーが微笑んだことが右側に伝わる口許の感覚でわかる。

 ワルサーは再び整髪魔法を使い、私が褒めた短髪に戻す。


「本来ならば人に魔法を譲渡する場合には根本から髪を引き抜いて魔法石を作成する必要があります。しかし動物の魔法石があれば髪の長さを調節して含ませることが可能になるんですよ。この石には飛行魔法を1粒につき1回分ずつ含ませました」

「へぇー、そうやって使うんだね」

「もっとたくさん含ませてくれればいいのに」


 感心する私といすずとは違い、マリルドは不平を口にする。

 ワルサーがきつく睨み付けるがマリルドは一歩も退かない。


「…お前達にもこの飛行魔法石を譲ってもいい」

「え、マジで!?」

「本当?ヤッター!」

「本当に!?前に私達に飛行魔法をかけてってお願いしたらダメって言ってたのに」

『考えを改めたのです』

「信じられない…」

『俺の善意は素直に受け止めるべきですよ』


 本当に善意なのかな。

 何か裏があるんじゃないの…?

 信じられなくて疑いの目で見てしまう。


「その代わりイサナが無茶をして俺の体、つまりこの体の左身に傷を付けることがないように注意喚起を怠るな。イサナは俺の言うことは聞かないからな。お前達は遊戯の國の次は森羅の國へ行くつもりなのだろう。森羅の國の中であの非常識なジャンプをされたら高い木々に引っ掛かってこの体が傷だらけになってしまう」

「え?ワルサーは防護魔法っての使ってるから左側の体が怪我することはないんやなかったっけ?」

「無知が過ぎるな、稀人め。体の宿主であるイサナに拒絶する気がない場合には防護魔法は発動しないからこうしてお前達に頭を下げて頼んでいるんだ」


 いや、ワルサーは頭は1mmも下げてないよ。

 ワルサーの酷い態度と申し出にマリルドでさえも呆れている。


「少しの怪我くらいいいじゃん。幼馴染みの天使(ウーターニャ)がすぐに駆けつけてくれるんだろ?」

「完全無傷の肌と傷付いたことのある肌との差は歴然だろうが」

「ふーん。ワルサーは怪我したことないのか」

「…そのナイフはなんだ?」


 マリルドがにやにやと笑い太股のホルダーからナイフを引き抜き構える。

 マリルドの思惑を見抜いたワルサーも構え、2人は本気の臨戦態勢に入る。


「ええぇー!?ちょっと?」


 いすずが困惑し、顔を青くしている様子が見て取れるので、いすずのためにも私はワルサーを止めることにする。


「はーい。もう交替ね。マリルドごめん、ありがとう」


 女の体に戻ったのを確認してマリルドはナイフをホルダーに収める。


「マジでワルサーはナルシス過ぎるわ。シロハさんとは大違い」

「はー?会ったことないんやろー?」

「ないけどわかりますぅー。シロハさんはナルシストじゃありませんー」

「はー?ナルシストじゃなきゃ写真を撮られるのにあんなポーズとらんって」

「シロハさんの場合はナルシスっぷりもイケメンだからいいんですぅー」


 何故かいすずがマリルドに突っ掛かり始め、馬鹿馬鹿しい口論が始まった。

 睨み合いたいようだが、にやにやと口元から笑いが溢れているのでお互いに面白がっているだけのようだけれど。

 その証に2人同時に吹き出す。


「ねぇ、試しに貰った飛行魔法石使ってみようよ。一気に遊戯の國に行けるかなぁ」

「うわー、飛行魔法とか初めてだわ」

「マリルドも?」

「ワタは情報共有魔法と脚力向上魔法しか取得してないもん」

「それはそれですごいね」


 身体能力向上魔法は使用する肉体が強化されていなければバラバラに引き千切れてしまう為、通常は肉体強化魔法と併せて使用するものなのだ。

 また魔法で向上された身体能力に動体視力、空間把握能力が追い付かなければ使い物にならず、大怪我を負う。

 しかし複数の魔法の取得の為には時間を要する為に、身体能力向上魔法を使いこなせるようになるのは早くとも40代以降になってからだと云われている。

 つまりマリルドは元々の肉体と運動に付随する能力が非常に高いことになるのだ。


『非常識なチビですね』


 …ワルサーに言われたくないと思うよ。


『俺がチビだと言いたいのですか?』


 そんなつもりはなかったけれど…男の子だと14歳で165㎝って小さい方なのか…な…。

 …ん?

 んんん?

 私は左手の人差し指を確認する。


「15!?ワルサー誕生日過ぎてるじゃない!」

『あぁ、本当ですね』

「ごめん!祝ってないね」

『お気になさらず。イサナと共に過ごせる時間の全てが最高の贈り物になっているのですから』

「何?ワルサーの誕生日だったの?いつ?」


 私の言葉にマリルドが反応する。


「1ヶ月前…」

「仕方がないなぁ。祝ってやるか」

「パーティー?パーティーすると?」

『そこのチビ共は飲み食いしたいだけだろう』


 私は急ぎてるの助くんを召喚し、家を呼んでもらう。

 ワルサーと体も意識も繋がっているこの状態ではサプライズだなんてできるわけがない。

 この國の何処かで仕事をしているウーターニャを呼び出し、てるの助くんにお願いをして大食堂に花をたっぷり飾ってもらう。

 いすずとマリルドと私の3人で各々が空を掻きまくり、各々が思い浮かべるご馳走を取り出す。

 私が取り出したのはフライドポテトにアメリカンドッグ等というジャンキーなもの。

 いすずが取り出したのは手間隙がかけられたお節料理のようなもの。

 マリルドが取り出したのは見たことがない食べ物ばかり。


「さすがマリルド…。魔力を費やして色々食べてきてるだけあるね」

「これ何?」


 テーブルの中央にこんもりと盛られたキラキラ輝く卵程の大きさのこってりとした紅さの林檎のような不思議なフルーツを指差していすずが問う。

 いすずが軽く指先で突くとその衝撃に反応するように果実は僅かな時間だけオレンジ色に透けて見える。


「あぁ、それはオレンジ色だからオレンジ味かな。軽く触ると味がわかるよ。緑だとマスカット味、赤だと…リンゴかイチゴかチェリー味のどれか。食べてみなよ。旨いよ」


 そう言ってマリルドは幾つか突いて濃い赤に透けた果実を選んで口にする。

 ぷるりと揺れる果肉に皮ごとかぶり付くと美味しそうに咀嚼する。

 マリルドの美味しそうな食べっぷりに我慢できなくなり、私も緑に透けた果実を選んでかぶり付く。

 ぷるぷると瑞々(みずみず)しく震えるマスカット味の果肉は(しっか)りとした歯応え。

 …これは…この歯切れが良くて、しっかりとした弾力のある楽しい食感は…まるで顎の弱い高齢者と幼い子供に危険が及ぶからと随分と前に販売が中止になってしまった(かつ)ての蒟蒻ゼリー!


「めっちゃ美味しい!!この食感大好きだった!」

「うわー本当だ、美味しいね。食感が楽しーい」

「これ小さい頃大好きだったゼリーに似てるー!危ないからって小さく切ってもらったものを食べててね、大人になったら丸ごと1つ食べてやるんだって楽しみにしていたゼリーにそっくりだよー。今はもう売ってないものだからまた食べれてすごく嬉しい!」

「ゼリップルって言うフルーツだよ。頂点の國の果物屋に売ってたよ」

「ゼリップル最高!」

「やだ、急いで仕事を片付けたんだけどワルサーの誕生日パーティーもう始まっちゃってたのね。遅れてごめんなさい」


 てるの助くんに案内されてやって来たウーターニャがゼリップルに群がる私達3人を見てパーティーが始まっていたと勘違いしてしまった。

 ドレスアップした姿が15歳とは思えぬ美しさを讃えている。


「えーと。始まっては…ないかなぁ」

「試食してただけ」

「そう、お毒味ってやつ」

「…あなたたち3人とも目的を忘れてたわね」

「いやいやいや、そんなぁ。ウーターニャちゃんもワルサーの誕生日忘れてたでしょ?」

「忘れてないわよ。祝いたくてもワルサーが現れてくれなかったのよ」

「おぉー」


 私達3人は流石ウーターニャだと拍手を送る。


「よし、じゃあ体を替わろうか」

『なぜです?』

「なぜって…ワルサーの15歳になったお祝いだよ」

『俺が祝って貰いたいと思うのはイサナだけです。其方に出現する必要性はありませんよ』

「でもこのご馳走には惹かれるでしょう?」

『イサナが口にしてくれれば俺にも味は伝わります』


 そうだった。

 この体の左半身の五感は全てワルサーに伝わっているのだった。

 でもせっかくウーターニャがドレスアップして来てくれたっていうのにワルサーが出てこないというのは…。


「うーん。じゃあ好きなものをプレゼントするよ。何が欲し」

『イサナが欲しい』

「…それ以外でお願いします」

『ではそうですね…』


 直ぐに代案が出せると言うことは最初からワルサーは私がプレゼント可能な物を考えていたな。

【ちょっぴり補足】


■情報共有魔法について


情報共有魔法は『28話 ご利用は計画的に』で触れています。

マリルドは主にシロハさんの動画や映画を観るために利用しています。

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