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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
成功の國編
40/98

40、ワルサーも敵わぬ相手

 いすずの髪を整える日を待ち、成功の國を後にすることになった。

 いすずが魔力耐性魔法を取得したことで体調を崩す心配が減ったことは喜ばしいのだが、これで経過観察も不要となり、ウーターニャにはまた暫く会えなくなるのだそうだ。

 別れる直前にウーターニャは私といすずの2人を呼び寄せる。


「何かあればすぐに駆け付けられるように私は必ずワルサー達がいる國を拠点にするから安心してね。次は遊戯の國ね。また体調不良を起こしたら遠慮せず必ず私を呼び出すのよ?」

「わかったー」

「もうイサナ、絶対よ?それから…いすずが稀人だってことは他の人には気付かれないようにするのよ」

「うん。…あ」


 こっそりと私といすずの2人に耳打ちするウーターニャの背後にマリルドが立っている。


「マリルド今の聞いてたの!?」

「なんのこと?」

「…聞こえてなかったのならいいの。私は一足先にいくわね」

「ハハハ!僕も劇を完成させたら世界ツアーを開始します。何処かでまたお逢い出来る日を楽しみにしていますよ」

「楽しみにしていますね。ソコラさんお元気で」


 飛び立ったウーターニャを私達と共に見送ってくれたソコラは完全に元気を取り戻したようで肌艶が良い。

 彼はドウコウと終日連絡を取り合い、劇のストーリーを練り直している。

 せめて私達だけでもソコラの劇の初公演の日まで滞在して欲しいと言われたがドウコウの武勇伝は長く壮大でいつになれば聞き取りが終わるのかがわからない。

 いつか舞台を観に行くと約束をし、私達は西へと移動することにした。


「あの」


 以前にも増して煌びやかな衣装を纏うソコラが私を引き止める。

 私はすぐに追い付くから、とマリルドといすずに先に歩みを進めるように伝える。


「僕の偉大な祖であるドウコウ様がイサナ様にお礼を伝えたいと仰っておられます」

「私に?」

「君がイサナさんか。なかなか複雑な体になっているそうだな」

「ええ、まぁ。…もしかしてドウコウ様ならこの体を元に戻せるんですか?」

「我が末裔の前で己の未熟さを露呈したく無い故、その件の回答は控えるよ」

『出来ないのだな』


 ワルサー身も蓋もない言葉に私は苦笑いする。


「俺が宇宙に旅に出た後、ガルーザが世界を随分と不便なものにしたようだな。自分が愛弟子に疎まれていたなどとは思いも寄らなんだ。極地での魔法使用と記憶の捏造及び書換を禁じた理由は理解できるが、逆行入國と雌雄二型東西入出國と出國の星未所持出國の3つを禁じたのはこの俺を叶球(ウィクト)に帰還させないためだろうな」

「ドウコウ様を?」

「ははは!それだけ俺が偉大であり、ガルーザにとって脅威であったということだな!」

「ハハハ!流石ですドウコウ様!」

「いやいや。ガルーザの脅威を越えて我が血筋を繋ぎ続けた所以(ゆえ)の存在であるソコラ、お前も誠に素晴らしいよ」

「はハはハはハ!」


 ソコラとドウコウは笑い方も声質も同じなので2人の笑い声は綺麗に重なり合う。

 このお互いに褒め称え合うやり取りをもう何回見ただろう…。


「我が子に託すように頼んでいたゴブレットが城の中で保管されていたとはな…。ゴブレットは遠の昔にガルーザに破壊され、我が血筋も完全に途絶えたとばかり思っていたよ」


 ドウコウは宇宙への旅に出て最初の目的地である月に到着後、子供と連絡を取り合おうとしたのだが一向に応答がなく、不審に思い遠視魔法で確認したところガルーザが突然彼の子供達に手をかけている様が視えたのだそうだ。

 禁忌として不可能にされている殺人をガルーザは自らの身捨て、人智を超越した強大な魔力を持つ魂魄…後に『魔王』と呼ばれる凶悪な怨念だけの存在に変えてそれを実行してみせた。

 ドウコウは慌てて叶球(ウィクト)へ帰還しようとしたが大気圏内に近付くことすら出来なくなっていた。

 様々な魔法を獲得して帰還を試みたがガルーザがどのような条件で絶対禁令魔法を施したのかが分からない為に対抗措置をとることが出来ず、ドウコウは歯噛みして子供たちが次々と葬られていく様子を只管(ひたすら)視続けるしかなかった。

 子供達は死が迫る度に単体生殖を繰り返し、なんとか血筋を繋ぎ続けた。

 時にまだ幼い身にもその必要に迫られながら、ドウコウの子孫達は叶球(ウィクト)にドウコウの血を残すことを選んだのだ。

 しかしガルーザの追跡を避けて子供の1人が地下に潜んで以降、ドウコウの遠視魔法も及ばなくなってしまい行方が分からなくなってしまった。

 ガルーザが滅せられた後、子供は地上に上がって来たのだが1度途切れた遠視魔法を当てもなく繋ぎ直そうとすることは、上空を高速移動するジェット機から特定の蟻1匹だけを捜し出すことと同じくらい困難なことであった。


「ゴブレットが我が子の手にあれば俺の助言でガルーザが君臨した時代は速やかに終息出来ていただろうが…それは(とお)に過ぎたことだな。今、こうして俺のゴブレットはソコラの手に届いた。ゴブレットに我が子が触れれば通話魔法石が生み出されるようになっている。今後も俺の声は子供達に引き継がれていくだろう。これからは子供たちの様子を見守れるよ。君のお陰だよ。感謝している」

「いや、偶然そうなっただけで私は別に何も」

「魔法の頂点を極めたこの俺に聞きたいことがあれば何でも聞いて良いぞ」

「えぇー。いきなりだなぁ。えーと」

『先程のイサナの質疑の回答拒否するような矮小(わいしょう)な者に教えを請う必要はないです』

「何でも良いぞ。ガルーザが恐れた我が魔法の話はどうだ?知りたいであろう」

『偉そうに。イサナ、コイツに己が無力な魔法使いであることを認めさせろ』


 左の視界にワルサーが無表情ながらも青筋を立てている様子が見える。

 うーん、珍しく怒ってるなぁ。

 相手が目視できない宇宙の彼方に居るから流石のワルサーも手出しできず(もどか)しいのだろう。


「あ。そもそもなんでドウコウ様は宇宙に行っちゃったんですか?」

「龍を見たかったんだよ」

「龍?」


 この世界の龍は宇宙からしか見つけられない生き物なのだろうか。

 疑問に思ったのでまた答えをワルサーから与えられる。

 この世界の龍とは大陸そのもの。

 遠い遠い昔、人類祖先でさえまだ4足で歩いていた頃、叶球(ウィクト)に海が生まれ、嘗ての大陸が海の底に沈んでしまった。

 当時この世界に君臨していた龍は巨大な肉体を得てその身を大地へと変えのだと云われている。

 つまり、ドウコウが見たかった龍とはこの星の大陸の全体像のことである。


「ははは!龍を追い求め宇宙へ飛び出す。男のロマンそのものよ!」

「ハハハ!素晴らしいですドウコウ様!」

『お前を排除するためにガルーザが講じた策に乗せられただけでは?』

「あー…」


 確かにその通りのような気がする。

 宇宙に行き、龍の姿を見るという史上初の偉業を達成して来てください!それが出来るのは貴方しかいない!などと言われたらソコラと同じ思考回路を持つドウコウであれば必ず宇宙に飛び出すはず。

 (つい)でに「東向きに宇宙に出ることは容易なのだから西向きに飛び立つと更に箔が付く」とでも良い加えておけば、逆行入国の絶対禁令魔法を施した叶球(ウィクト)にドウコウが帰還することは不可能になる。

 叶球(ウィクト)の自転の影響で帰還する際には必然的に東向きに叶球(ウィクト)に突入することになる為だ。

 念のために更に雌雄二型出國と出國の星未所持出國の絶対禁令魔法をも施せば、ドウコウの帰還は不可能になる。


『単純に初代個人に対して絶対禁令魔法を使うのではなく、複数の禁令魔法を…しかもそれを万人に対して使用することで帰還を防ぐとは2代目は中々良い性格をしていますね』

「ガルーザとワルサーは他人に対して容赦しないところが似てるね」

『お褒めに預り光栄です』


 気が付けば歩みの遅いいすずの姿が地平線の彼方にまで進んでしまっている。

 随分長く話し込んでしまったようだ。


「ドウコウ様。最後に…龍の姿はどうでしたか?」

「ははは!それは宇宙に出た勇敢な者だけの秘密だな」

「えー、何でも聞いていいって言ったのにー?まぁいいや。私、もう行きます。面白いお話をありがとうございます」

「ハハハ!僕は必ずドウコウ様の武勇伝を素晴らしい音楽劇に仕上げてみますよ。その名も『ロード・オブ・ザ・リシア』

「そのタイトルも微妙ですね…」


 だけれどもリシアの名をタイトルに掲げる事にソコラの躊躇(ちゅうちょ)は感じられない。

 自身のルーツに絶対的な誇りを持った証なのだろう。


「ロード・オブ・ザ・リシアはリシアが魔王に向かい立つまで窮地を幾度も凌いで命を繋ぎ続けた我が一族の物語です!3昼夜連続公演の大スペクタクル劇で非常に見応えありますよ!」

「長いですね…。せめて全編で8時間に纏めてあげて下さい」

「ははは!俺の半生を語るのに8時間とは片腹痛い」

『イサナ。体を替わってください』

「ん?うん」


 瞳を閉じて、久しぶりの地球の体に意識を送る。

 地球の体はソファーの上に横たえてあった。

 右側のワルサーの肉体への重力負荷が大きく、体を入れ替えたときに私が倒れてしまわぬようにワルサーがいつも事前に柔らかいソファーに身を横たえてくれているのだと気付く。


「優しいよね。ワルサーは気が利く良い子のはずなんだけど…」


 右目に見える叶球(ウィクト)の光景に意識を向け私は溜め息を吐く。

 ワルサーはソコラの小指に向かって暴言を吐いていた。


「何が『魔法の頂点を極めた』だ。俺が貴様を軽く超えて見せるさ。魔力を失い、叶球(ウィクト)に戻れぬ貴様なんぞ恐るるに足りない。俺が貴種流離譚に新たな物語を足してやるよ」

「ははは!急に生意気になったな。真珠色の髪…お前は6代目だな。我が城の後継者か。青いな。…何事も初めて到達し得た者を超える名声を得るのは容易くないぞ」

「だとしてもだ」

「この平穏な世界で何を成すと言うのだ。しかしまぁ良い。では宇宙からお前ことも見守り、お手並みを拝見させてもらうとするか」

「見るな。イサナを見ていいのは俺だけだ、死に損ないの変態め」


 何が言いたいんだ、ワルサーは…。


「俺以上の人間が居るわけがない。そうでしょう、イサナ」


 ん!?

 何、急に。


「ははは!6代目、さては自分の前に立ち(はだ)かる壁に初めて出会ったな。この俺に魔法で攻撃ができぬのがそんなに悔しいか。仮に俺の姿を星の海の中から見つけられたとしても既に幾多の魔法を獲得済みのこの俺にお前が敵う訳がなかろう」

「黙れ」

「どうだ俺の弟子になってみるか?」

「断る」


 ワルサーは拳をぎりりと握り悔しさを滲ませる。


「俺がNo.1だ」


 あぁ。

 口では大きなことを言っているが、ワルサーはドウコウに敗北していると感じているのだ。

 悔しさの余りに焦りを見せている。

 勉強もスポーツも1番になったことなんかないオール平凡の私には理解できない苦しさなのだろう。

 …励まし…慰め。

 何にも浮かばない。


「ツッ…!」


 ワルサーが強く拳を握り締め、私の右手の小指の爪がバキリと折れてしまったようだ。

 この痛みから察するに爪の先と手の中は出血している事だろう。

 早く止めなくてはいけないのだが、気の利いた一言はどうしても出てこない。

 映画の名台詞でも引き出せないものかと思うのだが、こういう時に頭に浮かぶ作品は「イエスマン」だったりするのだから「YES」以外の言葉が浮かばなくなる。


「『はい』!えーと…私もその会話に混ぜてよ。私もいつかNo.1になってワルサーを負かしたい!」


 ポンコツ過ぎる自分自身が可笑しくて私がへらっと笑うと、ワルサーの力が抜けるのを感じる。


「イサナが俺に勝つ?全ての分野で不可能ですよ」

「ひどいなぁ」

「こちらの体をイサナにお返しします。少し熱くなってしまいました」

「いいんじゃない、たまには」


 私の言葉を無視するように体を入れ替えられ、男だった体が女に変わる。

 左手を確認したが、幸いワルサーの手には傷はないようだ。

 ほっと安心したのも束の間、目の前には怒りの表情のソコラの姿。

 私は思わず身を引く。


「いやぁー、ワルサーはドウコウ様とじゃれ合いたくなっちゃったのかなぁー。ねー、もうヤダー」


 1歩、2歩、3歩と後退し、一気に逃げ出す。


「長い間お世話になりました!」

「6代目がなんだ!無知を(ひけ)らかす愚か者め!ドウコウ様こそが最高最大に偉大なのだ!!」


 ソコラの叫びを背に受ける。

 私は笑いながら返事を叫ぶ。


「それ、ルールさんも同じこと言ってました!」


 ソコラとルールの言葉が見事に重なる。

 彼の、彼らの悲願はきっともうすぐ叶う。

 ドウコウの威光は必ず取り戻せるはずだ。

 だって彼らが崇拝するドウコウはワルサーを脅かすような人物なんだもの。

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