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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
成功の國編
38/98

38、高級レストラン

 翌朝──。

 つるつるさらさらくるくると最高のコンディションのゆるふわな内巻きカールになった髪を引っ提げてソコラの様子を見に行くもまだソコラは食糧庫から出てこようとはしなかった。

 お世話になったというのにこのまま別れてしまうことは出来ないと思い、次の國への出立を1日延期する。

 暫く様子を見ていたがソコラに動く気配がないため彼のことはいすずに任せ、私はマリルドの出國の星獲得に付き添って外出することにした。


「じゃあ行ってくるね」

「うん。大変やと思うけど、マリルドが余計なことをせんようにちゃんと見張ってあげてね」

「いや、大丈夫だっつの」

「逮捕歴が2回もある人がそんなことよく言えるね!」

「2回だけとは言ってねーよ」

「はぁ!?」


 まだ他にも逮捕されたことがあるというのか。

 自警団はあっても警察や司法は存在しないこの世界で何度も逮捕されたことがあるだなんて、この子の迂闊さは並大抵ではないということだ。


「イサナはトラブルに巻き込まれないようにしぃよ!?」

「あはは、わかった。ヤバそうなときは見捨てるね」

「ワタのことをなんだと思ってるんだ」

「わりとヤバい子かもしれないと思ってる」

「うはははは!大丈夫だって」


 快活に笑い飛ばすマリルドだが、この1時間後には街のレストランでトラブルを引き起こす。


 出國の星の獲得に向かったはずなのに、マリルドがまず最初に向かったのは高級レストラン。

 ここで誰かと待ち合わせをしているのかと思ったのだが、成功の國の成り上がり者達が認める美味しい物を食べるだけだとマリルドは言う。

 今後の魔法食のバリエーションを増やすためにも魔力を支払ってでも美味しいものを食べておきたいと考える気持ちは理解できるとしても、こんな立派なお店に予約なしで入れるとは思えない。

 しかもこんなドレスコードが厳しそうな店に私達のラフな服装で入店が許されるはずがない。

 そう思ってマリルドを引き止めようとしていたら陰のような店員がにゅるりと顔を出す。


「…お食事して頂けますよ。宜しければどうぞ」


 とても断れない雰囲気を醸し出す目が全く笑ってない恐ろしい笑顔の店員の誘いもあり、マリルドに付き合って髪の毛を1㎝近く消費することを覚悟して高級レストランに足を踏み入れる。

 どうやらこの店はこの國の民が虚栄(きょえい)()するために利用される場らしく、常に外から訪れた旅人用の席を何席か空けておいてあるらしい。


「お客様の安全のために当店の中では武器一式が消えるようになっております。この店を出ましたら元に戻りますのでご安心下さい」

「あ、ほんとだ」


 確かにマリルドの太股に装着されていたはずのナイフホルダーが丸ごと消えてしまっている。

 着席して直ぐに『これではデートではないですか!』と歯噛みするワルサーの声と共に周囲の客が私達2人を嘲る声が微かに耳に届く。

 マリルドはそんな周囲の声などどうでも良いのか純粋に店の優美な(しつら)えと目にも美味しい食事を楽しんでいる。

 せっかく奮発した食事だし、私も食事を楽しんで今後の魔法食に追加できるようにしようと考え直す。


 魚料理を食べ終えて、口直しのソルベに手をつけようとした時のことだった。

 壁の向こうからごおんと何か大きいものが倒れたような音が聴こえてくる。

 店内に流れる音楽に掻き消されるようなくぐもった音だった。

 聴こえてきた方を見ると店の奥に隠すように設置された扉があることに気付く。

 その扉が僅かに開いたと思うと黒尽くめの男達が姿を現し、喚き騒ぐ1人の男を投げ付けるように放り投げた。

 投げ飛ばされた男は真っ直ぐ私の方に飛んで来る。

 咄嗟に立ち上がることが出来ない反射神経の鈍い私が顔を青くすると、マリルドが察知してくれ直ぐ様立ち上がると座っていた椅子を逆さに持ち上げ、飛んで来た男を椅子の4本の脚の隙間に挟んで受け止めてしまった。


「マリルド凄い…!」

「何なの、コイツ」

「あっちから飛んで来たよ」

「あー…椅子は交換してもらわなきゃダメだな」


 マリルドは男がすっぽり嵌まった椅子を乱暴に床に下ろすと、その椅子に座り直そうとしたのだが大人の体が椅子の脚の間に上手い具合に収まるわけがなく、当然なのだがガタつく。


「いってぇ!何しやがる、ここから出せ!座ろうとするな!吾を誰だと思ってるんだ!こんなことをしても吾は屈しないぞ!ドレイアの暴力行為は必ず記事にしてやるんだからな!」

「記事?」

「うーるせーなぁ。あんたが勝手に飛んで来たから椅子に嵌まることになったんだろ」


 うーん。

 椅子に嵌まることになったのはマリルドの判断に依る処だと思うけれど、ここは黙っていよう。

 しかし何者なの、こいつは。




 ■ヒピロ(47歳)

 性別:男性

 頭髪:磁硫鉄鉱(ピロータイト)

 拠点:淫欲の國

 特殊魔法:虚偽洞察/壁這




 赤茶けた錆びた色の髪の男を見るとこの男が取得している特殊魔法まで読み取れる。


「ん?特殊魔法まで見えてる」

『隠しておきたい者が多い取得済み特殊魔法まで読み取れるようになるとはイサナは俺の思考を読むのが上手になりましたね。俺達は世界一、いや希代の一心同体ですね』

「…一心同体にランクがあるとは知らなかったな」

「ん…?んん!?そこのブツブツ言ってるお前…変装してるみてぇだがその顔…魔法大天守を引き継いだ6代目じゃねぇのか?」

「違います」

「そんな…!その顔は間違いなく6代目…だがこの吾が嘘を見抜けないはずが…!虚偽申告は全て見抜くこの吾の透徹力(とうてつりょく)が曇ったとでも言うのか!?…まさか…ドレイアの仕業か…!?吾のペンの力を恐れたか…!」


 椅子の間から抜け出したヒピロは私の返答に驚愕し震える。

 虚偽洞察魔法で私が嘘を吐いていないことを確認したからなのだろうが、自分の魔法が教えてくれた結果が信じられないヒピロは私の顔を間近で確認しようとふらふらと歩み出てテーブルにぶつかり、マリルドの使っていたフォークを床に落とす。

 私に近付く前にマリルドが分け入ってヒピロの足を力一杯足を踏みつけ、私のことをまたしても庇ってくれる。

 マリルドの靴は鉛入りなので(さぞ)かし痛かろう。


『イサナを守るとは良い心掛けですね』

「いやはや…『思わず守りたくなる可憐な女』になる日が来るとは思わなかったなぁ」

『可憐ではないですが』


 マリルドが侮辱を込めた嘲りの笑顔を見せ、痛いと騒ぐヒピロに不満を吐き捨てる。


「…ペンの力だぁ?ただの出刃亀野郎が何言ってんだよ。テメェは下劣な卑怯者だろーが。人の真横ですかしっ屁こくなや、糞ジジイ」

「ん、なっ!?」

「マジですげぇクセェ。腸も頭も腐り過ぎだろ。なんでこんなクセェおならをかましてそのまま喋り続けられるんだよ。あぁ、口1つじゃ足りなくてケツでも喋ろうとでもしたのか。すげぇな、キモ過ぎ」


 マリルドの言葉を耳にしたボーイ達が慌てて店の窓を開けて回り換気する。

 マリルドは嘘は吐いていないのだと思う。

 私の鼻はワルサー防護魔法の範囲内の為に臭いは届いていないが、周辺の客達の思考が『酷く臭い』と不快を訴えている。

 折角の素晴らしい食事を害されたのだから怒る気持ちはとても良く分かるけれど…。


「マリルドそれ以上はやめてあげて。こちらの方はこの方なりの事情があって今は必死なんだよ」

「事情って何?」

「それは…この方のお仕事にも【終極の願い】にも関係してることだから勝手には言えないけど…」

「構わない!言ってくれ!吾の(こころざし)を知らしめてこの無礼者に詫びさせろ!」


 足の甲を押さえて痛みに苦悶していたヒピロが私にその先を話すように促す。


「言っていいんですか?お仕事に差し支えませんか?」

「構わん!」

「…わかりました」


 私はヒピロの下肢に目をやる。


「あのね…こちらの方はO脚コンプレックスを自信に昇華させたいと強く願っている可愛い御方なの」

「はぁ?」

「…なっ!?」


 だぷりとしたズボンで隠しているがヒピロの脚は大きく湾曲している。

 どんなに強く両足と大臀筋(だいでんきん)に力を入れようとも彼の左右の(ふく)(はぎ)が接触することはないのだ。

 しかし彼はその事にコンプレックスは感じてはいない。

 寧ろその逆だ。

 ヒピロの顔色が悪くなるが私は言葉を続ける。


「滅多にない見事なO脚に誇りをお持ちだからこそ、その真価を理解してくれる醜脚(しゅうきゃく)マニアが何処かにいないかと探し求め続けているの。淫欲の國、受愛の國と流れに流れて今はジャーナリストという仕事に就いてまでO脚マニアを探し求めているロマンチストなんだよ。公人に対する卑劣で執拗なゴシップ探しはジャーナリストとしてステップアップして、より多くの情報を手にするための手段なの。全ては【O脚マニアに出逢いたい】という願いのためなんだよ」

「聞いたことねーよ、O脚マニアだなんて。美脚の反対だから醜脚(しゅうきゃく)マニアか?うわぁ…」


 呆れ見るマリルドの視線に誘われて、私も改めてヒピロの姿を観察する。

 逆三角形のヒピロの上半身は鍛え上げた筋肉で厚く大きい。

 対して下半身は小さく短い。

 ゆったりとしたズボンの中に隠れているヒピロの短い足が大きく歪んでいるのかと思うと…なんだか可愛く見えてくる。

 大きな顔の中央にぎゅっと寄せ集まった顔のパーツも相まって、ヒピロのキャラクターグッズが売っていたならばキーホルダーとフィギュアを購入したいと希望するくらい愛らしく思える。

 自立しなさそうで、ちゃんと自立するヒピロのフィギュア。

 …可愛い。


「えと。私は脚に性的興奮を覚えないのでヒピロさんのお役に立てないですけれど、必ずどこかに醜脚マニアは居ると思いますよ。もしかしたらこのお店の中に居らっしゃるかも。ヒピロさん、皆さんに聞いてみますか?…ん?でも醜脚マニアが名乗り出て来たらヒピロさんの【終極の願い】が叶ってヒピロさんが消えちゃうことになっちゃう…?わ、名乗り出られたら困りますね?わー、どうしよう。ごめんなさい!」

『見事な嫌味ですね』


 嫌味?

 なんで?

 私はヒピロさんを応援してるんだけど…。


 ワルサーの指摘に私が困惑しているとマリルドからだけではなく、周囲からも失笑が生まれている。


 なぜ?


「こ、この悪魔!」

「マリルドのこと悪魔だってよ」

「いやイサナのことだろ?」

「吾の【終極の願い】がそんなものの筈がない!吾は心から【トップジャーナリストなりたい】と願っている!」

「自覚がないのですか?それは『ささやかな願い』ですよ」

「嘘だ!」

「私は嘘は吐かない主義ですよ」

「…お前たち赦さないからな!」

「あらら?」


 (なだ)めるつもりでいたのに却ってヒピロを激昂させてしまった。

 食事の途中だったけど諦めてこの場から逃げるしかないのかな。

 そう思っていたのだけれど…。

 ざわめく店内に挑発するような拍手が響きだす。


「ん?」


 振り返り見ると先程の黒尽くめの男の1人が私の背後で手を叩いている。


「人の弱味を付け狙う者が己の弱味を露呈されるとは笑い種だな。同情するよ。…2度と付き纏わないと確約できるのであれば今耳にした情報が漏れぬように我が主がこの場にいる者全員に口封魔法を施すと仰っておられるのだが…如何なさる?」

「!」

「3秒以内に答えなさい」

「か、確約します!」

「宜しい」


 ヒピロは黒尽くめの男達に連れられて店の奥の扉の向こうへと消えて行く。


『…恥を(いと)わず逃げれば良かったものを。あんな口約束、反古にされてアイツ自身に口封魔法を掛けられて終いだな』

「…そうなの?」

『あの黒尽くめの主とやらが強力な口封魔法の取得者であればアイツは人に情報を伝えることが一切できなくなるでしょうね。会話も筆談も思考読取魔法も全て使えなくなります。YESもNOも伝えられない道を選ぶとは愚かだ』

「そんなことできる人がいるの?こわ。…ねぇ、助けてあげられないの?」

『彼の髪が尽きるまでまだ時間はあるでしょうからそのうち自力で口封魔法を解除しますよ』

「それっていつ?」

『さぁ、いつでしょうね。俺達には関係のないことです』


 関係…あるよね。

 私が終極の願いを漏らしたせいでこうなったんだもの。


『いいえ、関係ありません。ヤツの自業自得です。それよりいいのですか?輝安鉱(スティブナイト)のチビ、1人で食事を再開してますよ』

「え?」


 ざわつきの残る店内で騒ぎを起こした当事者の1人であるマリルドが着席して風に舞う程に薄切りされた白身魚のカルパッチョを口へと運んでいる。

 なんなの、その落ち着きは。

 呆れているとレストランの支配人がやって来る。

 怒声を覚悟したのだが、予想に反して握手を求められる。


「今日は特別なお客様もいらしていたので助かりました。あのような者の侵入を許すとはお恥ずかしい。お食事はサービスさせて頂きます」


 特別なお客様…?

 支配人の視線が先程黒尽くめの男達が現れた扉の方へと向く。

 つまりあの何も書かれていない扉の向こう側にVIP席があるということか。


「やった。だったらAコースに変更して貰えますか。あと温くなってしまったのでこの料理も交換して欲しいです」

「え?」

「喜んで」


 私達が注文していたのは最安値のCコース。

 それを支払いは無用と言ってもらえたから途中でAコースに切り替えさせるというのか。


「いくらなんでも図々しいんじゃない?」

「いや?ワタはちゃんとAコースより上のランクのシェフおまかせコースは遠慮したもん」

「…左様か。じゃあ褒めたくないけど褒めるべきなのかな」


 一緒にいるのが恥ずかしくなるほど図々しいと呆れていたのだが、交換されたソルベからマリルドと同様に私の分までハイランクランクになった食事が届き冷や汗が流れる。

 そっか。

 こういう高級店では同じテーブルのメニューは揃えるものなんだ…。


『このように厚かましいサービスを要求するだなんて…。美味しい店なのにこの店の敷居は2度と跨げませんね』


 ワルサーもそう思うよね。

 あんまりマリルドが堂々としてるから私がビビり過ぎなのかと思ったわ。

 黙々とスプーンを口に運ぶをマリルドの手を見て私は変化に気付く。


「あれ?マリルドの薬指…。あ、私もだ」

「ん?おー、星が出てる」


 このレストランの騒動でマリルドと私は5個の「成」の字が中央に浮かぶ星を手に入れることができてしまった。

 ただのお上りさんの観光がてらの昼食の場で目的を達成出来るだなんて思ってもいなかった。

 私が過ごした11日間は何だったのだろう。


『どうやらあの黒尽くめの男3人組とその主人、そしてこの店の支配人にマリルドとイサナの罵りは支持してもらえたらしいですね』

「えー…あんまり嬉しくないな」

『何故ですか?』

「他人を貶めるようなことすると凪ちゃんに嫌われそう…」

『そんなにナギちゃんに嫌われたくないのですか』

「うん。良き姉になりたいよ」

『そう言う割には淑女になるつもりはなさそうですね』

「私が淑女になれると思う?」

『思いません』

「だよね」


 高級レストランの中でマリルドと共に異質な存在である私が上流階級で求められるような淑女になれるわけがない。

 それに凪ちゃんは淑女になることなんか私に求めていないと思う。

 凪ちゃんが私に求めているのは可愛くて誠実な良きお姉ちゃんになること。

 それは堅実性、謙虚さ、そして柔らかな優しさを(たた)える女子アナウンサーのような人物像なのだと思う。


『なるほど。イサナの容姿コンプレックスはナギちゃんに由来しているのですね。けれど…イサナの様相は女子アナとも随分遠くかけ離れていますよ』


 辛辣!

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