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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
成功の國編
36/98

36、ただの通りすがりが偉そうに

 日中でもネオンのような輝きを放つビルが浮き並ぶ街中を1人歩く。


 この成功の國の國民とこの國を訪れた旅人の違いは分かりやすい。

 (おご)り高ぶるのが成功の國の國民で、(へりくだ)(へつら)うのが旅人だ。

 出國の星が欲しい旅人は心にもないリップサービスでこの國の民を持ち上げる。


「よお、ねぇちゃん。酷く陰気だなぁ。アンタなんかじゃ入れねぇようなイイ店に連れていってやるよ、付いて来い」


 私のことを屈服させたいと考える人間がこうやって声を掛けてくるのだが、もう11日もこの國で過ごしていると彼等の思惑なぞワルサーの力を借りずとも読み取れる。

 下卑た笑いを浮かべる男を蔑む目で一瞥してその場を速やかに立ち去る。


「…んぁー!逃げちゃダメだよなぁ。でも逃げたくなっちゃうんだよなぁ」

『イサナに声を掛けただけで罪に問えますよ』

「だからってまた不運魔法は使わないでね」

『運が良ければ彼が行く店行く店で欲しい物が完売している程度で済むと思いますよ』


 この調子でワルサーは私に悪意を持って近付く者に制裁を下す。

 不運魔法の効果の度合いは人に依るので、ガムを踏む程度で済む人もいれば、髪を失うことになる人までいるという。

 はぁ、と重い溜め息をつき私は空を掻いて飲み物を出す。


「あ…!やったぁ花餅ジュースだ。この國に来てから飲み物は殆んどバナナオレしか出せてなかったから余計にうれしい…!」

『イサナは世界からバナナ好きと思われているのかもしれませんね』


 空間を裂いて取り出すことができる飲食物は使用者が1度口にし、気に入った物がランダムに出てくる仕組みの筈なのでそのうちまた花餅ジュースを飲めるだろうと楽しみにしていたのだがここ10日連続でバナナオレしか出てきてくれず、さすがに嫌になってきていたところだった。

 (ようや)く花餅ジュースを出すことができたのでとても嬉しい。

 しかも成功の國に来てからずっと曇天続きだったのが今日は晴れ。

 すっきりとした青空が気持ちいい。

 うきうきとジュースを口にしてベンチに腰掛けると、向かいのベンチに先程の私と同じくらい重い溜め息をつきベンチに腰掛ける女の子の姿があった。

 気乗りしないように渋々と光る小指を口元に当てると彼女は通話を開始する。


「お待たせしました。ゴネ様申し訳ありません、やはりお荷物をお届けできるのは10日後が最短でございます。ご理解を…はい…。責任者ですか…はい…」


 1度通話を切ると彼女は直ぐ様別の相手に連絡を取り始めた。


「お客様に10日が最短だとお伝えしましたが上の者と話をさせろと言われまして…。はい…はい…。ではせめてあと1日なんとか日程を短縮できませんか?…無理…ですよね。はい、最優先配送指示の赤リボンは付けています。わかりました。お伝えします。はい、私の努力不足です。善処します。何度もすみません…」


 怒りで呼吸が浅くなっている彼女のことが気になるので失礼ながら基本情報及び、思考を読ませて貰う。




 ■プレナ(16歳)

 性別:女性

 頭髪:ぶどう石(ブレーナイト)

 拠点:成功の國




 彼女の電話の相手はクレーマーのようだ。

 彼女は世界旅行者に頼らずに、専門配送員を独自に雇用している有名配送会社で勤めている。

 電話の相手は叶球(ウィクト)の裏側の國への荷物の配送の依頼者なのだが、再三に渡って無理な注文を着けているらしい。

 本来であれば配送には1ヶ月の日程を要するところをプレナの尽力でなんとか10日での配送を可能にしたのだが、それでもまだ納得が出来ぬと依頼者が繰返し嫌がらせのような連絡を入れているのだ。

 プレナは溜め息をつき瑞々しいマスカットのような色の髪を荒々しく掻き上げる。


「こんなことをするために成功の國に来た訳じゃないのに…糞客!糞上司!どうしたらいいのよ…私にはもう何もできないわよ…何も!なんにも!」


 口汚く吐き捨てているが、プレナの瞳には涙が滲んでいる。

 客と上司の異なる指示の間で板挟みとなり、双方に出来ない事をやれと言われ続ける苦しみに悔しさ。

 ぐいと涙を拭うとプレナは大きく息を吸い、再度通話を開始する。


「お客様お待たせし…まし…っ!」


 ぼたぼたと目から溢れ落ちる涙が邪魔をし、プレナは声を紡ぐことが出来なくなる。

 私は立ち上がりプレナの肩を突つく。

 ぱっと顔を上げた彼女に向かって私は人差し指を口許に当てて見せ、静かにするようにと伝える。


『また見ず知らずの人間に手を貸す気ですか…』


 どうなるかわからないけれど、ちょっとね。

 意外とうまく行くかも知れないもの。

 ダメだったら逃げよ。


『無責任な…』


 私はプレナの横に腰を掛け、プレナの手を取り小指を借りて話し出す。


「プレナから代わりましたイサナと申します。お時間を取らせてしまい誠に申し訳ありません。プレナが対応中、(わたくし)の方でも確認を取っておりました。今回ご依頼頂いております遠距離配送には輸送中に終極の願いを叶え消失する心配のない、荷を託すのに信を置ける人材として他國に流出することがほぼない希少な質実の國の民を配送員に選出しております。今回の配送には魔法を使わぬ民の中ながらも最速の移動手段を保有する(いず)れも優れた配送員で各國間の経由便を組んでおりますことを確認致しました。誠に申し訳ありませんがこれ以上日程を短くする確約はお取りすることができません」


 プレナの思考を読み取り現状を把握した私は元々の低い声音を生かして落ち着いた大人の声色を出して彼女の上司に成り済ます。

 ちらりとプレナを見ると驚きはしているが嫌がる様子はないのでこのまま続ける。


「けれど現場の各國に配備された全配送員にゴネ様のお荷物を1番に取り出せるよう倉庫(呼び出す家)の入口の最前列に陳列するように指示を出しております。確約はできませんが、天候に左右されることもありますが何も問題が起きなければ更に1日程度早く子供の國へお荷物をお届けする事が可能となる()()しれません。安全確実に配送できますよう努めますのでご理解を頂けないでしょうか」


 嘘は一切口にしていない。

 上司だと名乗ってもいないし、今私が口にした内容は既にプレナが可能な限りで対策している納期短縮最終手段のことを指している。

 勿論同じことをプレナは再三電話相手のゴネという名の客に伝えているのだが、まだ16歳であるプレナの声が幼いせいか手緩い対応をされていると決め付けて何度も早く荷物を届けろとごねられていたのだ。


「きちんと対策してくれたのだったら良いよ。ありがとう」


 ゴネは私を責任者だと思い込み、会社を上げて対応してくれたと満足して通話を切る。


「…貴女の手を勝手に借りてごめんね」


 私はこんなこと勝手にするのは不味かったかなと不安になり謝罪するとプレナが手を叩く。


「凄い…です!助かりました…。なんであの糞客は納得してくれたんですか?私と同じことを言っただけなのに…」

「私の声が老けてるからかと」

「声?」

「上司が出てきたと勘違いしたんだと思いますよ。ふふっ、ただの通りすがりなのにね」

「そっか…お姉さんは落ち着いた風格のある話し方をしてましたものね」

「邪魔してごめんなさい。貴女が不利になることは口にしてないはずだけど…」

「構いません」

「そ?じゃあついでだし、貴女の上司とも話をさせてくれる?ちょっと気になることがあって」

「気になること…?」


 怪訝そうにするプレナに私は真面目な顔をして言う。


「そ。命に関わるかもしれないからね」

「誰の…ですか?」

「無理にとは言わないけど」

「…どうぞ」


 プレナは小指に息を吹き掛け、上司との通話を繋いでくれる。

 通話魔法に相手が応じた事を私が確認するより早く、相手の人物が不機嫌そうに話始める。


「まぁたお前…。いい加減にしろ!人を頼るな!自力で対処しろと何度言ったらわかるんだ!この愚図!どうせお前が先に要らんことを口走ったせいで客が付け上がったんだ!仕事にお人好しを見せるんじゃねーよ!この偽善者!偽善オナニーで悦ってるんじゃねぇよ。なぁ、吾は間違ったこと言ってるか?あ?反論があるならなんか言ってみろよ?」

「あ、どうも。プレナさんの代理人です」

「あ?代理人!?」

「あ。代理人じゃないか。貴方が今のままだと死んでしまうことをお伝えするためにプレナさんの通話をお借りしたんです」

「…は?んだ急にきっしょくわりィな。糞のような嫌がらせだな。おい、プレナに代われ!」

「戦時中に()いても、平時に於いても、どのような現場であろうとも上司がバカだと死人が出るものだというのはご存知ですか?」

「…あ?吾のことをバカっつってんのか、おい」

「不愉快にさせて申し訳ありません。けれど死人が出るってわかってるのに見過ごすだなんて、私にはできないので」

「あ?プレナが死ぬっつーのか?知らねーよ。死にてぇなら勝手に死ねや」

「いいんですか?貴方…禁忌の『殺人』に抵触しますよ?」

「何言ってんだぶァーか。吾はそいつを殺したりしねぇよ。そいつが死ぬんなら自殺だろォが。吾は関係ねーよ」

「…試してみるんですか?」

「知らねぇよ。やりたきゃやれよ」

「試してみるんですね」


 私の静かな念押しに激しい語気で捲し立てていたプレナの上司である人物が小さく息を呑む。


「今現在プレナを追い詰めているのは貴方です。態度を改めなければ世界の理が貴方に()る殺人を認定するのではないかと思うのですが…」

「…は?なんだそのカスみたいな推論は。『と思うのですがぁ』なんてバカが使う言葉だ!憶測の報告なんていらねェんだよ!バカ!」

「成功の國に真の成功者しかいないのには理由があると思いませんか?」

「は?」

「この國には優秀な人間しか存在しないのでしょう?バカではない貴方なら御自身でお気付きになられるのではないですか?」

「…あ…?あぁ…?部下を追い込んだ出来の悪い上司が消えているっつうのか?はは!そんなバカな話聞いたことねェよ!」

「死人は話しませんからね」

「バカか!自殺だろ?手を下すのは自分自身だろ!?なんでこの吾が裁かれることになるんだよ…!」


 私はこの問いに返事をせぬまま、プレナの手を口元から離す。

 そしてぽかんと口を開く彼女の耳元で「と、私は思ってるって話なんだけどね」と囁いて付け加え、にっと笑って見せる。


『合っていますよ。存外イサナは鋭い視点を持っているんですね』

「存外って…」

『そして中々手厳しい』

「?」

『此処は別名、睥睨(へいげい)の國。仮初(かりそめ)(いえど)も当人が望む(まま)に優位性に浸らせ尽くして、気分の良く世界の理に滅せられるは清福(せいふく)()うもの。()れをイサナは阻んだのです。イサナに(さと)された者は他者を組伏せる快楽と世界の理に触れる憂虞(ゆうぐ)の狭間で今後永く苦しみます』

「…え?」

『ふっ、愉快な事です』

「ちょ、何も知らないまま世界の理に消された方がプレナの上司にとっては幸せだったって…未来永劫苦しむことになるだなんてそんな…。え…ちょっと待って?私が余計な事を言ったせいでこの人が生き甲斐をなくして命を絶つことになったら私たちってどうなんの…?」

『命を救うための行為が他者を害してしまった場合、殺意は認定されず、世界の理に裁かれる事はありません。世界の理の穴ですよ』


 よ、よかったぁー…と安堵する私の衣服がくんと引っ張られ、顔を向けるとプレナが地面を見詰めながら声を震わせて私に今の言葉の真偽を問う。


「お姉さん…今の本当ですか…?私が…命を絶つとゴウーマさん…私の上司が世界の理に裁かれるかもしれないって…」

「あー…。いや、えーと」

「もしそうだったら最高!」

「…え…?」


 プレナが己の小指に向かって叫ぶ。


「最高!最高最高最高よ!因果応報なんて起こり得ないと思ってたわ…!私がこの世から消えたって死に(ぞん)になるだけで私が死んだ後もゴウーマさんは成功の國(このくに)で何事もなく生きていくんだと思ってた…!嘘だとしても構わない。私の命にも人に(むく)いを与える程の価値があるかもしれないだなんて…。ゴウーマさん、どちらが死ぬことになるのか私たち2人で確かめましょう!でもね、すぐには実行してあげないわ。私がいつ自殺するのかわからない恐怖の中、苦しむ日々を過ごせばいいわ…!!」


 そしてプレナは小指に含めていた仕事先と客先の魔法石を取り出すと、地面に叩き付けるように放棄し、踏み付けて粉砕する。


「あ」

「ふふ、うふふふふふふ!あはははは!あー、気持ちいい!あ、お姉さん。私、大丈夫ですよ。今のはちょっとした(おど)しです。ほんとはもう自殺なんて考えてません」

「え?」

「やりたいこと見つけたんですもの。変声魔法を取得して、私みたいに声で仕事や人間関係に行き詰まる人々の手助けをするんです。私、きっと成功するわ!嬉しい!」

「こ、声…?面白い…ね」

「やりたいことさえ見付かればあとは魔力を貯めるだけだし…もうこんな國に住む必要はないわ。変声魔法の獲得にはどのくらいの髪の長さが必要になるのかしら。でも何年かかろうと構わない。お姉さんありがとう!」

「いやなんの」


 礼を述べるとプレナは元気よく立ち去る。

 私はプレナの後ろ姿を見送りながら(ぬる)くなった花餅ジュースをずごごごと飲み干す。

 私…人助けできたのかな…。


『いいえ。1人を助けた振りをして無謀に立ち向かわせて、1人を人生の淵に追い詰めただけです』

「えぇー…」

『イサナは悪くありませんよ』

「うーん…」

『先程の女はイサナのことを30代と見誤っていました。万死に(あたい)します』


 …それは…まぁ、10代でこんな生気のない目をしてる女の子がいるはずがないと思ったんじゃないかな。


『イサナは実年齢が謎めく程に妖艶なんですよ。しかし馬鹿な奴だ』

「悪い言葉だなぁ。なんでそんなことを言うの?」

『先程の成り済ましはイサナがあの者の記憶と思考を読んだからこそ成し得た事。イサナと同じ事をしようとするならば変声魔法の他に思考解読と記憶解析魔法が必要です。凡人が複数の特殊魔法を獲得するなど有り得ない話です』

「いやそれは普通に仕事を受ける際に聞き取りをして対応するつもりなんじゃないの?」

『…あの者、イサナに出國の星を寄越しましたね』

「え!?」


 右手の薬指を見ると確かに出國の星が爪の中をくるくると泳いでいる。

 ワルサーがソコラから貰ってくれた左手の出國の星と合わせるとこれで2つ目。

 これでいすずと共に次の國へ出発することができる。


「わぉ、本当だ!」

『イサナに声を掛けてもらった上に触れて貰ったんだ、もっと謝礼を渡すべきです。そうだな、命を捧げても』

「…私のこと悪魔だと思ってる?そんなもの要らないよ」

『イサナは慎ましいですね』


 私が慎ましいのではなく、ワルサーの思考が悪魔的なだけでは…いや、もう何も言うまい。

 私は手を揺らして両手の薬指に宿っている出國の星を上に下にと泳がせて楽しむ。


「…プレナのことを褒め称えた訳でもないのに…こんなことで出國の星が貰えることもあるんだね」

()の國の民が褒め称えられる事を1番望んでいるというだけの事で、現地の者に恩を売る事が出来れば出國の星は手には入ります』

「そうなんだ…。はぁー、やったぁ。2つ目の出國の星だぁ」


 ようやく手にした2つの出國の星が嬉しくて顔が弛む。

 意気揚々とスキップで私はソコラの屋敷へと向かう。

 左右で飛び幅の違う奇妙なスキップのお陰だろうか、他人に声を掛けられることはない。

 明日には都市部から離れるのだから、街を抜ける前に動物達から集めた魔法石を魔力に替えて貰う為に途中、魔法石屋に立ち寄った。

 しかし私1人では交渉が上手く行くことはなく、魔法石はルールに同伴して貰った時の半分程度の魔力にしかならなかった。


「少ない…けど、いすずが次に魔力耐性魔法を強化できるのは半年後なんだし…少しずつ集めればいっか」

『前回はあの男(ルール)が眼力で威圧して高値で魔法石を買い取らせていただけで、今回の買い取りは相場相応ですよ』

「そっか」


 店を出ると凄まじい怒鳴り声が耳に入った。

 喧嘩だろうか。

 いや違う、小柄な人物が一方的に怒鳴られている。


「お前はまず顔が生意気なんだよ!!」


 あの身長、あの鈍く光る髪、叱責に動じぬ太々(ふてぶて)しい態度…。


「…マリルド!?」

「ん?よぉう、イサナ。また会えたな」


 マリルドは何事も起きてないかのようにこちらに向かってくるけど自分が怒鳴られている最中ってこと気付いてないのかな。

 あ、駄目だ。

 私まで巻き込まれて怒鳴られそうな予感がする。

 他人のフリをして逃げようかと迷っている間にマリルドがぐんと地を蹴り先に走り出す。

 そして私の横を通過する際に「アイツうっせーから逃げるよ」とニヤリと笑う。


「え!待ってよ!」


 マリルドの脚に追い付ける筈もない私は一先ず街路樹の上に飛び乗り身を隠す。

 マリルドに怒鳴り散らしていた人は私のことも、マリルドのことも見失い、近くにある花壇を蹴飛ばして八つ当たりをして去っていった。


「マリルドって成功の國の人と相性悪そうだよね…。私と同じくらい出國の星を得るのに苦労してそう」

『あんな奴を気に掛ける必要はありませんよ』

「んー、でも見知った顔だしなぁ。気になるよ。こんなによく出会うのなら連絡できるように髪を交換していれば良かったな」

『交換していなくて良かったです』


 ワルサーとさっぱり意見が噛み合わないことに苦笑いが出てしまう。

 マリルドと連絡を取り合えないことを悔やんでいても意味はない。

 早々に諦めて再び帰路を急ぐとまたしても怒号を浴びるマリルドに出会う。


「親切に道を教えてやったんだからお礼くらい言いなさいよ!」


 …うん、詳細は分からないけれど道を訊ねたならお礼くらいは言わなきゃかな。

 仏頂面をするマリルドに相手の女性の怒りは増す一方の様子。


「何よその顔は!」

「あの…すみません。私の友人が失礼しました」

「あ、イサナ」

「『あ、イサナ』じゃないよ。あとで説教ね。この子にはキツく言い付けますので御許しください」

「ならいいけど。私も先を急ぐし!」


 そう言って立ち去る女性の背に向けてマリルドは思い切り舌を出す。


「んもー、何をやってるのさ」

「いや、イサナがちゃんと追いかけて来ねぇのが悪いんだよ。もしかするとルールの家に行けばイサナに会えるかもなぁと思って、ルールの家の場所をあのババァに聞いたらあのクソババァがキレ出したんだよ」

「道を教えてもらった後にありがとうは言ったの?」

「……」

「…あの女の人、足が速いマリルドをよく捕まえられたね」

「行動を読まれたっぽいわ」

「ということは言い忘れた訳ではなくて、最初からマリルドにはお礼を言うつもりがなかったということか」

「んはははは!」

「こら」


 ここまで叱ると私も吹き出してしまう。


「あはは!マリルド絶対私より出國の星を貰うのに苦労するよ」

「いや、大丈夫じゃね?」

「マリルドがこんなに早く次の國に来るとは思ってなかったよ。物欲の國にはもう満足したの?」

「いや。なんかまた捕まってさ。もう面倒臭くなってこっち来たわ」

「…は?」

「入手ヶ浜の砂を持ち帰ろうとしたら警備隊に捕まったんだよ」

「マリルドぉー!?」


 この人は1人にしちゃ駄目かも…。

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