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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
成功の國編
34/98

34、いすず(17歳)託児される

「あれは無理ね」

「無理やろー?」

「だよねー」


 帰宅した私達はこの國で出國の星をいすずが獲得することは不可能だろうという結論を出していた。

 2つ目以降に手に入れた出國の星は人に分け与えることができるので、この先は私が1人で街に出て、いすずの分の出國の星も手に入れるように動いた方が良いとウーターニャがアドバイスをしてくれた。


「私も協力したいけど、天使に出國の星は宿らないから…力になれなくてごめんなさい」

「ウーターニャちゃんは何も気にすることないよ」

「なんでわたはあんなに絡まれるんやろ」

「なんでだろうね」

『俺が教えてやったでしょう?』

「不思議だなぁ」

『話を聞け』

「ふふふ」

天の邪鬼(あまのじゃく)め』


 ワルサーの言葉を聞き流していると地球に居るワルサーがそっぽを向いて不貞腐れてしまった様子が左の瞳に見えた。

 いつも鏡越しに正面からこちらを見据えてくるのでワルサーの横顔を見るのはこれが始めてだ。

 思えば自分の横顔は鏡で見ることが出来ないたものなので、これは貴重な体験をしているのでは?と、自分と同じ顔の横顔を眺めて呑気なことを考えてしまう。

 ぼんやりとワルサーの横顔を眺めていると、ワルサーの背中まである真珠色の長い髪の1房がはらりと顔に落ちた。

 それを見て、ふとした疑問が頭に浮かぶ。


 …ねぇ、ワルサー。

 ワルサーは整髪魔法も持ってるよね?

 自分に使ってる?


『いいえ。魔力を少なく偽るのは弱者のする事です。この先も俺は自身に対して整髪魔法を使う予定はありません』


 そうだよねー。

 失礼しました。


 …良かった。

 ワルサーが髪の長さを変えていた場合、いつ地球の体に戻れるようになるのか予測が出来ない。

 地球に戻るための魔法獲得に充分な魔力が貯まっているのに、私との繋がりを絶ちたく無いが為に髪の長さを誤魔化されていたらどうしようかと不安になってしまったが、ワルサーに魔力を偽る予定は無いらしい。

 安心した事を気取られぬように、私は顔に力を入れた。

 けれどこれが失敗であった。

 思考は読まれなかったが、表情を隠そうとしたことがバレてしまったのだ。


『あー…。成る程。イサナ思惑を理解しました』


 ワルサーはそう呟くとぱちりと指を鳴らした。

 途端にワルサーの髪が短く整えられていく。


「あーあーあー…」

『地球に帰りたい気持ちが急いて、俺の髪の伸びを気にしてばかりのイサナに魔力を隠すというのは良い案ですね。有り難く取り入れました』

「なんてこった」

『折角なのでイサナが真似をしたくとも、真似する勇気のなかったSF映画の続編に出てくる美少年と評されている少年の髪型にしてみました。いかがですか?』

「…まあ…うん。よく似合ってる。けど戻してくれないかな?」

『お断りします。今の褒め言葉を貰えたことで髪が伸びるペースが暫くの間は落ちそうです。幸せだ…』

「喜んでもらえたのは何よりだけどさ…。やられたな…。あ、だったらさ。いすずにも整髪魔法をかけてもらうことは」

『拒否します』

「やっぱダメかぁ。でもウーターニャちゃんにはたくさん魔法をかけてあげていたんだもんね。見直しちゃった」

『それはつまり』


 いや、惚れてはいませんよ。

 いくら美少年だとはいえ自分と同じ顔の人を好きになるというのは考えられない。


『イサナはやっぱり天の邪鬼ですね』

「違う、冷静なだけ」


 右目に視認の重点を置き換えると隣でいすずが肩を震わせて笑いを堪えている。

 どうしたのかと尋ねるといすずが吹き出す。


「んなははは!ワルサーに整髪魔法をかけてもらえないか交渉してくれたんやろ?イサナありがとう」

「うん。でもダメだって」

「うん、速攻で断られたんやなって思ってめっちゃウケた」

「んもー、ワルサーったら」


 可愛く頬を膨らませつつ、ウーターニャはどこか嬉しそうだ。

 以前のワルサーは彼女以外の誰かのために魔法を使うことはなかった。

 けれど、ここ暫くのワルサーは魔法を持たない私に対して魔法の使用と獲得を頻発させていたのだから、仕方がない事だと理解しつつも気持ちのどこかでウーターニャら寂しく思っていたのだろう。

 しかし今回ワルサーがいすずに対する整髪魔法の使用を拒否したことで、少なくともいすずよりも自分はずっと特別な存在なのだとウーターニャは認識できたのだ。




 ──翌早朝──。

 出國の星を私1人で集めるために別の部屋で眠るいすずを残してこっそりと家を出る。

 自分の家で寝泊りをしていたウーターニャと合流して2人で出掛ける約束をしていたのだ。


「…いってきます」

「え、イサナ待って」


 ウーターニャが私を制止しようとしたのだがその意図が分からず私は霞む扉を閉めてしまった。

 すると眠ったままのいすずの姿がベッドと同じ高さで空中に現れたかと思うと、重力に従って地面に落下し鈍い音をたてる。


「いったぁ!!」

「もうイサナ!だから言ったのに!外から呼び出した家の扉を閉めたら家から吐き出されてしまうに決まっているじゃない!」

『なるほど。稀人に散々迷惑を掛けられた報復を行った訳ですね。でもまだ手緩(てぬる)いです』

「違うよ!いすずごめん!うっかりしてた!」

「ぷっ、なはははは!ねぇひどくない!?寝起きにこの仕打ちって!」

「んはっ、なんで笑うの?もうやだ私も笑ってしまう。ごめんっ」

「はいはい、治癒魔法をかけたからもう痛くないでしょ。イサナはいすずに気を遣わせないように早起きしてこっそり出國の星を集めに出ようと思ったのよね?」

「ごめんだよぅ。呼び出した家の中には何も残して置けないことを忘れてた」

「んなははは!あー笑ったぁ。もう気にせんでいいよ、ウケたから」


 地に突っ伏して大笑いしていたいすずは痛みが消えたのか頭を(さす)るのをやめて、地面に座り直すと頭や服に土を払わぬまま私のことを見つめてくる。


「…1人で2人分の出國の星を集めに行こうとしとったと?」

「ごめん」

「なはは!いや、それはもう気にせんでいいとよ。イサナは優しいなぁって感心してただけ」

「結果的に睡眠中に家から吐き出させてしまったけど」

「ぶは!めっちゃウケるよね!じゃなくてさ…イサナはさ、わたのこと妹みたいに思ってくれとるんよね?」

「ん?うん」

「んー…まぁいいけど」


 そこまで言うといすずは頬を僅かに染めて言葉を続ける。


「…もしかしてわたが今は無性別でそのうち女になるから恋愛対象外って思っとらん?単一生殖だってあるし、生殖するときにだけ性別を変えちゃえば同性同士でも何の問題もなく結婚できるとよ?」

「…あー!確かに!」

『余計なことをイサナに教えやがって…!雲に縫い付けてやる!』

「え、何を?まさか…いすずを!?雲に縫い付けるだなんてだめだよ!」

「え!?やだ!」


 ワルサーを怒らせたことに気付いたいすずは慌てて私の背後に逃げようとする。

 しかしどたどたと足音だけは景気が良いが、スピードが伴わないいすずの足に任せるより、私が背を向けてやった方が早い。

 わーわー騒ぐ私達を他所にウーターニャは合点がいったと言う様に指先だけで手を叩くと目を輝かせる。


「なるほどね!いすずを街に連れて行けばすぐに人に絡まれるし、だからと言って人気がない場所に潜ませても動物に囲まれてしまう危険があるんだものね。いすずを空に匿ってあげようとするだなんて…ワルサーは本当に優しいわ…!んー、雲に縫い付けるっていう案も悪くはないとは思うけど…雲が帯電していたりすると危険よね。ワルサーにだけに対策を練って貰うのも悪いし、私もいすずを匿っておける場所がないか考えてみるわ!」


 おっと。

 またウーターニャは随分と良いようにワルサーのことを捉えてくれたね。

 ワルサーはいすずのためとかそんなこと親切なことは考えていないと思うけど。


「…あ!そうよ、この國にはあなた達が頼ってもいい人がいるじゃない!あの人ならいすずのことを預かってくれるでしょうし、イサナには出國の星を与えてくれるんじゃないかしら」

「ん?どういうこと?」

「ルールさんのお子さんよ!」

「あぁー。…え…?ルールさんのお子さんって成功の國に住んでるの?私、子供の國にいるものだと思ってたんだけど…」

「うふふ、子供の國に住めるのは15歳までなのよ」

「…ん?てことはルールさんのお子さんっていくつなの?」

「23歳よ」

「年上だったんだ!もっと小さい子かと思ってた」


 私が見たルールの思考の中のルールの子供は5歳くらいの小さな子供に見えていた。

 あれはルールが子供に持っている強いイメージだったということか。

 ワルサーのように記憶領域まで深く読み取る力がない私が他人の思考を読んで得る情報にはどうやら事実とズレが生じるものらしい。

 面白いな。




 いすずはウーターニャから羽衣を貸してもらえたのだが、私の方は相変わらず彼女と腕を組んだ密着状態で飛行移動をさせられる。

 (しばら)く南下すると近未来風の高層ビルばかりが乱立する成功の國にも存在する鬱蒼とした森が見えてきた。

 その森の中にルールの子供の家はあった。

 この世界の建物は相続される度に増築されるというが、石材だけで造られたこの大きな屋敷は古くから世代交代が激しく行われた様で奇怪な程空高く積み上げられている。


「古風なお屋敷やねぇ」

「うん、それにしても随分と高く増築されてるね」

「このすっきりとしない天気のせいかもしれんけどなんか幽霊とか居そうやない?」

「ハハハハ!やだな、築900年以上の屋敷なのでそう見えるかもしれませんがそんなものは居ませんよ。まぁ先日から魔王はいますけどね」

「うわぁ!誰!?」




 ■ソコラ(23歳)

 性別:男性

 頭髪:珪孔雀石(クリソコラ)

 拠点:成功の國

 祖先崇拝者




 あーあ…。

 親子で基本情報を読んでしまった。

「祖先崇拝者」って単語はルールの時にも見たもん。

 この人が息子なんだろうな。

 にしても…。


「誰?この顔も服もめっちゃ派手な人」


 いすずがこそこそと聞いてくる。

 教えてもいいけれど、勝手に思考を読んだと知られて面倒が起きると嫌なので紹介者であるウーターニャを見やる。


「えっと…?」


 しかしウーターニャはまるで心当たりがないような素振りを見せて狼狽えている。


「ハハハハ、やだなぁ僕ですよ。ソコラです」

「ソ…コラさん?なんだかすごく…雰囲気が変わりましたね…?」

「ウーターニャ嬢に『ヘプタグラム城の初代城主の血を引き継ぐ誉れ高き御方』と呼んで頂いた日から私は生まれ変わったのですよハハハハ!」

「ウーターニャちゃんが?この人に?いてっ」


 余計な事は言わないでと言わんばかりにウーターニャに肘で小突かれてしまった。

 でもだって…。

 ウーターニャがこんな人に媚を売るような言葉をかけるだなんて想像できない。

 髪からして宇宙から見た地球のような色合いをしていてかなり派手なのだが、さらにスパンコールギラギラの服に歌劇団のトップスターが背負うような孔雀の羽飾りまで纏う、こんな自己アピールの激しい超ド派手な人に対して言う言葉かなぁ…?

 不思議に思っているとワルサーからウーターニャの記憶が送られてくる。




 それはルールが完全消失する8時間前の出来事。


「長く旅に出ていた1人親がようやく帰ってきたと思ったら…天使を伴って最期の移動を使ってるんだからあの子も驚くだろうな…」


 慣れ親しんだ街の向こうに見える奇妙な姿をした自分の屋敷を見てルールは沁々(しみじみ)と呟く。


「…そうですね。お子さんにはできる限りの心のケアを行うよう心掛けます」


 天使の多くは消失開始した人間達を最期の移動で希望する地へ送り届けた後はその場から速やかに立ち去る。

 しかしまだ若いウーターニャはそれができず今回もいつもと同じように完全消失するまではルールとルールの家族に寄り添うつもりでいた。


 豪快な音を立てて屋敷内に着陸するも誰も迎えにやって来ない。

 もしかするとルールの子供は屋敷を留守にしているのではないか…そう思っているとルールが「あちらへ連れて行って下さいますか」と力が入らず震える手で屋敷の裏側を指差す。

 肩を貸し、連れて行ったのは食糧庫。

 中へ入るように言われるも、最早存在価値が無いからと言う理由で数百年前から家付き虫による管理範囲からも外された食糧庫は(ほと)んど人の行き来も無く廃墟も同然。

 しかし掃除が行き届いていない部屋に寛容なウーターニャはさして気にすることなくルールを担いで進み行く。

 地下倉庫への階段に足を踏み入れると小さな生き物とすれ違う。

 さすがに鼠や害虫は苦手であるウーターニャは懸命に悲鳴を殺す。

 最期の移動を預かった天使が心を乱せば、消失する者の最期の時間を無駄にしてしまう。

 それは決してあってはならないこと。

 ルールに気付かれることのないようにウーターニャは口を堅く結んで涙を流して恐怖と戦う。


 そうして辿り着いた暗く湿った小さな地下室。

 そこにソコラは居た。

 食糧庫と同様にソコラは自身の手入れを放棄している様子で、着衣は劣化し所々が朽ちており、せっかく床にまで伸びた髪も埃を被り、大きな蜘蛛に巣を張り巡らせることまで許していた。


「ソコラ…待たせたな。ヘプタグラム城新城主の6代目様から初代が所有していたゴブレットを賜ったぞ。ほら…ほら…持ってみろ。初代の肖像が彫られた銀のゴブレットだ。吾にそっくりだろう…?」


 動かぬソコラの手を取りルールはゴブレットを握らせる。

 しかしそれでもソコラに反応はない。


「6代目様が吾のことを初代の子孫と認めてくださったよ。ソコラ…お前は間違いなく初代の末裔なんだ。もうこんなところに引き籠る必要はないのだ…!」

「まつ…え…い」

「ソコラ…あぁ、ソコラ…。辛い思いをさせて済まなかった。吾がもっと早くヘプタグラム城を尋ねればよかったのだ!済まない…!」


 ウーターニャはルールの言葉にソコラが反応したことを確認すると治癒魔法と清浄魔法を施す。

 ソコラを覆っていた埃と蜘蛛の巣が晴れ、痩せ細り傷んでいた肉体に張りが生まれる。


「ヘプタグラム城の初代城主の血を引き継ぐ誉れ高き御方、今日は貴方様方の高貴な血を確認した記念日です。今日の陽の光を、今日の空の色を、今日の優しい風を記憶に刻みに陽の元に出てみませんか?」


 ウーターニャはそう言ってソコラに手を差し伸べる。

 するとウーターニャの清い声にはソコラは反応し、ゆっくりと顔を向けた。

 そしてゆっくりとウーターニャの手を取る。

 それからルールが完全消失するまでの間、ウーターニャはソコラのケアをし、ルールが最期の時間を楽しく過ごせるように手を貸した。




「ソコラさん…こんな短期間でよくこんなにお元気になりましたね」

「ハハハ!ウーターニャさんの献身的なケアのお陰ですよハハハ!」

「いや…ウーターニャちゃん、元気にし過ぎじゃない?」


 それだけウーターニャのケアが良かったと言うことだとは思うが。

 ソコラ、変貌しすぎ。

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