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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
成功の國編
32/98

32、雷獣

 ライガーの首元には宝石があしらわれた悪趣味な首輪が装着されている。

 誰かのペットなのだろうか。


『ライガー?あぁ、地球の獣ですか』

「そうだよ。見たことはないけどネコ科で1番大きいんだって」

『残念ながらこれは幻獣の1種である雷獣です。ライガーとは全く似てないですよ』

「えー?私の記憶ではライガーってこんな感じだったけどなぁ」

『イサナは記憶領域から情報を引き出す際に勝手に加工しています。イサナから引き出した正しいライガーの情報をお見せしますよ』

「あ、これこれ!私が前にネットで見たライガーはこれだわ。えー、全く違うじゃん」


 曖昧だった記憶はワルサーに正しく補正して貰うことで私が過去に見たネットの画面そのものの状態で見ることができた。


「恐らくイサナが言いたかったのはこちらのサーベルタイガーの方ではないでしょうか?」

「あ!こっち!でもそれでも全然違うね」


 確かにこうして正しい情報と比較してみると色が全く違う。

 目の前の雷獣とライガーの共通点は体の大きさと大きくて長い2本の牙のみ。

 雷獣の体は毛足がとても長く、全体的に薄い灰色している。

 やや濃い灰色の柄は虎柄ではなく、稲妻のような模様で耳の先だけがライオンのような毛色をしている。

 瞳は優しい緑で優しくいすずのいる方角を見つめている。


「わぁお、ワルサーってAIよりずっと優秀なんじゃない?」

『俺なしでは生きていけなくなるといいですね』

「そうならないように頑張ります」


 ぐずぐずしている時間はない。

 いすずが誰かに見つかってまたモラハラを受けているかもしれない。

 しかし他所様のペットから魔法石を貰うと何らかの罪に問われてしまいそうだ。

 首輪から察するにこの雷獣はお金持ちのところの子みたいだし。

 遠くに逃げて、追いかけることが不可能になればいすずに魔法石を捧げることを諦めてくれるかもしれない。

 …試しにやってみるか。


「ワルサー、私はいすずを抱くからね」

『!?』

「いや、そういう意味の抱くじゃないからね!?いすずを抱っこしてこの雷獣から逃げ回るってこと」

『何故そこまで尽くしてやろうとするのですか』

「なんでって。おもしろいから、かな?」

『他人との接触なんて不愉快なだけですよ』

「うーん。他人との接しないと思いがけないパプニングは簡単には起こり得ないからなぁ。この1年お家時間ばかり過ごしていたし、余計におもしろいことに飢えてるのかも」


 こんな言い訳でワルサーを説得できるはずがないか。

 諦めてプランBを練ることにする。


「…うーん、じゃあ大きなリュックにいすずを入れて背負う?」

『布がすぐに破れますよ。…では反発魔法をイサナと稀人に付与します。そうすれば稀人を持ち上げることは出来てもイサナが触れることはありません』

「飛行魔法石を分けて貰うのはだめ?そっちの方が髪の毛を減らさなくて済むでしょう?」

『俺は飛びたくない』

「じゃあなんでワルサーは飛行魔法を獲得してるの?」


 回答はなかったが、記憶が教えてくれる。

 ワルサーは飛行魔法を獲得し、初めて飛行してみた際に高所恐怖症を自覚したのだ。

 幼い頃のワルサーの悲鳴と泣きべそまで聴こえてくる。


「ははは、ちっちゃい頃のワルサーの声かわいい」

『今の声も良いでしょう』

「甘く囁くのやめて」


 不快感を露に真顔で返すがいすずがいないので私の表情はワルサーには伝わらない。

 雷獣からの逃避方法を話している間に雷獣が車の陰から這い出して来た。

 雷獣は気配を完全に殺しているのか、近くを道行く人にはまだ気付かれていない様子。

 上を見上げたかと思うと雷獣は高く跳び、そのまま空を駆けて超高層ビルの上部に登ってしまい見失う。


「いすずが泣く!」


 急いで戻り、植込みからいすずを引きずり出すと肩に担ぐ。

 雷獣はまだここまでは来ていないようだ。


「え、ちょっと!?」


 いすずが顔を真っ赤にしてジタバタと騒ぐ。


「じっとして。雷獣を追い払えなかったの。逃げるよ!」


 地を蹴り跳ねるがいすずを担いでいる分あまり高くは跳ねない。

 そして着地の際に足に掛かる負荷はいすずの体重分増す。

 痛みに顔を歪めるとパチリと指を鳴らす音。

 途端にいすずに触れる感触がなくなる。


「えっ!?やだこわい!手を急に離さんでー!」

「あー…反発魔法ってこういうこと…?」


 私は確かにいすずを担いでいるのだが、いすずの回りには見えない壁ができたかのようで直に触れてはいない。

 私との間に1㎝程の隙間ができた事でいすずの重さを感じなくなった。

 足が軽い。


「え、何!?」


 先程より軽快に進むようになった私に驚いているようだが説明は後だ。

 逃げる相手は空を駆けることができる雷獣なのだから。


 30分程全力で逃げ続けているとオフィス街を抜けてしまい、高級住宅地のような場所に出てしまった。

 私の右半身はもう汗だくだ。

 こうなると汗を付けてしまわなくて済むのだからいすずとの間に隙間を作って貰えたことが非常にありがたい。


「いすず、まだ、雷獣の気配…感じる?」


 息が切れてしまい、切れ切れにしか喋れない。

 少しでいいから休憩をしたい。


「おる。絶対まだ近くにおる!」

「これだけ、走っても、まだ、追いかけて、来るのかぁ…!」


 そう言って私はベンチにいすずを下ろし、私は大の字になって地面に転がる。

 息が完全に上がってしまっていてもう走れない。

 持久力は地球にいたときと何ら変わっていないのだから仕方がない。


『他人に尽くそうとするからそうなるんですよ。これに懲りたら今後は放っておけばいいんです』

「やだっ!」

「いたっ!?」


 私と同時に声を上げたいすずは頭のてっぺんを押さえて涙目になっている。

 ワルサーが何かしたのかと思ったが、魔法を使った形跡はない。


『俺じゃないですよ?』

「いったー。何か上から落ちてきたー」


 いすずの足元には金色の粒が混入しているのが透けて見える灰色の魔法石が転がっている。

 見上げれば上空に立ち去ろうとする雷獣の姿。


『飼い主らしき者は見当たりませんし、咎められることはないでしょう。獣の本能が稀人に魔法石を捧げようとするので受け取らねば延々と逃げ続けることになりますよ』

「…いすず、雷獣が魔法石をくれたよ。雷獣はまだ見える所にいるよ。お礼を言う?」

「うわー!ほんとにおる!きゃー!きゃー!どうしよう!!見ちゃった!怖い!きゃー!雷獣様ありがとうございます!」


 雷獣は一瞬だけ立ち止まったが振り返ることはなく駆けていく。

 いすずが動物嫌いだと理解しているのだろう。


「はぁー、めっちゃかっこいいー!」

『またイサナは俺以外の者を褒める』

「あはは!私が漫画や映画から得た知見によると嫉妬深い人は男女問わず恋愛に失敗しがちのようだけど」

『撤回します。…ところで良いのですか。稀人が失神しましたよ』

「え!?」


 見るといすずがベンチの上で倒れている。

 声を掛けても目を醒まさない。

 呼吸は浅く、苦しそうに汗をかいている。


「ど、どうしたらいいんだろう」

『ウーターニャを呼べばいいのでは?恐らく初代の子孫の件の時に俺の元に駆け付けるのが遅れたことを猛省して、今はこの國で医療行為を行っている筈ですから』

「何故そう言い切れるの?」

『ウーターニャは俺に尽くすことに喜びを感じていますからね』

「…なにそれ…。気まずくないの?」

『ウーターニャは俺の邪魔にならないようにその辺りは(わきま)えていますから本人のしたいようにすれば良いかと』

「…徹底した俺様至上主義だなぁ」


 徹底した自己愛理論に呆れているはずなのに笑ってしまう。

 けれどワルサーとウーターニャの関係性に助けられているのはこの私だ。

 ウーターニャがワルサーに心酔していなければ天使を頻繁に呼び出すだなんて通常はできやしない。

 ナナツヤだって毒に耐えながら自分からヘプタグラム城を訪れていたのだ。


「まぁ…私も人のこと言えないね。ウーターニャちゃん!」


 開き直ってウーターニャを呼び出す。

 自覚はなかったけれど私もかなり自己中なのだ。

 屋外に居るとまた動物が集まってくる可能性があるのでてるの助くんに家を呼び出してもらい、慎重に頭を揺らさないように気を付けて移動をし、ヘプタグラム城の普段いすずが使う部屋のベッドにいすずを寝かせてウーターニャを待った。




「ふぅ…魔力アナフィラキシーだったわ。私を呼んだのは賢明ね。手こずっちゃったけどいすずはもう大丈夫よ」

「…魔力…アナフィラキシー?あ、これどうぞ」


 ウーターニャが下した診断に首を傾げる。

 私の部屋で作って持ってきたインスタントコーヒーを渡すとミルクと砂糖を所望された。

 砂糖はあるけれど牛乳はないはずだ。


「豆乳でも良い?」

「ソイラテだね。嬉しいな」

「ん。てるの助くん、豆乳と砂糖を私の部屋から持ってきてもらえる?」


 爪でのてるの助の呼び出しもいつの間にか自然と使いこなせるようになった私はお礼を言っててるの助から豆乳と砂糖をを受け取る。

 それをいい加減な分量で加えて味の保証ができないソイラテを作りウーターニャに再度渡す。


「アナフィラキシーって…アレルギー反応の強いやつ?」

「ざっくりと言えばまぁ…そうかな」

「この世界は病気を克服したんじゃなかった?」


 ウーターニャは甘すぎるソイラテに少しだけ驚いたようだが再度口にしてくれる。


「そのはずなんだけど…。いすずは稀人なのよね?特殊な体質の持ち主ってだけのことあって魔法が効きにくいみたいね。私の免疫抑制魔法がなかなか効かなかったもの。ねぇ、ワルサーがいすずにまた魔法をかけたんじゃない?」

「あ…うん」

「だったらそのせいかも。魔法が効きにくい体質のいすずに簡単に何度も魔法をかけちゃうだなんて…流石ワルサーね。私は魔法を重ね続けたからもうクタクタ…」

「…いすず…ごめん…」


 私が雷獣から魔法石を受け取っておけばこんなことにはならなかったんだ。

 私が触れようとしてしまったせいでいすずは魔法をかけられてしまった。


「…ぷはっ!なはははは!」

「いすず!?」

「目が覚めたの?」


 苦しみが取れて静かに寝息を立てていたはずのいすずだが、少し前には目を覚ましていたらしい。

 いすずは笑い過ぎてお腹を押さえながら身を起こす。


「何で笑ってるの?」

「いや、目が覚めたらめっちゃシリアスな雰囲気やったけんそれがおかしくて」

「はぁー?ぷっ、あははは!あんたのことを心配してたんだっつーの!」

「もー!イサナはすごくいすずのことを心配してくれてたのよ!」

「それはわかっとるっちゃけど、この雰囲気の原因が自分やと思うとなんかウケてきて笑ってしまったとよ」


 シリアスな雰囲気がウケるって。

 …確かにいすずにシリアスは似合わない、かな。

 ギャグ顔だもん。


『イサナもなかなか酷いこと言いますね』


 言ってはいないよ。

 思っただけ。

ご閲覧ありがとうございます。

ブックマークを頂いていました。

嬉しいです。

お好みの國があればいいなぁと思っていますがいかがでしょうか?

今後とも宜しくお願い致します。

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