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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
物欲の國編
30/98

30、プレゼント

 体力を大きく失ったルールは自分で体を動かすことが難しい。

 いすずが手を貸して引き起こしてやり、ルールを地に座らせてやる。


「…吾はヘプタグラム城の初代城主の子孫だと聞いている…それが本当かどうか調べたかったのだ。いや…周りを見返してやりたかった…」

「えー!有名人の子孫!?すごくない!?」

「すごくない!?じゃねーよ、いすず。ジジイの言ってることが本当かどうかまだ決まってないんだから」

「…本当だと思いたいよね」


 私はいすずの肩を持つと親指を弾き、てるの助を呼ぶ。


「てるの助くん、こんな潮風でベタベタになりそうな場所に呼び出してごめんね。あのね、お城に初代の写真みたいなものはあるかな?」


 こくこくとてるの助くんは頷き、体を回転させると銀の食器を出してくれた。

 写真ではないけれど、てるの助くんを潮風に当て続けたくないのでこれで良しとする。


「ありがとう。急いで戻ってね。これは…ワイングラス?かな?」

『ゴブレットですよ』


 不思議に思いながら手に取り調べるとゴブレットにはルールと同じ顔の人物が掘り込まれていた。


「おーう、めっちゃ緻密な彫り物」

『こんなものがあったのですか』

「これ…ルールさんに差し上げてもいい?」

『こんな悪趣味なもの…直ちに処分して下さい』

「あはは、わかった」


 正直こんな物の1つだけで子孫であることが証明可能なのかは不安だけれど、てるの助くんが出してくれたということは間違いなく初代城主が所有していた物なのだろうし、年代検証を行えばそれだけで歴史的資料として評価して貰うことは可能なはずだ。


「あとは…最期の移動か。忙しいかもしれないけどダメ元で連絡してみるか。ウータ…」

「すぐに行くわ!」

「あれ?私今回はちゃんと右手で通話したよね?…ダメだ。もう通じないや」


 すぐに行くと言われたが、流石に数時間はウーターニャを待つことになるだろう。

 もしかしたら物欲の國の天使を誰かに頼んで呼んで貰った方が早かったかもしれないと思ったが、探してやる義理はない、完全消失限界まで待たせると良いとワルサーに止められた。

 ウーターニャを遠路はるばる呼び出してしまうことに対して申し訳なさを感じたのだが…ウーターニャに会うための良い口実だと思って開き直ることにする。


「ルールさん、これをヘプタグラム城の現城主から(たまわ)りました。差し上げますのでお子さんに届けるといいですよ。暫く待てば天使が来ます。…間に合うといいですね」

「貴女が…貴女様が6代目様なのですか!?」

「私は違いますよ」

「そう、イサナは6代目の女ってだけのこと」

「はい!?マリルドあんたなんて無責任な補足を…!ワルサー、君は喜ぶな!いすずは笑うな!ダメだ倒れ込みやがった…!」


 慌てる私を他所にマリルドといすずの2人は笑い転げている。

 私から投げるようにして渡されたゴブレットをなんとか受け取ったルールはぽかんと呆けている。

 しかし我に反ってルールが涙を流し、慈しむようにゴブレットを抱き締めるとゴブレットがぽうっと光った。


「んお?」


 いち早く変化に気付いたのはマリルド。

 皆がその視線の先を追う。

 ゴブレットの光が消えるとからんとゴブレットの中に何かが転がる音がした。


「これは…魔法石…?しかし…魔法は含まれていないようですな」

「なんだろう?」

「なはは、6代目様の女でもわからんものと?」

「それ私の異名になりそうで怖いから使うの禁止ね」

「うははは!ワタが言わなくてもいずれ6代目の女って呼ばれるようになるんじゃねーの?つうかさ。なぁ、それって通話用の魔法石じゃねー?」

「…マリルド天才!」

「いや、あんたらの魔法の知識が異常に少ないだけだよ」

「通話用の魔法石ですか…。成る程。恐らくそちらの腕の立つ御仁の仰る通りでしょうな。…さすがに今となっては使うことはできないでしょうが…」


 そう言ってルールは七色に輝く魔法石を撫でる。

 ヘプタグラム城の城主は幾度も代替わりしているのだ。

 それはつまり初代城主も消失し、魔王となって次の城主へと全遺産が引き継がれたということである。


『そうとは限りませんよ』

「へ?」

『存命している内に家を手離して、信頼の置ける人物に財産の全てを次代の家主に承継(しょうけい)していた場合、代替わり(イコール)消失は成り立ちません』

「そうなの?」

『ヘプタグラム城の築城は頂点の國の建国と同時ですから、仮に初代が生存していたとすると170万歳を越えるということになりますが』

「無理じゃん。170万歳とか絶対あり得ないでしょ」

「なんで?」

「あり得るよねー」


 いすずとマリルドが揃って私の発言を否定する。


「いやはや、女神様はご存知ないのでしょうか。この物欲の國の城主であるノノゥト様は350万2400歳を越えておられますぞ」

「え、女神様って私のこと?いや、普通にイサナって呼んで下さい…。いすず、笑うな」

「シロハさんだって実はもう5万56歳なんだよ。全くそんな風には見えんよねー。かっこよすぎるわー。」


 先ほどちらりと見たシロハの記事の画像を思い出す。

 …20代前半かと思ってたわ…。

 ていうか、若く見えるとかいう問題を超えていると思うけど。

 その数字って何?

 古代になるの?

 原始になるの?

 生きる化石じゃない?

 気が遠くなるわ…。


「えー!シロハさんってそんなにおじいさんやったと!?」


 驚き損ねた私と違い、いすずが大きく驚いて素晴らしいリアクションを見せるので私はこくこくと頷いていすずに同意をする。


「うははは!ちょっといすず。シロハさんをおじいさんとか言うな。それは口に出しちゃいけない事実な。ファンに吊るされるぞ」

「じゃあドウコウ…さん?ドウコウ…様?も…生きているかも知れないってこと?」

「試してみたら良くね?誰の小指に入れる?」

「ちょっとマリルド!?通話するとしたらルールさん以外に適任者はおらんやろ!」

「いすずの言う通りだよ」

「でもこのジジイの爪に入れたら明日には初代と通話できる人がいなくなるじゃん」

「…誠にその通りですな。この魔法石は6代目様にお返し致します。いつか吾の末裔がヘプタグラム城の城主に返り咲く日が訪れるやもしれません。その時のためにもこのドウコウ様の魔法石をヘプタグラム城に遺して下さらぬでしょうか」

『…言っておくが俺はそう簡単には滅びんぞ。俺を滅することができるのはイサナの愛だけだ』


 ワルサーがムッとして口を挟んできたが聞き流すことにする。

 恐らく初代城主ドウコウはいつか自分の子孫がヘプタグラム城を引き継ぐことを夢見ていたのだろう。

 その時に子孫と会話が出来るように、と通話用の魔法石を遺したのだ。

 ならばここはワルサー発言は伝えずに黙っているのが粋ってものだ。

 …多分。


 私はルールから魔法石を預り、てるの助くんに保管を頼んだ。




 それ以降はルールに金貨を返したり、ルールと共に動物から得ていた魔法石を魔力に替えて貰いに魔法石屋を訪ねて過ごした。

 人々は消失開始した人に対してとても親切で私達がルールを3人がかりで連れて歩こうとする度に見知らぬ大人達が手助けしてくれる。

 ルールは手助けしてくれた人々にいすずが返却した金貨を1枚ずつお礼に渡そうとしたのだが、皆が皆から「いずれ我が身に起こる事だから」と受取りを断られていた。

 路上で飛行機を出現させたことで引き起こした玉突き事故に対し、返却した金貨で賠償をしたら良いのではと思ったのだが事故に関しては車両に組み込まれた防護魔法のお陰で損害は一切生じていない為、賠償は不要であることをルールとワルサーの2人に教えられた。

 魔法石屋ではルールが私達の保護者代わりに立ち会ってくれ、より多い魔力に替えて貰えるように時折商人に凄みつつ交渉をしてくれた。

 お陰でいすずの髪は随分と長くなり、背の中心にまで伸びた。

 いすずは浜辺に座り黙々とお下げを編み直し、私とマリルドの2人は海に飛び込んではしゃぎ回った。

 さすがにルールは私達の遊びに付き合うことはなく、穏やかな表情で海とゴブレットの交互を眺めて過ごしていた。

 しかし陽が海に沈んで賑やかだった浜辺の人気が少なくなってもウーターニャはまだやって来ない。

 私達3人はまだ空に明かりが残る内に入手ヶ浜で花餅ジュースの取得を行うことにした。


「ワタはシロハさんと同じデザインのにする」

「えー、わたはどんなのにしようかな。迷うー!」

「私は…どうしよう。可愛いのにしたいけどデザインとかどんなものにしたらいいのかわかんないや」

『俺に任せて貰えませんか?』

「ん?」

「体を代わって下さい」

「あぁそうだね。うん、お願い」


 自分の体に施されるネイルのデザインを妥協したくないと考えたのだろう。

 この体は私のものでもあるし、ワルサーのものでもあるのだから。

 美意識の高いワルサーならば悪いデザインを選ぶことはない。


 ワルサーは迷いなく砂浜に左手を差し入れ、樹を育てると「花餅ジュース」と優しく3度唱える。

 目的の物を手に取るとすぐに体を私に明け渡してくれた。


 マリルドの花餅は黒地に白のクロスラインが走るデザイン。

 いすずの花餅は白地の両端がレモンイエローとピンクの縦のグラデーション。

 そして私が手に持つジュースに浮かぶのは…様々な青色をした花餅。

 3人で乾杯してジュースを口にする。

 甘くて酸っぱい爽やかな味のジュースに、口に入るととろりと溶ける餅。

 あまりの美味しさに目を丸くする。

 一気に飲み干すとコップは消え、爪がぽうっと輝き出す。

 爪の変化を見守っていると親指から小指に向けて順に青が深くなる色に変わった。

 それは親指が浅瀬、人差し指から徐々に色が深くなり、小指は深海の色になる海の色。

 そして闇の1つ手前の色味の薬指の爪の中には欲しい物を無事に手に入れた証の出國の星が1つくるくると泳いでいる。


「きれい…。ワルサーありがとう」

「お待たせ!」


 爆風と共にマリルドの起こした砂煙とは比べ物にならない程の砂柱が立ち上ぼり、砂浜に残った全員が砂を被る。


「ウーターニャちゃん…来てくれてありがとう」

「やだ。イサナの方だったのね」

「うん、ちゃんと右手で連絡したんだけど」

「だってもしかしたらワルサーからかもって思っちゃったんだもの!もうイサナ、それ以上は追求しないで!」


 …両手にウーターニャとの通話用の魔法石を入れた意味ないな…。


 ウーターニャはその場にいた全員が砂を取り払うのを清浄魔法を使って手伝うと、私達の傍らに立つルールの姿を見てこの人物が消失を開始している事に気付いた。

 最期の移動を聞き入れると彼女は直ぐ様ルールを準天使に任命し、天使の翼を分け与え、私達に別れの挨拶もなく成功の國に向かって飛び去った。


「間に合うといいね」

「…多分間に合うよ。ウーターニャちゃんはスピード狂だもん」


 準天使の翼は与えてくれた天使の翼と全く同じ動きをする。


「ジジイ、今頃失神してるかもなぁー」

「かもね」

「最後にシロハさんを侮辱したバチが当たったわけだな!ジジイめザマァ!」

「…ねぇ、イサナ。この人本当にいい人と?酷くない!?」


 天使と準天使の姿は天上に瞬く星々の中に混ざり消えていく。

 いつかルールと同じ顔をした人物がヘプタグラム城の私の部屋を含んだ全てを引き継ぐ日が来るのだろうか。

 なんか…嫌だな。

 私の部屋に出入りするルールの姿を想像すると改めて強くワルサーには永く元気でいて欲しいと願ってしまうのだった。

ご閲覧ありがとうございます。

次の更新は火曜日朝7時30分頃の予定です。


次話「髪型指導の応酬には変顔で」

変なタイトルですが成功の國編に突入します。

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