27、再会
センスの無さを肯定されて項垂れていた私に砂の雨が降りかかる。
「ぎゃー!」
突然全身に浴びせられた大量の砂に驚く私といすず。
「ぺっ!ぶわっ、何なん!?」
「目に入ってない!?」
「目はぶえっ!平気。イサナは?」
「私はワルサーに守ってもらえたみたい」
いや、正確にはワルサーの左半身を守るための防護魔法が私の右半身にも少しはみ出て発動されたので目や口付近が無事だっただけみたいだけど。
撒き散らされた砂は左半身側は皮膚に届く5㎝手前で弾かれているが、右半身の頭や肩にはしっかりと砂を被ってしまい、髪の中にまで砂が入り込んでしまっている。
「よぉう、イサナ」
「うわぁ!」
私を覆う砂を全て払い落とし、念のために閉じていた瞳を怖々と開けると超至近距離に人の顔があったものだからつい大きな声が出てしまった。
慌てふためく私を見て愉快そうに身を反らしたのは南国の太陽が似合う肌を持つ、鋭利な瞳の人物。
「マリルド!」
「旅行することにしたんだ?友達ができたみたいでよかったなぁ」
飄々と話し掛けてくるマリルドの足元を見ると砂がごっそりと抉れている。
「あ、こら。この砂を私達にかけたのはマリルドだな!?まずは謝罪を頂戴よ」
「うはははは、すまん」
「口の中に砂が入ったんやけど!」
「いすず待ってね。水、水、出ろ!」
空を掻いて私が取り出せたのは残念ながら缶コーヒー。
「…いすずブラックコーヒー飲める?」
「むりー」
「だよね。しかもこれホットだわ」
「うはははは!」
「こら、こんな風にした張本人が大ウケするとはマリルドの良心はどうなってるんだ」
「本当にあり得んくない!?」
3回目の引っ掻きで無事に水を取り出すことができ、いすずは口を濯いで砂を吐き出す。
2回目に私が取り出したのは5倍に希釈して飲む乳酸菌飲料の原液だったのだが、そちらは悪意を込めてマリルドに差し上げた。
「いすず、このやんちゃな子はマリルドだよ。私と同じ歳だからいすずの1歳上になるのかな。ちょっと図々しいけど…まぁ面白い子だし、悪人ではないから安心していいよ」
「安心できんのやけど!?」
「いすずってどんくさそうだな」
「この人ひどくない!?」
いすずとマリルドの2人が目の前に並ぶと自分の身長が急激に伸びたのではないかという錯覚に陥る。
態度が大きいせいかあまり小さく感じることはないがマリルドも小柄な方なのだ。
マリルドは10㎝はあるだろう高い踵のショートブーツを履いているのだが、細いピンヒールは砂浜に深く突き刺さってしまっており、本来の背の高さが露呈してしまっている。
いすずが140㎝と言っていたからマリルド本来の身長は152、3㎝いったところだろうか。
突然現れた猛禽類の目を持つ人物に萎縮しているのか、いすずは文句は言うものの私の顔しか見ていない。
マリルドも初対面では怖がられるタイプなのか。
第一印象が悪いからと無理に笑顔を貼り付けて猪口才な善人アピールをする私とは違ってマリルドは自然体で…なんだかかっこいい。
「うはははは、ぶぇ!何これ!?」
私があげたジュースの原液を飲んだマリルドが嫌悪に満ちた顔をする。
「お腹に優しいジュースの原液だよ。水で5倍に薄めて飲まなきゃ。パッケージにもそう書いてあるでしょ?」
「はぁ!?知らんし!」
「説明書は読みなさいよ」
「なははははは!」
良かった。
いすずが落ち着いたみたい。
めっちゃウケてる。
笑い過ぎだけど。
砂浜に倒れ込んでしまっている。
笑い上戸のいすずが脱力する程に笑いのツボに嵌まってしまうと笑いの波が自然に引いていくのを静かに待つしかない。
何かを言い添えたり、笑いを治めようとするといすずはどんどん笑いの深みにまで嵌まってしまうのだ。
「絶対わざとこのジュースをワタに渡したよな!?」
「なはははははは!わざとやったと!?」
あーあ。
こりゃ暫くいすずは笑い止まないぞ。
『こんな程度の報いでは足りませんよ。このもう1人のチビは俺が排除してやりましょう』
「排除!?マリルドを?」
「ん?もしかしてワルサーがワタを排除するとか言ってんの?」
「うん」
「やべ」
危険を察知したのかマリルドは浜辺を蹴り、私の背後に移動した。
「へへへ、対象を目視しないと魔法をかけることはできねぇんだからイサナの背後に立っていれば安全なんだもんね」
「そうなんだ?」
『チッ』
「舌打ちしてる。へぇー…目視しなくちゃ魔法をかけれないんだ」
「え、じゃあわたも後ろにいようかな」
「いや、話にくいから正面にいてよ。ねぇワルサー。この2人に酷いことして欲しくないんだけど」
『……』
「何かしてやられても今のジュースみたいに私がこの手でちゃんとそれなりの意地悪するから大丈夫」
「やっぱりわざとだったのか!」
「なははは!」
「マジで信じられんわ」
「ワルサーに何かされるより私の悪戯で済む方がマシだと思うけど」
「確かに!なははは!」
「笑っているけど場合によってはいすずにも手を下すからね」
「はぁー!?」
まぁ、いすずに手を下す日が来るとは思えないけど。
この子は感情表現が豊か過ぎてふざけてばかりのように見えるけれど、マメで真面目だしとても優しい子なのだ。
一方『図々しい』と私が紹介したマリルドは砂浜にどかっと座り込むと、いすずが残した水を寄越せと言葉無くジェスチャーだけで伝えて貰い受ける。
そこにジュースの原液を適量注いで飲み、これが正しい味なのかと面白そうにしている。
「2人は欲しい物はもうなんか手に入れた?」
「ううん、まだ。マリルドは?」
「ワタもまだっちゃまだかな。初日に家を願って建てたら捕まってさ」
「…は?」
「10日間も拘留されたわ」
「どういうこと…!?」
『この國の法律で禁止されているんですよ。入手ヶ浜に家なんか建てたら邪魔になるだけじゃないですか。浜辺の看板に大きく記載されいてるのでウーターニャもノートには記さなかったのだと思いますよ』
「せっかくの家もすぐに取り壊されてしまってさぁ。マジで意味わからんわ」
反省の色が全く見えないマリルドは空になったペットボトルを両の手で押し潰して消す。
再び手を開くとそこにはもう何もない。
これはマリルドの握力が特別強いわけではなく、この世界では不要になった物はこのように自然と消え去ってしまうものなのだ。
消えた物質はいつか誰かがその材質を必要としたときに再構築されて具現化する。
「はぁー!?この人とんでもない人なんやけど!?」
「あは!確かにとんでもないね。捕まっていた人にはとても見えないね」
「いや、知らんかったし」
「看板に注意書きがあるってワルサーが言ってたよ」
私も気付いてなかったけど、とはいう言葉は飲み込む。
「普通そんなもん見ないわ」
「いや、普通見るやろ。わたもその注意書き見たよ」
いやぁ、マリルドの迂闊さには少しだけ親近感が湧くなぁ。
『まさかマリルドとも共に旅をしたいとか言い出しませんよね』
いや、それはないかな。
『トラブルメーカーの役目はイサナが既に果たしていますしね』
ひどい!
『酷いと言いつつ楽しそうですが』
ああー…いすずの目で見られているんだったか。
違う、これはいすずの笑い上戸が移ったんだよ。
私は緩んでしまっていた顔を手で覆い隠すと、顰めっ面を作る。
『イサナはぞんざいに扱われる方がお好きなようですね?』
いや、そんなはずは決してない。
違うよ?
ねぇ、違うからね!?
…すごく嫌な予感がする。
『御意』
おかしくない?
その返事は。
なんで時折その畏まった返事になるのさ!




