24、29ヵ國
いすずの視覚を共有させているのであれば部屋から逃げ出していても意味はない。
いすずだって私ばかりを眺めているわけではないし、気にするのは止めだ。
城にてウーターニャから世界旅行の手解きを受ける。
私の部屋でと思ったのだがワルサーが私の部屋にいすずを立ち入りさせることを許さず、ヘプタグラム城のドローイング・ルームへと案内することになった。
この世界にある國は全部で29ヵ國。
この星に1つしかない大陸は地続きになっており、大陸の中央には『龍の背』というほぼ平らな高原を持つ大山脈が連なり、北と南には『北海』『南海』と呼ばれる宝石が潜む大海原が広がっている。
北回帰線から南回帰線にかけて広がる大陸には縦に15等分と赤道によって区切られた國々が並んでいる。
一番大きな國土を誇るのは子供の國であり、彼の國のみが2ヵ國分の國土を有する。
頂点の國と質実の國から西に向かって順に並べると以下の通りだ。
頂点の國・質実の國
回復の國・物欲の國
瘋癲の國・成功の國
森羅の國・遊戯の國
美貌の國・絢爛の國
芸術の國・運動の國
淫欲の國・動物の國
暴食の國・中毒の國
夢幻の國・事解の國
女性の國・ 子 供
男性の國・ の 國
受愛の國・羨望の國
破壊の國・発明の國
禁忌の國・勤勉の國
戦闘の國・忘却の國
(※左記載國が北側、右記載國が南側)
「なんか穏やかじゃなさそうな國もあるんだね」
「美貌の國って好きな姿形に変われるんよね?えー、どうしよう!楽しみ過ぎる!」
「落ち着きなさい。國を移動する際には出國の星が必要になるのはもう知ってるわよね?あなた達はまずこの國で出國の星を手に入れる必要があるわ。回復の國で手に入れてもいいけれど、この國の方が楽に手に入ると思うわ」
「へぇー」
ウーターニャは使い古した1冊のノートを象嵌が施されたローテーブルの上に取り出す。
「これは私が天使になる前に旅をしたときに各國の特色や各々の國の出國の星を手に入れる方法を私なりに纏めたノートなの。字が雑だけれどよければ使って」
「いいの?大事なものでしょう?」
「これは魔法で複製してもらったものだから好きに使ってくれていいわよ。このノートみたいに旅先で手に入れた荷物はてるの助くんに預けておけば何時でも好きなときに取り出して貰えるからね。間違っても呼び出した家の中に置いたままにしちゃだめよ?」
「ほぇー」
「駆け足での説明でごめんね。実はさっきから呼び出しの連絡が入ってて」
「小指の爪が光ってるのがそうだったの?なんだろうとは思ってたんだけど」
「2人とも大丈夫かしら?念のためにイサナも私と髪を交換しておきましょう。私の髪は小指に秘めておいてね。何かあった時にはそれを使って私に連絡するのよ?」
「髪を交換したらわたも通話魔法が使えるようになるとかいな?」
「いすずは魔法にまだ耐性がないんだからまずはイサナに取り出してもらった魔法食を口にして徐々に慣らしてからにしましょうね。いきなり魔法を使ったりしたら誰かみたいに倒れちゃうんだからね?」
「…誰かって誰だろう」
「イーサーナー?頼んだわよ!?」
「はぁーい」
「もうイサナったら」
ワルサーの小指を使った通話魔法でもウーターニャと連絡はとれるけれど、彼女はきっと使い分けをしたいのだろう。
ワルサーとの通話は特別なんだろうな。
私達は魔法陣を出して各々の髪を1本引き抜き、それを魔法石に変え交換し合った。
初めての通話魔法だ。
早く試してみたい!
「イサナ!いすずに魔法陣を出させるのは1ヶ月後だからね!?1週間は食事の出現もさせちゃだめよ。来週私が連絡するまでここでおとなしく待機していてね!」
「はぁーい」
「んもう!」
「なはははは!めっちゃ怒られとる!」
「不思議とウーターニャちゃんになら叱られても悔しくないものだよ。怒られてみる?」
「なははは!嫌やし!」
ウーターニャが騒ぐ私達の手を取り真剣な眼差しでいすずに言い加える。
「いい?もしも1週間が過ぎても私が戻れなかったら先に進んでおくのよ。目標は最低でもいすずが21歳になる前に帰國するってことなんだから。ゆっくりでもいいから歩みは進めておいてね」
「うん、がんばる」
「…4歳児と約束を交わしている気分だわ」
「どーゆー意味!?」
「いすずの見た目と中身の全てが4歳児っぽいって意味じゃないの?」
「そこまでは言ってないわよ!」
「あははははは!もういいから行きな。私達に付き合ってくれてありがとう。気を付けてね」
「2人の方こそ気を付けるのよ。怪我をしたり不安なことがあれば遠慮せずに呼び出さなくちゃ許さないからね!?あとこれはお餞別ね」
そう言って私の手を握るとウーターニャの髪が僅かに短くなり、それと同じ分私の髪が伸びた。
え、と驚くと「私の代わりにいすずを連れて行ってくれるのでしょう?だからそのお礼よ」とウィンクまでくれた。
無理に都合をつけて私達のために時間を工面してくれていたのだろう。
城の外へ出るとウーターニャは直ぐ様全速で飛び去ってしまった。
最後まで私達のことを心配してくれた彼女の姿が見えなくなっても私達2人はずっと大きく手を振って見送り続けた。
「…ウーターニャちゃんはまた近いうちに会いに来てくれるつもりのようだけれど、依存しすぎないように貰ったノートは大切にしてしっかり読み込んでおかなくちゃね」
「そうだね」
固く決意をし、くるりと振り返ると家から意識を手放してしまっていたせいで扉は消えてしまっていた。
そして草むらの上にはノートがぽつりと落ちている。
「なーっはっはっは!『大切に』とか言っておいてこの扱い!ウーターニャに言いつけてやろう!」
「あははは!やめてよ!また怒られるじゃん!」
草むらに突っ伏して笑い苦しむいすずに釣られて私も笑いながらノートを拾い上げて草や土を払い落とす。
「てるの助くんに預けておかないとこうやって家から吐き出されてしまうんだね」
「あー、間抜けすぎてめっちゃウケるー」
『…何がそんなにおかしいのかわからないな』
そっか。
ワルサーは大笑いとかしたことなさそうだね。
『はい、ありません』
凄いな。
私も激怒っていうのはまだ未経験だけど、大笑いも泣いたこともないっていうのはワルサーに雑念がない証拠なのかもしれないね。
いつか私もそんな風に心穏やかな人間になれるのかな。
『俺は楽しそうに笑うイサナが世界で2番目に魅力的だと思っていますよ』
んー、つまりそれは1番目はもちろん…
『はい、俺が世界一です』
「あはは!だろうね」




