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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
物欲の國編
23/98

23、視覚泥棒

『城の6階層の一角ににイサナの部屋を完全複製しました。家付き虫にこの内装の保存を指示しましたので今後も利用可能です。どうです?さぁ、俺に好きだと言っていいですよ』

「え!お城の中に私の部屋を作っちゃったの?いいの?そんなもったいないことしてしまって」

「何これ…お城!?わぁめっちゃ綺麗。この青いランタン素敵やね」


 扉の中を覗くいすずが驚きの声を上げている。


「ふふ、お邪魔させてもらったら?」

「いいとかいな?」

「あ、うん。どうぞ。いすず、ホールの中で体はちゃんと浮くから怖がらなくていいからね」


 とは言えいすずはホールに足を踏み入れるのに躊躇する。

 手を取り共にホールをふわりと抜け、私の部屋の入り口へと連れて行く。


「ねぇ、これってイサナのお家なの?わぁー、面白い造りね」

「わぁ、ちっこいお部屋やね」


 ウーターニャといすずが部屋の中を覗き込もうとするので私は部屋の中に押し込まれる。

 慌てて猫の額程の玄関で靴を脱ぎ捨てて部屋に上がり、1週間ぶりの我が家を見渡す。

 いすずとウーターニャも私の真似をして靴を脱いで部屋に上がる。


「凄い!こんなに狭いお部屋にトイレにお風呂に小さなキッチンもある!」

「あぁ、うん。1Kだからね」

「いいなぁ、こんな秘密基地みたいなお家。あ、テレビもあるやん」

「てれび?」


 いすずはテレビを知っているようだが、ウーターニャは知らないようだ。

 魔法を使わない質実の國の文化は地球のものと変わりがないのかもしれない。


「変ねぇ。この部屋を造るための複製魔法ならワルサーは元々使えるはずよ。一体何の魔法を獲得して髪を短くしたのかしら?」

「食べ物の備蓄まで何もかも完璧に再現してくれたんだね。凄いよワルサー!」


 クローゼットの中も戸棚の中もさらには本棚の本の文字も内容も全てが再現できているのだから感動で目頭が熱くなる。

 流石にテレビはスイッチを入れても何も映らなかったが、電源を入れると画面は灯ったのでDVDの再生であれば観ることができそうだ。

 蛇口のハンドルを上げれば水が出るし、複製魔法というものはライフラインにまで行き届くものなのか。

 最高過ぎる…!


『イサナの旅が心地よいものになるようにと思いまして。電気も水道もガスも家付き虫の管理下に置かれていますから家の中でならばどれだけ消費しても次に家を呼んだときにはリセットされるので使い放題ですよ。さぁ、あの2文字をどうぞ口にして下さい』


 好きと言えというのか。

 …でもそれはやだ。


『何故ですか?家付き虫やウーターニャには軽々しく『好き』と言っているではないですか』


 言ったかな?

 考えただけでまだ口にはしてなかったと思うけど。

 それに…ワルサーには軽々しくそんな言葉は言っちゃいけないでしょう。


『…俺の『終極の願い』のせいですか』


 そうだね。

 あと私の『終極の願い』のこともあるし。


『命懸けの恋です。燃えますね』


 いや…そんなもの燃やさないで。

 でもこの部屋を使わせて貰えるのなら本当に嬉しい。


『仕方ないですね。鏡越しで無くてもイサナの顔を見れるようになったことですし…我慢します』


 …はい?

 何で?

 この部屋に監視カメラでも取り付けたの?


『カメラとはなんですか?』


 これは(とぼ)けている感じではなく、本当にカメラのことは知らなさそう…。

 え、どういうこと?


「ごめん、1度この部屋…いや、城から出よう」


 慌てて2人を城から押し出し、扉を閉める。

 慣れ親しんだ物が並ぶ自分の部屋を使えるようになるのは嬉しいが、監視されるだなんて真っ平だ。

 前髪を掻き上げて溜め息を吐くとワルサーの声がする。


『思い悩むイサナの表情も仕草も素敵ですね』

「!?」


 城から出たのに私のことが見えているかのような今の発言は何!?

 思考を巡らせようとすると考えるより先に答えが脳裏に浮かぶ。


「…マジか…。ごめん、いすず…。ワルサーがいすずの視覚に対して共有魔法を施したみたい…」

「えっ!?どういうこと?」

「いすずが目にしたものは全てワルサーにも見られているってことだよ。私のこの左目が捕らえる映像もワルサーに見られているんだけど、それだけじゃ足りなかったみたいで…本当にごめんなさい」


 まぁ、元々がワルサーの体だから私の場合の視覚の共有は仕方がないけれど…。

 いすずの視覚を勝手に共有させるだなんてひどいよ。


「私の監視が目的みたいだから一応いすずのプライベートな時間には自動的に視覚共有魔法は切れるようになっているみたいだけど…嫌だよね?」

「ええっ!イサナが監視されてるの?…でも…うーん?別に見られて困るようなものは目にすることはない気がするけど」

「いや、あるでしょう!?プライベートな時間は視なって言っても何かの間違いでトイレとかお風呂とか勝手に見られたら嫌でしょう!?」


 ウーターニャが慌てて補足するものの、いすずは平然としている。


「音まで盗聴されたら流石に嫌だけど。おならの音とかさ」

「あはは!確かにそれはやだねぇ」

『そんなもの俺だって聴きたくないです』

「視覚泥棒が『そんなもの俺だって聴きたくない』って言ってるよ。あははは!」

「なははは!そんなこと言ったと!?ひどくない!?」

「いすず!?酷いのは目を勝手に共有させられている現状よ!?イサナもいすずも笑いすぎよ!おならのことを考えるのは止めなさい!ワルサーは何を考えて…あ!わかったわ。魔法が使えないいすずの旅の安全を考えて防犯のために共有魔法を改良して五感に対しても干渉出来るようにしたのね!さっきワルサーが髪を短くしたのはこのためだったんだ。いすず、よかったわね。これで旅の安全は保証されたわよ」

「本当?やったー!」


 あー、成る程。

 ものは考えようだね。

 ウーターニャのワルサーに対する絶対的な信頼心のフィルターを通すとそう受け取れるわけね。

 でもワルサーが私達を守ってくれるのかどうかは怪しいものじゃないかな。

 ワルサーの身であるこの左半身の防護がワルサーにとっては絶対ファーストだよね…。


「でも…ぶはっ!『おならのことを考えるのは止めなさい』って…!なはーっはっはっは!」


 笑い過ぎて力が抜けてしまったのかいすずは膝を崩し、地に倒れる。

 …あ。

 この笑い方には覚えがある。


「ねぇいすず、1週間前に頂点の國の城下町に遊びに来てたよね?」

「えー?あ、うん!行ったよ」

「その時に町中で私達会ってるよ。いすず、左右で見た目が違う人を見かけてめっちゃ笑ってたでしょ?」

「…?見た目…あ!服装も髪型も雰囲気も左右で違うすっごいぐったりしてた人のこと!?」

「あれ、私だよ。あの時はまだ右側が私で、左側がワルサーの姿のままだったの」

「あの人やったと!?あの時は笑ってしまってごめんね。反対側から見たときにあまりにも綺麗で倒れている様子も(さま)になってたものだからびっくりして。そしたらなんか笑ってしまったとよ。ようやく笑いが落ち着いたと思ったら居なくなっとったとよね」

「あはは!確かに私達が帰るときまでずっと笑い続けてたね。いすずが私を心配してくれていたのには気付いてたから謝らなくていいんだよ」

「イサナって優しいね!?」

『こいつが女性になろうと考えていなければ今イサナに好意を伝えたこの瞬間に産まれたことを後悔させてやっていました』


 …物騒なことを言うのやめてよ。


「いすずって女の子になるつもりでいるの?」

「うん。女の子になりたい。でも女の子になると毎月が大変そうだし、おしゃれとかそういうのをちゃんとする自信もないし…。そんなことばっかり考えてしまうから無性別のままでいちゃったんだよね。イサナ、旅に巻き込むことになってごめんね」

「ううん、いすずのことがなくても私はいずれ國境を越えてしまっていたと思うし、気にしないで」

「…わたは質実の國に帰りたい。でも1人で旅行だなんてわたには絶っ対無理!…ねぇイサナ、わたと世界を旅してくれる?」

「あはは!何その不安そうな顔は」


 叱られるのを覚悟した震える子犬みたい。

 いすずの表情はいちいち面白い。

 この子が友人たちにあれだけ慕われていた理由がなんとなくわかる。

 いすずのリアクションは常に大袈裟で感情が分かりやすい。

 そして明瞭なこの子の感情の全ては天河石(アマゾナイト)の色を宿した髪と同じように柔らかく清々しい、とても気持ちの良いものだからだ。


「私の方こそ一緒に旅をしてもらってもいいの?いすずが頼りにしている6代目様は視覚泥棒するような人だし、私は魔法は使えないんだよ?」

『泥棒だなんて人聞きが悪い。共有ですよ』

「なはははは!ダメだ、イサナって最初のイメージと全然違うんやもん。ウケる!」

「え、どんな人だと思ってたの?」

「めっちゃやる気がなくて、気難しそうな人やと思ってた。アンニュイっていうのかな」


 あー、成る程ね。

 この顔が悪いよね。


「でもイサナは優しいし、なんかウケるから安心した」

「ね、変人でしょう?」

「ちょっとウーターニャちゃん?さっきもそれ言ってなかった!?」

「変人だもの」

「ひどくない!?見た目が悪人面だから変なことはしないように気を付けてるってのに!」

「なひゃひゃひゃひゃ」

「マジで私のどこが変なのさ!」


 約束は言葉にしなかった。

 私はいすずを必ず質実の國に送り届けるとは言わなかったし、いすずもその言葉を引き出そうとはしなかった。

 けれど気持ちは強くなる。

 この子と共にいると笑いが絶えない。

 だからこの子の友人たちはこの子を愛しているのだ。

 自信があるわけではないし、ワルサーの力は当てにできない。

 けれどいすずのことを待つ友人の元へ送り届けてやりたい。

 私がしっかりしなくちゃと気を引き締めることしかできないのだから。

【ちょっぴり補足】


いすずはどちらかと言えば女になりたいと希望していますが、まだ無性別のままなのでワルサーに裸を見られても平気なようです。

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