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1/2のプリンス&プリンセス  作者: マツモトコ
物欲の國編
22/98

22、家を呼び出す

 収集の國の町外れ。

 そこでウーターニャが親指の爪を弾き、体はピンク、耳が緑の熊のぬいぐるみに憑いた彼女の家付き虫に願って部屋を呼び出してくれた。


「おおおお。このぼやっとした扉が『家を呼び出す』ってことなの?家が丸ごと出てくる訳じゃないんだ」

「家付き虫の契約者は母だから私が呼べるのは自分用の部屋だけなんだけれどね」

「『家を呼び出す』って何!え、これ魔法!?」

「あら?いすずも魔法については知識がないんだね。なかーま」


 騒ぐ私達に呆れながらウーターニャは扉を開けてくれる。


「どーぞ。散らかっていますけど」

「これ私にもできるもの?」

「ええ、できるはずよ。家付き虫を持っているからイサナの左手なら」

「えい」


 説明の途中だが、左手の親指の爪を弾く。

 姿を現したてるの助くんに「家を」と言うと、てるの助くんは体を回転させて家の入口を呼んでくれた。


「この重厚な扉は…ヘプタグラム城の玄関の扉ですな」

「また扉が出た!2人とも凄い!!」

「うん、凄いね。でも私が呼んで欲しかったのは…」

『俺がいるイサナの部屋を呼びたかったのですか?』

「うん…まぁ」

『残念ながら家を呼び出しても俺には会えませんよ。家に帰れるわけではありませんからね』

「ワルサーに会いたかったわけではないけどね。…『家を呼び出す』と『家に帰る』って違うの?」


 あら、とワルサーとの会話に気付かぬウーターニャが反応してくれる。


「よく気付いたわね。『家を呼び出す』は『家に帰る』とは違うものよ。今家付き虫が呼び出した家は、家主が家を最後に後にしたときのままの姿を再現しているだけであって、本物の家ではないもの」

「え、違うの!?」


 遅れていすずがその違いが理解できずに混乱を開始する。


「2人とも分からないままでいいからイサナはそのヘプタグラム城の扉をしまってこっちにいらっしゃい」

「どうやって消せばいいの、これ」


 消し方がわからず困惑すると、私の希望を察知したてるの助くんが扉を消してくれ、自身も私の左手の爪の中へと消えていった。

 てるの助くんって姿はアレだけど、中身は一流ホテルの超優秀コンシェルジュのようだわ。

 んもう、好き…!


『聞き捨てなりませんね』

「なぜ聞こえた?」

『興奮しすぎて心の声が大きくなりすぎたのでは?俺に知られたくないのならば落ち着いて下さい』

「ふはっ、難しいことを言うね」


 今から美少女天使であるウーターニャの部屋にお邪魔するってのに落ち着いていられるかって…おっと?

 先陣を切ってウーターニャの部屋に入っていたいすずが固まっている。

 なるほど。

 これは…ちょっと予想外というかなんというか…。


「ごめんね、ちょっと散らかってて」

「あ、ううん…」


 いすずが感情を殺して返事をするものの、私の方を振り返って部屋の中を指をさして口パクで『これがちょっと…?』と言うものだから思わず吹き出してしまう。

 釣られていすずも堪えきれずに笑い出す。


「あははははは!やめてよ!」

「なはははは!そっちが先に笑ったやん!」

「?どうしたの?」

「あ、えと…」

「鍵!鍵かけなくていいの?」

「大丈夫よ。扉は招かれた人にしか見えないものだから他の人には存在を知られることもないわ」

「魔法のお家すごーい」


 そして散らかりっぷりもすごーい。

 お嬢様で美少女でわずか15歳で医療に従じる立派な人物であるウーターニャの私生活の場が足の踏み場のない豪快な散らかりっぷりなものだから驚きはしたけれど、これは却ってウーターニャを身近に感じられるというものではなかろうか。


「もー、何やってるの」


 散らかっている部屋を見られても恥ずかしくなさそうな思春期らしからぬウーターニャの肝の据わりっぷりに感心していると、彼女はクローゼットの中から小さいサイズの服を取り出してきた。


「これ、私が子供の國にいたときに着ていた服なんだけど体感温度調整とか環境に適応させてくれる機能が付いてるから良ければ使って。あなたのサイズにちょうど合うと思うの」


 広げた服はサスペンダー付の千鳥格子柄のニッカーボッカーズのズボン。

 ブルーグレーのシャツに蝶ネクタイ、そしてハンチング帽子。


「おぉ?かわいいー。ウーターニャちゃんがこんな服を着てたなんて想像できない」

「私だって10歳までは無性別だったもの」

「そっか。いすず、似合いそうだよ。貰っちゃう?」

「え、いいとかいな?」

「いいわよ。私はもう着れないし。質実の國の服には魔法は施されていないでしょう?旅には向かないから遠慮せずこちらに着替えなさい」

「…ありがとう…ございます」


 雑に丸められた服を嬉しそうに両手で受けとるいすず。


「ん?」

「イサナ、何してるの。いすずが着替えるんだから部屋を出ましょう」

「はーい」


 部屋を後にした後、青空の下でこの先のことを考える。

 勢いで國境を越えてしまったけどなんの旅支度もしてなかったな。

 でもそれはいすずも同じか。

 今はいいとしてもウーターニャが診療に呼ばれたら私といすずの2人で旅をすることになる。

 …大丈夫なのだろうか。


「ねぇ、ウーターニャちゃん」

「なぁに?」

「いすずが17歳って気付いてた?」

「…えっ!?」

「あははは!意外だよね。さっき爪を見たらあの子17歳だったわ。10歳くらいかと思ってたよ」

「やだ、笑わせないで。家から意識を離したら呼び出した家が消えちゃうんだから!」


 がちゃりとドアノブが回り、着替えを終えたいすずが姿を現す。

 子供服が信じられないくらい似合っている。


「あははははは!めっちゃ似合う!」

「信じられない!これで17歳なの!?可愛すぎるわ!」

「ちょっとひどくない!?」

『イサナ、少しだけ体を替わって下さい』

「え、今!?」


 いすずに挨拶でもしようというのだろうか。

 駄目と答える理由がないので瞳を閉じて力を抜くと、血が巡る。


「…そこをどけ」


 体を入れ替えるなりワルサーは自分からいすずに詰め寄った上で酷い言い掛かりをつける。


「え…何?男に変わった?」

「え、ワルサー!?」

「服も髪の色も髪の長さも変わった…?さっきより大分髪の毛長いよね?魔法?凄い!」

「やだ、思っていた通り男になったワルサーってすっごくかっこいいじゃない!」


 待ちきれなかったのかワルサーはいすずを突飛ばし、左の親指を弾いててるの助くんを出現させて再びヘプタグラム城の扉を呼び出させる。

 城の扉を開き中に入るなり指を1度鳴らして魔法を使う。


「イサナ終わりました。もう入れ替わっても大丈夫です」


 あ、うん。


「待って!ワルサーまた何か魔法を獲得したの?」


 え?


「そんなに髪を短くしたところなんて初めて見たわ。信じられないくらいかっこいい!」

「…天河石(アマゾナイト)の髪のお前、イサナに手を出したら2度と國へ帰れなくしてやるからな」

「えっ!?何?」


 いすずに何を言ってくれているのかな?

 これって私が自意識過剰な解離性同一症(二重人格)かのようではない?

 …ん?

 ワルサー、もしかして今もう1回指を鳴らした?

 あ、ちょっと。

 このタイミングでまた体を入れ替えるだなんてひどい!


「待ってワルサー!渡したいものが…あーん、遅かったか…」


 また姿が変わった私を見て、いすずが小さな目を真ん丸にしてひっくり返りそうになる程に驚き、ウーターニャは残念そうにする。


「また女の子になった!!ん?女の子…なの?」

「失礼よ、いすず。胸はないけどイサナは女の子よ。ほら、今はスカートを穿いてるでしょう?」

「あははは!事実だけど切ないフォローをありがとう」


 まさか私の性別を疑われ始めるとは思わなくて笑ってしまう。

 いすずも失礼なことを言ってしまった自分の不用意さに笑っている。


「さっきの男の子はワルサーよ。私の幼馴染みでヘプタグラム城の6代目城主。初日の魔王を倒した…私が知る限り世界一の魔法使いよ。こちらの女の子はイサナ。ワルサーの体に取り込まれる形でこちらの世界にやって来た異世界人よ。だからイサナの方は魔法は使えないの」

「え…?さっきの男の姿とは別人なの?」

「顔は同じだけど本当に別人よ。ねぇ、あの短髪のワルサー見た?めちゃくちゃかっこよかった!」

「うん、確かにかっこよかった。めっちゃ怖かったけど」

「私は見れてないからわかんないんだけど、ワルサーの髪の毛そんなに短くなったの?一体なんの魔法を獲得したんだろ」


 ワルサーは城の中で指を鳴らしていたので何か魔法を施したのだとしたらこの城の中に対しての筈だ。

 気になるので城の中を確認する。

 扉を潜るとまずは氷のランタンが浮かぶホールの中に足を踏み入れることになるのだが、その先に現れている馴染み深い景色に驚く。


「私の部屋!?」

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