退屈令嬢が、退屈できなくなる日々の始まり
「やってくれたわね、フラン……」
「それに関しましては、誠に申し訳なく……」
時は少し戻り、フランツィスカの自爆ともやけくそともとれる大胆な告白から明けて翌日。
サロンに呼び出された、もとい招待されたエレーナは、深く重い溜息を吐いた。
その原因は、言うまでもない。
フランツィスカの抜け駆け、ではなく……いや、ある意味それも含まれてはいるのだが。
「まさか、こんな形で私達のあれこれがメルに伝わっちゃうだなんてね……」
エレーナのぼやきに、フランツィスカは淑女にあるまじき滝のような汗を流さずにはいられない。
原因は、そう、『終焉の魔女』との決戦で趨勢を決したフランツィスカの行動。
すなわち、大胆にもメルツェデスへと抱き着き、重ねた唇から全力で光の魔力を注ぎ込んだことだった。
「もちろん、あれがあの時で打てる最善手だったのは理解しているのよ?
だからってね、こう、感情が追い付かないことってあるじゃない?」
「まったくもっておっしゃる通りで、反論など欠片もなく……」
理屈では理解している上に感情を制御する術を心得ているからか、エレーナの声は淡々としており、だからこそ、なんとも言えない重みのようなものを帯びてしまっている。
当然フランツィスカには痛い程それが伝わっており、そもそもの元凶であることも相まって、普段の気安い物言いは鳴りを潜め、ひたすらに平身低頭することしかできない。
出会ってからこの方、初めて見る、フランツィスカのそんな姿に、少しばかり楽しいという感情が生まれていたりするのだが、鍛えられた淑女の仮面でエレーナはそれを悟らせない。
目覚ましいフランツィスカの成長に負けぬくらい、彼女の親友たるエレーナとて成長しているのだ。方向性は少々違うが。
そんなエレーナだからこそ、この程度の溜息で済んでいる、ところはあるのだろう。
「初めて出会ったあの事件から5年、6年経つかしら。その間のお付き合いが、下心を抑え込みながらのものでした、だなんて知られて。
明日からどんな顔してメルと顔を合わせたらいいのかしら」
「あの、知られていたのはもっと前、『終焉の魔女』を倒した時からだから……」
「フラン?」
「いえ、はい、黙ります」
言い訳ともフォローともつかないことを口にしたフランツィスカへと、エレーナは剣呑な視線を向けて。
びくっと身体を震わせたフランツィスカは、肩を縮こまらせて俯いてしまう。
普段あれだけ堂々たる淑女っぷりを見せている親友のこんな姿に、エレーナはつい吹き出してしまった。
「ふっ、ふふっ、大丈夫よ、わかっているから。
まあ、わかったところでどうしたらいいのかわからないのは変わらないのだけれど」
「ええと……真面目な意見を言ってもいい? それとも反省している方がいいかしら」
「流石に延々やるようなネタでもなし、実際に困ってはいるのだから、アイディアを出してくれると助かるわ」
いわばここまではただの茶番劇。
実際の対策こそが本題ではある。あまりにあっさりと切り替えられてしまうと流石に癪だからここまで引っ張っただけの話で。
「元凶が言うことでもないのはわかっているのだけれど……普通にしているのが一番だとは思うの。特に、メルの心情的には」
「……そうね、理屈ではわかるのよ。感情面で、ちょっとこう、納得がいかないだけで」
「エレンはそう思う資格があると思うわ……とはいえ、ね」
複雑な表情で眉を寄せるエレーナへと、フランツィスカは困ったような顔を見せるしかできない。
何しろ、自分のあずかり知らぬところで勝手に自分の想いを告げられたようなものなのだから。
『よろしい、ならば戦争だ』と言われても仕方のない事態ですらある、とフランツィスカも思う。
それだけに、ここまで落ち着いて見えるエレーナの反応が意外でもあるのだが。
などと考えを巡らせていたフランツィスカの目の前で、不意に、エレーナの表情が変わった。
……何とも意味深な、悪戯なものに。
「考えてみれば、私達って6年もの間、あの超をいくつ付けても足りないくらいの朴念仁に振り回されてきたわけじゃない?
だったら、今度は私達が振り回したっていいんじゃないかしら」
「……はい?」
思わぬ提案に、フランツィスカは上手い返しも浮かばず聞き返す。
自分達が、振り回す?
考えてもいなかった台詞に硬直するフランツィスカを楽し気に見やりながら、エレーナは言葉を続ける。
「何意外そうな顔してるのよ。私達が受けてきた仕打ちを考えたら、これくらい大したことじゃないでしょう?」
「ええと……そ、そう、なのかしら……?」
思い返せば、確かに散々振り回されてはきた。
もちろん、そのことを恨みは……していない、はずだけれども。若干恨めしいと思う時があったかも知れないが、いわゆる恨みとは別ものであるはず。
そのはずではあるが。お年頃な少女の感情を散々にあの退屈令嬢がかき乱してきたことは紛れもない事実だろう。
「そうなのよ」
「そう、なのね……」
エレーナが静かに断言すれば、最早フランツィスカに反論する気力は、残っていなかった。
こうして。
『天下御免』の退屈令嬢が、二人の少女によって振り回される日々が始まるのだった。
唐突に、後日談的短編を投下いたします!
と言いますのも!
コミカライズ2巻が発売されるからです!
何しろ!!
今回の2巻、電子書籍のみでございまして。(真顔)
書店さんで見ていただくことが出来ないため、こうして恥ずかしながら宣伝している次第にございます。
とはいえ!
この辺りは書いておかないとなぁ、と考えておりましたので、ある意味いいきっかけかも知れません。
フランツィスカとエレーナが振り回されるなか、ヘルミーナも登場し、あの男も登場し、とコミカライズ2巻は何とか1章終了時点まで描いていただけました!
特にジルベルトはいい味出してると思いますので!!
後ヘルミーナめっちゃ可愛いですので!!
どうか各電子書籍サイト様にてご覧いただけたらと思います!!




