第十二話 ぬいぐるみの魔力、恐るべし。
こんなにすぐ書けるとは思ってませんでした。
「はぁ、みんな遅いな………」
約束の9時を10分近く過ぎている。そろそろ待つのにも飽きてきたんだけど………
今日の服装は、薄いピンクのスカートに、白いシャツ、あとは水色のカーディガン。本当はズボンが良かったんだけど、母さんが『外出するなら絶対スカートにしなさい。ズボンは許さないから。』と言うから律儀にスカートにしている。
スカートはいたときのスースーするあの感じ、慣れないな〜。
あと靴なんだけどよ。この間服買いに行った後、持ってたスニーカー、全部捨てられたんだよ。昔のやつも全部。代わりにうちにあるのはいわゆるヒールってやつ。別にそこまで高くはないから慣れれば楽なんだけどな。
そんな感じで元男の俺は、今やザ・女子高生な恰好をしているわけだ。もう諦めたからアレなんだけどよ、まだ女になって間もない頃は屈辱しかなかったね。
「遅いな、もう30分近く経ってるのに………」
マジで遅いな。俺以外誰も来てないし。
「君、一人?よかったらお茶しない?俺今暇でさ。」
あぁ、やっぱいるんだね。何処にもナンパってやつは。誰を誘ってるのか知らないけど、あんまりやらない方がいいよ。
それにしても遅いな。曲でも聞いて待ってるか。
「聞いてる?お茶しない?ねぇ、そこの曲聞いてる娘。」
あれ?もしかしてこれ、俺に声かけてない?
「あの、僕ですか?」
「そうそう。一人で暇してるなら俺とお茶しない?」
やっぱ俺だった。今は女だって自覚、持ってた方がいいかもな。
「僕、友達と待ち合わせてるんです。ごめんなさい。」
「君、僕っ娘なんだ。可愛いね。」
スルーかよ。俺の話無視してんじゃねぇよ。
「だったらその友達が来るまででいいからお茶しない?」
しつこいなぁ。世の中の女性はこんな困難を乗り越えて生きてんのか。こりゃ、世の中の女性に脱帽ですな。
「僕、今携帯持ってないんでそう言うのはちょっと………」
「ここが見える所に入るから。ね?」
「それでも困ります…………」
「何何?ナンパされてんのお前。さすが海陽の妖精。町中でも大人気だな。」
碧樹君?なんでこんなとこに…って、なんだ。買い出しか。食材が入った袋持ってるし。あ!この状況、使える。そうと決まれば、女の子っぽく、可愛く、上目遣いで全力で甘えるように………
よし。
「おっそーい。親に言われて買い出しやってから来るのは分かるけど、ここまで遅いとは思わなかったよ。僕がどれだけ待ったと思ってるの?」
そう、碧樹君と待ち合わせてることにすればいい。こうすればあいつも碧樹君を彼氏だと思って手を引くだろう。
「ちっ、なんだよ。彼氏持ちかよ。あーあ、リア充死ねばいいのに。」
よし。思った通り。でも、死ねばいいのにはひどすぎやしませんかね?
「あのさ、ナンパされて、回避するのに俺を使った。そこまでは分かるけど、なんだよ、さっきの言い方。」
「言い方?僕はいつもどうり言っただけだけど?」
嘘です。いつもの十倍近く本気で女の子っぽく喋った。
「んで、お前はここで何してるわけ?」
「友達と待ち合わせ。」
「その友達って、あれ?」
碧樹君が指さした方向には、雪平、篠原、如月の三人が。来てたんなら早く来いよ。あ、こっちに気付いた。
「優希、何やってるの。駅の東口で待ち合わせって言ったのは優希でしょ?」
「うん、そうだよ?」
「気付いてなかったみたいだから言うけど、優ちゃん、ここ、西口だよ?」
え?
あ、ほんとだ。西口って書いてある。
「ごめん!本当にごめん!」
「いいよ。間違いは誰にでもあるもんね。」
「優ちゃん、天然な所あるからね。」
「天然?あぁ、この間僕が飲んでた天然水のこと?」
あの水、うまかったな〜。たまに飲むと美味しいんだよ。
「「「やっぱり天然だ………」」」
だから、天然って何のこと?男同士の会話にはそんな単語は出ないぞ。
「それじゃぁ、行きますか!」
「「「おー!」」」
「優ちゃん、今日の服可愛いね。どこで買ったの?」
「隣町のデパート。」
「へ〜、優希はあそこで買うんだ。あそこって高くない?」
「あそこで買うって……優ちゃん、お嬢様だ。」
え、そうなん?確かにレシート見たら一着二、三万近く使ってるけど、女性用の服ってそれくらいするんかなと思ってたんだが………
ちなみに父親は……………そういや父さんって何の仕事してるんだっけ?
忘れちゃった。テへペロ♪
としておけばいいでしょう。
母さんは最近始めた仕事、確か歯科衛生士だったっけ?
それだァァァァ!!
母さんが歯科衛生士だから服に何万もかけられるんだ。だって月収平均二十五万って聞いたことあるし。
「それ、たぶんお母さんが歯科衛生士だからだと思うよ。」
「「「歯科衛生士!?」」」
そうか、最近のうちの家庭は裕福なのか………
「って何?」
ありゃりゃ、歯科衛生士を知らないとな。
という俺も知らない。ダメだな。
ブラのサイズは前もって測ってあったからすぐ入ってすぐ買ってすぐ出てきた。三人がガッカリしていたのは、どうせ試着するときにちゃっかり胸を揉むつもりだったからだろう。チッチッチ、その程度ならお見通しなのさ!中学の時の国語学年二位をなめるんじゃないよ!
言ってから気付いたけど、これ、国語とは関係ないよな。
「ちぇーっ。せっかく優ちゃんの着替えを合法的に覗けると思ったのに。」
いやいや、俺女の子、あなたも女の子。着替え覗くどころか、一緒に着替えてもお咎めなしなんだぜ?ていうか体育では一緒に着替えないと逆に問題視される。
お前は男かよ。
そう言ってる俺が元男なわけなんだが。
「あ、ここ行きたい!」
ある店を指す篠原。指している場所は………
「うわぁ〜。可愛い〜。ねぇねぇ、これ、可愛くない?うわ、こっちもちょー可愛い!」
ぬいぐるみ専門店。ここら辺にそんな店あったのか。
てか、さっきから大はしゃぎだな。篠原は結構クールなイメージだったんだが、どうやら可愛いものには目がないらしい。女の子らしくて大変よろしい。
「優希にはこのパンダのぬいぐるみがいいかも!さ、持って持って!」
ま、仕方ないから付き合ってやるか。俺も別に可愛いものが嫌いなわけじゃない。むしろ好きだ。
「これもふもふ!持ってて気持ちいい!」
「でしょ!?」
しかしホントにもふもふだな。このぬいぐるみ。何で出来てんの?
「二人とも、私たち先行くね。気が済んだらこの先のレストランで。」
「「わかった〜。」」
結局ぬいぐるみを探索しまくって、気付いたら12時48分になっていた。おい、入ったの11時30分だろ。一時間も入り浸ってたんか、俺ら。
「二人とも遅い!何やってたの!そんな幸せそうな顔しちゃってさ。」
「うちにあるのよりもふもふで気持ちよくってさ〜。色々見てたら気付いたら一時間経ってた。」
も〜最高。ぬいぐるみ万歳!男の時にはわからないこの良さ。あそこでいてたら心まで女に染まりそうで。
うん、それもいいかもしれない。可愛さを求めるのもいいかもしれない。そんなことを一瞬考えてしまった。ぬいぐるみの魔力、恐るべし。
「とりあえず、なんか頼もうか。あ、私ナポリタンね。」
「おー、イタリア料理。」
如月、いくらなんでもそのボケはないんじゃないかな?
「パスタ使ってるから全部イタリアンって訳じゃないよ。ナポリタンは日本料理だよ。」
「やっぱりアホな子なのね。」
「アホの子ゆうなー!」
この三人といると面白いな。中学の時とはまた違う高校生活を遅れそうだよ。
しばらくして、全員決まった。
俺はチーズハンバーグ。雪平はビーフシチュー。篠原はオムレツ、如月はナポリタン。みんな食後にパフェを頼むつもりだ。
「ご注文をお伺いします。」
そう言ってテーブルに来たのは……
「あれ、空ちゃん?何でここに?」
碧樹 祐哉の妹、碧樹 空だった。




