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鳥目シアンと、あのVTuberかもしれない彼女たち  作者: 群青アイ


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8/13

シアンちゃん寝る

一話完結の連作短編です。

鳥目シアンから始まる、彼女たちの世界をお楽しみください。

シアンちゃんは眠っています。

とてもよく眠っています。


シアンちゃんは今日も、シアンちゃんです。


目を覚ますと、シアンちゃんはお姫様になっていました。

正確には、お姫様になったのだと、みんなが言いました。


「シアンさま、お着替えのお時間です」


大きなお部屋には、見たこともない服がずらりと並んでいます。

青いドレス。ピンクのドレス。ハートの装飾がついたもの。羽飾りがついたもの。頭には小さな王冠まで乗せてもらいました。


「わあ、かわいい!」


シアンちゃんはくるりと回ります。


「では、次はこちらを」

「もう次?」


今度は黒いドレスです。その次は花柄のブラウス。気づけばふわふわのケープを着せられていて、それを脱いだころには、麦わら帽子とワンピースが待っていました。


「着替えるの早くない?」

「その次はこちらです」

「聞いてる?」


みんな、とても忙しそうです。

シアンちゃんはやることがないので、部屋を見回しました。

隅には黄色い傘が一本、壁に立てかけてあります。


今日は晴れているので、傘の出番はありません。


服が決まると、今度は肖像画です。

大きなキャンバスを抱えた画家さんがやってきました。


「動かないでくださいね」

「はーい」


一枚描き終えると、別の画家さんが来ました。その人が描き終えると、今度は彫刻家さんがやってきました。


「こちらを向いてください」

「こう?」

「もう少し笑って」

「こう!」


とってもかわいいシアンちゃんができました。

シアンちゃんより、ちょっとだけシアンちゃんらしいシアンちゃんです。


「似てるねぇ」


シアンちゃんも満足です。


お庭では吟遊詩人が待っていました。シアンちゃんが口ずさんだ歌を、吟遊詩人がとてもきれいな歌にして返してくれます。


「すごーい。同じ歌なのに、お庭いっぱいに響いてる」


吟遊詩人はにこにこしています。

楽器を持った人も来ました。見たことのない飾りを持った人も来ました。


みんながシアンちゃんのために働いています。

とても立派なお姫様です。


「では、お代を」

「あ、はーい」


シアンちゃんはポケットに手を入れました。

ポケットから、色とりどりの小さな紙がたくさん出てきました。


「いっぱいある」


シアンちゃんは何枚か差し出しました。

でも、誰も受け取りません。みんなはそのまま歩き出しました。


「では、次へまいりましょう」

「いいんだ」


お姫様というのは、不思議です。


廊下を歩いていたはずなのに、いつの間にか広場にいました。

たくさんの人がシアンちゃんを待っています。


「シアン姫!」

「こっち見て!」

「今日もかわいい!」


みんな楽しそうです。シアンちゃんも楽しくなってきました。

すると誰かが歌い始めました。


まんなかはいって

みんなでまわろ

くるくるまわって

またあした


みんなが手をつないで、シアンちゃんの周りを回り始めます。


「なにこれ?」


シアンちゃんは笑いました。

なんだかよく分かりませんが、楽しそうなので一緒に踊ろうとしました。


右に一歩。すると輪も右に動きます。

今度は、左に一歩。輪も左に動きます。


「合わせてくれてる?」


真ん中で踊ればいいのでしょう。

シアンちゃんはそこで踊ることにしました。


よく見ると輪の向こうに、黄色い傘を持った人がいます。

広げずに、杖みたいに持っています。

誰だったかな、とシアンちゃんは少し考えました。


次に見たとき、その人はいなくなっていました。


いつの間にか、広場の真ん中には大きなケーキが用意されていました。


「おめでとう!」

「なんのお祝い?」

「おめでとう!」

「そっか!」


祝われるのは嬉しいので、シアンちゃんも喜びました。

ろうそくを吹き消して、一口食べました。

甘くておいしいケーキです。


一口。もう一口。


ところが、不思議なことにケーキはちっとも小さくなりません。


「いっぱい食べられるね!」


とてもお得です。みんなも嬉しそうです。

シアンちゃんは夢中で食べ続けます。


気づけば、誰もいなくなっていました。


代わりに目の前には、大きな鳥籠があります。

シアンちゃんよりも大きな鳥籠です。


「でっか」


扉は開いています。中には誰もいません。


扉の横には、黄色い傘が掛けてあります。今度は開いていました。

なぜこんなところで傘を開いているのか、シアンちゃんは少しだけ不思議に思いました。

それよりも、何もない鳥籠の中が気になりました。


そのとき、遠くで汽笛の音がしました。


シアンちゃんは振り返ります。


海でした。


さっきまで広場だったのに、そこにはずっと先まで青い海が広がっています。

青。その向こうも青。


空と海の境目が、どこにあるのかよく分かりません。

遠くには、一羽の鳥が飛んでいました。


「おーい」


鳥はこちらを見ません。

もう一度呼ぼうかと思いましたが、やめました。

なんとなく、呼んでも聞こえない気がしたからです。


砂浜には小さな青い花が咲いていました。

シアンちゃんはその名前を知りません。


でもそこだけ、きれいでした。

ひとつ摘んでみました。


少し先には、黄色い傘が刺さっていました。


「またある」


ぽつ。

鼻の頭に水が落ちてきました。


ぽつ。ぽつ。

雨でした。


「傘あるじゃん」


ちょうどいいので、黄色い傘を抜こうとしました。

なかなか抜けません。


もう一度力を込めると、その拍子に傘は抜け、開きながら地面に落ちました。

手にしていた青い花も、どこかへ落ちました。


雨粒が、黄色い傘の内側に落ちていきます。


シアンちゃんは傘を持とうとしました。

でも、なんとなく面倒になりました。


そのまま眺めました。


海では、また汽笛が鳴りました。

遠くには、まだ鳥が飛んでいます。


ぽつぽつぽつ。

雨が少し強くなりました。


黄色い傘の中で、青い花が水面に揺れています。


シアンちゃんは今日も、シアンちゃんです。

ちゃんと。


* * *


目を開けると、自分の部屋だった。


カーテンの隙間から、朝の光が入る。


いつもの部屋だ。


私はしばらく天井を見つめる。


「なんだこの夢」

ここでしか見えなかった時間は、別の話に続いているかもしれません。

気になったことがあれば、もう一話だけいかがでしょうか。

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