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鳥目シアンと、あのVTuberかもしれない彼女たち  作者: 群青アイ


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4/14

描きかけの輪郭

一話完結の連作短編です。

鳥目シアンから始まる、彼女たちの世界をお楽しみください。

 私は机の上の液晶ペンタブを眺めていた。


「思っていたより悪くない」


 前回送った修正案より、私の髪がまた少し短くなっていた。耳まわりがすっきりして、全体のシルエットはずいぶん軽くなった。


 何度か見ているうちに、こっちの方が好きになってきた気もする。ただ、少しだけ自分の中に引っかかるものが残っていた。


 作業用とは別のモニターには、運営から届いたコメントがいくつも並んでいる。


『デザイン案04、確認しました』

『衣装については、配信画面で見たときのシルエットも意識していただけると助かります』

『髪型はこの方向で、顔まわりのシルエットをもう少し調整可能であればお願いします』


 最後の一文だけ、少し考える。


「もう少し、か」


 自分で描いたキャラクターなのだから、好きに直したい気持ちはあるけれど、こうして誰かから返事が来ると急に仕事のスイッチが入る。


 今、私は企業向けイラストのリテイク作業をしている訳ではない。


 いわゆるセルフ受肉というやつで、自分がこれから動かすためのイラストを描いている。


 きっかけは、新しくできた小さなVTuber事務所の募集だった。


『キャラクター案持ち込み可。採用後のモデル制作方法は運営と相談』


 募集要項にあったその記載を見て、ラフを何案か描き、自己PR動画と一緒に応募フォームから送った。


 その後、面接と契約の説明を経て、デビューが決まった。


 それから運営とのやり取りが始まり、ラフ案ごとにコメントが返ってくるようになった。


『この案はシルエットが分かりやすく、配信画面でも認識しやすいと思います』

『この案は装飾が細かいので、配信用モデルにする際は一部を整理した方がよさそうです』


 顔立ちや衣装、色使いの好みより、配信でどう見えるかを気にしたコメントばかりだった。


 数日前には、こんなコメントも残っている。


『一部のラフ案について、すでにデビュー準備中のメンバーと印象が近いため、別方向での調整も検討したいです』


 似た印象の子が続けば、見分けがつきにくい。持ち込み可能な募集だったとは言え、同じ事務所からデビューするのだから、こういったデザインの調整も必要なのだろう。


 そのコメントを見て、応募時のラフをまとめたフォルダを開くと、何枚かの候補が横に並んだ。


 最初に描いたものは、ローズピンクの長い髪をゆるくまとめ、白を基調にしたドレスに、王冠みたいなアクセサリーまで付けたものだった。今見ると少し盛りすぎた気もした。


 やり取りを重ねるうちに髪は短くなり、細かい装飾も減った。描き直すたびに、可愛いというより、なんとも言い切れない感じに寄っていった。


 私は一度フォルダを閉じて、椅子の背にもたれた。迷っているときほど、細かいところばかり触って全体がおかしくなる。


 先ほどまで酷使していた腕を伸ばしながら窓の外を見ると、まだ空は明るかった。


「気分転換しようかな」


 スマホと財布だけ持って外に出る。座りっぱなしだった身体が少し軽くなった。


 駅前の通りには仕事帰りにはまだ早い人たちと、買い物袋を提げた人が混ざっている。


 こういう時間は、光の入り方がちょうどいい。使えそうなものがあれば写真も撮っておこう。


 店のガラスに空が映り込んで、その向こうに並ぶ服の色が少しだけ薄く見える。


 私は立ち止まってスマホを向けた。


 そのまま撮ると人影が入りすぎたので、少し横にずれて、人影が映り込まない角度を探した。


 資料にするなら、こっちの方が後々使いやすい。


 別の店先では、シャツの袖を肘までまくったマネキンが立っていた。肩まわりの線が思っていたより細く、首元もすっきりしている。


 こういうものを見ると、つい撮ってしまう。必要になったときに撮っていなかった方が困るからだ。写真のフォルダには、そうやって集めたものが何百枚も残っている。


 たまに人から「写真が好きなんだね」と言われる。そう見えるのかもしれないけれど、私としては使えそうなものを残している感覚の方が近かった。


 通りの向こうに、黒に近いジャケットと細身のパンツの人が見えた。特別変わった服ではないのに、歩いたときのシルエットがきれいだった。


 私はスマホを向けかけて、やめる。さすがに道行く人を勝手に撮るのは違う。代わりに、頭の中だけで形を覚えた。


 ああいう感じも、いい。


 それだけ考えて、また歩き出す。


 さっき撮った写真を見返すと、細い袖やすっきりした首元が妙に目についた。意識して選んだつもりはないのに、今の案とどこか似ている。


「……分かりやす」


 帰ったら、もう少しだけ直してみよう。


 髪はこのままでいい。服の襟を少し変えて、肩まわりのラインも少し細くしてみよう。


 部屋に戻ると、つけっぱなしのモニターにはさっきの私がそのまま残っていた。


 少し短くなった髪を見ても、あの引っかかりはもうなかった。


 私は新しいレイヤーを一枚作り、襟元の線から引き直した。


ここでしか見えなかった時間は、別の話に続いているかもしれません。

気になったことがあれば、もう一話だけいかがでしょうか。

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