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鳥目シアンと、あのVTuberかもしれない彼女たち  作者: 群青アイ


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3/13

「今日も楽しかった」――たぶん。

一話完結の連作短編です。

鳥目シアンから始まる、彼女たちの世界をお楽しみください。

 最近、やりたいことが増えた。


 参加型の企画配信。リスナーさんのアカウント名の由来当て。みんなから募集したテーマで雑談する企画もやってみたい。


 配信が終わってからも、次の企画で使えそうな素材を探したり、ルールを少し書き直したりする。思いついたことは忘れないうちにメモへ書き込み、気づけばまた作業に集中していた。


 昨日もそうだった。


 水を飲もうと手を伸ばしたときには、コップの中身はもうぬるくなっていた。一口だけ飲んで、パソコンの画面を切り替える。


 次の参加型、人数が増えたら今のルールじゃ回らないかも。順番どうしよう。初見さんでも入りやすくしたいし。


 最近は前より見に来てくれる人が増えた。もっと楽しんでもらいたい。


 それだけ。


 そんなことを考えていたら、いつの間にか日付が変わっていた。




 最近、朝起きてもちゃんと寝た気がしない。配信前になると、少し頭が重い日もあった。


 前はこんなことなかったのにな。疲れてるのかな。


 季節の変わり目とか?よく分からない。


 でも、配信を始めれば平気だった。


 いつもの挨拶をすればコメントが流れてきて、なんともない、いつもの雑談で盛り上がる。次の企画の話をすると、


「楽しみ!」

「最近企画多くて嬉しい」


 そんなコメントが返ってくる。


 今日も配信してよかった。


 配信終了のボタンを押すと、さっきまで何人もの声があるように感じていた部屋が急に静かになった。少しだけ何もせずに座っている。


 静かだな。


 水を飲んで、一息つく。


 今日も楽しかった。


 ――たぶん。


 SNSを開くと、配信の感想がいくつか流れていた。指でゆっくり画面を動かしていく。


 どれも嬉しい言葉なのに、なぜか胸の奥がざわざわした。みんなちゃんと見てくれている。最近は前よりずっと。


「もっと私を見てよ……」


 口にしてから、自分で驚いた。何言ってるんだろう。見てもらってるじゃん。


 じゃあ、私は何が不満なんだろう。


 分からない。


 少し疲れてるだけかな。今日はもう寝た方がいいのかもしれない。


 そう思いながら、投稿画面を開く。文字を打つ。消す。また打つ。考えがまとまらず、結局長い文章にはならなかった。


「今日の配信ちょっと疲れちゃった」


 それだけ投稿した。


 少しして、通知が増えた。


「長い目では休む選択をした方がいい場合もある」

「続けるか、休むかだけで考えなくてもいい」

「しんどいときくらい休んでいいと思う」


 優しい言葉ばかりだった。そのうち、一つの返信に多くのいいねがついていく。


「違う、そうじゃないの」


 また声に出ていた。


 通知はまだ増えている。こんなにたくさんの人が気にかけてくれている。


 私は一人じゃない。


 なのに。


 どうしてこんなに、ひとりなんだろう。


 画面を閉じようとしたとき、一つの返信が目に入った。


「ツライよね。私もVTuberだから、ちょっとわかる。」


 指が止まった。


 何をすればいいとも書いていない。たまたまこの投稿を見て、なんとなく書いただけなのかもしれない。


 それなのに。


 画面の文字が少しぼやけた。頬に触れると、指が濡れていた。


 なんで泣いてるんだろう。


 今日の配信は楽しかったし、嫌なことを言われたわけでもない。なのに、涙だけが止まらなかった。


 しばらくして、もう一度その返信を見る。


 ひとりなのは、たぶん変わらない。


 それでも、少しだけ息がしやすくなった。


 鼻をかんで、残っていた水を一気に飲み干す。机の上に視線を戻すと、開いたままの企画メモがあった。


 次の参加型のルールは、書きかけのままだ。

 人数が増えてきたし、今のままじゃたぶん回らない。


 次の企画も、ちゃんと考えないと。

 キーボードに手を戻す。


「よし」


 月明かりの中、机に向かう背は暗く沈んでいた。

楽しかったは嘘じゃない。それなのに、――分からなくなる。


ここでしか見えなかった時間は、別の話に続いているかもしれません。

気になったことがあれば、もう一話だけいかがでしょうか。

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