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鳥目シアンと、あのVTuberかもしれない彼女たち  作者: 群青アイ


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12/14

私のほうが好きだもん

一話完結の連作短編です。

鳥目シアンから始まる、彼女たちの世界をお楽しみください。

「でも、結果は数字に出てるでしょ!」

「数字だけで全部決めるのはおかしいって!」


 テーブルを挟んで、しーちゃんと睨み合う。


 こんなことで言い争うつもりはなかった。今日だって、二人でこれからのことを相談しようと、わざわざ時間を合わせたのだ。


 それなのに、どうしてこうなってしまったのだろう。


「しーちゃんだって、世間の評価は気にするでしょ?」

「気にするけど、それと私が好きかどうかは別の話じゃん」

「じゃあ、この数字を見てよ」

「見たって、私の気持ちは変わらないよ」


 しーちゃんは珍しく一歩も引かない。私だって、ここまで言われて黙っているわけにはいかなかった。


 しーちゃんとは、もう分かり合えないかもしれない。


 私たちの間には、どうしても越えられない溝がある。


 きのこの丘と、たけのこの森。


 テーブルの真ん中に並べられた二つのお菓子の袋が、まるで私たちの陣地を分ける境界線のようになっていた。


 事の発端は、しーちゃんが出してくれたお茶菓子だった。


 今日は彼女の家で、二人で今後やってみたいことを相談する予定だった。いくつか候補も考えてきたし、時間があれば、もう少し先のことまで話せるかもしれないと思っていた。


 テーブルには、お茶と一緒に何種類かのお菓子が用意されていた。


 けれど、私がコンビニで買ってきたきのこの丘をテーブルに置くと、しーちゃんは不思議そうな顔をした。


「えーちゃん、そっち派なんだ」

「そっちって?」

「きのこ」

「そうだけど。しーちゃんは?」

「たけのこ」

「ああ、なるほどね」

「……なに、その『なるほどね』って」


 思えば、あそこで余計なことを言わなければよかった。


「いや、すごい甘いの好きだもんね。しーちゃん」

「どういう意味?」

「別に?」


 それが、いつの間にか互いに譲れない言い争いになっていた。


「そもそも、しーちゃんは分かってないんだよ。きのこの良さを」

「えーちゃんこそ、たけのこの良さを全然分かってない!」

「いい? きのこの魅力は、チョコの味をちゃんと楽しめるところなの」


 私は袋から一つ取り出し、傘の部分をしーちゃんに見せた。


「最初にチョコの甘さが来て、そのあとクラッカーの軽い食感があるでしょ。口の中に甘さが残りすぎないのもいいんだよ」

「でも、それって別々に食べてる感じしない?」

「そこがいいんじゃん」

「私は一緒に食べておいしい方がいいなあ」


 しーちゃんは、たけのこを一つ掌に乗せた。


「こっちはチョコとクッキーがちゃんと合ってるんだよ。噛んだときに、ほろっと崩れる感じも好きだし。甘さと食感のバランスがいいの」

「それは分かるけど、ちょっと甘すぎない?」

「私はこれくらいが好きだけど」

「もうちょっと控えめな方がおいしいと思うけどなあ」

「だから、クッキーとのバランスがいいって言ってるじゃん!」


 しーちゃんはむっとして、たけのこを口に放り込んだ。


 私もきのこを一つ食べた。チョコが舌の上でゆっくり溶けて、ほどよい甘さが広がる。


 やっぱり、こっちの方がおいしい。


「それに、きのこはお酒にも合うんだよね」

「お酒?」

「そう。甘すぎないから、ちょっと飲みながらつまむのにもちょうどいいの」

「私、お菓子はお菓子として食べたいんだけど」

「しーちゃんにはまだ早いかなあ。この大人の味は」

「出た。すぐ大人ぶる」

「大人ですけど?」


 しーちゃんはもう一つたけのこを口に運びかけて、手を止めた。


「だいたい、えーちゃんだって甘いもの好きじゃん」

「好きだよ。でも、甘さにも種類があるでしょ」

「だったら、こっちの甘さも認めてよ!」

「認めてるって。ただ、きのこの方が好きなだけ」


 味の好みでは決着がつきそうになかったので、私はスマホで人気投票を調べ、きのこが優勢な結果を選んでしーちゃんに見せた。


「ほら。これ見て」

「どれ?」

「ここ。ちゃんときのこを支持してる人が大勢いるんだよ」

「そんなの、たけのこだっているもん」


 しーちゃんは身を乗り出して画面を覗き込んだが、向かい側からでは細かい文字が読みにくかったらしい。


「ちょっと、そっち行く」


 立ち上がったしーちゃんは、座っていたクッションを持ってテーブルを回り、私の隣に腰を下ろした。


 二人で一つのスマホを覗き込む。しーちゃんの髪が私の肩に触れたまま、彼女は画面をスクロールしていた。


「あ、待って。これ、別の年の結果もあるじゃん」

「それは、たけのこの新商品が出た年でしょ。最近はきのこが伸びてるんだから」

「さっきは数字が大事って言ってたのに?」

「数字は大事だけど、一回の結果だけじゃ分からないってこと」

「都合よすぎない?」


 まさか自分が持ち出した資料で反撃されるとは思わなかった。


 しーちゃんは得意げに笑っている。私も負けじと別の結果を探そうとしたが、画面の上に彼女の指が伸びてきて、検索欄を押されてしまった。


「もう、しーちゃん。勝手に触らないでよ」

「えーちゃんが都合のいいのばっかり見せるからでしょ」


 言っていることはもっともだったが、素直に認めるのは癪だった。


 結局、どちらが優勢な年もあって、決着はつかなかった。売上まで調べてみたものの、今度はどの数字を比べるべきかで揉めてしまった。


 私がスマホをテーブルに置くと、しーちゃんはたけのこの袋を引き寄せた。


「やっぱり、一回食べ比べるしかないよ」

「えー、今さら?」

「絶対、先入観があるんだって」


 それを言うならしーちゃんだって同じだと思う。


 私が反論しかけたところで、しーちゃんはたけのこを一つつまんで、私の口元に差し出した。


「いいから、もう一回ちゃんと食べてみて」

「……ん」


 髪を耳にかけて、目を閉じる。口に運ばれたお菓子を受け取るとき、しーちゃんの指先が唇に触れた。ほんのり温かく、柔らかかった。


 そのまま噛むと、チョコの甘さに続いて、クッキーがほろほろと崩れていく。


 確かに、さっき言っていた一体感というのは分かる気がした。


 目を開けると、しーちゃんが私の顔をじっと見ていた。


「……どう?」

「うん。おいしいと思うよ」

「でしょ!」

「チョコとクッキーがよく合ってるし、食感もいいね」


 しーちゃんの顔がぱっと明るくなる。


「じゃあ、たけのこの方が好き?」

「いや、きのこの方が好きだけど」

「えーっ!」


 さっきまでの嬉しそうな顔が、あっという間に不満そうなものへ変わった。


「なんでよ! 今おいしいって言ったじゃん!」

「おいしいのと、一番好きなのは別でしょ」

「そこまで分かったなら、もうちょっとじゃん」


 しーちゃんはたけのこの袋に手を伸ばした。


「じゃあ、もう一個」

「いや、もう十分味わったから」

「今度はゆっくり食べてみて」

「しーちゃん、何個食べさせるつもり?」

「分かるまで?」

「なくなっちゃうでしょ、それ!」


 私は差し出されかけたお菓子を指で押し戻し、代わりに自分の袋からきのこを一つ取り出した。


「じゃあ、しーちゃんもこっち食べてみなよ。ちゃんとチョコを味わって」

「食べたことあるよ」

「今のしーちゃんの理屈だと、もう一回食べる必要があるよね?」

「……そうだけど」


 しーちゃんは少し考えてから、私の手からきのこを受け取った。


 まずチョコの傘をかじり、それから残ったクラッカーを口にする。


「あ、なるほど」

「何?」

「こうやって別々に食べると、確かにチョコの味が分かりやすいかも」

「でしょ!」


 思わず身を乗り出す。


「クラッカーも甘くないから、後味が軽いんだよ。ずっと食べてても飽きにくいし」

「うん。それはちょっと分かる」


 しーちゃんは残ったクラッカーを食べ終えると、袋からもう一つきのこを取り出した。


「って、しーちゃん。それ私の」

「もう一個くらいいいじゃん」

「さっきまで散々言ってたのに?」

「嫌いとは言ってない」


 その言い分があまりにも都合よくて、二人で笑ってしまった。


 考えてみれば、私も似たようなものか。


「……まあ、たけのこも結構おいしいよね」

「ほんと?」

「うん。でも私はきのこ」

「私もきのこの良さは分かったよ。でも、たけのこが一番」

「じゃあ、もうそれでよくない?」

「うーん、まだ分からない」


 そう言って、しーちゃんは私のきのこをもう一つつまんだ。


 テーブルの上には二種類の袋が並んだまま、どちらともなくお茶を飲む時間が訪れた。


 しばらくして、あれほど言い争っていたのに、今は私が街なかで見つけた猫の話をしていた。


 何気なく壁の時計を見ると、思った以上に時間が経っていた。


「あれ?」

「どうしたの?」

「しーちゃん、今日の話、全然進んでなくない?」


 しーちゃんも時計を見上げ、それからテーブルの端に置かれたノートへ目を向けた。


「あっ」


 ノートは、来たときに私が鞄から取り出したままになっていた。ページの上には、事前に考えてきたいくつかの案が箇条書きされている。


「もうこんな時間!」

「えーちゃんがきのこなんて買ってくるから」

「しーちゃんだってたけのこ出してきたじゃん」

「だって、えーちゃんが来るから買っておいたんだもん」


 思いがけない返事に、言いかけていた言葉が止まった。


「そうなの?」

「うん。甘いもの好きでしょ?」

「まあ、好きだけど」

「だから」


 少しの沈黙のあと、しーちゃんは私の手元にあったお茶を指さした。


「えーちゃん、おかわりいる?」

「……うん。ありがと」


 しーちゃんがキッチンへ向かっている間に、私はノートを開き直した。


 二人でやるなら何がいいか。いつものコラボと何を変えるのか。


 戻ってきたしーちゃんは、私の前に温かいお茶を置き、隣に腰を下ろしてノートを覗き込んだ。


「で、どれから話す?」

「まずは、何を一緒にやりたいかかな」

「それなら、私もいくつか考えてきたよ」

「ほんと? 見せて」


 しーちゃんがスマホを取り出す。


 その画面を二人で覗き込んでいると、彼女が私の方へ、用意してあった別のお菓子の袋を寄せてきた。


「えーちゃん、これも食べる?」

「それ、さくさくアライグマ?」

「これなら、ケンカにならないでしょ?」

「私、さくさくチョコたろう派だけど」


 そう言いつつ、一つもらって口に入れると、しーちゃんは満足そうに笑った。


 私はノートを見ながら、ついでにきのこの袋も彼女の方へ押しやる。


 しーちゃんは何も言わず、そこから一つ取った。

ここでしか見えなかった時間は、別の話に続いているかもしれません。

気になったことがあれば、もう一話だけいかがでしょうか。


関連作品:『Lo-Fiの宿』

えーちゃんとしーちゃんが過ごす、また別の日常を描いた一編です。

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