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鳥目シアンと、あのVTuberかもしれない彼女たち  作者: 群青アイ


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10/14

あと、二十八分

一話完結の連作短編です。

鳥目シアンから始まる、彼女たちの世界をお楽しみください。

 20:32


 目が覚めた。


 何かに迫られたような、誰かに呼ばれたような気もした。枕元のスマートフォンを手繰り寄せると、画面には二十時三十二分と表示されていた。


「……えっ」


 今日は二十一時から配信だった。


 眠気の残る頭で、恐る恐る数字を確かめる。間違いない。あと二十八分しかない。


 夕方、少しだけ横になるつもりだった。アラームもかけたはずなのに、止めた記憶がない。


 上体を起こしてベッドの縁に腰掛け、配信までに必要な手順を頭の中で辿る。


 パソコンを起動して、配信ソフトを立ち上げる。モデルの動作と音声を確認して、待機画面の準備。それから配信告知もしないと。


 顔を洗う時間はないかも。多分、ギリギリっぽい。開始時間を少し遅らせた方がいいかもしれない。


 当社比ではかなり高速な皮算用を終え、ようやくベッドから立ち上がった。


 20:38


 パソコンが立ち上がるのを待ちながら、スマートフォンでSNSを開いた。


 遅れる可能性だけでも、先に知らせておこうか。


『すみません! 今日の配信、少し遅れるかもしれません』


 そこまで入力して、指を止めた。


 まだ遅れると決まったわけじゃないのに、こんな告知をしていいのだろうか。かといって、予定時刻になってから知らせるのも申し訳ない。


 十分だけ遅らせようか。


 いや、自分の計算を信じよう。


 投稿欄を閉じると、見覚えのある狐面のロゴが目に入った。華やかな衣装をまとった狐耳の女性が、雑誌の表紙を飾っていた。


「へえ、すごいなあ」


 雑誌の表紙なんて、どんな気分なんだろう。自分にもいつか、こんな機会があるだろうか。


 ふと顔を上げると、パソコンはとっくに起動を終えていた。


 スマートフォンを伏せて、キーボードに手を伸ばした。


 20:43


 モニターにはいつもの部屋(背景)と、私(わたし)が映っていた。


 濃紺のジャケットに白いシャツ。青い瞳と、インナーカラーの覗く長い黒髪。見慣れているのに、今日は何だか様子がおかしい。


 椅子に座り直してカメラに顔を向けると、画面の中の私も正面を向いた。


「んー?」


 何だか、目が細い。


 少し首を傾げると、画面の中でも同じように首が傾く。動作に問題はなさそうだ。


 そこでようやく、自分がまだ眠そうな目をしていることに気づいた。


 背筋を起こし、意識して目をぱっちりと開いてみる。


 すると、今度は口元が気になった。笑っているつもりはないのに、画面の中では口角が上がっている。どうやら寝起きで、口元まで緩んでいたらしい。


 口元を引き締めると、ようやくいつもの表情に戻った。


「よし、よし」


 確認しているうちに、頬に髪が落ちてきた。手で払ったものの、また同じところへ戻ってくるのが煩わしい。机の端に置いてあったヘアゴムを取り、顔まわりの髪も含めて、長い髪を頭の上にまとめた。


 マイクを有効にして、いつもの声量を意識して声を出す。


「あー、あー。こんばんは~」


 喉の奥にまだ眠気が引っかかっているようで、声が少し掠れていた。手元に用意した水を一口飲み、もう一度試す。


「こんばんはー!」


 今度は声の掠れも気にならなかった。ようやく、頭もはっきりしてきた気がする。


 口の動きも問題ない。待機画面に切り替え、BGMを流して音量を確認する。


 あとは、いつもの配信告知だけ。思ったより余裕がありそうだし、顔くらいは洗ってこよう。


『21時から配信です! もうすぐ始まるよー!』


 SNSに告知を投稿したあと、洗面所に向かった。


 20:59


 待機画面を流したまま、手元のメモに目を通す。今日話すつもりだったことが、箇条書きでいくつか並んでいた。昨日の深夜テンションで書いたものだからか、後半は自分でも少し意味が分からない。


 まあ、話し始めれば思い出すだろう。


 残り一分。


 さっきまで足りないと思っていた一分が、BGMを聞いているうちに、妙に長く感じられた。


 21:00


 時計の数字が切り替わる。


 待機画面からいつもの部屋へ切り替えた。


「こんばんは! 鳥目シアンです!」

ここでしか見えなかった時間は、別の話に続いているかもしれません。

気になったことがあれば、もう一話だけいかがでしょうか。


関連する短編:『今日も楽しかった。――たぶん。』

配信が終わったあとの日常を描いた一編です。

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