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幕間 第一章の|控 ――買う知恵

 資料編にございます。読み飛ばして差し支えありません。

 第一章(プロローグ〜第十九話)まで。

 一、人別(にんべつ)


 松永久秀(まつながひさひで)

  三好家の祐筆にして奉行。名物に目がなく、欲を隠さぬ男。朔から「まだ来ぬ世のこと」を点で買う。


 水江朔(みずのえさく)

  水之江荘の土豪の子。久秀に「まだ来ぬ世のこと」を売る。値は銭ではなく、点で取る。


 三好長慶(みよしながよし)

  越水城の主にして、久秀の主君。父を死に追われた家を、力ではなく理で立て直そうとしている。


 朽木玄斎(くちきげんさい)

  念流の剣客。もと細川高国の直臣。朔の傍に付き、剣と世事の双方を教える。


 三好政長(みよしまさなが)

  細川晴元の側近。長慶の父・元長を死に追いやった男。数寄者でもある。


 木沢長政

  河内守護代。飯盛山に拠り、畿内に重く構える。


 細川氏綱(ほそかわうじつな)

  細川京兆家の当主を称し、晴元に抗う。亡き養父の家名の再興に取り憑かれている。


 波多野秀忠(はたのひでただ)

  丹波八上の領主。没落した名門の当主で、誇りと恨みを同じだけ抱えている。


 田島宗治(たじまそうじ)

  塗師を装って水江村へ入った忍び。甚内の手の者。


 松永長頼(まつながながより)

  久秀の弟。松永家の兵を率い、実務を捌く。兄より冷たく、兄より速い。


 柳田甚内(やなぎだじんない)

  伊賀出の忍び。久秀の密偵頭。野鍛冶を装って水江村へ入り、朔の素性を探った。


 野間長久(のまながひさ)

  野間庄の領主。家を残すために、風の向きを読み続けている。


 三好長逸(みよしながやす)

  三好本宗家の宿老。譜代の重鎮であり、新参の久秀を値踏みし続けている。


 彦太(ひこた)

  沢西村の亡き名主の遺児。朔の弟子で、口の調子が師にそっくりの快活な少年。西宮の吹屋では掟の唄を取る。


 三好実休(みよしじっきゅう)

  長慶の弟。阿波を預かる。茶の目利きでは、三好の家中に並ぶ者がない。


 細川晴元(ほそかわはるもと)

  管領。京の政の頂にありながら、その座を己の力で支えきれずにいる。


 松永静(まつながしず)

  久秀の妻。波多野の縁で嫁いだ。夫の数寄を、呆れながらもいちばんよく解している。


 山本勘助(晴幸)

  九年の牢人暮らしの果てに久秀へ買われた片目の男。戦と城を見る目は、畿内に並ぶ者がない。


 瓦林里茂(かわらばやしさとしげ)

  松永家の奉公人。風来坊の潜入・情報役。久秀の数寄に惹かれて居ついた変わり者。


 明智光秀(あけちみつひで)

  久秀が牢人の中から探し当てた若者。算用と兵站に長ける。実直だが、野心が無いわけではない。


 利吉(りきち)

  堺の商人。焼酎の座の権を握り、いまは荒銅の買付と銀の道を担う。朔とは古い付き合いである。


 海老名三郎兵衛(えびなさぶろべえ)

  長慶の近習。主の護り役として、諫言を厭わぬ実直な武士。


 田中与四郎(たなかよしろう)

  堺の納屋衆の若旦那。魚問屋の家に生まれ、茶に憑かれている。父の病と家業の重みを抱える。


 宇之吉(うのきち)

  堺から呼ばれた吹き大工の頭。腕は確かで、口が悪い。天文十年 弥生、鉛の毒に斃れた。その死が、西宮の掟を立てる。


 武野紹鷗たけの じょうおう(通称:新五郎)

  堺の重鎮。皮革と武具で財を成した豪商にして茶人。冷たい算盤と、禅の慈悲を併せ持つ。


 塩川国満(しおかわくにみつ)

  一庫城の主。多田の山を抱える。


 佐介(さすけ)

  越水の書役。字が上手いだけの男。人の書き損じを読むのが役目ゆえ、読むまいと思っても読めてしまう。


 北向道陳(きたむきどうちん)

  堺・舳松の目利き。本職は医師。東山流の茶法を受け、名物を数多く手元に置く。


 弥助(やすけ)

  坑夫の頭の一人。もと石切り場の男。石の割れる筋は目で分かるが、それを言葉にできない。


 六郎(ろくろう)

  坑夫の頭の一人。もと足軽くずれ。呑み込みは早いが、理は分からぬ。


 太一(たいち)

  坑夫。捨石の崩れで足を挟まれ、掘れぬ身になった。


 松吉(まつきち)

  坑夫。一攫千金を夢見て山へ来た。当てたら村へ帰り、田を買うつもりでいる。


 藤次(とうじ)

  宇之吉の跡目を継いだ吹き大工の頭。掟を人の三倍こわがり、人の三倍守らせた。天文十年 水無月、掟を一つも破らずに死んだ。


 安蔵(やすぞう)

  宇之吉の死後に堺から入った新参の一人。屋根と板の始末が上手い。


 本庄孫三郎ほんじょうまごさぶろう

  松永家の奉公人。久秀の実務を支える行政官。


 橘屋宗珍(たちばなやそうちん)

  西宮で宿駅を営む商人。為替と金融の仲介も担う。数のほかは、まるで駄目な男である。


 おこう(橘屋のおかみ)

  橘屋の女将。値決めも、客あしらいも、人使いも、この女の腕である。


 若林左衛門尉わかばやしさえもんのじょう

  都賀荘の名主。京と越水の双方から届いた催促状を膝の前に並べ、どちらにも納めぬまま日を送っていた。


 大利喜二郎(おおとしきじろう)

  都賀荘の名主。若林より若く、口が先に出る。去年の冬、郷から十一人の死者を出した。


 道祐(どうこ)

  細川晴元の被官・平井対馬守の代官。都賀荘へ段銭の催促に入った。


 池田信正(いけだのぶまさ)

  池田城の主。摂津豊島郡の国人。長慶に従い、姻戚でもある。


 上田弾正忠為次うえだだんじょうのじょうためつぐ

  中嶋城の主。淀川と神崎川の渡河点と過書を握り、国を持たずして富んだ男。天文十年 文月、討たれた。


 大方さま(久秀の母)

  堺南荘の裏町に、一人で住む。家は小さいが、仏間だけが家に釣り合わぬほど整っている。


 津田宗達(つだそうたつ)

  堺・天王寺屋の主。会合衆の一人。人の名は覚えられぬかわりに、器で見たことは何ひとつ忘れない。


  ──────────────


 二、帳合(ちょうあい)


  天文九年 葉月(1540年8月)から

  天文十年 葉月(1541年8月)まで


 [入り]

  点前渡し 二十点

  朔より借入 二点

  月々の加算 十二点

  入り 合わせて 三十四点


 [払い]

  己が末路 五点

  五年の地図 三点

  一庫城の戦い 一点

  採掘の奥義目録 三点

  南蛮吹き 三点

  人の名簿 二点

  山本勘助 三点

  明智光秀 三点

  未発掘鉱山の概要 三点

  山の掟三品 二点

  灰吹法 二点

  骨灰キュペル 三点

  払い 合わせて 三十三点


 [残高]

  残り 一点

  借入残 二点

  正味 一点の不足


  ──────────────


 三、差引(さしひき)

  ――得たるもの、失いしもの



 [得たるもの]


  一、己が末路の書付と、五年の地図

    ――天文十三年の暮れで切れる

  一、水江の朔と、烹られぬ契り

    ――点前渡し二十点に始まる商い

  一、山本勘助、明智光秀

    ――牢人の中から掘り出した二人

  一、静

    ――波多野の縁と、帳面を取り上げる手

  一、多田の山と、銅から銀を分ける術

    ――南蛮吹き、灰吹法、骨の灰の皿

  一、西宮の吹屋と、「掟」という考え

    ――二人の死で、買うた

  一、中島の城と、下流の水運

    ――上田討伐の御下知、一枚の紙で

  一、都賀荘の帳面と、橘屋の宿駅

    ――下郡の荷と銭が、数で見える

  一、堺の縁

    ――天王寺屋の宗達、納屋の若い衆

  一、十日

    ――三百貫で、買うた



 [失いしもの]


  一、宇之吉

    ――鉛の毒に。天文十年 弥生

  一、藤次

    ――己が守らせた掟に。

     天文十年 水無月

  一、上田弾正忠為次

    ――潰したのは、こちらである。

     天文十年 文月十九日

  一、都賀荘に立て替えた六十貫と、

    「わしは、帰らぬ」の一言

  一、朔より借りた二点

    ――正味一点の不足を抱えたまま、

     天文十二年 皐月の返済月まで走る

  一、三百貫

    ――己の一年の手取りより、なお多い



  買えなかった品は、帳面に載らぬ。

  されどこの章の終い、

  久秀は買えぬものを三つ見た。


  三百貫の天目。

  欠けた飯茶碗。

  そして、銭を一文も使わずに

  寺を動かした母。

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