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第3章1 合縁

挿絵(By みてみん)

合う合わないは仕方ない所はありますね

それは異世界でも共通だと思います

千夏の脳内には「水=るに」はほんの片隅にある程度であった、しばらく落ち着いた日が続いている、術後暴れる患者もいなければ緊急入院も認知症がない人ばかり、この前の動こうとする患者も安静度が変更になって病棟トイレ見守りになり動けるようになったのでだいぶ穏やかになった、ただ今日はあまり気乗りしない日である、苦手な先輩がリーダーなのだ、別に意地悪をされた訳でもないが人には合う合わないがある、ストレートにものを言う方が合う人、例え話で柔らかく言う方が合う人、その場で言う方が合う人、終わったあとで振り返りとして言う方が合う人、様々で、千夏はストレートに言う人とは基本合わなかった、もちろん全員がというわけじゃない、まぁだからこそ人には合う合わないがあるという話なのだが、その先輩が来る前に早めにカーデックスに目を通し情報収集を始める、今日は金曜日だが祝日なので手術は無いし千夏の受け持つ部屋には昨日手術の患者は居なかった、やる事は少ないがその分ナースステーションにいる時間が長くなりそうだから患者で爪切りする人や洗髪する人、体拭きや着替えなど居ないか考えておく、緊急入院は出来れば取りたくないが理由はいつもは忙しいからだが今日はその入院患者の情報をしっかりリーダーに申し送らなければならず気が滅入るのだ、千夏は色々今日の流れを考え業務に入る、午前中は傷の消毒や検温などやる事は多いので良かったが昼からは患者の洗髪や爪切りも終わり受け持ち患者の評価や委員会の仕事くらいになった時電子カルテの充電が少なくなりナースステーションに戻らなければならなくなった、とりあえず病院の着替えをランドリーに戻してからと考えランドリー室へと足を運ぶ、ナースステーションへ戻るために階段を登りきったら目の前は廊下ではなく小屋の扉の前だった、空が茜色っぽい


後ろにはやはり階段は無い、扉をノックしてみるが反応は無い、夕方なのだろうか、それにしては空気が澄んでいるような気がする、もしかしたら居ないのかと思いもう一度ノックしてみると、白装束、ではなくこちらで言うバスローブ的なものに身を包んだあの男性が出てきた、今は早朝だったらしい、恐らく寝起きか何かだったのだろう、千夏はどうすることもできず頭を下げて開けられた扉を閉めようとした、男性の力で開けられた扉を千夏の力では押し戻せないと思ったが男性が意図を察したのかそのまますんなりと扉は閉まった


千夏はどうしたら良いか困惑したが小屋の中で微かな物音が続いて、体感数十分、おそらく現実時間では数分の後、再度扉が開くと最初に出会った時と変わらぬ服装の男性が出てきた、寝巻き、部屋着、外向きの服などの概念は同じらしい


「とすぃっあをす」


千夏が入れるように扉を押さえながら言葉が聞こえた、恐らく小屋に入るように促されているのだろう、頭を下げて入る


「お邪魔します」


千夏は出会って三度目て初めて小屋に入る時にそう発した、小屋の中は変わっていなかったが外が少しだけ肌寒かったからか少し暖かく感じられる、例えて言うならば秋から冬に変わっていく時分の朝、布団の中の心地よい自身の温もりがあるかのよう


前回と違うのは千夏が座ると同時に男性が水を用意してくれていたことと部屋に大きめな植木鉢みたいな、恐らく火鉢があった、千夏は現代人なので火鉢であるだろうという予測はできたが実物は見たことがないし祖父母の家で炬燵があったくらいで今は床暖房がある、その火鉢であろう物の中には灰と木炭があった、小窓は全て開けられており換気は行き届いているらしく空気が入ってきている、このような所でのんびり暮らすことが出来たなら、など夢のまた夢、現実はそう甘くない、恐らくこの男性は長い道のりを歩くか何かして買い物に行くし少しの病気をしたとしても医者に頼れない、何かものが壊れたら自分で修理するかこれまた歩いて買いに行くか、そうそう簡単にスローライフなんてものは無い、だが現代社会に疲れた千夏にはそれでも羨ましく思えた、誰かの評価や視線を気にして失敗を恐れ、見えない誰かに虚勢を張って、他人の機嫌を伺い時間に終われる、そんな事が無いこの場所が


ぼんやりと千夏が考えていると、いつの間にか男性はハサミと紙のようなものと筆を持って座ろうとしている、部屋の隅にあった机を男性はこちらに持ってきていた、恐らく言葉のやり取りなのだろう、男性はハサミを指さし


「とのる」


「と、のる」


と言う、ハサミは向こうでは「とのる」らしい、千夏もポケットの中に大切にしまっていた分厚いメモ帳を取りだし「ハサミ=とのる」と書いた、当然男性が紙や筆など発言があるものだと思っていたが男性は千夏の言葉を待っている様子であり、千夏の世界での言葉を学ぶ姿勢が見られた


「ハサミ」


「はさみ」


紙に書く様子があり元々1行目には何か書いてあった、2度目の水の単語なのだろう、千夏も男性も互いに学んでいるのだと嬉しく感じられる、男性は次にその紙を指さし


「もる」


「モル…」


意図に気づいた、最初が「みず」次が「はさみ」その次が「かみ」「み」が繋がっている、恐らく男性はなにか繋がる1文字を考えていたのではなかろうか、もし千夏のいる世界と同じであれば50音順が作れる、そうしたらある程度分かりやすい、千夏はこのような学び方が好きだった、一つ一つ学ぶよりは関係性を見出すのが好きだが好きと得意は違う、脳内で関連させるのは苦手である、だが、不得意であったとしても頑張れば人並みには見えるはずでしっかりとメモをする


「かみ」


「か、み」


男性も関連性に気づいてくれていたら嬉しい、単語だけでも無限にある言葉だがその中で50音順を作れば濁音半濁音などは日本人特有のその場の空気やらなんやらで何とかなる、はず、だと考えた、そこで気がつく、男性が指している紙とハサミは千夏も持っている、ポケットの中と今手にしているメモ帳だ、千夏はポケットの中からハサミを取り出し、古いメモ帳の何も書いていない新しいページを切り取り


「とのる、もる」


ハサミと紙を指さしながら言う、男性も興味を示したようでハサミと紙を手渡す、どちらも使い方は男性の世界と同じだが素材が違う、ハサミは男性の世界の方が鋭利だ、もちろん看護師であるためハサミは患者の皮膚を傷付けないような物を買っているのもある、紙は男性の世界の物は墨に似たものを筆に取り書くタイプ、その分こちらは極細のボールペンなどでも紙が破けないので頑丈になったのだろう、男性は千夏にハサミと紙を返し紙にメモしていた、他に「み」や今知った文字の中で何かあるだろうかと考える、ペンや名札、消毒などはこの世界には無さそうだ、男性は千夏では無く千夏の周りを見ていた、不思議そうに、ただ周りには何も無い、何か帰る前の前兆のようなものを探しているのかもしれないが千夏自身もそのようなトリガーは分からないのだ、このまま帰れなければ向こうはどうなるのだろうか、帰った時の時間経過は無かったので時が止まったままなのだろうか、分からない、もしかしたらここで過ごす時間が伸びたら向こうでは時間が少し経つのかもしれない、詮無いことを考える、しかしここでずっと厄介になるのも相手に申し訳ない、迷惑はかけるものでありかけられるものだという千夏は考えるが、だからといって食っちゃ寝する居候になりたいとは少ししか考えていない、確かにそのような生活が出来れば誰だって諸手を挙げるだろうがほぼ初対面相手にそんな恩知らずではない


千夏が様々思考していると男性が立ち上がった、無言に耐えられなかったのだろうかと思ったが土間に行き何か蓋を取って手繰るような動きをしたあと水に濡れた食材と壺が出てきた、また隣の蓋を取って手のひらサイズの白い塊を取りだしていた、そのまた隣の井戸では水を汲み何やら料理を始めるようだ、千夏は昼食後しばらく経っているとはいえ空腹では無いが確かにこの世界では早朝なのだから朝ごはんが必要だ、千夏は土間で手伝うにしても何を作るか分からないならば足手まといだろうと踏みとりあえず姿勢を正して待つことにした


男性が火を起こしてしばらくするとミルクの良い香りが漂ってきた、おそらく野菜とともに煮込んでいるのだろう、チラリと男性が千夏を振り向いた、千夏は食べるのかと問われていると感じ、困った顔で手で少しと合図した、すると男性は戸棚の中にある数少ない食器の中からいちばん小さい器とそれよりも大きい器を取り出してそれぞれによそいで千夏に小さい器をスプーンと共に渡してきた、シチューのような、それともまた違う暖かな匂いである


「ありがとうございます、いただきます」


伝わっているかは分からないがこういうのは感謝の気持ちが大事なのだ、男性は千夏か言葉を言い終わり、一拍開けて頷き食べ出した、それに続いて千夏も食べる、料理の名前などには疎いためなにかに似ているなどとは分からず言えないが寒い地域で身体を温めるには良い味だった、男性の器の中には色々野菜が入っていたが千夏の器にはほぼ入っていない、恐らく千夏が食べられない物があっては申し訳ないという気遣いなのだろう、このような優しい心遣いに千夏も何かお返ししたいと考えるがここに来るのは脈絡なく来ているし制服なので何か持ってこれるものはポケットに入る物くらいなのだ、何かポケットの中に入る小物でここの世界にもあるものはあるだろうか、コンビニのスプーンならありそうだ、そういえばスプーンとさじの呼び方があるが違いを調べておこう、フォークや箸はポケットに入れている間に尖っているところが出てきたら危ないから諦めよう、と、千夏が戻った後のことを考え飲み干すと、視界がぶれ、階段を登ったところに立っていた


3度目となると慣れたもので業務に戻るが苦手な先輩の事よりも家に帰る前にコンビニに寄ろうと楽しみが増え、普段より気楽にナースステーションに戻っていった

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