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第2章2 成淵

ナビアの暮らしの現実があります

1つの行動がこれからどう変わるのか

ナビアは変わらぬ日々を、女性が戻ったあとは過ごしていた、危害が加えられるわけでも非難さたわけでもない、ただ困っている女性が現れ、消えただけ、その「だけ」をどう処理するか、ナビアは起きたことは仕方ないとして処理していた、次の日から資金調達の為に家を開けた、山の中腹にあたるナビアの小屋から村まで荷車を押しながらはかなり体力的に消耗するがこれがナビアには鍛錬になった、体力を維持するために、この往復をこれから先も行うために


村はナビアを歓迎しなかった、かといって無下にもしない、単に客が来たという立ち位置である、追放されてからはこのような関わりだったがナビアには性に合っていた、誰かと深く関わらず最低限の取引で終わる、深く関わりすぎるとそれは傷になる、毛皮や角などをあらかた換金し生活に必要な食料や衣類などを荷車に乗せ村で休憩することなく小屋を目指す、見送る人もおらず、ナビアが元いた家は壊されている、一瞬、村長の娘に似た人物が遠くで男へ頭を下げているのを見た気がしたが村長の娘かどうかは不明であるし、今のナビアには関係の無いことである、もう追放されたのは十数年前の出来事、ナビアにとって山の中腹にある小屋が今では家なのだ


ようやく小屋にたどり着いた時にはナビアの額には大粒とはいかぬものの汗が光っていた、壮年期のナビアは自身の限界を悟りながら、この小屋と村との行来を荷物を片付けながら思考した、追放された者が例外的に戻ることが許されるのは英雄的結果、例えば国の重要人物を救ったり発明をしたり、そういう場合のみである、だがナビアにはそのどちらも難しい、追放された者はほかの村に厄介になる場合もあるが基本歓迎されないため村八分が良いところだ、それもまだ若い体力のあるものだったら自警団や農業やらでやりようはある、この年齢ではまずもって他の村には入れてもらえないだろう、だからこそ鍛えているのだ、食料調達にしても肉類は小型であれば罠の設置で済む、しかし野菜などは農業するにしては痩せた土地であり森の中で採取するにしてもナビア一人では限界がある、食料調達だけではない、衣類を繕うにも、掃除するにも、家事をするにも、武器の手入れにも何かしら道具が必要で、他者が存在しなければ生きられない


ふと、先日会った女性を思い出した、あの女性はどのように暮らしているのだろうか、分からないが、これだけは分かった、あの女性は他者の介在する中で生きているのだろうと


翌日ナビアは体力維持の為に武器を振るっていた、この陰鬱とした思考を一度整理し、頭の中を空にするために、そうしてすこし空が傾く前に小屋に戻り食事を済ませ武器の手入れを始めると、暖かな気配が背後にあった、知っている、この気配


振り向くとあの女性が土間に立っていた、同じ服、同じ髪型、しかしそれに何か薄い膜と顔下半分を覆う白い膜、手袋のように見えるが透明な膜が追加されていた、ただぽつんと立ち尽くしている


「ろお、むあぬろすろぬお」


ナビアは出していた武器を戻し女性に以前忘れていた筒をわたした、座るように促しながら井戸から水を汲む、例えすぐには通じなくとも、何かしら意思疎通は測れるのではなかろうか、たとえば、この水


「みず」


意図は伝わるだろうか、この茶器ではなく中身のことであるが


「みず?めぃぢけめえあにも?るにけめえあにも?」


意図は伝わらないか、と分かっていた、女性は、しばし考えて水を指さし


「みず…?」


この女性は聡いと感じる、頷くと女性は膜の下、以前見た髪飾りのような細い筒と四角い箱を取りだし何かしら書き始めた、おそらく向こうの言葉なのだろうとそう見切りをつけた、このように誰かと話すのはあまり得意ではないがこの女性とは気負う必要もなく焦る必要も何故か感じられない


「るに」


女性が水を指さし言う、なるほど向こうでは水は「るに」と言うようだ


「る、に」


これは大きな一歩である、言語理解より先にナビアの寿命が来てしまうかもしれないが、それでも久々に学ぶという感覚はナビアの中では不思議と心地が良かった、自警団に居た頃は休日は書物を読むか自己鍛錬するかであったが追放されてからは学ぶ機会は少なく思考する事がほとんどであった、ふと動きがあり目をやると女性が水を飲んで良いかというふうに掲げていた、それに頷くと顔の下半分を覆う白い布を下げて飲んでいた、女性の表情は驚きと喜びをないまぜにした顔となった、口にあったらしい、それを横目で見ながら学んだことを忘れない為に紙に書いておく「水、るに」


ゴトリ


暖かな気配の消失と重いものが落ちる音は同時であった、振り向くと女性はおらず代わりに床に空になった茶器が転がっていた、今回はあの女性とナビアを繋ぐ異質な物は残されていなかった、だがナビアはそれを寂しく思うことはない、以前にも増して次があるという確信が遺されていた

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