お悩み相談になってない?
もう一本だけ観ようと思い僕は機械室へ戻った。今見たのがそこそこ面白かったので次の映画で盛り下がって寝るのは勘弁してほしい。
「どうしようかな〜。ここは一発ラブロマンスでも観ようかな〜」
人殺しがうろついてるかもしれないっていうのに何で呑気に映画を選んでるんだろう。正常化バイアスって本当にあるんだな。それ以上考えないようにして、僕は機械に「ラブソングの作詞家」をセットして席に戻った。
「誰かいる?」
さっき僕が座っていた席の横に誰か座っている。よく見えないが、男性のように見える。僕は黙って隣に座った。
「、、、誰だ。」
「こっちのセリフですよ。誰ですか。」
「質問を質問で返さない方がいいぞ。、、、俺の名前は坂口冬馬。冬に馬でトウマと読む。」
このくだりだけで面倒くさそうな人間だとわかる。
「すいません、、、。僕の名前は魚津圭流です。」
「そうか。俺は朝から暇でな。サメを見に来たら映画館から音が聞こえてきて、上映してるもんだから見ていこうと思ったんだ。」
「そうですか。それよりいいんですか?人殺しがうろついてるかもなのに。」
「お前がいうか。いいんだよ別に。あそこにいたら暇で死んでしまう。」
「みんな暇なんですね。さっき来た人も暇だって言ってました。」
「やっぱりそうだろう。みんな考えることは同じだ。ところでこの映画の名前は?」
「ラブソングの作詞家です。」
「昔のやつだな。妻と昔見たよ。」
「奥さんがいるんですか?!」
驚いた。こんなめんどくさい人に奥さんがいるなんて。
「失礼な。でも最近喧嘩してしまって、仲直りができてないんだ。この会にも一緒に来たんだが口をきいてくれない」
原因は何となくわかる気がするな。多分この人が悪い。露骨に落ち込み始めたし、聞けと言われてる気がする。
「何があったんですか?」
「、、、この水族館について揉めた。こんな物に金を出さない方がいいと」
「詳しく聞かせてくれませんか?」
少し俯きながらトウマさんは話し始めた。
「今回のパーティーに呼ばれたのは、主に水族館に金を出してくれた人たちなんだ。かなり前に妻がこの水族館に投資しようっていうから投資したんだんだが、最近完成したにも関わらず、また金を出してくれと魚富さんから連絡があった。内装の金が足りないんだと。俺は反対したんだ。あれ以上出さなくていいと。ただ妻は出すと譲らなかった。それで、、、喧嘩になった。」
あ、なんか思ったよりこの人は悪くなかった。
「それで、結局出したんですか?」
「出さなかった。どうしてもおかしいと思ったんだ。この水族館を作るにあたって相当お金が集まったはずだし。サメを買うための金だとしてもあまりにもおかしい。そう思わざるをえないほど集まったんだ。その件で喧嘩してしまった。今思えばそのことをもっとちゃんと伝えたらよかった。」
「見るからに口下手ですもんね。トウマさん」
キッと睨まれた。でも本当のことだろう。
「まあ、次会うときにそのことをちゃんと伝えたらいいんじゃないですかね。簡単なことですよ。」
「そうだな。そんな簡単なことができてたらこうはなってないんだけどな。」
そこから先はお互い黙って映画鑑賞をした。見終わって部屋にも取る時トウマさんは部屋まで送ってくれた。
「あんまり不用意に外に出るもんじゃないぞ。おやすみ」
「はい。ありがとうございました。おやすみなさい。」
この日はぐっすり眠れた。
「なあ、貞風さん。圭流くんは姪っ子の彼氏ですか?」
そう聞くと貞風さんは動きが止まった。
「俺は認めない。」
「答えになってませんよ。随分とあの子らはいい感じでしたけどどうなんです?」
貞風さんは頭をポリポリとかきながら話し始めた。
「今日連れてきた姪っ子、、春花っていうんだが春花曰く、友達らしい。」
「友達ですか、、、。春花ちゃん絶対圭流くんに好意がありますよ。ずっと彼の方見てたし。」
「これ以上は勘弁してくれ。姪っ子に彼氏ができるとか考えるだけでおかしくなる。」
「随分と思い入れがあるんですね。」
「あの子は昔から友達がいなくてな、今からは考えられないほどシャイで俺によく懐いてたんだ。中学に入ってからもなかなかできなかった。でも同じ委員会に入った圭流が友達になったらしい。そこから多分春花は圭流が好きだ。高校もわざわざ同じとこに行くために勉強したくらいだし。あの子は口を開けば圭流のことしか言わないからな。」
「熱いドラマですね〜。そんな情熱的な恋、僕もしてみたいですよ。」
「あれ、あんた未婚なのか?」
「未婚ですよ。」
「そうか、同類だな俺たち。」
悲しい話をしながら僕たちは水槽の上で証拠を探していた。
今日も人が死んでいる。もう3人もだ。これ以上犠牲をだしたくない。
「相模。これを見てくれ。」
相模さんが指差す先には血のついたナイフが落ちている。血が固まっているので犯行に使われたものだろう。だが二人目の死因も刃物のようなものだった。犯人はもう一本ナイフを持っていた?それとも別の人間が?
「上に箱が置かれていた。焦ってたんだろうな。」
「これを警察に渡せば、、」
「犯人はわかるかもしれないな。でも俺たちのすべきことは犯人の確保だ。もしかしたら、共犯者がいるかもしれない。今日も見回ろう。」
「そうですね」
今日は映画館に先客がいた。昨日は部屋でずっと眠っていたが今日は映画に続きを観ようと思ってきたのに。
何も上映してないのに座っている。怖っ。
「そこにいるのは誰なの?何か用?」
女性は僕に気づいたのか、ぐるりと振り返ってそう言い放った。
「こっちのセリフですよ。何してるんですか朝早くから映画館なんて。」
「少し、気分転換にね。籠ってても退屈じゃない。」
「人殺しはまだ捕まってないみたいですね。」
朝からおじさんたちが伝えにきてくれたのだ。
「そうらしいわね。ていうか、あなたは一昨日にもここに居たわよね。誰と話したの?」
「えーっと、三角カズマさんと坂口トウマさんです。」
「その二人は何か言ってた?」
グイグイくるな。別に隠すことじゃないからいいんだけど。
「今日この会に呼ばれたのは、この水族館を作るためのお金を出してくれた人たちで、この前追加で金をさがまれたと言ってました。」
そう言えばカズマさんはなんも情報くれなかったな。あの人はほんとに映画見にきただけだったのか。
「そう、、多めにお金を要求されたってのはなんなんでしょうね。ほんとにお金が足りなくなっただけ?それとも、、」
「それとも?」
「予測なんだけど聞いてもらっていい?戯言と思って聞いてもらっていいわ。」
「わかりました。」
「お金が足りなくなったのは、責任者が中抜きしてたからじゃない?犯人はそれが許せなくて、殺した。とか」
「動機が薄くありませんか?そんなこと口で言えばいいですし、殺さなくても、、」
「まあそうよね〜。今のは忘れてちょうだい。そうだ、映画上映できないの?暇だから見たいんだけど」
なんてわがままな。僕は渋々機械室に行って一本セットしに行った。
「何にしたの?」
「たとえこの恋が飾りであってもです。なんか面白そうだったんで。」
「あー最近の子が好きそうなやつね」
別にそういうわけで選んだんじゃない。
「ねえ、君。少しだけ相談に乗ってもらってもいい?」
「いいですよ。」
映画を見るはずがお悩み相談室になりつつあるな。別にいいんだけど。
「夫と喧嘩してしまってね。私が悪いんだけど仲直りができなくて、お互い頑固で口下手だから。」
なんてことだ。こんなことがあるのか。
「僕その話知ってます。」
「そうだったの?あっちはなんて言ってた?」
「いいませんよ。なんて言ったんでしょうねえ。」
「性格悪いわね〜彼女に嫌われちゃうわよ」
「彼女って?僕に彼女なんていませんよ」
「あら。一緒に来てた子付き合ってなかったの?」
「ただの友達ですよ。僕もあっちもそう思ってます。」
「友達ねえ〜。いいわね〜青春で。大人になったら喧嘩とか面倒だし若い頃に戻りたいわ〜」
背伸びをしながらそう言った。
「今の旦那さんは不満ですか?」
「不満じゃないけど不釣り合いね。あの人は私よりももっといい人がいるわ。」
「そんなことないと思いますよ。」
とりあえず言っておいた。本当かどうかなんてことは問題ではない。
「ふふ、ありがとう。謝るってどうしたらいいの?謝るって難しかったっけ?」
「悲しい人ですね。こういうのは『ごめんなさい、愛してる』これで解決です。」
「、、、本当にそんな言葉で仲直りできるの?」
冗談のつもりで言ったつもりが真に受けてしまっている。面白いからこのまま突き通そう。
「本当ですよ。若者の僕がいうんですから間違いありません。」
「本当?信じるからね?」
心の中で笑いが止まらなかったが映画が終わり、この人が映画館を出ていくまで堪えた。
あー面白かった。部屋に戻ろうとすると誰かが映画館に入ってきた。
今日はどうなってるんだ。次から次へと、一体誰が。
振り返るとここまで降りてくる貞風おじさんが見えた。
「隣いいか?」
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