サメ
「人間ってさ、10代で満たされなかったものに一生執着するらしいよ」
「ふ〜ん」
つまらそうに返事をする僕を横目に彼女は続ける。
「ってことはさ、憂いなく大人になるために私たちは楽しまないと。」
随分と楽しそうに話すのは理由があり僕たちは今、新しく開く水族館のお披露目会に向かっている。
始まりは1週間前、図書委員で当番をしていると
「ねえねえ、魚津くんって魚好き?」
同じく当番をしていた春花が急に問いかけてきた。
「味か見た目かで変わるな〜」
「見た目見た目」
「じゃあ好き」
すると目を輝かせて
「今週末ね、水族館のお披露目会があってね、招待されてて、一緒に行かない?」
と言ってきた。水族館は行ったことがないし今週は特に予定もないから。
「いいよ」
「え、ほんと?!やったぁ!」
「他は誰か来るの?」
「えっとね〜今回チケットくれたおじさんが来るよ。水族館までおじさんの車で向かうって。」
「へ〜その水族館ってどこにあるの?」
「水中」
「え?」
そして、今に至る。どうやらその水族館は完全に水中に作られているらしい。
「しかしラッキーだなー。貴重だぞ〜こんな体験」
運転席から春花さんのおじさんである貞風さんが声をかけてきた。貞風さんはペット探偵で逃げたペットを探す仕事をしている。先月、依頼の報酬で招待状をもらったらしい。家族と一緒にどうぞと言う感じで渡されたらしいが独身なので姪である春花を誘ったらしい。なんとも悲しい話だが、僕たちからしたらラッキーだ。
「本当にありがとうございます。」
「はっはっは・・いいってことよ!」
ご機嫌で何よりだ。いつの時代のかわからないラブソングが車のスピーカーから流れる。
「楽しみだね、水族館。魚津君はどの生き物が楽しみ?」
「そうだな〜マンタを見てみたいな。実物の」
「私はね〜ホホジロザメが見たいな。かっこよくない?海の王者って感じがして」
一瞬びっくりしたけどよく考えたら意外でもなかった。音楽はロックが好きだし映画はゴリゴリのアクション派と可憐な見た目と裏腹にギャップがすごいので納得した。
「王者か〜実際はシャチにボコボコにされてるらしいよ〜」
揶揄いながら言ったら、顔を真っ赤にして
「真実なんて聞いてないっ」
と拗ねてしまった。前から「く・・くくく・」と笑いを堪えるおじさんの声が聞こえた。
小一時間ほどで駐車場のような場所に着いた。かなり広い。
おじさんがパスのようなものを見せると警備員がゲートを開ける。適当な場所に止めて、僕たちは車を降りる。
「お前ら、ここからあの建物まで歩くぞ」
「わ〜海の匂いだ〜」
春花がはしゃいでいる。冬の寒さに凍えながら立っている僕に比べ元気な春花が羨ましい。100メートルほど歩き、建物についた。今度はパスを機械にかざすとドアが開いた。中はかなり明るいが、椅子などがなく寂しい内装だった。中に入ってウロウロしているとスーツの男が近づいてきた。
「貞風透様でしょうか?私、当水族館代表取締役、墨風正樹と言います。」
でかい。率直な感想がそれだった。僕より目線がかなり上だ、190はあるだろう身長にアメフト選手ようなガタイで声もはつらつとしてる。まず間違いなく体育会系だろう。僕が苦手な種類の人間だ。
「ああ、私が貞風透です。この子らは甥っ子とその友達です。」
「そうでしたか、では会場へ案内します。」
奥へと進み、エレベーターへ案内される。
「これに乗ると会場へ着きます」
「どうも」
僕たちはエレべーターに乗り込んだ。
「いいかお前ら、わかってると思うがあまりはしゃぎすぎるなよ。他の人もいるわけだしな。」
「わかりました」「は〜い」
チーンと音がなりドアが開いた。そこには息を呑むような広い水槽が広がっていた。僕は思わず「すごい、、」と呟いた。
「すごいすごいっ!」
春花も大はしゃぎだ。水槽にはたくさんの小魚と雄大に動くジンベイザメ。そして僕の見たかったマンタまで。上からの光で水槽は輝いている。写真を撮ろうとケータイを出して5枚ほど撮った。こんなに美しいなんて、想像以上だった。
「これは、、すごいな。」
おじさんも驚いている。見惚れているとスーツ姿の男が近づいてきた。
「貞風様でしょうか?」
「あ、はい私が貞風です。」
「そうでしたか、あちらにみなさん集まっております。」
その男は僕と同じくらいの身長でさっきの男とは逆で元気がなく目に光がなかった。(疲れてるんだろうな)僕はそう思った。
大きな扉があり張り紙で『会場入り口』と書いてある。
「ここだな」
開けるとなかなか豪華な会場で、人が10人ほどいた。
(あんまり人がいないな、これからもっと来るのだろうか)と考えながら中に入り狼狽えているとゴテゴテした装飾品を身に纏ったいかにも金持ちな男が近づいてきた。
「これはこれは、貞風さん〜お久しぶりでございます〜。」
「お久しぶりです、魚富さん。此度はお披露目会に呼んでいただきありがとうございます。」
どうやら、この魚富という人が御礼として招待状をくれた人物らしい。
「おや?ご子息ですかな?」
僕たちを見てそういった。
「はは、この子らは姪とその友達です、私、独り身でございまして。」
「はっはっはっ、なるほど。いやはやてっきり結婚してるかと、そんなかっこいいのにもったいない、いい子紹介しましょうか?わはっははっは。」
「はは、ぜひ、はい」
もうやめてあげてくれ。散々話した後魚富さんは向こうへ去っていった。
その後僕たちは20分ほど机の上のよくわからない料理を食べたりしていると魚富さんが壇上に立った。
「あーあー、皆さん、お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。当水族館長の魚富悟と申します。今回集まってもらったのはこの水族館の施設紹介をさせていただきたくためでございます。この施設はざっくり分けて3つの機能があります。映画館、宿泊施設、そしてメインの水族館。百聞は一見にしかず、ということで今から見ていきましょう。あちらをご覧ください」
そう言った直後、奥のドアが開いた。誰か立っている。最悪な位置にあるライトのせいで顔が見えない。完全に逆光だ。
「皆様、着いてきてください。」
その男はそう言い放ち、魚富さんの方を見ると不気味な笑顔でドアの方へ促していた。言われるがまま僕たちはその男へついていった。その場の全員が困惑しながらついていった。この会に来た人はおそらく全部で9人。男性5人女性4、夫婦のような人たちもいる。
男の後ろを僕と春花は話しながらついていく。
「この水族館広いね〜」
春花の言う通り広い。かなり歩いているがまだ次の施設につかない。
「あっ、ねえ見て。隣の水槽、あれホホジロザメじゃない?」
「、、ん?本当だ!でっか!」
思わず声が出た。こんなに大きいのか、これは海で会ったら終わりだなとか考えていると突然、男が立ち止まり振り返って僕の方を見た。何か気に触るようなことを言っただろうか?謝ろうとしたら男は口を開いた。
「そうでしょう!このホホジロザメ!わが水族館の自慢でございます!」
急に大きな声を出したので僕はビクッとした。
「申し遅れました。私、佐賀峰高佐と申します。」
顔は鼻が高く目もキリッとしている。体はシュッとしていてモデルと遜色ない容姿をしている。ぱっと見の欠点がネクタイの色がピンクということだった。流石に黒スーツにショッキングピンクはないだろう。いくらイケメンでも流石に似合ってない。
「この水族館はつながった大きな水槽にホホジロザメを飼育しています。特徴としt、、、」
春花が熱心に話を聞いているが、僕はもうネクタイのせいで話が入ってこない。
「、、、となっております!」
「なるほど」
反射でそう言った。ほぼ聞いてなかった。
「だって!すごいね!」
春花はちゃんと聞いてたらしいので後で聞いておこうと思う。
「こちらが宿泊施設となっており隣が映画館となっております。」
洋風でおしゃれだがゴテゴテしすぎていないバランスがいい部屋だった。
「続いては目玉の水槽へご案内します、、と言ってもさっき見た水槽なんですけどね。ただライトアップするのでお楽しみいただけると思いますよ。」
水槽の前に戻ってきた。スタッフはどこかへ行き、僕達は、案内された椅子に座った。すると突然電気が消えた。
ドン!!ガン!!
何かがぶつかったような音と爆発音?が聞こえた。直後電気がつく。
「キャー!!」
二つ横の女性が甲高い悲鳴をあげた。
「どうしました?!」
隣の長髪の男が問う。
「水槽に人が、、、」
全員の目が水槽へ向く。人がゆっくりと沈んでいる。もがく様子もなくゆっくりと沈むその様は美しさすら感じられた。血が出でいるがどこからか分からない。一向に動く気配がないのでおそらく気絶か死んでいる。
「おいおい、スタッフ!いないのか、誰か、、まずいぞ!」
長髪の男が叫ぶがスタッフは出てこない。そして思い出した、この水槽にはホホジロザメがいる。血の匂いを嗅ぎつけたサメはすることは決まっている。長髪の男とおじさんは気づいたのか急いでどこか行ってしまった。おそらくスタッフ専用の扉から水槽の上まで行こうとしてるのだろう。他の人は水槽から目を逸らしている。
そうこうしている間にサメが来た。最初はゆっくりだったが、沈んでいっている人を見つけた直後にスピード上げその人に噛み付く。そこからはほとんど覚えていない。あまりに衝撃的でその場にいるものは声も出せずに赤く滲んでいく水槽を見ていた。
衝撃的なことが目の前で起き、ボーッとしているとスタッフと長髪の男、そしておじさんが帰ってきた。
「すまない、間に合わなかった。会場に戻ったんだが舘長がいない。多分沈んでたのは、、」
長髪の男が言う。
「あなた達のせいじゃないですよ、、、一体何が、」
さっき叫んだ女性がなだめる。
「一旦、警察に通報しましょう、」
目が死んでいるスタッフがそう提案する。心なしか顔色もさっきより悪い気がする。
「さっきしたんだが、繋がりませんでした、、おそらく地下で海の中にあるから、、、」
「衛星電話とかないのか?」
長髪の男が聞く。
「それなら、倉庫の非常用バックにあると思います。」
「よし、取りに行こう」
そう言って長髪と死んだ目のスタッフは取りにいった。
「おじさん、上で何か見ましたか?」
「上には水槽の魚に餌をやるための足場があって、そこには血がついてた。自殺じゃねえ、誰かに背後から殴られて落とされたんだ。スタッフ、ちょっとあっちに集まってくれねえか?」
スタッフ6人は壁際へ移動した。後一人は目が死んでる人だ。だんだんとあっちにいる人たちが怪しく見えてくる。
「悪いが、あんたら以外アリバイがあるんだ。そこにいてくれ。」
おじさんがそう言うと、スタッフは状況を理解して誰も何も言わなかった。
少し経って衛星電話を取りに行った二人が息を切らしながら帰ってきた。
「ハアハア、、、、クソッタレが!、、、壊されてた。衛星電話は使えない。徹底して大事なパーツが壊されてる。」
「じゃあ、警察は来れないの?」
「さらに残念なお知らせだ。エレベーターは停止していて非常階段は上の方から壊れてる。。四日もすれば警察は来てくれると思うがそれまで出れない。」
「え、、じゃあどうするの?人殺しがいるこの空間で、四日も閉じ込められるの?食料は?どうするの?」
半狂乱になった女性が叫んだ。
「落ち着け。ホテルもあるし食料もある。四日は大丈夫だ。」
長髪の男がなだめる。
「人殺しはどうするのよ!?この中にいるんでしょ!?」
「今からみんなで食料を分けて、部屋に篭れば安全だろ?鍵もあるし。風呂もある。アリバイのないスタッフは、悪いが部屋を離せばいいだろう。反対の人いるか?」
誰も口を開かない。
「ならもう移動しよう、色々ありすぎた。ゆっくりしたい。」
頭をくしゃくしゃさせている、イライラしてるんだろうか。
「私、鍵を持ってるので皆さんに配りますね、」
女性のスタッフがみんなに配る。なんでそんなに鍵を持ってるんだろう、さっきホテルの部屋を見た時に持ってたんだろうか。時計を見るともう7時だ、なんだか疲れたな、、頭が追いついてきた、人が死んだのか、、。
足も震えてきた、周りの人を見ると手が震えている人もいる。
「じゃ、各部屋に待機しよう。おっと、その前にみんなで倉庫に行って災害用の食料を回収しないとな。」
全員で一旦二日分ほどの食料を確保して部屋に篭った。一人一部屋で何かあった時ようにスタッフは入れ替わりでコントロールセンターに泊まって電話に出れる状態にしてくれるらしい。
「じゃお前ら、気をつけろよ、、、おやすみ」
「おやすみなさい」
「おやすみ、おじさんも気をつけてね」
「、、、、わかってるよ」
ガチャ
「ふ〜〜」
ドアを閉めて膝を抱えて座り込む。やっと安心できて、ほっとして力が抜けてしまった。怖い。怖くてしょうがない。
5分ほど座って落ち着いてきたのでお湯を沸かした。
カップラーメンにお湯を入れる。食欲はないがなんか食べとけよとおじさんに釘を刺されているのだ。
すぐに、三分経った。一口だけ食べたがまずい。と言うか味がしない。あんなもの見た後に食べ物が喉を通るはずもなかった。結局それ以上食べずに、ふらふらとベットへ行き、眠りについた。
コンコンコンとドアから鳴るノック音で目が覚めた。時計に目をやると9時だった、誰だと思いインターホンを確認するとおじさんと長髪の男だった。
ドアを開けると「おはよう、ちょっと話したいことがある」と言って部屋に入ってきてそのまま椅子に座った。
「あの〜コーヒー淹れますか?インスタントですけど」
「それを淹れると言うのか?俺はいらない」
「俺も結構だ」
「そうですか」
僕も椅子に座る。おっさん二人に囲まれる朝は初めてだな〜と思っていると長髪の男が話し始めた。
「改めておはよう魚津くん、私の名前は相模健一。投資関係の仕事をしている」
「魚津圭流って言います。よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしく。それにしても韻踏んでる名前なんて珍しいな。」
「そうですね、でもあんま語呂良くないんですよね」
「そうか?かなり言いやすいぞ、覚えやすくもある」
「ゴホン 話を戻そう。包み隠さず言うと私たちは犯人探しをしようと思う」
「、、それはなんでですか?警察が来るまで待機と昨日決まったじゃないですか。」
僕が聞くと長髪の男が話し始める。
「実はな、、今日の朝また新しく殺されてたんだ。サメの水槽に死体が浮いてあった。もう私たちで水槽の外に出して今は空き部屋に安置してる。もしかしたら犯人は無差別に人を殺すのかもしれない。安全の保証ができなくなったから犯人を確保しないとかなり危険なんだ」
血の気がサーーっと引いていくのを感じた。また人が死んだのか、。動揺で震えながら勇気を出して聞いてみる。
「、、誰が殺されたんですか?」
「確認したら、灰田正敏さんだった。ほら、あのガタイのいい」
「ああ、、、」
あの人か、あんなガタイのいい人を一体どうやって、、。
「わかりました、、気をつけてください、、」
話し終わると「じゃあまた」という感じで出ていった。あと三日位この部屋にいるのか。考えると気が重くなる。日帰りの予定だったので暇つぶしを持ってきてない。唯一の暇つぶしのスマホはネットが繋がらないときた。ベットで転がりながらそうだテレビは使えるのか?と思いテレビの電源をつけた。地上波はつながったがそもそも地上波がつまらない番組しかない。歴史映像とか誰かわからない専門家や評論家の討論なんて僕は微塵も興味ないのだ。
せっかくの水族館だし魚を見に行きたい。絶対やめた方がいいと思ったがこんな退屈は耐えられない。人殺しに道徳なんて期待するもんじゃないが、流石に朝から見ず知らずの子供を殺す人なんていないだろう。
ドアを開ける。廊下を見渡すが、人はいなかった。
なるべくスタッフがいる方には近づかないように水槽を見て回ろう。
部屋から出て右にまっすぐ行けば水槽へ着く。ホホジロザメがいる水槽に着いた。
でかい水槽でサメのストレスが溜まらないような作りになっている、、、と昨日話していた気がする。水槽を見てるとサメと目があった。コイツは人を食ったと言う事で殺されるんだろうな、コイツは悪くないのに。
水族館に勤めているような人がサメを殺すことになるようなことはしないと思ったけど、残念だな。
次はクラゲの水槽に来た。
「綺麗、、」
この世のものとは思えない美しさだ。見惚れていると床で何か反射した気がしてかがむとピアス?が落ちていた。三日月型のピアスでいかにも高級そうなピアスだ。周りを見渡す、誰もいない。さっと拾ってポッケに捩じ込んだ。帰ったら売ろう。
その後一人で回ったが、つまらない。一人じゃ水族館はつまらないんだなと思った。
「こんな時、春花がいればな、、、、部屋に戻ろ」
まあ時間は潰せたしと部屋に戻ろうと歩いてると映画館の方から音がした。誰かいるのか?そう思いそ〜っと中へ入った。
『なんであんなことしたの!』
『それは君のためで、、、!』
『あんなこと頼んでない!!』
何やら上映中らしい。席を見ると一人の男性が座っている。目が合い、僕に気づいた。
「やあ少年、真っ昼間からどうしたんだい?」
大きな声でそう聞いてきた。
僕はその男の元へ近寄る。
「それはこっちのセリフですよ。何してるんですか」
制服を着ている。瞬時にスタッフと気付き慌てて3歩ほど下がる。
「はっは、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。私の名前は渋川達郎。さっきからちょっと映画の確認をね。ほら一瞬停電しただろう、その時に壊れてないか心配でね、映画館は私の受け持ちだから。」
おそらく50代くらいで年相応の見た目をしているおじさんはそう答えた。本当かと疑いつつも両手は空いてるし多分犯人はこの人じゃないなとなんとなく感じた。
「そうなんですか、」
「わかってくれたかな?確認できたし閉めるよ」
、、、!閃いた!
「あの〜今人誰もいないし映画みたいんですけど、、上映の仕方教えてくれませんか?」
「ええっ、いや〜どうかな〜本来お金取るものだしな〜」
驚きつつも断ろうとする渋川さんに畳み掛ける。
「でもほら緊急時ですし、言い方悪いですが暇なんですよ。子供にできることなんてないし、ほんとなんとかお願いします」
頭を下げた。映画さえ見れれば三日は余裕だ。
「う〜〜ん、ま、いっか、もしかしたらもう使われないかもしれないしね。いいよ教えてあげよう着いてきなさい。」
機械室までの道中、急に刺されるかもとビクビクしながらついて行った。
「ここがこうでこのボタンそしてこれを押すと、ほらスクリーンに映る」
「ほえ〜」
「覚えた?」
「はい、だいたい覚えました。ありがとうございました。」
渋川さんはにっこりして
「そうかい、じゃ、私は部屋に戻りますよ。ここから出る時電気は消して出てくださいね」
そう言って多分部屋に戻って行った。
「さ て と なんの映画を観ようかな。『上海ブラット2』か、いや1を見てないしな、、しかもこれは駄作ってネットで書いてあったし。『朝三暮四ファミリー』『ラブソングの作詞家』『あなたにキク』『ジョース』『ジョース3』『その恋がたとえ飾りであっても』
「なんでジョース2がないんだ、、、3が見れないじゃないか。」
5分ほどじっくり考えて、選んだ。
「よし、、ジョースみよ」
機械にセットしてダッシュで椅子に座る。
『速報です速報ですビーチに頭が二つある巨大ザメ出現との通報がありましt、ブチッ「全く朝から騒々しいな、そんな化け物いてたまるかってな、」』
とんでもないフラグを立てて物語が始まった。どうやら、そのいる筈のない化け物に海を荒らされる話らしい。
話も中盤に差し掛かる。サメを討伐しようと言う話になり始めた。すると、ツカツカと硬質なブーツの音が聞こえた。スピーカーからじゃない、現実だ。椅子から目だけを出す形にして屈んだ。
「誰かいるのか?」
見たことある、参加者の一人だ、名前はまだ知らない。
「ぼくで〜〜〜す」
「なんだ、君か、、、」
男は30代くらいの見た目でスーツがよく似合っている。結構お喋りでよく通る声だったので覚えている。そして
僕はなぜか顔を覚えられている。未成年ががぼくと春花だけだったので覚えられてるんだろう。
「なんだ、、びっくりした〜」
そう言いながら、ふらふらとこっちに近づいてきた。
「よっこらせ」
僕の横の椅子にどかっと座り込んだ。
「懐かしいな〜ジョース。昔見てたよ、まだ上映してるんだな。」
「再上映か単なる趣味ですよ。多分本来は上映してません。」
僕は答える。
「そっか、てか2は?このシリーズは2が面白いのに。」
「なぜか2だけないんですよ」
「嘘だろ?!そっかあれグロくて上映中止になったんだった」
「3ならありますよ」
「3はダメなんだよ。2で調子乗った製作陣がしくじったんだ。ストーリーを専門的にしすぎた。遺伝子学とかをサメ映画見てるやつがわかるはずもなかったんだよ。あと1 と2を観ないとストーリーが理解できないのも悪かった。」
「どこかにいるかもしれませんよ。遺伝子学がわかるサメ映画好きが。」
「いーやそんなやつ存在しない。俺の人生31年かけて分かったことの一つにサメ映画見てるやつは例外なくバカということだ。俺も含めてな」
大した人生だな。3が面白くないってことは十分伝わった、3は見なくていいや。
「そうですか、、、、ところで1はどうなんですか?今んとこ面白いですけど」
「まあ1は良くも悪くも普通だな」
あっ普通なんだ。
「というかなんでこんなとこに?」
「暇になったんだよ。することもないしふらふら歩いてたら映画館から音が聞こえて今に至るってわけ」
「犯人探しするような勇気ある奴もいるが俺は死にたくないんでな」
「まぁそうですよね」
「悪いな、かっこいい大人じゃなくて」
「全然思ってないですよ」
その後、二人でジョーズを見た。映画が終わり、エンドロール中にも関わらず男は席を立った。
「じゃあ俺は部屋に戻るわ。お前も部屋に戻る時は気をつけろよ。」
「分かりました。最後に名前聞いてもいいですか?」
「三角和馬。次会うときはカズマおじさんって読んでもいいぞ。じゃあな」
そう言ってカズマおじさんは映画館を去って行った。
感想待ってます!




