Re:sou 第三十六話「謁見」
出発の朝、ツムグは残ると言った。
「ナナの剣と、クーリの弓。手が離せない」
作業台には、もう赤金の板が乗っていた。
「山なんて、逃げないでしょ。……あんたたちも、逃げないでよね」
「三日で戻ります」
「四日でもいいよ。別に」
ツムグはそう言って、鎚を取った。
バクは何も言わず、炉に炭を足していた。耳は、見なかったことにした。
*
崑崙へ登るのは、二度目だ。
前に来た時は、地下の坑道と、白い遺跡を見た。あの時の山は、ただの大きい山だった。
今は、違う。
麓から見上げただけで、分かる。
濃い。
マナが、霧みたいに濃い。目には見えないのに、肌が分かる。水の中を歩いているみたいだった。
『……計測、上限を超えています』
ナナが言った。
『この密度は、記録にありません』
俺は、黙って頷いた。
これだけのマナだ。
これだけあれば——ナナのコアも、何か、どうにかなるんじゃないか。
理屈はない。誰も、そんなことは言っていない。
でも、一度そう思ってしまったら、もう駄目だった。
「頂上に温泉とかあったりしてな!」
「ジェス、あんたどこでも楽しそうだね」
「山だぞ? 楽しいだろ」
前を行く二人は、いつも通りだった。
クラインさんだけが、時々足を止めて、振り返っていた。
「……登るほど、濃くなっていく。普通は、逆だ」
眼鏡の奥の目が、笑っていなかった。
*
山頂に出たのは、二日目の午後だった。
雪はない。風もない。
そこだけ、切り取ったみたいに静かだった。
そして——武具が、あった。
一面に。
剣、槍、斧、鎚、盾。石畳の上に、雑然と、しかし丁寧に、置かれている。
古いものは、錆びて土に還りかけていた。新しいものは、まだ光っていた。
数えられない。
「……千年分だ」
クラインさんの声が、掠れていた。
「毎年、一つ。負けた武具を、門の前へ残す。……これが、その全部だ」
彼は、屈んで、一番手前の剣に手を伸ばして——触れずに、引っ込めた。
「見ろ。この折れ方は、こちらの刃筋が浅い。次の年のこれは、直っている」
指が、震えていた。
「返事が、ある。誰も答えていないのに、千年、返事が続いている」
ジェスが、すごい顔をして俺を見た。
「なあ、これ、しばらく戻ってこないやつだよな」
「三日は覚悟しましょう」
「聞こえてるよ」
その武具の原野の、いちばん奥に。
門が、あった。
洞窟の口を塞ぐように、巨大な石の扉が二枚。
地面に、着いていなかった。
指一本分だけ、浮いていた。
千年、そのままだったのだろう。下の隙間から、風も、光も、何も漏れていない。
「……浮いてるぞ、あれ」
「支えが、ない。柱もない」
クラインさんが、もう眼鏡を押し上げていた。
「僕は、これを説明する言葉を、持っていない」
圧は、あった。
胸のあたりが、少し重い。深く吸うと、うまく入らない。
でも、その程度だった。
クーリは顔をしかめていたし、ジェスは何度か肩を回していたけれど、全員、門の前まで歩けた。
ヤンさんが、門を見上げた。
そして、俺を見た。
「お前は、どうする」
俺は、刀の柄に手を置いた。
作法は、聞いている。
勝者は武具を携え、門へ一撃を捧げる。開かなければ、その一撃を奉げて帰る。
俺は勝者じゃない。大会にも出ていない。
でも、武具は、ある。
「……叩いてみます」
刀を、抜いた。
赤金の刀身が、薄い日の下で鈍く光る。
〈虚鞘〉。
今日は、まだ一度も使っていない。
刃に、無空を纏わせる。
音が、消える。
一歩。踏み込んで、振った。
手応えは、なかった。
線が一本、扉に走って。
——音もなく、千年の門が、内側へ開いた。
*
風が、出た。
いや、風じゃなかった。
門の内側から溢れてきたそれは、空気ですらなかった。
「——っ」
クーリが、いちばん先に落ちた。
座り込んだ、というより、膝が勝手に折れた。
「息が、できない。……なんで? 空気は、あるのに」
クラインさんが、その隣に膝をついた。ついた、というより、つかされた。
「……なるほど。これは、駄目だ」
彼は、荒い息のまま、笑おうとしていた。
「重い、んじゃない。……こちらが、軽すぎる」
ジェスは、まだ立っていた。
半歩、前に出て。
そこで、止まった。
「……よし!」
振り返って、親指を立てた。
「俺は、ここで応援する! 応援も仕事だからな!」
顔は、真っ青だった。それでも、笑っていた。
ヤンさんは、その先へ行った。
一歩。また一歩。開いた門の敷居に、足をかけた。
そこで、止まった。
長かった。
ヤンさんは門の奥を見て、それから、静かに、足を引いた。
一歩、下がった。
「……俺も、ここまでだな。どうやらその資格はないようだ」
それだけだった。
言い訳も、悔しがりもしなかった。
俺は、動けなかった。
この人が、下がった。
悲哀の悪魔に、立ち向かった人が。
あの旅人の出現の際、死装束で駆けつけた人が。
敷居に足をかけて、自分で、下がった。
「カイ」
ヤンさんが、俺を見た。
「……行けるのか」
「はい」
不思議と、俺は平気だった。重いとすら感じない。
隣のナナも、平気な顔をしていた。
「なら、行け」
ヤンさんは、それだけ言って、武具の原野の際に腰を下ろした。
斧槍を、膝に置いて。
番犬みたいに、そこにいた。
*
門の中から、音がした。
擦れる音。石と石が、ゆっくり滑るような。
何かが、出てきた。
長い。
青い。
鱗のひとつひとつが盾くらいある。それが、門から出て、出て、まだ出てくる。
胴が、山頂をぐるりと囲んだ。
まだ、出てくる。
とぐろが、空へ立ち上がっていく。武具の原野が影に沈み、雲の腹に、青い体が届いた。
頭が、降りてきた。
家より大きい頭が、俺の目の高さまで、音もなく。
金色の目が、俺を見た。
それから、隣のナナを見て、また俺に戻った。
(——黄龍)
出そうになった言葉を、俺は、飲み込んだ。
口には出していない。
「我は青龍だ」
出していないのに、そう言われた。
「間違うな」
声だった。低くて、静かで、よく通る。
「……すみません」
「よい。よくあることだ」
よくあるのか。
「——創世人か。久しいな」
俺は、答えられなかった。
喉が、動かなかった。
怖い、のとは少し違う。目の前のこれが、どれくらい強いのか、測ろうとして——測れなかった。
底が、ない。
赤い巨人にも、悲哀の悪魔にも、底はあった。届かないなりに、深さが見えた。
これには、それがない。
覗き込んだら、覗き込んだ分だけ、続いている。
「——挑むか」
青龍は、それだけ聞いた。
襲ってこない。構えもしない。
ただ、答えを待っている。
俺は、腰の刀に手を置いて。
置いたまま、動かさなかった。
「……挑みません」
自分の声が、遠くで聞こえた。
「勝てないので」
言ってから、気づいた。
悔しくなかった。
一秒で分かった。百回やっても、千回やっても、無理だ。なら、考えることは一つもない。
退き際の見切り。
モーリーさんが、生き残り続けた理由の、あれだ。
青龍は、しばらく俺を見ていた。
「賢明だ」
それだけ言って、頭が、上がっていった。
そして——地面が、鳴った。
「——おい、そこの」
低い。山ごと震えるような声だった。なのに、口調だけは、妙に軽かった。
「こっちへ来い。久しぶりに、生きた創世人の顔を見る」
視界が、裏返った。
*
暗かった。
風が、ない。音も、ない。
足の下に床はあるのに、目を落としても見えない。
天井を探した。ない。
壁を探した。ない。
ここが部屋なのか、外なのか、それすら分からなかった。
そして、暗がりの中に、金色があった。
はじめ、それを壁だと思った。
金色の壁が、暗がりの向こうに、横に伸びている。右へ。左へ。
見える範囲の、端から端まで。
——動いた。
壁が、ゆっくりと、流れた。
胴だった。
一節が、町くらいある。それが、暗がりの中をうねって、右へ消え、左から現れ、また奥へ消えていく。
どこまで続いているのか、見えない。
頭が、どこにあるのかも、尾がどこにあるのかも、分からない。
分かるのは、この暗がりが、こいつで埋まっているということだけだった。
山の中に、山を入れる。そういう話ではなかった。
——この暗がりの方が、こいつのために用意されたのだ。
頭が、こちらを向いた。
青龍が丸ごと収まりそうな頭が、ゆっくり近づいてきて、俺の前で止まった。
金色の目が、俺を上から下まで見た。
そして、第一声。
「ドワーフどもも、劣化の割にはよう頑張っておったが。やはりか」
「……」
「しかし——日本人は、相変わらず刀が好きだな」
「————」
言葉が、出なかった。
日本人、と言った。
この世界に来て、初めて聞いた。俺の口以外から、その言葉が出たのは。
「な、んで……」
「何人か見た」
金色の頭が、少し傾いた。
「腰に、それを差した奴らだ。……見せてみろ」
言われる前に、刀が、勝手に浮いた。
鞘ごと、するりと抜けて、龍の目の前へ飛んでいく。
「あ、ちょっ」
「取らん。見るだけだ」
刀は、龍の目の前で、ゆっくり回った。鞘が抜け、刀身が晒され、裏返り、また納まる。
「……ふん」
それだけだった。
感想も、講評もなかった。刀は、するりと戻ってきて、俺の腰に納まった。
「して。何をしに来た」
俺は、息を吸った。
聞くことは、決めてきた。
「この山のマナで……この子のコアは、治りますか」
ナナが、俺を見たのが分かった。
龍は、ナナを見た。
長い、時間だった。
「——治らん」
あっさりと、言った。
「マナは燃料だ。器の罅は、燃料では塞がらん」
……そうか。
分かっていた。誰も、治るなんて言っていなかった。俺が、勝手に信じただけだ。
それでも、膝の力が、少し抜けた。
「だが」
龍は、続けた。
「貴様が権利を行使できるようになれば、いかようにもできよう。……永き時の中で、忘れたか」
顔を、上げた。
「……直る、んですか」
「貴様次第だ」
俺次第。
言葉が、頭の中で二回、鳴った。
そして——三回目で、引っかかった。
権利の行使。
ランク。遺跡。それを一番よく知っているのは、誰だ。
俺の隣で、いつも報告してくるのは。
龍の金色の目が、ナナへ動いた。
「娘。……言うておらんのか」
ナナは、答えなかった。
『………』
両手が、体の前で、小さく重なっていた。
「まあ、よくあることだ」
龍は、興味なさそうに言った。
「端末というのは、大概そうだ。創世人とともに在りたがる。人に、なりたがる。……お前のもそれだろう。珍しくもない」
軽かった。
天気の話くらい、軽かった。
ナナは、動かなかった。
否定も、しなかった。
俺は、その横顔を見て——見ていられなくて、龍に目を戻した。
外装は、俺の理想から作られたと、あいつは言った。
なら、この願いも。
仕様、なのか。
「加護があれば、この娘の願いにも届こう」
龍は、こちらの中身などお構いなしに、続けた。
「そこまで行けば——その娘の、真の望みも、果たせよう」
「……加護を、もらえますか」
「やらん」
即答だった。
「今のお前では、話にならん。加護の試しにも、値せん」
「……」
「戦えるようになったら、また来い。戦って示せば、くれてやる」
「戦うって、あなたと……?」
「阿呆が」
圧が、一気に上がった。
膝が、笑った。
床に手をつきそうになるのを、こらえるだけで精一杯だった。
「我が権能まで忘れたか。世界を崩す気か」
「い、いえ、すみません」
声が、震えていた。
「本当に、何も知らないんです」
「……?」
金色の目が、細くなった。
「ふむ、どれ」
頭が、少しだけ近づいた。
見られている、というより、覗かれていた。頭の中を、上から下まで。
「……ほう」
そして。
「ハハッ」
暗がりが、揺れた。
「なるほど。確かに、知らんようだ」
「あの」
「だが、我が教えることはない」
一言で、切られた。
「試しの儀については、我が分体とだ。安心せよ」
それで、話は終わりらしかった。
金色の頭が、上がっていく。
「行け」
俺は、一礼して、背を向けた。
ナナが、続く。
「——ああ、待て」
数歩のところで、呼び止められた。
「刀。もう一度、寄越せ」
言うが早いか、刀はまた勝手に浮いて、龍の前へ飛んだ。
龍は、鍔のあたりに、鼻先を寄せた。
「鍔が、寂しいのでな。……びっくりさせた詫びも、させろ」
ふ、と息がかかった。
それだけだった。
刀が、戻ってくる。
鍔が、変わっていた。
無地だった鉄が、赤金になっていた。ヒヒイロカネだ。そして、表面に、龍が彫られていた。
とぐろを巻いた、長い龍。細かい鱗の一枚一枚まで、彫ってある。
「え、いや、これ」
「壊れん。受けたくば、それで受けろ」
「……いいん、ですか」
「趣味だ」
龍は、もう、こちらを見ていなかった。
金色が、暗がりの奥へ、ゆっくりと沈んでいく。
沈んでも、沈んでも、まだ、続いていた。
*
気がついたら、門の前だった。
日が、傾いていた。
「——カイ!」
ジェスが、武具の原野を突っ切って走ってきた。
「無事か!? どこ行ってた!? いきなり消えたぞ!?」
「消えました?」
「消えた! 門ごと閉まった!」
振り返ると、門は、また閉じていた。
指一本分、浮いたまま。何事もなかったみたいに。
「中どうだった!? 何がいた!?」
「たぶん、黄龍だと思います。金色の、めちゃくちゃ長いのが」
「長いの!?」
「山ぐらい」
「山!?」
「あと、その前に青いのが」
「二匹!?」
クーリとクラインさんも、もう立てるようになっていた。門が閉じて、圧が引いたらしい。
「それで、それで?」
「……鍔が、変わりました」
俺は、刀を見せた。
赤金の鍔。龍の彫り物。
三人が、固まった。
「「「はあ!?」」」
「趣味だ、そうです」
「黄龍の趣味!?」
ヤンさんだけが、騒がなかった。
原野の際に座ったまま、俺の顔を、じっと見ていた。
鍔じゃなくて、顔を。
何も、聞かなかった。
「……帰るぞ」
立ち上がって、それだけ言った。
*
下りの尾根で、俺は少しだけ、歩を緩めた。
ナナが、隣に並ぶ。
前の四人との間が、開く。
風が、尾根を渡っていった。
いつかと、同じ風だった。
「……なあ、ナナ」
『はい』
「前に、遺跡の数を報告してくれた時。『それと』って、言いかけただろ」
ナナの足が、半歩、遅れた。
「あの続き。……これだったのか。ランク二になったら、お前が直るって」
長い間があった。
『——はい』
風の音だけが、しばらく続いた。
「なんで、言わなかった」
『票は』
ナナの声は、静かだった。
『カイさまの、力になるものです。カイさまの探査を、防御を、広げるものです』
『それを……わたしの修理のために、使っていただくわけには、いきません』
『ですから、判断しました。報告の、必要なし、と』
淡々と、していた。
機能の話をするみたいに。
俺は、立ち止まった。
こいつは、あの尾根で、それを飲み込んだのか。
自分が直る方法を、知っていて。
言わないでいる方を、選べたのか。
俺のために。
——そっちの方が、よっぽど。
「……ナナ」
『はい』
「決めた。遺跡、全部回る」
『カイさま、それは』
「俺の権限のためだ。探査も伸びるし、防御も上がる。お前のためじゃない」
嘘だった。
ばれてる嘘を、俺は堂々とついた。
『………』
ナナは、少しだけ黙って。
『……はい』
それだけ、言った。
ランク二まで、遺跡はあと四つ。
そして、遺跡を回すたび、こいつのコアは削れる。
直すために、削る。
分かってる。分かってて、俺は、回ると決めた。
「あと、もう一個」
『はい』
「勝手に我慢するの、禁止な」
『……善処します』
「それ、やらないやつの返事だろ」
『善処、します』
二回言った。
俺は笑ってしまって、ナナの頭に、手を置いた。
「俺は、お前を大切にしたいんだ」
『……』
ナナは、返事に困る顔をしていた。
その顔が、無性に、愛おしかった。
加護をもらえれば、ナナの真の望み——人間になることも、できる、か。
いや。
なんというか。
あれは、他の端末の望みなんだろうか。
それとも。
……まあ、一応、そこまで目指すか。
*
町へ着いたのは、四日目の夕方だった。
鍛冶場の戸を開けると、ツムグが顔も上げずに言った。
「遅い」
「すみません」
「四日でもいいって言ったの、あたしだけどさ」
そう言いながら、もう手を止めて、こっちを見ていた。
「で。何かあったんでしょ。顔に書いてある」
俺は、黙って刀を鞘ごと外して、作業台に置いた。
ツムグの視線が、鍔で止まった。
「…………は?」
椅子が倒れた。
「ちょっと待って、待って待って待って」
彼女は、刀に飛びついた。
灯りを引き寄せ、顔を近づけ、指でなぞり、裏返し、また表を見た。
長かった。
工房が、しんとしていた。
バクまで、炉の前から寄ってきた。
「……ヒヒイロカネだ」
「はい」
「あたしが打ったやつだ。この厚み、あたしの寸法だ」
ツムグの声が、掠れていた。
「なのに、赤金になってる。彫ってある。……あたし、これに刃も立てられなかったのに」
指が、鱗の一枚を、なぞっている。
「……鱗、全部、違う形だ。一枚も同じのがない」
彼女は、しばらく黙っていた。
俺は、何と言えばいいのか分からなかった。
謝るのも、違う気がした。
やがて、ツムグが、顔を上げた。
泣いてはいなかった。
「……ねえ。これ、どうやったの」
「息を、吹きかけただけです」
「は?」
「鼻先を近づけて、ふー、って」
ツムグの顔から、表情が消えた。
そして。
「——なんだ」
彼女は、刀を作業台に置いた。
置き方が、さっきより、ずいぶん雑だった。
「打ってないじゃん」
「……え」
「こいつ、打ってないでしょ。火も入れてない。鎚も入れてない。息だけ」
ツムグは、鍔を指で弾いた。
澄んだ音が鳴った。
「すごいよ。そりゃ、すごい。神様だもん。……でも、これ、鍛冶じゃない」
その目に、火が入った。
さっきまでの、青ざめた顔ではなかった。
「あたしは打つ。火を入れて、鎚を入れて、失敗して、直して、打つ」
彼女は鎚を取って、作業台に、こつん、と置いた。
「あたしは絶対、そっちで作る」
そして、俺を見上げた。
「あんた、いつかまたそいつに会うんでしょ」
「……たぶん」
「じゃあ、その時までに、それより良いの作っとくから」
「鍔をですか」
「鍔を」
「神様のやつより?」
「神様のやつより」
言い切った。
ジェスが、後ろで吹き出した。
「うわ、出た。かっこいい」
「うるさい」
「いや本気で。かっこいいって」
ツムグの耳が、赤くなった。
赤くなったまま、彼女は鎚を握り直して、炉の方を向いた。
「……仕事する。全員どいて」
バクが、無言で、炭を足した。
その耳も、赤かった。
(第三十六話「謁見」・了)




