紙装甲ですから薄着です
ダメージが大きかったように見えた割りに斎司郎の復活は早かった。退魔の仕事で悪霊や妖怪にやられてしまったりテンパってしまった照陽に殴られたりすることに慣れていたので斎司郎は見かけが頼りなかった割りにけっこう打たれ強い体質だったからだ。
背中から聞こえた声で自分のことを突き飛ばしたのが照陽だということに斎司郎は気づいていた。だがダメージから復活してどうにか動けるようになったときには既に照陽はどこかへ走り去ってしまった後のようで神社のどこにも姿が見えなかった。照陽のことが気になった斎司郎は捜しにゆきたかったのだがお腹を空かせたパンテルちゃんたちに催促されて結局晩ご飯の食卓を囲むことになってしまった。
「Guten Appetit」
「Guten Appetitなのですっ!!」
「―――あ、あの……。い、いただきます……」
パンテルちゃんは淡々とキューベルちゃんは元気よくはきはきと食事前の挨拶をし巫女服姿の少女はおどおどしながら手を合わせている。
「ふむ。やはりしろ殿の料理はいついただいても美味しいのです」
「おにいちゃんは料理が上手いのですね~~~!」
斎司郎がちゃぶ台の上に並べた料理にさっそく箸、というか先割れスプーンをつけたパンテルちゃんとキューベルちゃんは舌鼓を打っていた。
「―――あ、あの、宮司さま……。よかったら、お一ついかがでしょうか……」
「おうおう、九七式ちゃんはよう気が利くのぅ。さすが、大和撫子じゃて」
一升瓶を捧げ持った巫女服姿の少女にお酌をしてもらい斎之進はにへら~っとだらしなく相好を崩している。なにせお酌をしてくれているのが日本人形と見紛うばかりの美少女というだけでなくその着ていた巫女服の白い小袖の生地が薄くてほっそりとたおやかな身体の輪郭が透けて見えてしまっているのだ。
おまけにそれくらい小袖の生地が薄いからはっきりとわかるのだがどうやら巫女服の少女は和服の正しい着こなしを守っていて下着を着けてはいないようだった。袴は透けてはいないので下はわからなかったが少なくともブラは着けていないことだけは確かだった。
こんな女の娘にお酌をしてもらって節操のない女好きの斎之進が喜ばないわけがなかった。
「―――ご、ご、ごめんなさい……。あ、あの……。わ、わたしなんかのお酌じゃ、お、お酒は美味しくないですよね……?」
「なにをいうんじゃ、九七式ちゃん!? わしはこんなに美味い酒は呑んだことはないくらいじゃぞ?」
きゅ~っと一息にコップの冷酒を呑み乾した斎之進がご返杯とばかりにコップを巫女服姿の少女へ差しだした。
「ささ、九七式ちゃんも一杯どうじゃな?」
「―――わ、わ、わたしごときが、お、お、お酒をいただくなど、め、め、滅相もないことです……」
「遠慮することなんかないんじゃぞ? 見てみぃ、パンテルちゃんじゃってキューベルちゃんだって遠慮のぅビールをがぶがぶ呑んでおるではないか」
お酌をしようという素振りすら見せず手酌どころかラッパ呑みでビールをがぶ呑みするパンテルちゃんとキューベルちゃんに対して厭味をこめた口調で斎之進はちらっと二人のほうを見た。
「そうです、遠慮することはありません。せっかく勧めていただいているのですから九七式殿もじゃんじゃんお酒を呑まれたほうがよいと思います」
「そうなのですー。おじいちゃん、おねえちゃんの身体見てニタニタいやらしい顔しちゃってるんですからお酒くらい呑ませてもらっても罰は当たらないのですよー」
しかし、厭味が通じるような二人ではなかった。逆に、見かけによらず観察眼の鋭いキューベルちゃんに痛いところを突っこまれておろおろとしていた。
「―――な、な、なにをばかなことを……!? わ、わしは九七式ちゃんをいやらしい目でなんか見ておらんぞ……?」
「―――そ、そ、そうです……。わ、わたしの、ひ、貧相な身体なんかを見て喜ぶような、とっても、ざ、残念な人なんか、い、いないと思います……」
うろたえた斎之進は慌てて巫女服姿の少女から目を逸らせた。
一方、自分の身体にまったく自信がないように見える巫女服の少女はそんなものには見る価値もないとキューベルちゃんのいったことを真に受けようともしない。
「―――パ、パンテルさまは羨ましいです……。さ、さすがドイツ製、に、に、日本製のわたしなんかとは、か、身体のできが、ち、違います……」
「―――こ、こ、これはむだ肉などではありませんよっ!? わたしは、装甲が厚いだけなのですっ!!」
巫女服の少女がいったことを太っているとか体重が重いという意味だと勘違いしたパンテルちゃんが珍しく必死になって反論している。
しかし、世の中の男子すべてがおっぱいが大きければ大きいほどよいというおっぱい星の住人ばかりというわけではない。むしろ、薄い小袖から透けて見える少女のおっぱいの控えめなふくらみ具合は少女の儚げな雰囲気と和服にはとてもよく似合っていた。和服と巨乳はどちらかといえば相性が悪いものだ。
「まぁとにかく、今晩は九七式ちゃん顕現のお祝いですから。お祝いの席に酒がつきものなことくらい日本製の九七式ちゃんならよくわかっているでしょ?」
ほっておくとどんどん話が妙な方向へ逸れていってしまいそうだったので見かねた斎司郎が口を挟んだ。それに、こういう話題はへたれな斎司郎としては是非とも遠慮しておきたくもあったのだ。
「―――えっ……? あ、あ、あの……。わ、わ、わたしなんかが顕現したことを、お、お祝いしてくださるのですか……?」
「そんなこと、当たり前じゃないですか? 九十九神として顕現できたということはそれだけ九七式ちゃんが大切にされていたということの証でもあるんですよ? だから、そのことがめでたくないはずがないじゃありませんか」
「―――あ、あ、ありがとう、ご、ございます……。そ、そ、それでは、たいへん恐縮なのですが、い、い、一献、ちょ、ちょ、ちょうだいいたします……」
斎司郎のいったことを聞いて涙ぐんでしまった巫女服姿の少女は三つ指をついてがばっと平伏してからおずおずとコップを両手で捧げ持った。そのコップに斎司郎が一升瓶から日本酒を注ぎ入れ替わりに一升瓶を受け取った巫女服姿の少女が斎之進と斎司郎のコップにお酌をした。
パンテルちゃんとキューベルちゃんも新しく栓を抜いたビール瓶をそれぞれ手にする。
「えー、それでは僭越ながら九七式ちゃんの顕現を祝しまして、乾杯!」
「うむ。乾杯じゃ」
「Prosit!」
「Prositなのですっ!」
「―――み、みなさん……。あ、ありがとう、ご、ございます……」
コップと瓶が触れ合う、ちんという音が茶の間に響き渡りそれぞれが手にしていたお酒を一息に呑み乾した。
「―――はふぅ~……。V十二気筒空冷エンジンに染み渡ります……」
巫女服姿の少女もパンテルちゃんやキューベルちゃんと同じように可愛い顔に似合わずお酒には強いようだ。もとからの垂れ目をますますとろんとさせながらコップを持っていないほうの手を頬に当てて口許を綻ばせている。
「もう一杯いかがですか、九七式ちゃん?」
「―――は、はい……。あ、あの……。ご、ご迷惑でなければ、い、いただきます……」
巫女服姿の少女が空になってしまったコップをどこか残念そうな目で見ていたことに気づいた斎司郎は一升瓶をつかむとお代わりを勧めてみた。少女は両手で包んだコップをしばらくの間もじもじと玩んでいたのだがやがて上目遣いでそっとコップを差しだしてきた。
「なにかを口にするのも七十年ぶりなんでしょ? どうぞ遠慮しないで食べて呑んでくださいね?」




