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鋼鐵の女豹  作者: 月野原行弥
第ニ章
12/28

GではなくAです

「はぁっ!? Gカップですってぇ~っ……!?」

 噛みつかんばかりの大声で訊き返されたランジェリーショップの店員は「ひっ……」と声を漏らしてメジャーを手にしたまま思わず二、三歩 後退(あとずさ)ってしまっていた。

「アニメやギャルゲーの中じゃなく現実(リアル)にそんなカップが存在していたなんて……」

 単なる都市伝説に過ぎないと思っていた信じがたい噂話が真実であったことに気づいてしまったかのごとく、照陽は目を見開いて驚愕していた。

「泰平の眠りを覚ます上喜撰(じょうきせん)たったおっぱいで夜も眠れず……」

 悪夢でも見たようにわけのわからないことをぶつぶつと呟いている。

 照陽はまず気の進まない買いものからすませてしまうおとパンテルちゃんをショッピングセンターの中のランジェリーショップまで引っ張ってきて店員にサイズを測ってもらったら、『G』などという二次元世界の中にしか存在しないとばかり思っていたサイズを告げられ現実逃避で半ば放心してしまったというわけだ。

(ゲー)? 違います。わたしは(アー)です」

「―――あんた、あたしに喧嘩でも売ってるわけ……?」

 細かく分類するとパンテルちゃんはA型だそうで他にD型とG型というのもあるということだ。バストサイズなどという概念のなかったパンテルちゃんは、だから照陽の口にした『G』という単語を型式と勘違いしてしまった。

 だが自分の胸にはコンプレックスを抱きまくりの照陽はそれを強者の驕りと感じてしまったようだ。AどころかAが複数重なった表記のバストサイズを誇る照陽はヤクザでも裸足で逃げだしそうなくらいの鋭い視線をパンテルちゃんに飛ばした。

 その獣を狩る獰猛な肉食獣のような目に怯えて関係のないランジェリーショップの店員が半べそをかきそうな表情でずるずると後退ってゆく。

「なにをいうのです? このわたしがまる腰の民間人を攻撃するようなまねをするとでも思っているのですか?」

 一方、ガンを飛ばされた当の本人のパンテルちゃんのほうは照陽がなんで熱くなっているのかわからずきょとんとした顔をしていた。

「お客さまのサイズですと、この辺りに陳列してある商品くらいしか合うものがございません。あとは、カタログでデザインを見てお気に召したものをお取り寄せするしか……」

 サイズを測ってくれた店員が、恐る恐る口を挟んだ。

 ちなみにこの店員、照陽の顔馴染みだった。パンテルちゃんとは真逆の意味でほとんどサイズの合うブラが店頭には置いていなかった照陽にも引っかかるでっぱりがなくてもなんとかずり下がる心配のないブラを親身になって探してくれる親切な店員だった。

「うわっ……。こんなエッチぃのしいかないの……?」

「このサイズですと、あまりシンプルなデザインや可愛らしいものはほとんど需要がございませんから……」

 店員がいくつか選びだしてきたブラを見て照陽は顔をしかめた。どれも薄くて素肌が透けて見えそうなレース生地や布面積が極めて少ない紐ブラ、色も黒や紫や赤といった扇情的なものばかりだったからだ。

「こんな水商売みたいのじゃなくてもうちょっとおとなし目のはないの? 身体つきは大人っぽいけどあたしとそんなに変わんない歳なんですけど?」

 へたれな斎司郎はランジェリーショップへ足を踏み入れることは端から放棄して近くの休憩所のベンチへ逃げこんでしまっていた。その斎司郎からは家で洗濯できる綿か合繊のものを選んでくれるよう頼まれていた。

 さすがにパンテルちゃんがまだ一歳にもなっていないというのは明かせるわけもなく日本人なら高校生くらいの歳だということにしてあった。

「ちょっと、倉庫の在庫を調べてまいります」

 照陽に詰め寄られた店員は慌てて倉庫を調べに走り去っていった。

「大き過ぎるのも小さ過ぎるのもよくないってことよね……」

 いつも自分に合うサイズのブラがなくて苦労している照陽はため息を吐いていた。それにしても、他人(ひと)のブラを選ぶのにも同じような苦労をさせられるとは思ってもみなかったのだが。

 ちなみに、跳んでも撥ねてもおっぱいが揺れるということがまったくなかった照陽にとって、そのことがバレーをやる上で得がたいメリットになっていたのは皮肉なことだった。その類い稀な豪腕から打ち出されるアタックは凄まじい破壊力を秘めていたのだが、意外なことにコントロールも正確無比だった。それは、おっぱいが揺れることによって上体がぶれてコントロールの邪魔をすることがなかったからだということに当の本人でも気づいてはいなかったのだけれども。

「お待たせいたしました、お客さま。あまり種類はございませんが、いくつか倉庫に在庫がございました」

 店員が倉庫から引っ張りだしてきてくれたのは先ほど見せられたお色気過剰なものと真逆な飾り気一つない白のシンプル過ぎるものや、子供っぽいストライプ柄のものばかりだった。

「まぁ、こっちのほうがまだしろのリクエストには近いかな……?」

 あまり選択肢が多くないのだから贅沢をいっても始まらない。差し当たっての着替えはこのシンプルなもので我慢してもらって、もうちょっと可愛げのあるものはカタログで選んで取り寄せてもらおうと照陽は考えた。さすがに小学生が身に着けているような白一色の綿のブラだけじゃ高校生くらいの歳にもなって可哀相だろうと思ったのだ。他の女の娘の買いものにつき合わされることに文句をいっていた割りに、なんだかんだいっても照陽は結局面倒を見ずにはいられなかった。その辺りが『漢の中の漢』として男女問わず人望を集めてしまう所以に他ならない。

「それじゃ、サイズ合わせにちょっと試着してもらえるかしら?」

「わかりました」

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