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生け贄花嫁と呼ばれた底辺魔術師、勇者の末裔へと嫁ぐ  作者: 有栖 多于佳


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2/4

出奔した母の秘密

ドラコニア王国の魔物の森に一番近い村の木こりの娘、それがアクアレーヌの母ピアだった。

ピアがやっと立って走って話せるようになった頃、その日がやって来た。


『今から大規模な魔物討伐を行う。今日は各自家に避難して決して外に出ないように』

魔物の森に急におぞましい数の魔物が繁殖してしまった為、ドラコニア国王が急遽殲滅をすると、魔術によって全国民の脳に直接話しかけてきた。


国民はみな、直ぐ様、窓を木で覆い扉を固く閉じて、家族で身を寄せて静かにしていた。

ピアも母の腕に抱き締められて、その時を過ごしていた。


ゴゴゴゴと言う地響きと、それに呼応するようなキョーとかグアーとか言う雄叫びなのか悲鳴なのかわからない鳴き声、そしてスゴゴガッと言う爆撃音が聞こえてきた。

その自然と身体が震えるような緊張感に、ピアは目をキツく瞑って耳を押さえて耐えていた。


ずいぶん長い時間をそうして過ごしていると、突然、なぜかピアが家から、母の腕の中から消えてしまった。


「え、どういうこと?」

「これ、なんだ。どういうことだ!ピア、ピアー」

国王の命令を破り家から外に飛び出して、大声でピアを呼び探した。


その直後、ピアの父の目の前に大型の魔物が現れて、あわやその頭に噛みつかれる瞬間、雷撃が落ち、九死に一生を得たのであった。


「余の命令を聞かぬ者が、この国に居ようとは!どういうことだ」

上空から威厳に満ちた叱責が飛んできたが、助けられた父とその状況を家から見ていて走って横に並んだ母が額を地面に擦り付けて、


「申し訳ございません。申し訳ございません。言いつけ通りに家内にいた私たちの娘が突然消え去ってしまい、居ても立っても居られなかったのです」


そう言った。


その言葉に、遠くを見た国王が、


「これはきっと、ドラコニア一族の問題に巻き込まれたようだ。私が対処しよう、待っておれ」


そう言って、どこかへと転移していったのだった。


その頃ピアは見知らぬ土地の孤児院の前に立っていた。

今まで母の腕の中に居たはずなのに、見知らぬ土地へと飛ばされて、どうしたらいいのか不安になって、えーんえーんと大きな声で泣き出したのだった。


その声を聞き付けた孤児院の院長が、まだ幼い子を孤児院の前に捨てていったのだろうと思って受け入れて、ピアは孤児として育つことになった。


竜王の間に国王が立ち、静かに耳を澄ませていると、竜王を討伐した勇者と同行していた聖女、後の初代王妃の声が聞こえてきた。


『とうとうこの時がやって来ました。ドラコニア一族にかけられた呪いを解く子が、木こりの娘ピアの生んだサクラメントの王女が、彼女の魔術でこの忌々しい呪いを解くのよ』


そう言うのだった。


国王は、ピアの行き先を聖女に訪ね、木こりの両親の元へと戻さねばならないと強く伝えたのだけれど、聖女は頑として聞かず、この世界を救う為にはしょうがないのだと言って聞かない。


埒が明かないと、木こりにこの話を伝えると、

「冗談じゃない!うちの娘は単なる木こりの子です。そんな王家の使命を勝手に背負わされて拐われて、納得できねえ。要らぬ宿命をピアに背負わせないでくれ」

ピアの父がそう怒鳴って、妻はなぜうちの子がと声をあげて泣いたのだった。


国王も両親の言い分は尤もだと聖女に反論をすると、ならば両親もあちらへ送ってやろう、そこで少しでもピアを助けてやることだと言って、木こりの男に祝福として魔力を与えて、二人をサクラメント王国の魔術師団へと転移させ、魔術師たちの記憶をパパパと改竄して平民出身の魔術師とその妻と言う偽りの身分を与えて、両親は失われた娘を探す日々が始まったのだ。



ピアは孤児院で泣いてばかり居たが孤児たちはみんなで慰めて、特に乳児からここにいる古株のマニはピアが泣くとおんぶしたり抱っこしたりと良く面倒をみて、暫くすると馴染んで暮らすようになった。


成人すると孤児院を出なければならないので、マニが一足先に冒険者になって出ていって、それを酷く寂しがったピアは成人までまだ数年あったのだけれど、マニを追いかけて勝手に孤児院を出たのだった。


サクラメントの王都の冒険者ギルドでマニを探していたピアは、自分も冒険者になろうと申請をして、そこで登録前の特性チェックをしたところ、平民とは思えぬ魔力量だと話題に上り、年少なこともありギルドが引退間近な老魔法使いに頼んでやって、魔法使いの弟子となってギルドに登録することが出来た。

そして師匠と共にクエストをこなしながら、マニを待つことにした。


それから数年、師匠が引退し、ピアも成人して魔法はギルド内でお墨付きを貰う程上達しBランク冒険者となった頃、遠くのダンジョンを攻略するパーティに入って出国していたマニがようやく帰って来て、無事に再会出来たのだった。


「マニ!やっと会えた!」

「ピンクブロンドの髪に紅い目、お前、まさかピアなのか!?見違えたよ、大きくなって」


ローブのフードを目深に被っていた男がそれを外すと、水色の髪を短くかった色白でスッと整った顔立ちの記憶の中より随分男らしくなったマニが目を見開いて、ピアの元へと駆け寄った。


ピアも喜びに顔を紅潮させて、マニへと抱きついた。


「おっと、おいおい、もうそう言う年じゃないだろ。お前も成人したんだし、いつまでも子供みたいにじゃれつくのは止めなさい」


「子供じゃないもん、マニに会いたくて孤児院を出てここを探して、それからずっと待っていたんだよ。マニ、もう私を置いていかないでお願い」


人前での抱擁に恥ずかしくてピアを払い退けようとしたマニだが、うるうると涙を湛えた目で見上げて思いの丈を素直に告げるピアを本心から避けることなぞ出来なくて、マニは戸惑いがちに、はふはふと溺れたような早い息をしていたのだが、結局ピアの気持ちが嬉しくて、ぎゅうぎゅうと抱き締めてしまったのだった、ギルドの入口で。


ピューピューと指笛が鳴り、よっ色男と掛け声が上がって、パーティの仲間もニヤニヤと見ていたけれども、これはもうどうしようもないよねと開き直って、

「俺の恋人に手出し無用な」

なんてちゃっかり宣言をしたりして、これにはピアも驚いた後、

「マニ、嬉しい」

と眉を下げてへにゃりと笑いながら答えたのだった。


マニは少しだけ生活魔法と言われるようなものが使えたので、パーティでは調理と雑用を担当していた。

ピアはギルドお墨付きのBランク魔法使いになっていたから、これ幸いとリーダーに勧誘されてパーティメンバーとなって二人はこれからも一緒に行動できることになった、のだが。


二人の再会と言う感動的なすぐ後に、運命の悪戯か突然ピア宛てに、国王の愛妾になるようにと言う信じられない王命が下され王家の影に拐われ連れ去られてしまった。


腕の中にいたはずのピアが消えてしまったことに、マニは呆然と立ち尽くしていたが、パーティリーダーに頬を叩かれ、正気に戻ると奪還を誓うのだった。



サクラメント国王は38才でピアとは親子ほど年が離れていて、3人の王子と年の離れた生後間もない末王女が一人居た。

王子たちはそれぞれ結婚しており子供もいて、つまり彼には孫もいた。


それなのに、なぜ15のピアを愛妾にするのかと言えば、ドラコニア国王へと嫁を出すのは次はサクラメント王国の番だったので、最近生まれた末王女が年回り的にも妥当であろう、そう命約の国々から言われて、折角出来た可愛い我が子を呪われた蛮族の王へ生け贄として捧げるなぞ出来る訳もない 

絶対に出したくない、でも命約を違える事は出来ない、と頭を抱えていた。


何か解決策はないかと王家の秘技の神降ろしを無理やり神官にさせると、奇跡か偶然か神降ろしが成功して、『サクラメントの王都の冒険者ギルトに居るピンクの髪の魔法使いが生んだその女児を王女としてドラコニアへ嫁入りさせれば良い』と神託が下った。


この言葉に喜んだ王妃が自分の配下に命じて拐って越させたのだった。


「さあ、陛下。親として娘を助ける為に可及的速やかに孕ましませ」

縄で縛られ、猿轡をされた自分の子より年若い少女に無体を働けと言う王妃にドン引きして、

「余に加虐趣味は無い」

と言い返し、縄をほどいて怪我の手当てをせよと側近に命じた。


それからピアは客室へと入れられて、怪我の治癒を受けつつ、状況の説明をされた。

その時、担当に選ばれたのは、とりあえずピアの身分は魔術師と言うことになっていたので、平民出身の魔術師、元木こりの父親ウパであったのだ。


幼い末王女の代わりの王女を生む為に拐われて来たと言う話を魔術師団で聞き付けて、これこそ探していた自分の娘のことだと思って、志願して世話係を買って出た。


客室のソファで小さく震えているのは、妻と同じピンクブロンドの髪に、自分と同じ紅い目をした片時も忘れたことのない娘ピアが面影のままの姿でそこにいた。


「ピア、ピア。お父さんだよ、わかるかい?」

ゆっくりとソファの横にしゃがんで、顔を覆って泣いている娘を怖がらせないように声をかけた。


「え、え、何て?おとうさん?」

記憶の中の父の姿は朧気で、太い腕に大きな身体のフォルムがうっすら思い出されるだけ。

だが、顔を上げて近くて見つめている黒いローブの男の目をみれば、それは自分と同じ紅い色で、顔を覆う髭面も懐かしい思い出の父と同じもので、


「お、おとうさん、お父さん!」

「ピア、ああやっと会えた。見つけることが出来た、ピア俺の娘、ピア」

お互いに涙を流して、抱き合ったのだった。


そして、なぜ囚われているのか現状の説明を受けて、ドラコニア家の呪いを解く子を生む為にかつての聖女に拐われて、今度は王との子を為すためにまた拐われたのだと知って、自分を取り巻く宿命に腹を立てながらも、この運命からは逃れられないのだろうと悲しく思った。


暫く時間を貰いたいと父に言えば、心身衰弱が激しくてこのままでは子を無事に生む前に母体が持たないだろうと嘘の報告をしてくれた。

冒険者ギルドのマニと言う恋人にこのことを伝えて欲しいと頼めば、

「あの幼かった娘ピアに恋人が居るのか!」

と青い顔をしてショックを受けたが、そいつの顔を見て来なきゃならないと急に謎のハイテンションとなって、マニに会いに行ってくれた。

マニからの手紙を預かって帰ってきた時、マニとパーティの仲間とこのことを相談してきたと言う父は、悪い顔をしていた。


貴賤意識の激しいこの国で、国王が平民と交わることに良い顔は誰であれしていなかった。

当事者である国王でさえ、必要性は理解していようとも、拒否したいのはありありと見て取れた。


そこで父である魔術師ウパは、国王に上奏した。


「わざわざ陛下が、平民と触れあう必要がございましょうか、神託ではあの女の腹から生まれた娘を王女として嫁がせれば良い、そう言っていたはずです。

であれば、あの女に子を生ませ、生まれてきた中から女児を王女として名を与えれば宜しいのでは。どうせ嫁ぐ身と決まっている故、王位継承権すら必要無いでしょう。

ご用命下されば、平民の魔術師の中から適当に見繕い、両方共に用を為せば処分まできちんと致します」


その言葉を聞いた王妃は、

「そんな都合良く出来るのかしら」

と訝しげに言うので、

「初めから女児が生まれるとは限りません。女児が生まれて嫁ぐまで、王宮に置いておくおつもりで?」


そう嫌味っぽい顔で問い返せば、育つ間、自分の娘と同等に王女として王宮で暮らさせるのは嫌だとはっきりわかる顔をした。


「早ければ来年、生まれなければそれまで何度も妊娠出産を繰り返すでしょう。特別手当てを頂けるのなら、その後も含めて全て私が責を負う所存にございます」

そう言って、深々と頭を下げると、


「ええ、そうね。平民なら子の一人や二人育てるなぞ造作もないわね。陛下良いではないですか、神託で王宮で王女として育てよなんて言われてませんもの、あの女が生みさえすれば良いのです。この平民の魔術師に専属の任務と報奨与えて、責任持ってドラコニアへの生け贄を育てさせましょうよ。そうすれば私たちはなんの気兼ねも無く過ごすことが出来るのですもの、お前、良い提案だわ。誉めて遣わす」


扇で口許を隠しながらも、喜びが伺い知れた。


「良い、そうせい。お前、魔術師団の副団長に任ず。神託通りあの者の女児をドラコニアへと嫁入りさせよ。それがお前の責務とする」

国王から任じられて、やっと大手を振ってピアを連れて帰ることが出来たのだった。


「お母さん、お母さん、おかあさん!」

「ピア、私のピア、ああピア!」


家に入るなり母に抱きついておいおいと泣いた。

思い出の姿より随分老けていた、それは父も同じだったが。

それでも懐かしいお母さんの匂いを胸一杯に吸い込んで、お母さんを感じた。


父が副団長として、マニを魔術師団に入団させた。

表向きは捨て鉢にするには丁度良いからと言う理由で周りを納得させて。



魔術師団の家族が住む塔に両親の家の隣に住んだ。

危うく知らないおじさんの子を生まされるところだったと、またマニと抱き合って泣いて、そして結婚式も挙げずに初夜を過ごして、それから程無くして子を授かった。


10月10日の妊婦生活を両親やマニと共に心穏やかに過ごして、産み落としたのは、水色の髪に紫の瞳をした可愛らしい女児であった。生むところはさすがに王宮医師が付き添ったので、間違いなく私が子を産み落としたことが証明された。

産後の床上げもする間もなく、娘を両親に預けて、私とマニは闇夜に紛れてサクラメント王国から立ち去ったのだった。


「良くやった副団長。して、女児の親はどうした」

国王が連れてきたサクラメント王国の王女、となる赤子をチラリと見て尋ねた。


「既に適切に処してございます」

恭しく頭を垂れれば、仰々しく一つ頷いて、

「善きに計らえ。これの名はアクアレーヌと名付けた。副団長にその養育者として任じる。お前の妻を乳母としてきちんと育てよ」

サクラメント王家とは血も所縁も無い赤子に名を与えて、王家の家系図に刻まれた瞬間であった。



ピアの身体が治らぬうちにサクラメントを去ったのは、もう用無しと殺されるリスクを失くすためだった。

体力が戻らないピアは、ありったけの魔力を使って、マニを連れて冒険者ギルトへと転移した。


そこには懐かしいパーティの仲間たちが逃亡用の荷物を積んだ幌馬車を持って待っていてくれて、挨拶もそこそこに、黒いローブを纏って目深にフードを被りサクラメントの出国を目指して出発をした。


マニが御者台に座ってひたすら国境を目指して進んだ。

ピアは体力がまだ戻らず、荷台の中で毛布にくるまって丸まっていた。


何日も何日も進んで、やっとサクラメント王国から出国した途端に、幌馬車ごとドラコニア王国へと転移させられたのだった。


「マニ、長い間迷惑をかけた。幼い君を救えず申し訳無い」

ドラコニア国王が王宮の広場に置かれた幌馬車の遥か上空で頭を下げていた。


あまりに強力な魔力なので、ピアたちが対面したら体調に異変を起こすので、距離を保たねばならないのだそう。


「これからはここで、ウパたちと魔道具を使って連絡を取りながら、娘が来るのを待つと良い」


そうして、私はドラコニア城に勤めるハウスメイドとなり、マニは冒険者時代に鍛えた腕前を見込まれてコックとなった。


暫くして、サクラメントから冒険者ギルトのパーティだった仲間たちがやって来て、幼い日に住んでいた森の近くの村で暮らし始めた。

一緒にやって来た中にいた戦士が、実は両親がサクラメントの王都に住み始めたばかりの時に出来た弟で、門番として王城で働きだした。


置いてきた娘が心配で時々泣きながら床を磨いたりしていたが、この城にいる坊っちゃんの世話をしながら溢れる母性を慰めていた。


ドラコニア家の呪いのせいで、国王が亡くなった後、坊っちゃんは独りで城の奥で暮らしている。

それが可哀想で、意味もなく魔法の鏡に声をかけて、その姿を確認してしまう。


マニも同じ気持ちなのか、元々面倒見も良かったからか、坊っちゃんの食事が少しでも楽しくなるようにと、パンでライオンを作ったり、フルーツを宝石箱のように飾ったりと試行錯誤している。


今日も夜になれば、両親の家の鏡と繋がり、少し大きくなった娘と話した。

坊っちゃんとも鏡を繋いで、みなでわいわいと近況報告をした。


サクラメント国王は、王族っぽいアクアレーヌなんて長ったらしい名を付けたけれど、私たち家族はアクアって呼んでいる。きっと娘は自分のことアクアだと思っているはず。


坊っちゃんのヴァレリウスって名前もまだ言えなくて、バレたま、バレたまって呼ぶのも可愛らしい。

坊っちゃんは5つも年上だし、優秀だからアクアレーヌ嬢なんて気取って呼び掛けているけど、それ自分の名前だと思って無いと思いますよ、って毎回伝えるのに変えないんだよね。割りと頑固よね。


今のアクアの年に、私は運命とかいうやつに翻弄されえてサクラメントの孤児院に入れられたけれど。

そこで生涯を共にする、マニに会えたからこの運命も悪くないよね、って今は思ってる。


私をサクラメントまで探しに来てくれた両親とも早く会いたい。

両親がアクアと共に居てくれるから、まだ落ち着いて居られるんだ。


アクアが、幸せでありますように。

マニとずっと幸せでいれますように。

坊っちゃんが、弟が、両親が幸せでありますように。


そう願いを胸に今日も大理石の床を磨くのだった。







死んだことになっているので、ドラコニア王国ではピアはキャッシー、マニはジョージと名を変えて居ます。

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