ひょろんり 後編
みんなの目が点になっています。
特に地底人さんは、少し怒っているようでした。
「思ってたのと違うのだ! これじゃあ『ひょろんり』じゃなくて『きかきー』なのだ!」
「なぜ、『ひょろんり』と鳴かなかったのでしょう?」
実はその答えもボクは知っていました。
大昔に読んだ図鑑に書いてあったのです。
「ひょろんりはいろいろな鳴き声を持っています。『ひょろんり』と鳴くのは稀だそうです」
「へ~、そうだったんですか」
「むう……まあ、それなら納得してやっても良いのだ」
とりあえず普段通りの表情に戻った2人。
ひょろんりは気ままに地底人さんの手のひらを飛び出し、机の上に座りました。
程なくして、魔術師さんが叫びます。
「またほっぺたが膨らんだよ!」
今度こそ『ひょろんり』と鳴くのでしょうか?
「めんしゃり」
鳴きませんでした。
やっぱり、ひょろんりはなかなか『ひょろんり』と鳴きません。
その後も同じような状態が続きます。
「ぜぜぜ」
「とこととっとた」
「ぷっつぷ」
「わーてるしゅ」
「じゃしゅけ」
机の上で自由に鳴き続けるひょろりん。
地底人さんは不満げです。
「どうしてなのだ! 『ひょろんり』って鳴かないのだ!」
「今日はひょろりんの気分じゃないのでしょうか?」
「ええい! ほら、『ひょろんり』と鳴くのだ! ひょろんり! ひょろんり!」
ひょろんりに顔を寄せる地底人さんですが、ひょろんりは知らんぷり。
それどころか、ひょろんりはコロコロと転げ回ります。
魔術師さんは小さなため息をつきました。
「やっぱり、『ひょろんり』って鳴くのは珍しいことなんだね」
「そうですね。特別なことが起きるだけあります」
全てはひょろんりの機嫌次第。
そう簡単に『ひょろんり』は聞けないようです。
「もういいのだ! 我は諦めたのだ!」
ついに地底人さんはひょろんりに背中を向けてしまいました。
メイドさんと魔術師さんも疲れたようで、床に座り込んでしまいます。
さすがのボクも、今日は無理なのかと思いはじめました。
まさにそのときです。
ひょろんりが再びほっぺを膨らませました。
そして
「ひょろんり」
ボクたちはこれを待っていたのです。
「おお~! 『ひょろんり』って鳴いたよ!」
「なんだかかわいいです! 待った甲斐がありました!」
「危うく聞き逃すところだったのだ!」
みんな大喜びです。
珍しい動物さんの、珍しい鳴き声が聞けたのだから当然です。
「ねえねえ、何か特別なこと、起きたかな?」
辺りをキョロキョロする魔術師さん。
メイドさんと地底人さんも、ハッとしたように辺りを見渡します。
すると、お庭からポップ・ミュージックが聞こえてきました。
その瞬間、メイドさんと地底人さんが目を見開きます。
「大変です! アルパカさんたちが!」
「アルパカたちが、ポップスを聞いているのだ!」
「いつもは大音量のメタルしか聞かないのに……!」
「一大事なのだ! ペペロッペ卿! 我は怖いのだ!」
怯えた地底人さんはボクに抱きつきました。
対照的なのは魔術師さんです。
魔術師さんは半ば興奮しながら言います。
「図鑑に書いてあった通りだね! ひょろんりが『ひょろんり』って鳴いた途端、特別なことが起きたよ!」
「はい。ひょろんりの特別な出来事を実際に目にすることができるなんて、ボクたちは幸運です」
一生に一度もないことかもしれません。
今日は貴重な体験ができたのです。
「へんずんつ」
ひょろんりがそう鳴くと、ポップ・ミュージックは聞こえなくなります。
代わりに、魂を揺さぶるメタルがお庭に響き渡りました。
どうやら特別な出来事は終わりのようです。
メイドさんはまだ驚いた表情のまま。
魔術師さんは満面の笑み。
地底人さんは安心した様子。
ひょろんりは気ままに床をコロコロ。
アルパカさんたちは楽しそうにヘッドバンギング。
気づけばお屋敷は、いつもの賑やかな空間に戻っていました。
めでたしめでたし。




