ひょろんり 前編
今、ボクはリビングでくつろいでいます。
「それはゴミじゃないのだ! 我の大切な泥人形なのだ!」
「大切なものなら、床に放り出さないでください!」
「あ! ダメ! それは捨てないで!」
「魔術師さん、切れた輪ゴムはさすがにゴミですよ!」
「ゴミなのは知ってるよ! でも、新しい魔法に必要なの!」
「じゃあ、きちんと片付けておいてください!」
今日もお屋敷は賑やかです。
加えて、お庭ではアルパカさんたちが音楽鑑賞会を開いていました。
おかげでメタル調の曲が鳴り響いています。
とはいえ、ボクは気にしません。
ボクはいつも通り、本を読むだけです。
「大事なものや魔法に使う道具は、自分たちの部屋に置いておいてください!」
「は~い」
「分かったのだ!」
メイドさんに従い、魔術師さんと地底人さんは片付けをはじめました。
しかし地底人さんは、早くも別のものに興味が移ってしまいます。
「うん? メイド! これはなんなのだ?」
「これって、どれですか?」
「これなのだ!」
そう言って、地底人さんは何かをメイドさんに見せます。
メイドさんは首をかしげるだけでした。
どうしたのだろうかと思い、ボクは地底人さんが持っている何かを覗き込みます。
「それは……」
地底人さんの手のひらには、短い手足をバタバタさせる、フワフワの綿菓子のような小動物が乗っかっています。
その正体を、ボクは知っていました。
「この子は『ひょろんり』ですね」
「ご主人様、ひょろんりとはなんですか?」
「珍しい動物さんです。『ひょろんり』と鳴くと特別なことが起きるので、ひょろんりという名前になったようです」
「さすがペペロッペ卿なのだ! 博識なのだ!」
褒められました。
ちょっと嬉しいです。
ところが、ひょろんりを知っているのはボクだけではありませんでした。
「ひょろんり!? ひょろんりがいたの!? 見せて見せて!」
目を輝かせるのは魔術師さんです。
「魔術師も博識なのだ! 悔しいのだ!」
歯ぎしりする地底人さん。
魔術師さんはそんな地底人さんの手のひらに乗るひょろんりに夢中です。
「おお~! 本物だ~! 早く鳴かないかな~」
その言葉を聞いて、メイドさんと地底人さんもひょろんりに注目しました。
そうです。
ひょろんりが『ひょろんり』と鳴くとき、特別なことが起きるのです。
ボクたちは、その特別なことが起きるのを待ちました。
さて、一転して静まり返ったお屋敷。
数分後のことでした。
「あ! ひょろんりのほっぺが膨らんでます!」
「鳴く合図でしょうか?」
どうやらボクの予想は当たっていたようです。
まんまるに膨れたひょろんりは、小さな口をポカンと開け、ついに鳴きました。
「きかきー」




