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第六十四話 突撃、カンナヅキ家

「──ついたのです」


 あれから、特に襲撃されるような事も起きず。

 ココに隠れて荷物を〈異空間容器(ボイドコンテナ)〉に仕舞った俺は、彼女の家であるカンナヅキ家の前にたどり着いていた。

 屋敷はやや和風になっており、どことなく日本を思い起こさせる見た目だ。

 屋敷の門前には誰もおらず、不気味な静寂に包まれている。


「見張りがいないのか?」

「あ、ココ達の門には元々誰もいないのです。今まで誰かが家に侵入した事もないので、そういう防犯意識に関してはあれだけなのです」


 ココが指し示した先には、立派な狐の石像があった。

 俺達の世界の神社にある狛犬のような大きさはあり、九本ある尻尾も併せて凄く威圧感を覚える。

 合計二つあるそれ等は前にある鳥居の左右に置かれ、どことなくこちら側を監視をしているような。


「あれはどのような用途があるのですか?」

「あの石像に見つかると、口から炎を吹くのです。そして、家に侵入者が来たと教えてくれるのです」

「火を吹くのか……」

「あ、あと動くのです」

「動くのですか」


 俺達は揃って微妙な表情を浮かべた。

 見張りがいないのは幸いなのだが、代わりに凄く面倒な物がある。

 現在隠れている路地裏から出ると見つかるだろうし、かと言って他は桜の木々が生い茂っており、とてもではないが回り込む隙間はない。

 そもそも、何故こんな路地裏から出るようなややこしい立地にあるのだろうか。

 三家ともなれば、街の中心辺りで泰然と屋敷を構える印象があるのだが。


「ココが止めたりできないのか?」

「無理なのです。あれを止められるのはお姉様だけなのです。きっと、今はココが見つかっても侵入者として排除されちゃうと思うのです」

「なるほど……どうすっかなぁ。見た感じ、反乱を起こしてそうな雰囲気を感じないんだけど」


 そう。そこも頭に引っかかっているのだ。

 狐族も反乱を企ている筈なのだが、目の前の屋敷からは殺気立っている様子は受けない。

 むしろ、不気味なほどまでの静寂が漂っている。

 ココの話によると、あの屋敷にはココとココの姉に襲撃してきた側近三人、それとカンナヅキ家の従者達が住んでいるらしい。

 なお、他の狐族の家は街全体に散らばっているとの事。

 ともかく、敵の総本山である屋敷が騒がしくないのは、やはり腑に落ちないのだ。


「ふむ。迷っていても時間を無為にするだけです。そろそろ決断をするべきかと」

《こやつの言う通りじゃ。先手必勝じゃぞ?》

『お前は血が吸いたいだけだろ?』

《そ、そうとも言うかのう》


 黙っていたかと思えば、突然そんな事を言いだして。

 興味なさげにしていた事から、恐らくツバキは今まで眠っていたのだろう。

 現に、口調が若干舌っ足らずだし。


「……とりあえず俺達が襲われた以上、狐族が何かを考えている事は間違いない。問題はそれが本当に反乱なのかどうかだけど」

「ここまで来てココを疑うのですか!?」

「いや、疑ってはいない。ただ、現状を確認しただけだ。まあ、流石にココの話は本当だろうが。で、結局あの石像を止める方法は本当にないのか?」

「……一応、なくはないのです」

「今しがた、貴女様の姉君しか止められないと告げられたばかりなのですが?」


 首を傾げたクリスティアを一瞥した後、ココは指先を鳥居の半ばに移す。


「あそこに宝玉が見えますね? あれがこの石像の核となっているのです。なので、あれを破壊する事ができれば、石像の動きは止まる筈なのです」

「……完全に装飾品かと思っていたな。だけど、あそこってどう考えても石像に見つかるよな」

「はいなのです。だから、どの道ココ達が侵入者として見つかってしまうのです」

「だから、先ほどは伝えなかったのですか?」

「というより、もう正面突破しか方法がないと思うのです! 早く行くのですっ!」

「あ、おいっ!?」


 呼び止める俺の声を無視して、ココは路地裏から飛びだした。

 思わず俺達も後を追いそうになるが、ある事に気が付き足を戻す。

 屋敷に駆け寄っていたココもその事に思い至ったのか、立ち止まってコテリと不思議そうに首を傾げていた。


「……動きませんね、石像」

「ココを敵認証してなかったのか? でもまぁ、なら話は早い」


 戸惑い気味に振り返ったココに、俺はジェスチャーで上の宝玉を壊すように伝える。

 クリスティアも拳を叩きつけるような仕草をしており、俺達はココにあの宝玉をなんとかするように頼む。

 すると、どうやら俺達の意図が無事に伝わったらしく、ココは大きく手を振ってから鳥居の方に向かう。


「大丈夫なのか?」

「私達が見つかるわけにはいきませんからね」

「そうなんだけど……あ、落ちた」


 よじ登ろうとしていたようだが、途中で力尽きたのか。ココは手を離して地面に落ちてしまう。

 再度挑戦するも、結果は同じ。

 何回か鳥居を登ろうとしていたココは、やがて顔面から地面に落ちた後、ピクピクと痙攣したまま起き上がらなくなった。


「どういたしますか? 私達の事も知られていますし、この際正面から殴り込みした方が良いのでは」

「ココに任せようと思ったが、どうやらその方が早そうだな」

《まーた無機物なのじゃ。残念じゃのう》

「仕方ないだろ」


 ため息を漏らし、首を鳴らす。

 クリスティアに目配せをして、俺達はココの元へ駆け寄っていく。

 瞬間、石像の目がキラリと光った。

 それ等は石とは思えない軽い身のこなしで起き上がり、台座から飛び降りる。


「私とは相性が悪そうですね」

「ティアはサポートを頼む! ココも早く起きろっ!」

「ぐぐっ……」


 鋭く叫ぶと、ココはピクリと身体を震わせて立ち上がった。

 身体についた汚れを叩き、涙目で懐から一枚の札を取り出す。


「来ますっ!」

「こんな……こんな鳥居は認めないのですぅっ!」

「あ、おいっ!?」

「〈火行ノ身吾纏〉」


 そう告げたココが札を投げ捨てると、身体が炎に包まれた。

 揺らめく赤い渦の中心にいる彼女は、勢いよく駆けだして前に飛び込む。

 両手を地に着け、右脚に己の三尾を巻きつけ。


「【我流拳法──風林赤脚(かえんげり)】」


 大きく横回転していき、それを鳥居に叩きつけた。

 辺りに炸裂音が響き渡り、鳥居の柱に亀裂が走っていく。

 石像の攻撃を躱しながらその様子を見ていた俺は、ココの意外な強さに内心で驚いていた。


「思ったよりもやるな」

「まだまだ修行不足なのです。本当は、あの火をココの脚に集めなきゃいけないのですが」

「充分だろ……ふっ!」


 繰りだされた石の尾を避け、ベリシュヌで押しだす。直後に後退し、追撃から逃れる。

 クリスティアに目を向けると、狐の像から逃げ回る事を専念しているようだ。攻撃しないで一匹を引きつけていた。


《もっと丁寧に扱ってくれんかのう? 刃こぼれが心配なのじゃ》

「我慢してくれ──こっちに来いティアっ!」

「はっ!」


 不満げな声を上げたツバキ。それに返事をしようとした瞬間、視界の端で赤い物体が落ちてくるのを捉えた。

 慌ててクリスティアを呼び戻し、俺達は大きく後退する。

 当然敵も俺達を追いかけるのだが、途中で落下してきた物体に潰されてしまう。

 砂埃が舞い、目の前が煙に包まれた。警戒を解かずに様子を窺っていく。

 暫くして視界が晴れると、鳥居に押し潰された石像達があったのだ。


「とりあえず、やったのか?」

「倒れた振動で宝玉も割れていますね」

「むふぅ……どうなのです? ココの完璧な! 完璧な作戦のお蔭で石像を倒せたのですっ!」


 こちらにドヤ顔を向けて、胸を張って尻尾を揺らすココ。

 対して、俺達は揃って微妙な表情を浮かべてしまった。

 確かに、今回はココの機転が効いた形となっただろう。

 俺達が敵を引きつけている間に、ココが鳥居を破壊する。後は鳥居が落ちる先に敵を誘導し、そこで押し潰す。

 しかし、ココが鳥居を攻撃したのはどう見ても八つ当たりだったし、石像を潰せたのは運が良かったとしか言えない。

 クリスティアも俺と同意見なのだろう。素直に褒めたくないような面立ちをしているし。


「ま、まあ。どの道これで俺達の事は見つかっただろうし、ここからは時間戦だ。早く行くぞっ!」

「そうですね。行きましょうっ!」

「あ、ちょっと待つのです! ココが凄すぎたからって褒めないで逃げんなです! 待つのですぅっ!」


 どことなく締まらない空気だが、無事に俺達は門番を突破し、カンナヅキ家に踏み入れるのだった。

 ……それにしても、この家の警備ってザルすぎないか?


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