表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/82

第五十六話 初クエスト・討伐編

「おー、岩がゴロゴロ転がってるな」

「いい天気です。まさに、ハイキング日和ですね!」

「あのなぁ……」


 伸びをしながら告げるクリスティアに、思わず俺は呆れた表情を向けてしまう。

 確かにクリスティアの言う通り、今日は雲一つない晴天だ。

 穏やかな風が身体を撫で、心地よい陽射しが降り注ぐ。

 しかし、俺達はギルドの依頼を完遂するために、この『アグニル山』に赴いているわけだ。

 断じて遊びに来ているわけではない。


「冗談ですよ、冗談。さて、早くロックゴーレムを探しましょう」

「はぁ……そうだな、さっさと依頼を終わらせるぞ」

《のう、妾はもう寝ても良いかの?》

「駄目に決まってるだろ」

《いいじゃろ、別に。妾がいなくても主君達ならなんとでもなるじゃろ》


 先ほどからずっとこの調子だ。

 どうやら、ツバキにとってロックゴーレムは食指が動かない獲物らしい。

 まあ、ツバキは血を吸う事が好きなので、無機物であろうロックゴーレムは好まないか。


「あ、シュン様! あそこに沢山足跡がありますよ。皆様もハイキングに来たのでしょうか?」

「前に来た冒険者達の足跡が残っただけだろ」

《ふわぁ〜。こうも良い天気じゃとやる気が出んのう》

「私は、シュン様を愛しております! ……おお、本当に私の声が反響している気がします。山彦とは良いものですね」

《平和じゃのう……くぁ》

「お、お前等……」


 口許に両手を添え、恥ずかしい事を臆面もなく叫ぶクリスティア。

 欠伸を漏らしながらのほほんとしているツバキ。

 そんな二人の緩みきった姿に、俺は額に手を当ててため息をつく。

 二人が心から気を抜いていない事はその立ち位置からわかるが、もう少し表面上も真面目に振舞ってほしい。


「では、シュン様への愛を再確認した事ですし──」


 言葉の途中でナイフを取り出したクリスティアは、背後を振り返って優雅に一礼する。


「──貴方を狩らせていただきますね」


 すると、クリスティアの言葉に応えるように、ゆっくりとこちらへと近づいてきていた岩の巨人──ロックゴーレムは、瞳を赤く光らせながら腕を振り上げるのだった。











「──やはり、硬いですね」


 刃が欠けたナイフを一瞥した後、クリスティアは残念そうにそれをしまい込む。

 対して、俺は手頃な岩に腰掛けてクリスティアの戦闘を観察している。


「手伝おうか、ティア?」

「いえ、シュン様のお手を煩わせるわけにはいかないので」

「そうか? 大して変わらないと思うけどな」

「ですが、シュン様は既にロックゴーレムを討伐しているではありませんか」


 そう告げると、クリスティアは俺の背後へと目を向けた。

 クリスティアの言う通り、俺は他にいたロックゴーレムを討伐している。

 合計三体のロックゴーレムを斬った後、俺は高みの見物をしているというわけだ。


「ほらほら、ロックゴーレムが向かってきてるぞ」

「わかっていますが、私とは相性が」

「ティアは手数で攻めるからなあ」


 クリスティアはその身軽さと暗殺者顔負けの気配遮断により、殆どの魔物や人間に苦戦しないだろう。

 しかし、このロックゴーレムのような硬い敵の場合、クリスティアは途端に劣勢に追い込まれる。

 それも仕方ない。何故なら、クリスティアの攻撃は軽い(・・)からだ。

 零ダメージの攻撃をいくら続けても、敵の体力は減らない。

 ましてや、人間のように血がない無機物ともなれば、クリスティアとの相性は最悪だろう。


「はぁ……仕方ありません」

「諦めて俺が倒そうか?」

「いえ、シュン様の足を引っ張るわけにはいきません。ここで、私は一つ壁を越えてみせましょう」


 無機物故に無言で腕を振り下ろすロックゴーレム。

 踊るようにその攻撃を躱しながら、クリスティアは強く否定の声を上げた。


「わかった。ならば、俺にその姿を見せてみろ」

「御意!」


 念のためベリシュヌの柄に手を置きつつ、俺はクリスティアへと頷きを返す。

 すると、クリスティアは俺の方を一瞥してから、摺り足でロックゴーレムの方へと近づいていく。

 風を唸らせながら振るわれるロックゴーレムの腕を紙一重で躱し、クリスティアは順手でナイフを構える。


《むう、あやつは何をするつもりじゃ?》

「さあな。ティアの事だから何か勝算でもあるんだろ」


 全長三メートルほどの岩の巨人が繰り出す殴打を、ヒラリヒラリと柳のように避けるクリスティア。

 クリスティアはナイフを構えたまま、ゆっくりとロックゴーレムの周囲を回りだす。

 そんなクリスティアの動きに釣られてからか、ロックゴーレムは右往左往している。


「やはり、動きは遅いですね。木偶の坊そのものです」


 クリスティアは口許に冷笑を浮かべると、勢いよく地面を蹴る。

 唐突なクリスティアの速度の変化に付いていけず、どうやらロックゴーレムはクリスティアを見失ったらしい。

 やがて、ロックゴーレムは脚をもつれさせ、盛大な地響きを鳴らして尻餅を着いてしまった。


《おお!》

「転ばせてどうするんだ……?」


 面白そうな声を上げるツバキを尻目に、俺はクリスティアの考えを図れないでいた。

 確かに、ロックゴーレムを動けないようにすれば、クリスティアは攻撃されず安心できるだろう。

 しかし、クリスティアの攻撃がロックゴーレムに喰らうようになった訳でもないので、結局は千日手の状態になっているのと変わらない。


「行きますっ!」


 疑問符を浮かべる俺等露知らず、クリスティアは新たなナイフを取り出し、尻餅をしているロックゴーレムの胸目掛けて突く。

 クリスティアの攻撃は吸い込まれるようにロックゴーレムのコアへと当たり、銅色のそれに亀裂を入れる。


「コアならば身体より柔らかいと思いましたが、流石に硬いですね」


 滅茶苦茶に振り回されるロックゴーレムの腕を避け、何度もナイフを突き立てながら告げたクリスティア。

 クリスティアは左手にもナイフを構え、交互にそれ等をコアへと突き刺す。

 やがて、コアの(ひび)が大きくなるにつれて、ロックゴーレムの動きがぎこちなくなっていく。


《のう、魔法で始末すれば良くないかの?》

「なんでも、魔法が使えない場合の練習をするんだとさ」

《ほぉ……じゃからか》

「まあ、ティアの場合は戦わずに逃げるのが最善だと俺は思ってるんだけどな」

《無理に戦う必要はないしのぉ》

「ただ、それだとティアが納得いかないみたいで……そろそろ終わるか」


 俺がツバキと言葉を交わしている間に、クリスティア達の戦闘も佳境に入ったらしい。

 油の切れたロボットのような動作をするロックゴーレムに、クリスティアは一度大きく後退する。

 そして、クリスティアは両手に持つナイフを仕舞った後、大振りなナイフを取り出す。


「これで留めですわ」


 身を屈めて高速でロックゴーレムへと迫り、途中で跳び込んで横に回転しながら、クリスティアはナイフを振るう。

 その遠心力が乗った一撃は、ロックゴーレムのコアの中心を貫き、それをバラバラに砕いた。

 最後にロックゴーレムを蹴って跳び、クリスティアは空中で身を翻して着地する。

 直後、地響きを鳴らして崩れ落ちるロックゴーレム。


「お疲れだな」

「いえ、硬い以外は楽な敵でした……ただ」

「確かに、これじゃあ割に合わないだろうな」

「全くです。それに、これ以上に硬い敵と戦うとなると、更に厳しい戦闘になるでしょうし」


 ため息を零し、クリスティアは複雑そうな表情で刃が欠けたナイフを見つめた。

 クリスティアの言う通り、ロックゴーレムとの戦闘でナイフを何本も無駄にしている。

 これは市販のナイフだからまだ良かったが、これからの事を考えれば、早急な対策が必要だろう。


「試合に勝って勝負に負けたって所か。さて、ティアの弱点もわかった事だし、さっさとコアを回収して街へ戻るぞ」

「御意」

《うーん、やっと帰れるのじゃぁ》


 呑気な声を上げるツバキに苦笑いしつつ、俺達はロックゴーレムのコアを回収していくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ