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第三十九話 魔族召集

三人称視点です。

 千秋がネリアと共に強い決意を宣告した時、春斗達にスコルをけしかけた本人であるバルドゥイノは──




《──戻ったか、バルドゥイノ》

「ただいまー、セベリアノ」


 水晶に映る不敵な笑みを浮かべるセベリアノに対して、バルドゥイノはやる気なさげな表情を浮かべていた。

 現在、バルドゥイノは春斗を見逃した──正確には、死んだと思った──後に、セベリアノの召集を受けて水晶を起動していたのだ。


《大丈夫だったのバルちゃん? どこか怪我をしなかった?》

「ボクは遠くから見てただけだからねー。って、バルちゃんは止めてって言ってるでしょ!」

《あらあら、バルちゃんが元気そうで良かったわ》


 心配そうな面立ちをしているルシアに、バルドゥイノは腕を振り上げて叫ぶがあっさりと躱されてしまい、やるせないように遠い目をし始めた。

 暫くルシアへ反論の言葉を告げていたバルドゥイノは、不意にその天然さから部下も胃を痛めて苦労しているという話を思い出し、訂正は無理だと悟ったように肩を落とした。


《では、結果を聞かせろ》

「りょーかい。えっとね──」

《ま、待てっ!》

「──なんですかー、おじさん?」


 セベリアノに促され口を開こうとしたバルドゥイノだったが、カリストに言葉を遮られて不愉快そうに顔を歪ます。

 そのまま見下した眼差しを送りながら、バルドゥイノはカリストへ視線を転じた。


《そ、そもそも。ほ、本当にその餓鬼が任務をやったのか! ど、どうせ怠けてたんだろっ! て、適当な事を言っても僕は騙されないからな!》

「はぁ? おじさん遂に頭の中まで可笑しくなっちゃったの?」

《だ、黙れっ! お、お前の考え等僕にはお見通しなんだっ! ふ、ふひひ》

「はぁ……なんとかしてよ、セベリアノ」


 自分の考えは正しいと思い込んでいるカリストを尻目に、バルドゥイノはため息をつきつつセベリアノへ助けを求めた。

 その向けられた視線の意味に気が付いたセベリアノは、カリストへ目を向けて静かに口を開く。


《……カリスト》

《な、なんだねセベリアノ。こ、こんな餓鬼の戯言より僕の──》

《不愉快だ、口を慎め》

《──がっ! セ、セベリ……アノ……止めて……くれ……》


 手を掲げたセベリアノがそう告げた瞬間、先ほどまで得意げに声を張り上げていたカリストの様子が変貌した。

 カリストの顔色は瞬く間に真っ青になり、苦しそうに喉を掻き毟ってセベリアノへ許しを乞いている。

 やがて、カリストが白目を剥きはじめた所で、セベリアノは鼻を鳴らしながら指を弾く。


《貴様は暫く反省していろ。続けろ、バルドゥイノ》

「あ、うん。えっとね、とりあえず戦った印象で、勇者達は雑魚だったね。それで──」

《かはぁ……はぁ……はぁ……》

《カリストちゃん、大丈夫?》

《自業自得ですよ、ルシア》

《そうは言ってもね……ファリアスちゃん》


 心配そうに告げるルシアの声や、その言葉に淡々と返事をするファリアスに気を取られつつ、バルドゥイノはセベリアノに戦った時の話をしていく。

 最初は興味深げにバルドゥイノの言葉を聞いていたセベリアノは、話が進むにつれ段々とその瞳が冷めていった。


「──って所かな」

《ふむ……勇者は蹂躙され、その内一人は死亡した、と》

「死んだ勇者はそれなりに頑張ってたけどねー。仲間を助けるためにわざわざ囮になってたんだよ」

《ほう?》


 バルドゥイノが笑うのと一緒に告げた言葉に、セベリアノは好奇心を刺激されたのか感心したような声を上げた。


「ま、川に落ちたから多分助かってないでしょ。血も沢山出てたし」

《ふむ……ファリアス、どう見る?》

《そうですね。念のため、頭の片隅に入れておいた方が良いでしょう》

《ファリアスもそう思うか……》

「うーん? 結局なんなの?」


 本を読みながらそう告げたファリアスに対して、セベリアノは一つ頷き顎に手を当てて考え込む仕草を見せる。

 二人が何を話しているかバルドゥイノは理解できなかったので、首を傾げてセベリアノにその真意を尋ねる。


《いや、バルドゥイノは知らなくても良い。それより、勇者はその程度か……期待外れだな》

「まー、スコル相手には頑張ったんじゃない? 弓を使ってた勇者は、なんか魔法を矢に込めてたし」

《──魔力を込める?》


 拍子抜けしたような表情を浮かべたセベリアノに、バルドゥイノが苦笑いしつつ思い出した事柄を上げる。

 その時、今まで本を読んでいたファリアスが、その言葉に反応して顔を上げた。


「うん、そうだけど。それがどうしたの?」

《なるほど……武器に魔力を込めるですか、普段は武器を使わないので盲点でした。となると、それを応用すれば──》

「ありゃー、ファリアスが自分の世界に入っちゃった」

《ふ、ふひ。フ、ファリアスは駄目だな!》

《……カリストが一番駄目だと思うなぁ、あたし》

《ド、ドロシアっ! き、貴様起きていたのか!》


 魔法の事になると自分の世界へ没頭してしまうファリアスに、息を整え終わったカリストが高らかにそう叫んだ。

 しかし、先ほどから突っ伏したまま微動だにしていなったドロシアがそう告げ、その言葉に面食らったようにカリストは目を向ける。


《どーでもいいよー。あたし眠いからさ、結局どうなるの? 話が終わったならもう帰るよ》

《私もこの後夕御飯の支度があるので……》


 顔を上げて頬杖を着いたドロシアが気だるげにそう呟きを漏らし、それにルシアは申し訳なさそうな表情を浮かべて追随する。


《そうだな……バルドゥイノ、もう話す事はないか?》

「そうだねー、今の所は脅威に感じないかな。始末するなら今じゃない?」

《セ、セベリアノっ! こ、今度こそ僕の魔法を使って──》


 バルドゥイノがセベリアノにそう提案すると、当然のようにカリストが立候補してきた。

 そのまま自分の自慢に入りはじめたカリストを努めて無視して、バルドゥイノはセベリアノを見てどういう結論を出すのか見守る。

 自分の世界から戻ってきたファリアスや、退屈そうに欠伸を漏らしていたドロシア。

 そして、頬に手を当てて困ったように微笑んでいるルシアも、セベリアノの言葉を静かに待っている。


《──勇者は警戒するに留めておけ》

「理由を聞いてもいい? まあ、大体予想はついてるけど」


 げんなりとするのと一緒に告げたバルドゥイノに対して、セベリアノは獰猛な笑みを浮かべて口を開く。


《くはっ! もちろん、成長した勇者をこの手で始末したいからな!》

「だよねー……セベリアノって戦闘狂だし」

《あらあら、セベリアノちゃんったらあんなに楽しそう》

《ふむ……弓の勇者には興味があったのですが、セベリアノの決定には従いましょう》

《ふぁぁ……眠い》

《な、何故だセベリア……ひっ! セセセベリアノがそう言うなら仕方ないな! ぼ、僕は自分の仕事を専念するよ》


 容易に想像がついたセベリアノの反応に各々が感想を述べていき、それからお互いで現状の報告をする。

 暫くお互いの近状を確認した後特に話す内容もなくなったので、最後にセベリアノの挨拶を待つために自然と視線が集まっていく。


《カリストは仕事の仕上げに、バルドゥイノは勇者の監視の継続を》

《ま、任せたまえ! ふ、ふひひ》

「はいはーい、のんびりやるよ」


 まずセベリアノが二人にそう声を掛ければ、カリストは自信満々に叫んで不気味な笑いを零し、バルドゥイノは手をヒラヒラさせてゆったりと告げる。


《ファリアスは世界樹の研究を、ドロシアは例の件を》

《もう少しで一段落着きます。期待通りの成果を出して見せましょう》

《うぃぃ……眠い》


 次にセベリアノが視線を転じてそう告げると、眼鏡を押し上げて返事をしたファリアスに対して、ドロシアは瞼を半分閉じつつもなんとか返事をする。


《ルシアは他の者の手伝いを》

《ええ、わかっているわ》


 最後にセベリアノが告げた言葉に、ルシアは笑顔で頷き慈愛が篭った瞳で全員を見回す。


《各自任務に励むように──解散》


 セベリアノの掛け声を皮切りに水晶の映像が消えていき、やがて全ての映像が消えた事を確認したバルドゥイノは、適当に水晶を机の上に放り投げた。

 机の上に転がった水晶を見ながら、バルドゥイノは脚を机に乗せておもむろに懐から別の水晶(・・・・)を取り出す。


「うんうん、ボクだよー。さっき振りだね……えっ、勇者? そうだねー、きっと期待できるかな」


 先ほどまでの表情とは打って変わって、バルドゥイノはどこか楽しげに声を弾ませていた。


「うん? 本当に期待できるのかって? それは祈るしかないねー。正直、勇者が一人死んじゃったのは誤算だったよ」


 座っていた椅子を揺らしてバルドゥイノは残念そうにそう告げるも、それに反して表情には希望の色が宿っていた。


「はーい、了解したよ。じゃあ、またねー」


 やがて、暫く楽しげに雑談を交わしていたバルドゥイノは、通信が切れた水晶を大切なものを扱う手つきで懐に仕舞う。

 静寂が訪れた部屋の中で、バルドゥイノは天井を見上げて目を細めた。


「勇者、ね。なるといいんだけどね──ボク達の希望に」


 そう呟きを漏らした後、バルドゥイノは今後の計画について思考を巡らせていくのだった。


本話で無事に三章を終える事ができました。

これもブクマや評価をしてくださった皆様のお蔭です、ありがとうございます。


四章に突入するのは、閑話を幾つか投稿してからになると思います。


改めて、本作を読んでいただきありがとうございます。

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