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第二十五話 路地裏での攻防

「クリスティアを見なかったか!?」

「ク、クリスティアですか? 申し訳ないのですが、私は見かけていませんね」


 ──いない。


「ここにクリスティアはいるか!?」

「いいえ、いませんけど。クリスティアが何か?」

「いや、いないんならいいんだ、邪魔したな」

「は、はあ……」


 ──見つからない。


「クリスティアを見かけなかったか!?」

「クリスティア? ……ああ、あの子ね。申し訳ないですが、私は見ていませんねえ」

「そ、そうか……突然お邪魔してごめんなさい」


 ──クリスティアが見当たらない!




 あれから手当り次第にメイド達に声を掛けて尋ねるも、誰もクリスティアを見かけなかったようだ。

 時間が経つにつれて段々と焦燥感が膨れ上がっていくのがわかり、思わず頭を掻きむしってしまう。


「くそっ! クリスティアはどこにいるんだよ!? あいつが行きそうな場所はどこだ!? ……はぁ……はぁ……」


 苛立ちから思考が声に漏れて叫んでしまうが、一向にクリスティアが行きそうな所の検討が思いつかない。

 一通り叫んだ後に少しは冷静になり、ゆっくりと深呼吸をして頭を落ち着かせていく。


「落ち着け……メイド達が見かけなかった事は、少なくともクリスティアはこの近くにはいない。じゃあどこにいるんだ……ああもうっ!」


 結局この辺りにいないことしかわからず再び叫ぶが、不意にマリレーヌ達の会話が頭を過ぎる。


「そうだ……確かマリレーヌの母親はクリスティアの事を害虫駆除と言っていた。しかも、あの様子から恐らく暗殺者辺りに頼んだ筈だ。……暗殺者?」


 自分の呟きから漏れた暗殺者という単語に引っかかり首を傾げ、顎に手を当てながら頭をフル回転させていく。


 ──何故俺は暗殺者に引っかかった? 駆除だから殺すために暗殺者を使うのは可笑しくない。じゃあ、何に? ……待てよ? この城で本当に暗殺できるのか?


 そもそも、この王族達も暮らしている場所で暗殺が成功するのだろうか。

 この城にはオーギュスト様はもちろん、次期王候補のネリアも住んでおり、彼等を守るためにセキュリティが万全の状態の筈。

 こんな堅牢な城内で暗殺するのはリスクが高すぎるし、なによりここで暗殺すると誰が殺したのか捜査されてしまう。


「クリスティアが暗殺されても問題のない場所……どこなら平気だ? 宿舎? いや、あそこは他のメイドもいるから現実的ではない……あっ!」


 暫く腕を組みつつ考え込んでいるとある可能性に思いつき、その考えが正しいかもう一度思考をする。


「そう、街ならゴロツキに殺されたとか事故でもなんとでも言い訳がつく。買い物をするためにメイドが城下町に行くと聞いた事もあるし……間違いない! クリスティアは城下町にいる!」


 そうとわかれば早速行動に移そうと脚に力を込めた瞬間、背後から千秋に声を掛けられてしまう。


「あ、春斗──」

「悪い、千秋! ロドリグさんに城下町に行くって伝えておいてくれ!」

「──ふぇ? 別にいいけど、そんなに急いでどうしたの?」

「すまんが話している暇もないんだ! じゃあ頼むぞ!」

「あ! ……もう、行っちゃった。ところで、肩にいたのって妖精さんかな?」


 千秋にロドリグへの伝言を頼み、俺は急いで城下町へ向かおうと駆け出していく。

 背後から千秋に妖精を見られたようで呟きが聞こえるも、それを考えるのは後にして俺は全力で走るのだった。











 あの後、無事に城下町へ行く事ができたのだが、人が多すぎてクリスティアの姿が見つからない。


 時間もないので、俺はクリスティアを見かけたか目に付いた住人に聞く事にする。


「すみません、先ほどこの辺りで藍色の髪をしている女性を見ませんでしたか?」

「あー? いや、俺は見てねえな」

「そうですか、ありがとうございます」


 近くにいた男性にクリスティアの事を尋ねるも、見てないようで首を横に振られてしまった。

 男性にお礼を告げてその後も様々な人に聞いてみるが、クリスティアを見かけていないらしい。


 ──くそ、クリスティアの姿なら目立つと思ったのに!


 あてが外れた事に焦燥感を募らせつつ、あちこち見回してクリスティアの姿を探していく。

 しかし、やはり住人の告げた通りここにもいないようで、その事に段々と顔に苛立ちが浮かび上がっていくのがわかる。


「ちっ! 仕方ない、奥の手を使うか……〈精霊の軍団(スピリットレギオン)悪戯好きな妖精(シルフ)〉」


 このままだと本当に手遅れになってしまうので、俺は切り札を一つ切る事を決断した。

 辺りを見渡し住人達の視線が俺から逸れた時を見計らい、近くの屋根の上に飛び乗ってからある呪文を唱える。

 俺が創りだした魔方陣が光輝いた瞬間、魔方陣から大量の妖精が現れて瞬く間に増えていく。

 妖精の数をとりあえず五十人ほど出現させてから魔方陣を消し、この場には俺と妖精五十人に、先ほどの妖精二人がいる事になった。


〈おー! 久々に呼んだかと思ったらここはどこだー!〉

「悪い、シルフ! 今は話している暇がないんだ! 事情は後で話すから藍色の髪をしたメイドを探してくれないか!」

〈よくわからないけど春斗の頼みなら聞いてやるぞー! おら、皆行くぞー!〉


 妖精の中で一際存在感が強い風の精霊のシルフが俺に尋ねてくるが、あいにくと今は問答している暇がない。

 その事を素直に伝えるとシルフはわかってくれたようで、部下の妖精達を引き連れて街中へ散らばっていった。


 俺も屋根を伝いながら、目をあちこちに走らせクリスティアを探していく。

 俺がシルフを呼んでから暫く経つと、どうやらクリスティアが見つかったようでシルフがこちらへ向かってくる。


〈藍髪の女がいたよー! なんか戦ってて危ないから早く来た方がいいよー?〉

「見つけたのか! でかしたシルフっ! 直ぐにそこへ案内してくれ!」

〈りょーかいしましたー!〉


 シルフが街の一角を指さして告げた内容に喜ぶも、クリスティアが襲われている事実に気を引き締めて俺は彼の案内に従う。


〈とりあえず、妖精達が上手く邪魔してるから暫くは大丈夫だよー?〉

「本当か!? シルフ有能過ぎる! 後でご褒美は沢山あげるぞ!」

〈え、本当に!? っしゃー!〉


 その言葉に空中で器用にアクロバティックな動きをするシルフを尻目に、俺は焦りで汗をかきながらクリスティアの元へ急いで向かうのだった。











「──見つけた!」


 シルフに案内されたどり着いた場所は、人気のない路地裏だった。

 路地裏の近くにある建物の上に着地した俺は、袋小路に追い込まれているクリスティアの姿を発見する。


 クリスティアの身体にはあちこちに刃物で切りつけられた痕があり、肩で息をしながら額の汗を拭っていた。

 クリスティアの対面にいるのは三人の黒ローブを被っている者達──恐らく彼等が暗殺者だろう──で、現在彼等は隠れている妖精達に悪戯をされて彼女を攻撃できないようだ。


「奴等が戸惑っている内に……ふっ!」

「っ!」


 建物から飛び降りると静かに暗殺者達の後ろへ着地し、一番近くにあった頭を掴むと首をへし折った。

 辺りに嫌な音が鳴り響くと、その音に気が付いた残りの暗殺者達が素早く飛び退き、その隙に俺はクリスティアの元へ駆け寄っていく。


「大丈夫か、クリスティア!」

「ゆ、勇者様!? 何故ここに」

「話は後だ。今はこいつらをなんとかしないと」


 空から俺が降ってきた事にクリスティアは目を瞬かせていたが、自分が狙われている事を思い出し慌てて視線を暗殺者達へ戻す。

 暗殺者達は自分の仲間が唐突に殺された事に警戒しているようで、短剣を構えてゆっくりとこちらへ近づいてくる。


 ──さて、どうやって始末するか……よし。


 暗殺者達の注目を集めるように右手を掲げ、全員の視線が集まったのを確認してから、俺は見えないように隠した左手で妖精達に合図を送る。

 建物の上にいたままのシルフが俺にサムズアップする姿を視界の端で捉え、彼等が行動するのを待つために俺は時間稼ぎを始めた。


「お前達は何者だ? クリスティアを殺そうとしてたよな?」

「……」

「勇者様、彼等は恐らくマリレーヌ様の刺客だと思われます」

「マリレーヌの?」

「はい」


 俺の問い掛けには無言で短剣を構え直す彼等に対して、クリスティアが背後から自分の予想を告げる。

 やはりクリスティアはマリレーヌに嫌われてると思っているのか、俺の確認にも迷いなく頷くのみ。


「それは違うんだよ、クリスティア」

「え? それはどう言う──」

「ぐっ! 風が……!」

「それはまた後でな! 〈武装化(アーミュネーション)風の刃(ウィンドエッジ)〉」


 街へ散らばっていた妖精達を集めて合図通りに風を作りだしたシルフに内心感謝しつつ、突然の突風に顔を庇っている暗殺者達に駆け出すのと共に呪文を小声で唱える。

 その瞬間、妖精達が起こした突風の一部が俺の右手に集まりはじめ、やがて一本の風で創られた見えない短剣に変化した。


「はっ!」

「かはっ……」

「な、何がうっ……」


 手に馴染む短剣を握りしめた俺はすれ違いざまに暗殺者の首を切り裂くと同時に、突如首をから血飛沫を上げた仲間に驚き目を剥いているもう一人の鳩尾に左手を叩き込み意識を落とす。

 意識を失った暗殺者の首根っこを掴むと素早くクリスティアの元へ飛び退き、それに一瞬遅れて先ほどまでいた場所に血の雨が降り注ぐ。


「ゆ、勇者様……」

「よし、これで大丈夫だと思うが」

「い、いえ……血が」

「ん? ああ……」


 無事に服を汚さず敵を始末できた事に内心で安堵しつつ、目を丸くして俺の背後を指さしているクリスティアの指に釣られて後ろを振り向く。

 そこには、降り注いでいた血の雨が空中で止まり、風で空に運ばれていくありえない光景が目に入ったのだ。


「な、何故血が空に……?」

「んー、俺にもわからないな」


 飛び散った血を街の外へ捨てるようにシルフに指示しておいて、その内容をしっかり守っている事に内心で満足しながら、クリスティアの疑問には言葉を濁しておく。

 やがて、この場に残ったのは俺とクリスティアに気絶している暗殺者、そして二つの死体だけになった。


「さて、じゃあなんでこうなったか聞いてもいいか?」

「……はい」


 暗殺者を着ていたローブで縛りつつ尋ねた問い掛けに、クリスティアは暫し逡巡した後に頷き、俺にゆっくりと事の顛末を語っていくのだった。


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