第8話 闇の拳法家見習いルナーラ 12歳
私がクーちゃんと出会ってから、すでに4年の歳月が流れた。
クーちゃんは、本に書いてあった通り畑に力を与えることができた。
私はクーちゃんに協力してもらい、村長さんの許可ももらってすぐに村中の畑に力を注いだ。
そして、畑に力を注いで気がついたのだが、どうやら力を注ぐときに何故か私の力も使われているようで、初めて全ての畑に力を注ぎ終えた後、私は立てないほどへとへとになってしまった。
これはまずいと思い、私は村長さん達に相談したところ、何故かフーシーさんに闇の国に伝わる拳法をやるといいと勧められた。
なんでも闇の国の拳法は気力を充実させる効果があるらしく、体力作りにもいいと言われ、私は時間があるときにフーシーさんの家の前で稽古をつけてもらえるようになった。
そのおかげなのか、今では村の畑に力を注ぎまくっても割と大丈夫になった。単に私の身体が成長しただけなのかもしれないが。
私とクーちゃんは今も毎日のように畑に力を注いでいる。
そう、闇の国の荒廃は全く止まる気配がなかった。
クーちゃんと出会って以降も何度か妖精を呼んでみたが効果はなく、もう闇の国には妖精はいないのかもしれない。
今はなんとかクーちゃんのおかげでぎりぎり保っている闇の国だが、これが後何年続けられるかは私も分からない。
私は今日もフーシーさんの庭先で鍛錬に励んでいる。ゆっくりと型の動きを行い、呼吸を整え、全身の力と気を練り合わせて繋げていく。
そばの岩上では、クーちゃんが私の動きを真似して身体を動かしている。可愛い。
今の私は完全にボッチだった。
同じ年回りの子はいないし、上のお兄ちゃんやお姉ちゃん達も結婚したおかげで遊び相手になることなんてない。
不作続きでしばらく子どもも生まれてなくて、お兄ちゃん夫婦たちから今度生まれる子が、久々の闇の国ベイビーなのだ。3人も生まれるそうだ。
これで私もやっとお姉ちゃんポジションになれると思うと感涙物だ。
それに畑に力を注ぐこともそうだが、母の畑の手伝いや村長さんたちとの話し合いをしたりと、子どもにしては私は働き過ぎではないかと思わないでもない。好きでやっていることとは言え大変なのは事実だ。
だから、ある意味ではこの鍛錬の時間は良い息抜きの時間にもなっている。やるごとに上達が分かるのも楽しいし、この前初めて発勁で岩を砕くことができた時はちょー嬉しかった。
……でも今日は12歳の誕生日なのに、仕事ばっかりでヘナヘナだよ。
大好きな母の手作りケーキも、もう何年も食べられていない。生活が苦しいので我慢するしかないけど、やっぱり悲しいよ。
「こらルナーラ。集中が疎かになっているよ」
フーシーさんに怒られてしまった。
私は気を取り直して、一度呼吸を整えてから再度動き始めた。そこから小一時間、套路を一通り行い、私はフーシーさんに向き直った。クーちゃんは途中で飽きたのか、岩の上で昼寝をしている。
「うむ。だいぶ上達したなルナーラ。家でもやっていたと見える」
「はい、朝やるようにしてます。ちょっとだけですけど」
「いや、気も十分練れている。拳のキレも見るたびに上達している。この拳も私の代で終わりかと思っていたが、良い後継者に恵まれた」
フーシーさんが優しげな顔で私の頭を撫でてくれた。
「ルナーラ。お前には苦労ばかりかけてすまないな。畑のことや村のこと、まだ幼いお主には荷が重かろうに。こんなことでしか報いてやれない私たちを許しておくれ」
フーシーさんは申し訳ないといった顔で謝罪の言葉を口にした。私としては急に謝られてびっくりだが、元々は喜んでほしくて始めた事だし、どちらかと言えば笑顔でいてくれる方が嬉しい。
私がそれを伝えると、フーシーさんは微笑してまた頭を撫でてくれた。彼は優しい顔で告げる。
「今日はお前さんの誕生日だったろう。今日はこれくらいにして、早めに帰るといい。トキさんとゆっくり過ごすのもお主の仕事の1つだ」
なんと、フーシーさんは私の誕生日を覚えておいてくれていたようだ。私はフーシーさんの言葉に甘えて、早めに帰ることにした。
クーちゃんを肩に乗せて、帰宅する。
「お母さん、ただいま!」
『くーくー』
「おやルナーラ。今日は早かったね」
私が玄関を開けると、炊事場の方から母が出てきて私を迎えてくれた。私は母に帰宅を告げつつも、自身の鼻腔に香る匂いに目を見開いた。
「お母さん、この匂いって―――」
「ふふ、鼻のいいルナーラにはすぐバレちゃったわね。今日はルナーラのために久しぶりにケーキを焼いたんだよ」
久しぶりの母特製の誕生日ケーキ。それを聞いた瞬間、私は飛び上がりたくなるほど喜んだ。
しかし、それと同時に、そんなにいっぱい材料を使って大丈夫だったのかと心配になった。私の疑問が顔に出ていたのか、母はとても穏やかで優しげな表情で口を開いた。
「ケーキの材料はね、村の皆がいつも頑張っているルナーラのためにって、少しずつ持ち寄って集めてくれたんだよ」
私はその言葉を聞いて、思わず泣いてしまった。ポロポロと目尻から涙が溢れる。
……みんな。
これほど嬉しいことはない。みんな苦しい筈なのに、私のためにそんなことをしてくれていたとは知らなかった。
嬉しさと感動で胸が熱くなる。
「そんなに泣いていたらケーキが冷めてしまうわ。温かいミルクも用意しているから、さあ食べましょう。みんなへのお礼は、明日いっぱいするといいわ」
私は母の言葉に頷き、母と一緒に2人でケーキを食べた。今まで食べたケーキの中で一番美味しかった。きっとこの味は一生忘れないと思う。
私はケーキを食べた後、母の膝の上で横になり、沢山おしゃべりをした。この前あったこと、昨日あったこと、今日あったこと、そして明日やること。とりとめのない話ばかりだったが、ずっと話し続けた。
ルナーラとして生きてきて、一番の誕生日になった。
私は希望を胸に、明日からも頑張ろうと誓った。
だが、現実は残酷だった。
翌年、闇の国は明日食べる食糧にも困るほど困窮することになったのだ。
ルナーラ「(12歳になってだいぶ人間っぽくなってきた。将来はケモミミ美女間違いなしだ。やったね)えい!」岩ばーん
フーシー「気負わず呑気な顔で岩を砕きおった。すでに達人の域だな」感心感心




